屋外大気汚染と早産・出生時低体重
Nancy Fleischer(南カリフォルニア大学)ほか
『環境健康展望』122巻4号、2014年4月 翻訳:杉野実+上田昌文
原題:Outdoor Air Pollution, Preterm Birth, and Low Birth Weight: Analysis of the World Health Organization Global Survey on Maternal and Perinatal Health
Environmental Health Perspective vol.122, No. 4, April 2014
pdfはこちら→csijnewsletter_028_sugino_20150122.pdf
背景:微粒子(直径2.5マイクロメートル以下の、いわゆるPM2.5)の吸入は、酸化ストレスと炎症を惹起し、早期出生やその他の、出生前症状の原因になりうる。
目的:2004年から2008年にかけての、「母体と出生前の健康に関する世界保健機構全世界調査」の中で、屋外のPM2.5と出生前の有害な症状との関連について、22カ国において調査した。
方法:出生のあった医院の周囲の、半径50キロメートルの環状バッファにおいて、屋外PM2.5推計量の長期平均(2001年から2006年)を計測した。医院でのPM2.5水準と、個人の早期出生および低体重を関連づけるにあたっては、個人・医院および国レベルでの潜在的撹乱要因と季節要因で調整した、一般推計式を使用した。各国に特有の関連についても調査した。
結果:季節要因を調整したところ、どの国においてもPM2.5は、早期出生には関連していなかったが、出生時低体重には関連していた(オッズ比1.22; PM2.5第4四分位(<6.3μg/㎥)を第1四分位(>20.2μg/㎥)と比較した際の95%信頼区間1.07-1.39)。PM2.5の範囲が最大である中国では、最高四分位に対してのみ早期出生と低体重の両者が関連しており(早期出生オッズ比2.54 ;PM2.5≦36.5μg/㎥を<12.5μg/㎥と比較した際の95%信頼区間1.42-4.55。低体重オッズ比1.06; 上記前者を後者と比較した際の95%信頼区間1.06-3.72)、閾値効果の存在が示唆される。
結論:屋外でのPM2.5の蓄積は、出生時低体重には関連しているが、早期出生には関連していない。中国のように急速に発展している国では、最高水準の大気汚染が、以上ふたつの結果両方と関連している可能性がある。
序論
大気汚染は、心臓血管病・肺癌・急性呼吸器感染症・喘息・異常妊娠をふくむ、多様な健康障害において、罹病率と死亡率の上昇に関連している(Brunekreef and Holgate 2002; Glinianaia et al. 2004; Kampa and Castanas 2008; Lacasana et al. 2005; Maisonet et al. 2004; Sram et al. 2005)。大気汚染に関連する健康状態の不平等は、高所得国とくらべたときの低所得国の人々に、またあらゆる発展段階の国におけるまずしい人々に、おいてみられる(O’Neill et al. 2008)。早期出生(37週未満)と出生時低体重(2500グラム未満)が大気汚染への被曝に関連づけられてきたが、その証拠の重みはいまだ、因果関係を確定するには十分ではない(Maisonet et al. 2004; Sram et al. 2005)。出生時低体重は、懐胎期間の短縮あるいは子宮内での発育抑制、もしくはその両者の結果である(Kramer 2003)。早産と発育抑制はともに、幼児期の罹病と死亡に寄与しうるし、さらに長期的にみれば、すでに成人した人をも、広範な健康障害の追加的な危険にさらしさえしうる(Longo et al. 2013; Rogers and Velten 2011)。
大気汚染は、炎症・酸化ストレス・内分泌阻害および胎盤を通じた不十分な酸素供給に関連した過程を通じて、早期出生と低体重の危険を増大させる、一連の複雑な要因の一部とみられる(Slama et al. 2008)。直径2.5μm以下の空中微粒子(PM2.5)は、異常妊娠との関連で特別な注目にあたいする。これらの微粒子は肺の深部にまで吸入されうるし、酸化ストレスや炎症は、粒子への被曝が早期分娩に寄与する際の機序となるかもしれない(Slama et al. 2008)。それだけでなく、微粒子は他の汚染物質よりも空間的に広範に分布していることが、以前からの調査でわかっており、野外における微粒子の計測が、広範囲の汚染物質への人体の被曝を示す、有用な近似指数となる可能性もある(Sarnat et al. 2005)。
大気汚染と出生以上に関する研究の大部分は高所得国で実施されており、低・中所得国のデータはわずかしかない。国により汚染の程度はひどくちがうと思われるのに、大気汚染の出生への影響を国ごとに比較した研究は少ない。「母体と出生前の健康に関する世界保健機構(WHO)全世界調査」(WHOGS)データベース(Shah et al. 2008)は、全世界での微粒子状物質の推計と妊娠異常とを関連づける、いままでおこなわれることのなかった、貴重な機会を提供するものである。
本論文の目的は、WHGOS中の22カ国における、PM2.5と早期出生および出生時低体重との関係を、検討することである。
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