●巻頭言
消費者ニーズは「食の安全」に繋がるか?
山寺久美子(市民科学研究室・理事)
表示偽装問題や餃子毒物混入事件以来、食の安全性に関する話題が絶えません。しかし、どれも必要以上に危険性ばかりを誇張されセンセーショナルに伝えられるだけで、私たち消費者は内容を建設的に議論する機会も持てずにいるように思います。そうしているうちにまた、次の奇抜なニュースが飛び込んできます。そんな感覚にあまりにも慣れてしまっているのではないでしょうか。
マスコミがなぜこのような危険ばかりを誇張した報道をするのか、その根本には、消費者を意識した「売れる記事」を書かなければならないという宿命があると言えます。また、いち早く警鐘を鳴らす使命がそうさせていると言うこともできるでしょう。科学ライターの松永和紀さんは、新聞記者時代の経験から、マスコミのセンセーショナルな記事がどのようにしてつくられるのかをその著書の中に書いています。そこには、科学的事実を記事にするのが実は非常に難しいことや、解明されていない事柄が多い中で安全であると断定する記事を書くのが不可能であることなど、マスコミが抱える苦悩についても言及されていますが、その一方で、仮説を事実にすり替える報道や、リスクではなくハザード(危険の原因 リスク=ハザード×起きる確率)をことさら強調する報道が、意図的にあるいは関係者に知識がないために無意識に行われている現状が指摘されています。このような良心的とは言えない報道が飛び交うなかで、本当に有用な情報を見抜くことは大変難しいと言えます。しかし見抜く努力をせずに目立つ情報のみを鵜呑みにすることは、科学的視点を欠く誤った認識を持つことに繋がります。そして、その誤った認識が消費者ニーズに反映されるとすれば、結局は私たちにしっぺ返しが来ることになると思うべきではないでしょうか。
日本人は世界一注文の多い消費者と言われているようです。細かい注文をつけるうえに安さも求めるため、売り手から敬遠され、最近では国際市場において中国・ロシア・バングラディッシュといった新興国にも買い負けしているということです。国内市場においても、この高い消費者ニーズに、サービスを提供する側は疲弊しているように見えます。そしてそれが結局、消費者自身の首を絞めることにもなっているように思います。
フードチェーン(農場から食卓まで食品に関わるあらゆる組織のこと)の中でも、消費者は一番意識される存在です。食品業界には「売れる食品」をつくるという宿命があるため、しばしば、本当の意味での安全性や品質向上以上に消費者ニーズが優先されます。その結果、消費者にとって思いも寄らぬ不利益が生じることもあるようです。例えば、保存料と合成着色料が良い例です。食品添加物は総じて消費者からの悪評を買っていますが、その中でもこの2つは特に嫌われている存在といえるでしょう。そのため、食品業界では「保存料・合成着色料不使用」の表示をすることで商品に新たな付加価値を持たせようという動きが加速しています。しかしそれはむしろ、保存料・合成着色料以外の食品添加物の使用を増加させている側面もあります。そして、それらの代用品には、安全性に劣るものや、保存の効果が弱いために食品の大量廃棄に繋がるものもあるようです。しかし、だからといって食品業界が悪いと単純に切り捨てられる問題ではないと思います。ここにあげた食品添加物や農薬は、食の安全性に関する話題の中では往々にして悪役となる存在ですが、そもそもそれらの使用は、消費者ニーズを反映した結果とも言えるからです。それらなしには、食べたいものがすぐに手に入るような便利な食生活はありえません。生活の中にどこまで便利さを求め、またリスクをどこまで受け入れるか、そのことを冷静に考えていく必要があります。またそれと同時に、常に低価格を要求する消費者のあり方も、考え直さなければならないでしょう。私たちは、価格が安いことにあまりにも慣れてしまいました。安さを求め続けるということは、本当に質の良いものを駆逐していくことでもあります。そして国内の身近な生産者・製造業者を生活できない状態に追い込んでいるのです。それは、安心・安全を遠ざけることであると考えるべきです。
私たちを取り巻く食の現状をより理解することが、消費者にも要求されています。生命維持の根本である食であるにもかかわらず、私たちは食料生産・製造についてあまりにも知らなすぎるようです。消費者も一緒にそれに参加する気持ちで、買い支え、考えていくことが大切だと思います。
●リビング・サイエンス カフェ報告 第3回
vol.03 2007年12月11日(火)18:30~20:00 於・スワンカフェ&ベーカリー赤坂店
テーマ:「ソニーの科学教育支援活動について」
講師:坂口正信/財団法人ソニー教育財団 常務理事・事務局長
ファシリテーター:古田ゆかり(フリーランス・ライター、リビングサイエンス・ラボ)
最初に、ソニー教育財団がどういう活動をしている団体かお話しします。当財団は1972年に「財団法人ソニー教育振興財団」として設立されました。いくつかの事業の柱があります。1つめは、学校・幼稚園の先生方を対象とした教育支援活動で、「ソニー子ども科学教育プログラム」「ソニー幼児教育支援プログラム」という2種類の論文を募集し、優秀な学校・幼稚園を表彰します。2つめは、全国48支部、1,900人くらいの小・中学校の理科の先生方が活動する「ソニー科学教育研究会」に対する支援活動です。3つめは、子どもたちが科学する場づくりとして行っている「科学の泉-子ども夢教室」。4つめは、ものづくりを通して科学を学ぶ取り組みで、今年スタートしたものです。そのほか、海外の教育関係との交流も以前からやっていて、一時途切れていたのですが、今年から再開しました。
まず、「子ども科学教育プログラム」は、小・中学校を対象として、科学教育・理科教育の実践計画をまとめた論文を募集し、大変優れた取り組みをしている学校を表彰するものです。最優秀校が300万円、優秀校が50万円、教育資金に加えてソニー機器も贈呈します。50年ほど前、1959年に「ソニー理科教育振興資金」としてスタートしました。「振興資金」という名のとおり、良い教育をしたことに対する表彰というよりもむしろ、これから行う教育に対して「がんばってくださいね」という意味で提供する趣旨の資金です。名称はその後変わりましたが、目的は現在も変わらず、これまでに全国延べ1万校から応募いただき、そのうち5,000校に対して何らかの教育資金を贈呈しています。
●書評
大石又七著『これだけは伝えておきたいービキニ事件の表と裏』(かもがわ出版2007)
山口直樹(北京大学科学と社会研究センター)
この本の著者、大石又七氏は、アメリカのビキニ環礁での水爆実験で被曝した第五福竜丸の乗組員だった人である。
私が、この本の著者の大石又七氏にはじめてお会いしたのは、2004年7月のことだったと記憶している。市民科学研究室の会員の笹本征男氏が主宰する「ビキニ事件の真実を学ぶ会」を第五福竜丸記念館でやったときのことだった。私が、ゴジラに関心を持っているということを知った笹本氏が、声をかけてくれたのである。ゴジラに関心を持って科学技術史の観点から研究している私のような人間がいることを知って大石氏は、少し驚いたようだった。
そして、その約一年後の2005年6月、私は大石氏を囲む「ビキニ事件の真実を学ぶ会」で「ゴジラの誕生と第五福竜丸事件」と題する報告を行うことになった。実は、私はその報告会の後で行われた二次会の席で大石氏にゴジラのおもちゃをプレゼントしたことがある。第五福竜丸の元乗組員にゴジラのおもちゃをプレゼントした人間は、私ぐらいのものなのかもしれない。しかし、ともかく大石氏は、私がプレゼントしたゴジラのおもちゃを気に入ってくれたようだった。その頃から大石氏は、「孫たちが来ると山口さんのくれたゴジラで遊んでいます。」などと書いた暑中見舞いや年賀状を北京まで送ってくれるようになった。
●翻訳
バイオ燃料ブームを批判する
(著者)Henk Hobbelink (環境と公正に配慮した農業を促進することを目的とした国際NPO”Grain”のスタッフ)
(翻訳)杉野実+上田昌文
(所出)”Stop the agrofuel craze!”(Grainの機関誌『Seedling』2007年7月号所収)
今や、新聞をみると、豊富なバイオ燃料利用の時代に人類が突入するであろうという見通しが、語られない日はないといっていいほどだ。石油会社はこれからも長期間にわたって石油を採掘し続けるであろうが、石油は気候変動・大気汚染その他環境災害の主要な原因であるから、その燃焼を減らすべきであるとの合意もできつつある。そのためには、トウモロコシやサトウキビを蒸留してエタノールにしたり、アブラヤシ・ダイズ・アブラナからディーゼル油を抽出したりして、生物素材から燃料を製造することが必要であると主張されている。またバイオ技術が発達した将来においては、雑草・樹木・食用油など、どんな生物素材でも燃料になるであろうとも言われる。一見するとその利点は限りないようにみえる。植物ははじめに二酸化炭素を吸収していたから、それを原料として自動車の燃料をつくれば、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを減らすことができるように思われる。植物を自前で栽培できるのなら、各国のエネルギー自給率が高まるようにも思われる。作物にあらたな市場ができれば、農村は経済的にも社会的にも利益を得るかもしれない。貧しい国々も新たな輸出市場をえるかもしれない。
●東京都の温暖化対策/エネルギー政策に注目を
babycomの連載『環境危機で変わる子ども生活』(2007年10月~2008年2月、全5回)では、温暖化がもたらす様々なダメージを具体的に描き出してきましたし、子育てや健康面を主にしてどんな対策が必要かを問題領域に応じて示してもきました。その中で痛感されたのは、地球規模の気候変動という大きなスケールの現象である温暖化を押さえ込むのには、個々人や個々の家庭や事業所での自主的な省エネの努力を集積するだけではまったく歯が立たないだろう、ということです。CO2を排出量の多い部門(工場や大規模事業所など)でしっかりと抑制しない限り、あるいは家庭部門も含めて全部門でエネルギーをCO2排出量の多い化石燃料(石炭火力など)に依存する割合を落としていかない限り、各家庭ので省エネの努力の総和もいとも簡単に帳消しになる、という現実があるのです。
全体的にみるならば、防止対策の決め手は、
1)持続可能な社会を可能にする長期的な展望に立ったエネルギー政策が打ち立てられるか
2)それを確実に実行するための手段・メカニズムがあるか
3)とりわけ二酸化炭素排出を低減する行いが実際に”得をする”条件が作り出されているか
に尽きるのではないでしょうか。これらは国が政策として掲げて実施すべきことがらであることははっきりしていますが、京都議定書(1997年)での6%削減の約束を守れずむしろ8%ほども増加している、という結果が示すように、ここ10年間の国の対策は失敗だったわけです。洞爺湖サミットで打ち出されることになっている”低炭素社会”に向けた提言も、1)~3)の点からみてそれが本当に実効性があるものかどうか、厳しい検証が必要です。
国がいろいろな点で有効な政策を打ち出していくことに及び腰であったり、後手に回ったりすることは、環境や健康の問題で事例に事欠きません。そのような状況において、自治体が導入を開始して後に国全体の規制となった事例があることは注目に値するでしょう。
●広報
「戦争と科学――ドキュメンタリー『よみがえる京大サイクロトロン』を見て」(仮題)
戦時期日本でも原爆の研究をしていた! 原爆の研究に用いられたサイクロトロンの部品の一部が、今までひそかに京都大学に残されていた。この話を丹念に追ったドキュメンタリーを見て、戦争・原爆と科学者の歴史と現在について考えてみよう。
8月2日(土)午後2時(開場1時半)~5時
アカデミー文京 学習室(「春日駅」横、文京シビックセンター地下1階)
参加費:1000円
主催:NPO法人市民科学研究室・低線量被曝研究会
被爆国日本も原爆開発に取り組んでいた。海軍から資材提供を受けて建設されていた京都帝大の加速器サイクロトロンは,終戦後,原子核研究を禁じたGHQの”蛮行”によって破棄されてしまう。ところが,その主要部品が破棄を免れ,博物館の収蔵庫にひっそりと保管されていたのだ。荒勝文策,湯川秀樹ら物理学者たちは,どんな思いで戦時下の原爆や原子核の研究に取り組んだのか。歴史を語り合うための映像作品(中尾麻伊香監督,林衛ほか制作)。
写真キャプション
2008年3月26日の京都試写会のために総合博物館入り口に運びあげられたポールチップを囲む京大関係者(右から,博物館に受け入れた大野照文,それまで保管していた荻野晃也,制作・上映企画者の塩瀬隆之各氏)
●第27回市民科学講座
農薬の話~食の安全と安心の違い~
日時:6月28日(土)午後2時~5時半
講師:西田立樹さん (「農薬ネット」を主宰)
場所:文京区立アカデミー茗台 学習室A
(地下鉄丸ノ内線「茗荷谷」駅 改札を出て右へ「春日」駅方向に徒歩8分)
資料代:1,000円
【講師の西田さんからのメッセージ】
「農薬」という単語を見ない日はないぐらい、なにかと世間をお騒がせしている。でも、実際問題、みんな「農薬」についてどれぐらい知っているのだろう。見たことも触ったことも学んだことも無い人が多いのでは? 私はそんな疑問を持っています。自分の持っている知識や経験を伝えることで、みなさんにあらためて食の安心について考えるキッカケになればと思います。
●子ども料理科学教室 Vol.6
「料理に塩がとっても大切なワケ」
塩は、おいしい料理をつくるのに、なくてはならない調味料ですが、実は味つけ以外にも、気がつかないようなところで色々と大切なはたらきをしています。菜っ葉をゆでるときに塩を入れたり、きゅうりを塩もみしたりするのはどうしてでしょう? 塩の見えない役割を、食べ比べや実験で確かめてみましょう!
日時:2008年6月22日(日) 午前10時半~12時半
会場: 文京区立駒本小学校 家庭教室(3F)
(文京区向丘2-37-5、地下鉄南北線本駒込駅下車徒歩1分)
・参加費用:無料
・定員:20名
・事前申し込みが必要です。市民科学研究室までご連絡を。
・この講座は平成20年度子どもゆめ基金「子ども向け教材開発・普及活動助成」によってなされるものです。