湘南科学史懇話会 20 周年記念に寄せて

投稿者: | 2016年6月29日

上田昌文(NPO法人市民科学研究室・代表理事)

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このたびは、湘南科学史懇話会が 20 周年を迎えられ、記念の集いを開かれること、本当におめでとうございます。ご案内をいただく以前から決まっていた用件があり、この貴重な集いに出席できないことがとても残念です。以下、拙い言葉ですが、私なりの祝辞をお送りすることで、お目にかかっての挨拶にかえさせていただければと思います。

どのような活動でも、何らかの営利を目的にした組織の事業でなく、かつ、どのような市民にも開かれていて、しかも決して一般受けするような中身でないものを、20 年も続けるのは、活動の主宰者の強い志と、その人への強い信頼を持つ周りの人々の支援がなければ、決してできることではありません。湘南科学史懇話会の最大の特徴は、本来なら大学のアカデミズムが中心となって構成されている多種多様な各種学会が、「異分野交流」「社会との対話」を掲げるのであれば、当然行ってしかるべき活動のスタイルを、在野の一個人である猪野修治さんが、その人間的魅力と知的な貪欲さと誠実さを磁力にして、類例のない「知のコーディネーター」たることによって、アカデミズムに先んじて確立してしまった、という点にあるだろうと思います。

猪野さんは、猪野さんが目をつけ招くことになる学者や運動家や場合によっては芸術家のすべての著作物や作品を予め読み込み、対話と議論に臨む、というやり方を貫いてきましたが、これは科学史家が原典となる史料を労力をかけて読み込む作業に相当するものでしょう。自分が愛好する作家の全集を読み通すのならいざ知らず、この「格物致知」に徹する日々の刻苦勉励は、いわば、猪野さんが目をつけた人への惚れ込み、いいかえるなら、その人の学問の総体を全身で受けとめようとする、学びへの情熱の発露です。そして、その講師たる人の生き様が感得できるレベルにまで、その人にその人固有の「学問」を語らせることで、じつはその学問がどう社会とかかわって存立しているか、そしてそれがどのような人間的な営みとして成立しているか、を照らし出してきました。そのことが、講師として招かれた人にも、そして湘南科学史懇話会に集って議論の輪に加わった人たちにも、新たな気づきとつながりを提供し、開かれた存在としての学問の、次なる展開への示唆を与えてきたのでしょう。

私自身が 1992 年に立ち上げ、それ以来 20 年以上も続けてきている「科学と社会を考える土曜講座」そしてそれを継ぐ「NPO 法人市民科学研究室」の活動にとって、猪野さんとの交流から得たもの、猪野さんから公私両面に渡って支えていただいたものがどれほど大きいかは、多言を要しません。猪野さんと私・上田の双方を知る方なら、どなたでもわかってくださっていることだと思います。

湘南科学史懇話会という、かくもユニークな活動が、20 世紀の終盤と 21 世紀の初頭のこの日本で可能であったという事実は、科学と社会のあり方をなんとしてでも変えていかねば私たちの存続が危ぶまれる現況にあって、ささやかかもしれませんが、見ようとする者にははっきりと見える、希望の光として、歴史に刻まれていくことでしょう。■

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