WHO(世界保健機構)電磁波プロジェクトワークショップ 「子どもの電磁波感受性」参加報告

投稿者: | 2004年4月20日

WHO(世界保健機構)電磁波プロジェクトワークショップ

「子どもの電磁波感受性」参加報告

上田昌文

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先の6 月9 日と10 日にイスタンブールで開かれたW H O ワークショップ「子どもの電磁波感受性」(WHO Workshop”Sensitivity of Children to EMFExposure”)に参加した。

WHO はこれまで『環境健康クライテリア』と題した一連のモノグラフを医療健康分野全般にわたって出してきたが、そのうちの3 つが電磁波関連であった(第35 巻「超低周波」1984 年、第69「磁場」1987年、第137 巻「300Hz から300GHz 周波数帯の電磁波」1993 年)。近年の電磁波健康影響問題への関心の高まりを受けて、低周波ならびに高周波の新たなクライテリア(健康リスクの評価ならびに対策の指針)の作成の任を担って1996 年に発足したのが「電磁波プロジェクト」であり、その目的のために現時点までの科学的知見を集積してレビューを行い今後の研究の方向性を探る一連の国際ワークショップを開催してきた(1 9 9 8 年「電磁波被曝の心理的精神的影響」、1999 年「電磁波の環境影響」、2002 年「人体における有害な熱作用レベル」、2003 年「電磁波問題への予防原則の適用について」)。今回の「子どもの電磁波感受性」はその最新版である。

幼い子どもが電磁波に被曝した場合、中枢神経系や免疫系、その他の器官が形成される時期に相当するだけに、深刻な健康影響が生じる可能性がある。特に環境ホルモンの作用の中には、発生のある特定の段階に被曝することでたとえ超微量であっても成人してからの(あるいは暴露者本人の子どもの)生殖機能に異変をもたらす場合のあることが分かってきたので、胎児や子どもに焦点をあてたリスクの捉え方がクローズアップしてきたという背景がある。また、生涯に被曝するトータルの電磁波量は、特に携帯電話の若年者への普及が著しいことを考えるなら、子どもが今の大人に比べて大きくなることは、十分に想定できる。2000 年に英国の『スチュワート報告』(「携帯電話と健康」)で子どもの健康影響への懸念が示されて以来、各国で問題となってきた。

化学物質の問題を軸にして、子どもの健康リスクを捉えなおすための概念的な検討や個別のリスク因子に応じた再評価の研究が、たとえば次のような総説でなされている。

● Brent,R.L. et al (ed.) The Vulnerbility, Sensitivityand Resiliency of Developing Embryo, Infant, Child andAdolescent to the Effects of Environmental Chemicals,Drugs and Physical Agents as Compared to the Adult”Pediatrics” April 2004, Vol.113:number 4

● “Environmental Health Perspective” のminimonograph としてウェッブでダウンロードできる次の1 0 本の「こどものリスク論」関連論文Assessing Risks in Children  112:238-283 (2004)
Whence Healthy Children? 112:105-112 (2004)
http://ehp.niehs.nih.gov/docs/admin/minimono.html

子どもの電磁波感受性が大人に比べて高く(sensitive)、健康被害を受けやすい(vulnerable)と想定する状況証拠的な理由はおそらく次のとおりだろう。

・環境リスク因子、たとえば化学物質、紫外線、放射線などについて、感受性が大人より高い例が知られている
・超低周波磁界がIARC(国際がん研究機構)によって「発がんの可能性あり」という2B の発がん因子にランク付けされたのは、小児白血病の疫学調査に基づいている

・神経系が発達途上にある
・脳組織の伝導性(電気の通りやすさ)がより大きい
・頭部での高周波の吸収率がより大きい
・生涯にわたる被曝量が(現在の)大人に比べて大きくなる

しかし電磁波に関して、感受性の高さを示す確かな疫学や実験の証拠はあるのか? それを裏付ける生物メカニズムはあるのか? あるいはその感受性の差をきちんと検出できるだけの計測と計量の方法が確立しているのか? さらに、証拠が十分確かではないとしても「差はない」と結論付けることが難しいとするなら、今後どういう対応をなすべきなのか? ――こうした点を第一線の学者たちが集って討論を交えながら検討しようというのが今回のワークショップである。

ワークショップの結論を述べるなら、それはごく平凡なことになる。すなわち、子ども(胎児も含む)の感受性が高いことを予想させる理由は種々考えられるが、電磁界に関してそれを裏付ける確実な証拠(とメカニズムの解明) は今のところ得られていない。よって、予防原則的対応をとりつつ今後は的を絞った研究プログラムを推進することが必要。しかし現時点では、子どものための特別の被曝基準をすぐに制定すべき根拠はない――ということになるだろう。低周波ならびに高周波のクライテリアについても、発行時期を明言するには至らなかった(2007年までに「電磁波プロジェクト」が健康リスク評価をすべて終えることはホームページで述べられているが)。

このワークショップの有意義だったのは、個別の研究発表の中で、いま進展中の新しいアプローチが仄見えていた点だろう。たとえば低周波被曝と小児白血病に関しては、「遺伝素因と環境中の因子の寄与を発症率の相違やパターンの違いからとらえる」方法が示唆されていたし、「染色体転座に関連した発現メカニズムの仮説」が提案されてもいた。携帯電話電磁波吸収量の計量モデルの再検討がさかんに論じられていること(頭部の大きさの変化、アンテナの位置、脳組織の変化、含まれている水分量の違いなど)からわかるように、子どもにとってのSAR 値基準を検討する余地は十分にあることが納得できた。さらに、携帯電話電磁波被曝のモデル設定の困難(同世代で”携帯電話を使わない”という対照群がいなくなる状況、携帯電話自身が次々と改良されること、大人と子どもの使用パターンの違い、被曝の累積時間の計算方法がはっきりしないことなど)も議論の的になっており、携帯電話の疫学調査の必要性ははっきりしているのにそれがますます困難になるかもしれない状況を浮き彫りにしていた。

● Mobile Communication & Health. Medical,biological & social problems20-22 September 2004,Moscow, Russia
● WHO International Seminar & Working Groupmeeting on EMF Hypersensitivity25-27 October 2004,Prague, Czech Republic

概要については
h t t p : / / w w w. w h o . i n t / p e h – e m f / m e e t i n g s /children_turkey_june2004/en/
招待講演者のプレゼンテーション資料は
h t t p : / / w w w. w h o . i n t / p e h – e m f / m e e t i n g s /children_turkey_june2004/en/index1.html
ですべてダウンロードできる。

なお、総勢約120 名、招待講演者25 名、3 分スピーチでの発表者8 名であった。日本からの参加者は4 名で、斉藤友博氏(国立成育医療センター・研究所)と大久保千代氏(厚生労働省・国立保健医療科学院)はワーキンググループの一員であり、斉藤氏や兜真徳氏らの疫学研究はポスターセッションで示されていた。上田は「P o w e rdensity of RFs of Tokyo Tower and its worrying healtheffect」と題した3 分間スピーチを行った。■

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