第142回土曜講座「科学ジャーナリズムの可能性を探る」 国際核融合実験炉”ITER”に関する新聞報道の検証

投稿者: | 2002年4月19日

第142回土曜講座「科学ジャーナリズムの可能性を探る」
国際核融合実験炉”ITER”に関する新聞報道の検証
科学ジャーナリスト(仮) 浅川直輝
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9月21日の土曜講座では、林衛さん(ユニバーサルデザイン総合研究所)、浅川直輝さん(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士)高重治香さん(東京大学学際情報学府修士)の3人を招き、日本の科学ジャーナリズムが抱える問題を多角的に論じました。参加者は30名弱と少なめでしたが、質疑の時間には活発な議論が交わされ、良質の科学技術ジャーナリズムが求められていることを強く印象付けられました。今号では淺川さんと高重さんの報告をご本人にまとめていただいものを掲載いたします。いろいろなご意見をお寄せいただけるとありがたいです。(上田)■
●ITERについて
核融合発電の実現に向け、日・米・ロ・EUが協同して実験炉”ITER”を作るプロジェクトが始動している。
現在はITERの仕様はほぼ決定しており、ITERを建設する候補となる国、地域を選定中である。日本は青森の六ヶ所村を候補地にあげた。その他では、フランスとカナダがそれぞれITERの建設に立候補している。米国は1998年に「核融合発電は、技術的・経済的に見て実現性に欠ける」と、このプロジェクトから離脱したが、最近再参加を検討中である。
核融合発電には、「高レベル放射性廃棄物が出ない」「燃料となる水素・リチウムは豊富に採れる」などのメリットがあるが、「コストが高い」「大量の低レベル放射性廃棄物が出る」「そもそも、核融合発電は技術的にメドが立っていず、実現するかわからない」などのデメリットがある。
●ITER誘致のメリット・デメリット
★メリット:
・ 実験炉の建設に伴う技術のスピンオフ(民間転用)
・ 建設に伴う周辺地域の経済効果
・ 化石燃料、ウランに変わる新エネルギー源の開発
・ 巨大科学でイニシアティブを取れる
★デメリット:
・7000億~1兆円以上かかるといわれる建設費、維持費
・核融合の実現には、今後も多くの技術的ブレイクスルーが必要となる
(特に、高速中性子に耐える炉壁材料は、その目処すら立っていない)
・放射性物質トリチウム(三重水素)漏洩のリスクがある
・低レベル放射性廃棄物の処分義務がある
●なぜITERに注目したか
“ITER”は、という題材に注目したのは、日本の科学政策の合意形成にジャーナリズムがどう関わるのか、これが非常に重要な試金石になると考えたため。巨額な基礎研究費、実現の不確実性、日本がinitiativeをとる意義、国民や地元住民への説明など、科学政策のKeyとなるテーマが詰め込まれている。
●調査対象
朝日新聞・読売新聞・毎日新聞
1998年1月~2002年5月の全国版・地方版の記事。
おおまかには、”米国のITER離脱”~”日本のITER誘致決定”~”誘致場所を六ヶ所村に決定”の間。特に、特集記事と社説に注目。
比較対照として、地元紙の「東奥日報」の社説も調査対象に加えた。
●検証報告
1.相違点
●朝日新聞
・基本姿勢:ITERの誘致だけでなく、核融合の研究自体に疑問を呈する。
・ITERのリスク:1998年「核物質は出ない、放射性廃棄物は原発より少ない」「できるかどうかわからないのが、最大の問題」 2001年より、論壇を通してITERのリスクを紹介 地元住民のリスクにはほとんど言及せず。地方版も扱いが低い。
・社説の結論:「慎重な議論が必要」
・核融合の解説:相対的に少なめ。
●読売新聞
・基本姿勢:核融合研究、ITERの誘致には積極的に賛成。
・ITERのリスク:1998~2000年までは、リスクについての言及が無い。 地元住民のリスクにはほとんど言及せず。地方版も扱いが低い。
・社説の結論:「ITER誘致は賛成だが、誘致の利害得失をよく考え、国民に納得でき る説明を。」
・核融合の解説:他の核融合方式の解説も含め、充実している。
●毎日新聞
・基本姿勢国際研究プロジェクトで日本が主導権をとることの意義は理解するが、 核融合の他の基礎研究がおろそかになることを懸念。
・ITERのリスク 1998~2000年までは、リスクについての言及が無い。「核廃棄物の問 題がない」と誤解されかねない表現も 地方版では、自治体の「住民置き去り」姿勢を批判。
・社説の結論:「研究者や地元自治体だけでなく、国民の合意形成がなにより必要」
・核融合の解説:読売よりは少ないが、他の核融合方式も含めて充実。
(※ITERのリスク・・トリチウム漏洩の危険、大量の低レベル放射性廃棄物処理、そもそも研究自体ムダである可能性、などを指す)
2.共通点
・2001年1月、文部省系の核融合研究者たちが、科技庁系のプロジェクトであるITERに反対する論陣を張る(資料参照)までは、新聞は”トリチウム漏洩””大量の低レベル放射性廃棄物”など、ITERのコスト、リスクについて言及できていない。もし核融合研究者が一致団結してITER誘致を推進していたら、新聞はITERの技術的問題点についてノーチェックだった可能性もある。
・2001年7月以降、ITER問題が青森・北海道・茨城のローカルニュース扱いになり、全国版ではITERの取り上げられなくなった。「国民の理解が不可欠」を主張する毎日新聞が何度か取り上げたのが目立つのみ。
●考察
1.全国紙の役割
2001年7月以降の紙面は、全国紙としての限界が露呈している。誘致合戦が始まり、地元住民にとってはITER誘致の是非を考える重要な時期だったにも関わらず、紙面で特集される頻度はかえって減っている。ローカルニュースがニュース・バリューを持ちづらい全国紙は、地元住民に十分な情報を提供するメディアにはなりえていなかったと思われる。
また、トリチウムの有害性、中性子漏洩の危険、低レベル放射性物質の処理法など、安全面においてITER誘致のカギを握る案件について、専門家間の論争を紹介したり、新聞の見解を述べたりすることはなかった。地元民に対し、ITERの賛否を問えるだけの情報を提供できていたとは思えない。
これら新聞報道が、審議会の議論内容にどれだけのインパクトを与えたかは、材料の不足から今回は考察できなかった。次回の課題としたい。
2.地方紙の役割
東奥日報という、約30万部を出す青森近辺の地方紙がある。Webに載る記事を見る限り、
ITERについての記述は非常に充実している。地元民の生活に密着した話題に、ニュースバリューを見いだしやすいからだろう。
このことから、「科学技術の公共理解」において、地方紙の役割が非常に大きいことが推測できる。(逆に、全国紙が各地方でも比較的大きなシェアを占めている日本では、自治体のからむ科学技術政策に対し無関心になりがちとなってしまうのかもしれない。)
以後、地方新聞の役割を、全国紙との比較を通して追ってみたい。■
◆資料・年表◆
読6/4 (特集)「核融合研究で世界をリード」
毎7/28 (特集)「難航する核融合計画」
10月 米、ITER計画からの離脱表明
朝10/28 (社説)「立ち止まって議論するべき」
毎11/1 (社説)「米の撤退理由を冷静に分析すべき」
読12/24 (社説)「研究に日本の独自色を」ITER誘致は賛成。
1999年
朝4/5 (オピニオン)池内氏「ITERは巨大公共事業?美名より基礎研究を」
読8/6 (特集)科学技術と政治家の役割
2000年
(めぼしい記事ナシ)
奥12/28 (社説)政府はメリット面を強調しすぎ。放射性廃棄物の処理や、安全面の議論を
2001年
朝1/18 (オピニオン)小柴氏「誘致は危険で無駄
1/19 誘致に学者等反対 ITER計画懇談会に意見書郵送
毎1/22 (特集)日本、誘致意義を確認
朝2/2 (オピニオン)香山氏「反対論者の論点は過去に解決している」
朝2/4 (特集)専門家で議論が分裂
毎2/5 (社説)まだ時期尚早。なにより国民の理解を深めるべき
読2/7 (社説)「誘致の利害得失を見極めたい。」
朝2/16 (社説)核融合研究、50年かかってまだ成果が出ないことに疑念
3/15 原子力委員会のITER計画懇談会「誘致の意義大きい」の報告案まとめ
読3/15 科学面でITERの解説記事
読3/23 (社説)ITER誘致、説得力ある説明が出来るかが正念場
奥5/22 (社説)財政面、安全面の議論が少なすぎる。マイナス面の直視を
6/6 原子力委員会「誘致の意義は大きい」最終報告書
6/19 カナダが誘致表明
7/27 北海道、青森、茨城が誘致提案書を文科省に提出
奥7/27 (社説)放射性廃棄物の地元負担、説明不足のそしりはまぬがれず
読8/1 (特集)誘致選定法についての解説記事
毎8/12 (地方:青森)県の誘致活動、置き去りの県民
毎8/26 (社説)誘致の条件整わず。国民の合意が形成されていない。
10/18 文部科学省の国内候補地評価、茨城か青森に
奥10/27 (社説)県費負担に納得のいく説明を
毎11/13 (特集)誘致に慎重論、計画足踏み
11/25 誘致国負担7000億、政府試算で。
12/14 原子力専門家委員会「核融合会議」、誘致の両論併記
読12/22 (特集)「研究者の足並みが乱れている。今は慎重な議論を」
12/25 尾身をはじめとする総合科学技術会議「日本の誘致に意義がある」
2002年
1/8 マーバーガー米大統領補佐官「ITER離脱という判断に再評価が必要」
5/2 大統領、ITER復帰の検討を指示。
朝5/15 (特集)米、核融合炉計画復帰か?
朝5/26 (地方:青森)「ITER」って何?(あおもりQ&A)
5/28 EU、フランスとスペインの二候補地を立てる
5/29 政府、誘致先を青森県六ヶ所村決定。森核融合エネルギー推進議員
連盟が首相に報告。尾身、遠山、森、首相の会談で。核施設の集中する青森県に配慮?
奥5/31 (社説)候補地決定、手放しで喜べない
5/31 誘致、閣議了解
毎6/10 (社説)政治決着で六ヶ所村、欧州の候補地に負けるのでは?
6/11 (地方:青森)特集 不透明な政治決着について
★ご意見、ご質問あれば、naoki-a@fine.ocn.ne.jp までお願いします。■

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