地域と科学技術を考える~設立20周年記念シンポジウムでの発言・発表から

投稿者: | 2014年2月17日

2014年1月18日に行われた、NPO法人市民科学研究室設立20周年記念シンポジウムに際して、市民研代表の上田は、以下の3つの文章を公表し、発表しました。「地域と科学技術」の今後を考える上で参考していただければと思い、以下に掲載します。

1) 設立20周年記念シンポジウムに寄せて(イベント呼びかけ文)
2) 理事メンバーの一人としてのメッセージ(5人の理事の寄せ書きから)
3) 科学・技術をよりよく方向づけるための10の方法~地域でできることから考える

1) 設立20周年記念シンポジウムに寄せて(イベント呼びかけ文)

2050年の日本を想像してみましょう。少子高齢化、インフラや集合住宅群の老朽化、海外からの食糧やエネルギー資源の高騰、貧富の差の拡大、温暖化・異常気象、そして巨大地震のリスク……誰もが「このままではダメだ」と感じつつも、悲惨な末路から逃れる術をまだしっかりと手にしてはいないのが、私たちの現状ではないでしょうか。

科学技術は、経済成長や開発、自然や心身の管理をおしすすめることと一体になりながら劇的な発展を遂げてきましたが、「豊かさ」の影でむしろ様々な問題が次々と立ち現れ、私たちはそれらに翻弄され続けています。

この状況を変える鍵はどこにあるのでしょうか。この20年「市民のための科学」を考え続けてきた者として、一つの鍵は「地域」にある、と確信をこめて言いたいと思います。自然との共生、人々の共感や共有をベースにしての新たな「地域の豊かさ」を創造することが、「消費と所有を拡大することで幸福になれる」という呪縛から、個人も社会をも解き放つ可能性があるからです。地域の人々に暖かく見守られながら支援され、地域のために活用される科学知と技術の姿を、私たちは大いに思い描き、具体化していくべきなのです。

このシンポジウムでは「地域」と関わって活動を展開してこられた4人の方々を招き、それぞれの経験やそこから得た知恵を分かち合いながら、参加者の皆さんとともに、希望ある未来の切り開き方をじっくり探ってみたいと思います。

2) 理事メンバーの一人としてのメッセージ(5人の理事の寄せ書きから)

21世紀になって10年と少しが経過しました。 「戦争の世紀」とも言われる20世紀に比べて、少しはましな世の中に、暮らしやすい世の中になったと言えるでしょうか? 戦争は依然なくならないままですが、そうだとしても、いくらかでも戦争を起こしにくくする術を私たちは着実に手に入れることができたでしょうか? ……こんな大きな話をするのも、じつは、「市民の、市民による、市民のための科学」をここ20年考え続けてきた者として、たとえば、「平和」という最も基本的な価値を具現する上で、「それでは、戦争を起こさないための科学や技術はあるのか? つくれるのか?」と問うた時、いかにも虚しい答しか私たちは手にできていないのではないか、という気がして、今の社会のありようと私たちが大切にしたい価値観や生き方との食い違いや、それがどう関係するのかを、一番根本のところから見据えて、「変え方」をつくり出していかねばならいのでは、という思いが募るからなのです。

今回のシンポジウムでは「地域」をテーマにして、これまであまり論じられたことのない視点から科学と技術のことを考えてみたいのですが、端的に言って、今述べた「戦争をしない」ということでも、おそらく一番強固な「不戦」の術は、水・食糧・エネルギーの自給圏であることを達成している地域コミュニティが結束した集団的選択として不戦を貫くことでしょう。「地域」という切り口には、世の中の変え方・変わり方の様々なネタがぎゅっと詰まっている感じがします。それをどう見出し、どう活用していくか。

カネとモノですべてが決まる―実際はそんなことはないのですが―かのような、消費と所有の拡大なしには幸福が得られないと言わんばかりの―そしてその傾向を科学・技術が強化し加速させるような―世の中のありようから抜け出て、大切だと思えることを実際に再優先で行動に反映していけるような生き方を実現するには、「個」の闘いだけでは無理なのだろう、と思います(無私で高邁な「個」の志ほど人を鼓舞するものはありませんが)。そこそこの志をもって生活の基盤を共有している「個」の集まり、あるいはその志を共有し維持できる適切な規模や工夫を保っている集団、が鍵になるでしょう。地域(あるいはコミュニティ)が重要になってくるのは、まさにそんな理由からではないかと私は思っています。

市民科学研究室自体は、本日お配りしている「20年の歩み」新しい『通信』をご覧いただければある程度推測していただけると思いますが、20年を経て、ますます意気軒昂、あの手この手を使って素人の知恵を寄せ集めて、人のつながりを活かして「金が少なくても、世の中に必要だと思えることはやってみようじゃない」……の大胆不敵な姿勢がますます濃厚になってきた、と言えるでしょうか。私自身は、この活動を始めた20年前には、こんな楽しい人生を送れるなんて思ってもいなかった、というのが正直な感想で、会員になってくれたり、スタッフとして一緒に活動してきたりした方々には―のべ1000人ほどでしょうか―もう本心で「ありがとう!」と言わないではおれないのです。

そろそろ「代表」というポジションを他の方に委ねる時期が近づいている、とは思うのですが、まあ、やれるところまで、いろんな人たちと手をたずさえてがんばるつもりですので、どうか応援してください。

市民科学研究室を代表して、皆様のご支援に心より感謝申し上げます。

 

3) 科学・技術をよりよく方向づけるための10の方法~地域でできることから考える

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1●地域で電力OFFの日
科学技術の望ましくない方向での発展に対してもっとも基本的で根本的な対処は、「もう十分だ」「それ以上はいらない」「使わない」を実践すること。問題はそれが“個人の意思”だけに委ねられがちになること。携帯電話ひとつとっても、“依存症”的な使用から抜け出るには意識的にOFFの日を設けるのが一番だと思われるが、実行はなかなか難しい。地域ぐるみでOFFを目指したいのは、「年に1日だけを電力使用OFFにする」ということ。この日を電力インフラがすべて途絶した場合の地域防災の日と定め、電気なしでどう対処できるかを地域で考え実践することにする。自家発電や電力以外のエネルギーの活用も含めて、「電気依存」(ひいては「(電気に頼りきった)仕事依存」)から脱却する手がかりを意識的に作っていくこととする。

2●地域総合科学教育
「子ども料理科学」を出発点にした「食・農・医・住・ものづくり・エネルギー」の総合科学教育を地域で実現する。健康と環境に関わって、教育効果の最も高い領域は「食」である。食のグローバル化が環境と地域の一次産業と健康の破壊の大きな原因になっていることは言うまでもない。市民科学研究室の「子ども料理科学教室」を地域の食材を活かす形で再編し、食から物理・化学・生物・医学(健康)・環境科学の基本を学ぶプログラムを構築すべきだろう。私は以前、「水育」「風育」「火育」「土育」「体育」「住育」……という生態学的教育の概念を提唱したが、地域でこそその総合科学のアプローチが生きてくる。地域の特性を生かした住まい方、都市計画、ものづくり、自然エネルギーの形を、学校教育の段階から、地域の現場を訪ね、担い手となっている人々と交わりながら学ぶシステムが求められるだろう。

3●地域の生態の徹底調査
地域がいかなる生態学的ユニット(資源、温泉、地震やその他の自然災害なども含めて)として存在し得るか(し得ているか)を調査するために、民間知を結集した10年がかりのプロジェクトを実施する。ただし、どのようなところから重点的に調査するかを決めるために、生態学・地質学・資源学……などの専門家を大いに活用して方針を立てる。地域の大学や小中高の学校の先生、郷土史家、地域の自然環境などに関心を持つ市民や子どもたち……も参加しての「足で稼いでデータを取る」市民調査を実施し、地域を生かしていくための基礎となるデータベースを作る。

4●土地の公有化と若者誘致
耕作放棄地と空き家を“公有化”し、地域のための貢献したい意思のある若者に無償で農業利用・居住できるようにする。阪神淡路や東日本大震災での復興がスムーズに行かないことや、耕作放棄地(約40万ha)や農地の(不法)転売や空き家(全国で約760万戸)の増加といった地域の荒廃の根本原因に、土地私有権の絶対的優先の問題が横たわっている。よりよいまちづくりのための土地を公有化し、居住権(に伴う支払い)のみで住まうことができる土地制度が必須となってくるだろう。その先駆けとして、「地域のための貢献する意思とアイデアのある」若者には、耕作放棄地や空き家を一定期間無償で提供し、地域の人々と交わりながら、その地域で根をはって地域を豊かにしていく基盤を作ってもらうようにする。

5●地域の保健の核としての相談医と健康談話会
地域の医療を病院まかせにしないこと。“病院以前/病気以前”に重心を移し、健康の相談にのってくれる医師・看護師を地域の金で雇って、地域をくまなく巡回してもらうようにする。「病気は個人が負うべき負債であり個人で闘うもの/健康は個人が努力して(あるいは金をかけて)獲得すべきもの」という概念を捨てる。健康にまつわる様々な話題や個人の状況について、地元で寄り合っていつでも語り合えるようなサロンを設け、そこに医療者も加わる。科学的根拠に基づいた地域独自の保健プログラムを提唱し、その成果を医学的に(さらに医療経済学的に)検証していく。

6●地域内の各交通(人の移動と物流)の相互連携と複層的な利用
レンタサイクル、カーシェアリング、パーク&ライド、コミュニティバス、路面電車……地域の人の移動に関してまちづくりと一体化させた新機軸を採用し始めている所が増えてきている。徒歩と自転車(ならびにそれの拡張版である「超小型モビリティ」)で移動できることを基本にして、公営バスなどを「貨物」「廃棄物(リサイクル)輸送」としても活用できる方法なども考案して、地域内のモノとヒトの移動の流動性を大きく高める。地域内の多くの道路で、クルマ優先から人と自転車の優先への転換をはかる。トランジットモールのような方式で、「お祭り」「◯◯市/フェスタ」など地域イベントと地域内交通をリンクさせる。料金体系も地域内交通では可能な限り低料金を実現させる。

7●地域のためのサイエンスショップ&サイエンスカフェの統合的実施
地域のための知の一覧/問題解決に役立てることのできる地元の知のストックのリスト(インベントリー)を作成する。地域の大学の専門家たち、企業の研究者や専門技能者、職人さん、在野の研究者とも言える人々、専門知や技能を持つ退役シニア……これらの人々の中から「わがまちのリビングサイエンティスト」を選びつつ登録する。そのインベントリーに登録された人やアイテムを順次、地域内イベントの中でサイエンスカフェを開いて披露する。また、そのインベントリーとも緊密に連携させて、科学と技術に関する「よろず相談所」であるサイエンスショップを、地域内の大学に設置する。

8●地域間(交換)留学の推進
優秀な学生さんを、「地域の課題や可能性と関連するテーマでの学びを目指して、地域を代表して地域から派遣されて他の地域で学ぶ」地域間留学生とする制度を設ける。できれば他地域(海外を含む)からもそうした留学生を受け入れる。卒業後4年間は地元で暮らし地元で働くことを条件に返済不要の奨学金を与える。地元での留学生報告会を年に2,3回は開き、地元の人々との交流をはかる。

9●地域防災の確立
「ハザードマップ」だけではない、真に利用価値のある、危機管理のための「防災マップ/防災ロードマップ(実現のための工程図)」をどう作るか。地震、異常気象による風害や水害、工場火災、老朽インフラの損壊・途絶、原発事故……広い意味での防災こそが今後日本が最優先に取り組まねばならない課題であろう。国の様々な計画と体制を、地域の視点で見直し、地域なりの独自の強化・修正を住民と企業と行政が一体になり行う必要がある(コミュニティ防災)。その際に、多言語コミュニケーション、移民・異文化・マイノリティの支援や参加を可能とする技術イノベーションや公共政策を重視する(例えば、地域の通訳ボランティアを登録し、skypeを使って現場で役立てるシステムなど)。

さて、●10は……皆で考えてみましょう。

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