ナノ粒子の健康リスク(1)  母子伝達と次世代影響

投稿者: | 2013年4月16日
2013年2月23日実施 第51回 市民科学講座 <特別シンポジウム>
ナノ粒子の健康リスク~母子伝達と次世代影響、リスク管理を軸に~
報告
ナノ粒子の健康リスク(1)  母子伝達と次世代影響
武田 健
(東京理科大学・副学長/同・薬学部教授/
東京理科大学戦略的環境次世代健康科学研究基盤センター長)

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東京理科大学の武田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。上田さんが非常に迫力のある、またわかりやすいナノテク、ナノ粒子の話をして下さいましたので、私はナノ粒子の健康影響、それが体に入るとどういう悪さをするかということについてお話ししたいと思います。特に次世代影響といって、ナノ粒子が妊娠期の母親の体内に入ったときにそれがどう子供に伝わってどのような影響を及ぼすかという、一見特殊なお話になるかもしれません。しかし、このお腹の中の「子供」が最も感受性の高い時期にあたりますので、その点を中心にナノ粒子が私たちにどう影響するかということの全体像を眺めてみたいと思います。私のあとには梅澤さんから、リスク管理の方まで含めてナノ粒子の有害性と評価はどのように行われるかということと、そのリスクの管理をどうしていくかということのお話しがあります。その前に私は「健康影響」という点についてお話したいと思います。今回の講演会のタイトルにあります「ナノ粒子の健康リスク」は、先ほど上田さんの話にあったように、ナノテクノロジーの基盤材料として造られるナノ粒子あるいはナノマテリアルも重要ですが、それから今中国の方で話題になっているPM2.5に含まれるナノ粒子についてもほとんど同じように考えられるのではないかなと思っています。その理由をこれからお話ししていきたいと思います。

最近、ニュースで中国のPM2.5による大気汚染が頻繁に報道されるようになりました。そのため、今は私たちがPM2.5とは何かを説明しなくてもいいようになるくらいになっています。しかし、PM2.5のことを正確に理解してもらうのは難しいところがあります。ここで景色がこれだけモヤになって霞んでいる原因は、実はPM2.5ではないのです。PM2.5というのは粒子が小さいため、濃度が少々高くても見えません。もう少しダストというのか、煙や煤、霧のような形になった大きな粒子が、曇って見えているのです。ここには亜硫酸、硫酸なども付着していますから、喉がヒリヒリしたり目が刺激されたりします。直に影響がわかるレベルですね。呼吸器に直接的な影響があると思います。一方で実際のPM2.5は、もう少し目に見えない形で影響が来ます。

中国のほうの基準を見ますと、PM2.5については年平均で35 µg/m3、1日平均値で75 µg/m3、この値は日本とは違うのですが、1日を通しての平均が”75″であっても、1時間あたりですとか瞬間的には著しく高くなるときもあります。しかもこの”75″というのは、今の日本の状況と比べてかなり高いレベルと言えます。今日本の基準が約半分で35 µg/m3(1日平均値)ですね。こちら(年平均の基準値)はもう少し小さくて15 µg/m3、WHOではもう少し小さい数字を目標として掲げているというのが現状です。中国のニュースの中ではとんでもない数字が出てきますので、中国の人への健康影響は本当に心配です。さて、次に直径が2.5 µm (マイクロメートル)以下の粒子について、私たちが日常どのくらい吸ってしまうのかを、ちょっと考えてみたいと思います。重さとして比べてみますと、食べ物は1日1kgか2kgですね。水も1L~2Lですから、1kgか2kgです。ところが空気は16m3(立方メートル)吸いますので、両手を広げた風船、1.5mくらいの風船に入ったものを1日で吸っているくらいなんですね。重さにすると、20kgあります。ここに含まれる直径2.5µm以下の粒子の重さがどのくらいかといいますと(※)、先ほど1立方当たり35 µg/m3という基準値を紹介しましたね、1日平均値として。この濃度の空気16 m3に含まれるPM2.5を計算しますと、約0.5mgなのです。0.5mgっていうのは、耳かきにちょっと乗せたぐらいですね、本当に少ないです。実は直径2.5µm以下の粒子というのは、ここには健康影響が懸念されているナノサイズの粒子も含まれているのですが、これは目に見えないくらい非常に少量です。大気汚染物質として粒子は、以前はサイズの大きいものも含めた「浮遊粒子状物質」全体として問題になり、その次に直径10µm以下の粒子PM10が注目されました。その後、実はもう少し小さい粒子PM2.5が大きな健康影響を及ぼすと分かってきたのです。今はPM2.5が話題になっていますが、私たちの研究ではさらに小さなナノ粒子「PM0.1」が健康影響を及ぼしているのではないかという懸念を報告しています。そこで、重要な問題はPM 2.5よりもさらに小さな直径0.1µm以下であろうと考えていますので、今日はそのお話をさせて頂きます。(※ 16 m3は16000リットル。日常の気圧・温度下でこの体積の気体は、約700モルの分子を含んでいることになります。大気の平均分子量は約29ですから、700モルの分子は約20000 g、すなわち20kgに相当します。)

【以下、続きは上記のpdfファイルにてお読み下さい。】

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