21世紀にふさわしい経済学を求めて 第7回

投稿者: | 2019年5月31日

連載
21世紀にふさわしい経済学を求めて
第7回

桑垣 豊
(NPO法人市民科学研究室・特任研究員)

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番外編 経済問答 <続き>

今までのマクロ経済の復習をかねて、番外編により3人の問答形式で展開します。以下は、前回(連載第6回『市民研通信』第50号)になされた自己紹介の後の、議論です。

論者

経済学者(システム経済学専攻) 太宰(だざい)

銀行員(中小企業融資担当) 土倉(つちくら)

日本国営放送(NKH)解説委員 石清水(いわしみず)

賃金が上がらない

石清水

 賃金がここ20年ほど上がっていません。でも、賃金を上げると、その分生産性を上げないと、企業の利益が減ってしまうのではないでしょうか。

土倉

 生産性に見合った賃金に上げるということになるので、生産性を上げる必要はないと思います。

太宰

 主流派経済学「新古典派経済学」では、いつも均衡(つりあいが取れている)が成り立っていることになるので、そこからはずれると、それに見合ったことをしないといけないことになります。

土倉

 でも、均衡が成り立つなら、もともと不況になりませんよね。

石清水

 でも、企業の経営者は、利益が減るから困るといいます。

太宰

 企業の利益が増えすぎるから、不況になっているので、利益が減るほうが不況対策になります。

石清水

 でも、企業が利益をあげるから、賃金がもらえるのではないでしょうか。

太宰

 企業が大きな利益をあげたとして、その理由には、効率的な経営や生産性の高い製造設備や商業施設があります。それとともに、従業員の賃金を低く抑えることや、寡占市場(売り手や作り手が少ない状態)で価格をつりあげて、大きなもうけが出せる場合があります。

石清水

 低賃金だから、もうかる場合があるのを忘れていました。賃上げで企業の利益を心配するなんて、「お人よし」ですね。

土倉

 賃金は企業にとって、コストなのか、利益の分配なのかは、意見の分かれるところです。

太宰

 今の諸経済学や資本主義の建前では、賃金はコストということになっています。賃金は、経営状態とあまり関係なく支払って、ほかの費用も払って、その残りが利益だという理屈です。でも、21世紀に入るころから、企業の利益が異常に増えて来たので、企業のもうけ(余剰金)が、不況の大きな原因ではないかと、見なせるようになってきました。

土倉

 いわゆる過剰な内部留保の問題ですね。でも、細かいことをいうようですが、内部留保は、「余剰金」と「減価償却積立金」があって、問題は余剰金です。それも、過去からの蓄積が巨額になっています。

太宰

 日本の国民経済計算(国全体の経済状態をあらわす会計)では、20世紀末から、企業の資金収支が黒字になっていて、注目する経済学者もいました。

土倉

 岩井克人さんもそうですね。『会社はこれからどうなるのか』(岩井克人 平凡社 2003年)なんかに書かれています。企業は巨額の投資を行うので、国全体では資金を借りる主体であるというのが常識でした。それが、差し引きで民間企業が資金を貸すほうになったということです。

太宰

 日本だけがおかしいという議論がありましたが、先進国の大企業はタックスヘブンで利益を隠しているので、統計にはあらわれないだけかも知れません。日本の企業は、タックスヘブンにそこまで頼らないようです。

石清水

 タックスヘブンというのは、法人税がなかったりする安い国に、形だけの会社を設立して、そこで利益が発生したことにする節税方法のことですね。

太宰

 日本の企業は、タックスヘブンに頼らないのはまだ正直だと言えないこともないですが、もともと租税特別措置で、節税方法がたくさんあるから必要ないのかも知れません。

石清水

 租税特別措置というのは、外国での投資や研究開発費などは、税金から控除する制度ですね。

土倉

 そういうことでいろいろな事情があるでしょうが、民間企業が利益をあげているのに、十分、いや、最低限の賃金も払っていないのじゃないかということです。世界的な傾向です。それで、個人個人の生活が豊にならないだけでなく、経済のバランスがおかしくなって、いつまでも景気がよくならない。

太宰

 GDPだけで景気を見ると好景気に見えるけど、賃金はあがらない。GDPをやめるのではなく、賃金やそのほかの経済指標も見ていく必要があります。

 そして、賃金にも利益の分配の要素が必要になるのではないかと思います。今までは、短期の利益変動の分配としてボーナスがありましたが、ベースアップにもっと反映させるべきです。そして、非正規職員にも、ボーナスを出すべきです。それが労働者個人のためだけでなく、経済全体のためにもなるということです。

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