3つの教育プログラムの開発事業の提案―関心のある方のご参加を呼びかけます―

投稿者: | 2018年10月17日

3つの教育プログラムの開発事業の提案
―関心のある方のご参加を呼びかけます―

上田昌文(NPO法人市民科学研究室・代表理事)

PDFはこちらから

生態学的総合科学教育の構築に向けて

私はこの文章において、現在の理科教育、ひいては学校教育全般に何か根本的な改変が必要なのではないか、ということを示し、そうした改変の作業に関心を持つ方々が一人でも二人でも、以下で提案する事業に参加していただけるよう呼びかけたいと思います。

2014年の市民研20周年の集いにおいて、私は「地域と科学技術」とのテーマで、次の発表を行いました。

2●地域総合科学教育
「子ども料理科学」を出発点にした「食・農・医・住・ものづくり・エネルギー」の総合科学教育を地域で実現する。健康と環境に関わって、教育効果の最も高い領域は「食」である。食のグローバル化が環境と地域の一次産業と健康の破壊の大きな原因になっていることは言うまでもない。市民科学研究室の「子ども料理科学教室」を地域の食材を活かす形で再編し、食から物理・化学・生物・医学(健康)・環境科学の基本を学ぶプログラムを構築すべきだろう。私は以前、「水育」「風育」「火育」「土育」「体育」「住育」……という生態学的教育の概念を提唱したが、地域でこそその総合科学のアプローチが生きてくる。地域の特性を生かした住まい方、都市計画、ものづくり、自然エネルギーの形を、学校教育の段階から、地域の現場を訪ね、担い手となっている人々と交わりながら学ぶシステムが求められるだろう。

ここで述べている「生態学的総合科学教育」について、さらに2017年に科学技術社会論学会での特別賞の受賞に際して行った講演でも、以下のように触れています。

10. 生活に根ざした生態学的総合科学教育の確立
最後に、生態学的な総合科学教育と名付けましたが、今の理科教育の最大の欠陥は、理科室から一歩出れば、その知識をどう使っていいかが見えないことです。例えば酸とアルカリについて習っても、家の台所に立ったときにその知識が生きるかという話です。じつは、これは料理に非常に関係します。そういう「使えない学び」が多過ぎるのです。そこで、逆のベクトルで、生活をより良く変えるために生活技術を適正化する、そのために科学的な原理を学ぶという方向に知識を全部組み替えないといけないと思っています。私の考えでは、人間生物学的なもの、生活科学的なもの、環境科学的なものをベースにしながら、それを年齢と経験に応じて、年齢が低ければ低いほど、より身体的、具体的、生活的なものにし、年齢が高くなれば、それをより知的なもの、抽象的なもの、系統的なものにしていきながら教育を組み替えなければいけないのではないかと思っています。そこで私は「水育、火育、風育、食育、体育……」という言葉を使って新しい概念構成ができないかと、ここ数年間いろいろ考えています。これによって市民の潜在的な力を引き出し、問題に立ち向かっていけるよう、教育の形を変えることができるのではないかと思います。

ここでの「月火水木金土日」は、人類が天体の運行と自然現象にみられる様々な循環の観察から作り上げてきたいろいろな「暦」から、一番ポピュラーなもの(週と曜日名)を借りているわけですが、曜日名にみられる自然の捉え方と関連させて「○育」が成り立つはずである、というところから、「生態学的」ということの意味合いを考えてみよう、というのが私の発想の出発点です。市民研で長年実施してきた「子ども料理科学教室」の試みを、「火育」として新たな装いのもとに実施してみないか、という相談をある大手企業の方から受けたこと、そしてそれとほぼ同時期に、働く母親向けのコミュニティウェブで「エコ」についての連載を受け持ち、「○育」の序論的なエッセイを書いたこと(水育、火育、風育、食育、体育の5回)が、具体的にこの代替教育プログラムの構想を練り始めるきっかけになりました。

もちろんそれは、現時点では完成までの途上のごく端緒にあるもので、それぞれの「○育」について研究会のようなものを組織し、その活動を展開しつつ作り上げていこうとの思いがあるわけです。

学校教育の現場のことをほとんどまったく知らない私には、こうしたプログラム作りがどれほどやっかいで、実際に学校の教育に反映させていくのがどれほど大変か、は見えていませんし、そのことをとりあえず今は気にするつもりもありません。ただ、現に私たちが作り上げた「子ども料理科学教室」のプログラムがあり、これまでに参加した子どもたち―延べ1000名近いと思われます―の誰をも熱中させてきたという実績があるにもかかわらず、学校の理科教育・家庭科教育関係者からお声がかかることはほぼ皆無でした(一度だけ理科教育の教員研修会に招かれて模擬授業を行ったことがあります)。ですので、「研究会」を経て作られたプログラムは、基本的には、例えば種々の助成金を使った活動や、学校外の環境教育イベントなどへの出展といった形で、個別の実践を重ねていくことになろうかと思われます。もちろんそれは、学校教育関係者に何らかの形で参加してもらうことを諦めているわけではなくて、むしろできるだけ初期の段階から何らかの連携を築いて、ことあるごとに「では、学校教育のなかにどう組み込んでいけるか」を相談してみたいのです。以下に提案する助成金の活用を前提としたプログラムも、最初から学校関係者と共同する枠を作って開発するものが含まれています。

3つの具体的な提案

1年なり2年なりの間に集中して新しい教育プログラムを開発するにはお金が必要ですが、それ以上に積極的に協力して知恵を出し合える仲間が必要です。以下のどれかの企画に関心を持たれる方は、ぜひ、市民科学研究室までご連絡いただければと思います。それぞれが助成金申請を狙うこともあって、ここでは概略しかお話できませんが、その点はご了承ください。

提案1:“赤ちゃんとのふれあい”を軸にして生命への理解を深めるプログラム

私は以前、宮城県塩竈市・健康福祉部・健康推進課が地元の中学校と連携してすすめている「中学生と赤ちゃんふれあい交流事業」のことを取材して、その事業の素晴らしさに感銘を受けたことがあります。

一方で、「トツキトオカは死語なのか?」というエッセイに書いたとおり、「ヒトはどんなふうにして誕生し、成長するものなのか」という発生生物学の知見をベースにした「生命」の理解が、将来の妊娠・出産・子育てを担い・支えることに直結すべく、学校教育において必須とならなければいけない、との思いも強く持っていました。これには、コミュニティwebの「babycom」と長年にわたって共同でいくつかの事業をすすめてきたこと、そして現在映画上映会を一緒にすすめてもいる、科学映像制作会社「アイカム」が次々と手がけてきた作品群―息を呑むような精緻さで実際の細胞や組織を写し込んで作られている―をたくさん観てきたことにも深く関係しています。

塩竈市の取り組みが決して孤立したものはないことは、市民研会員のSさんに教えていただいた、「医療生協さいたま」の「命の授業」があることをみてもわかりますが、公教育全体に普及するには、いくつもの壁があり、その壁の乗り越え方を見いだせていないのだという気がします。

そこで、保健教育・理科教育などに携わる学校関係者と組んで、“赤ちゃんとのふれあい”を軸にして、妊娠・出産を含む生命の誕生を、より科学的に、より自分ごととしてとらえて、生命の尊さへの理解を深める授業を、確実に公教育に普及できるようにするプログラムを開発してみたいと思います。助産師の方々の諸団体や行政の担当部署の方々にも声がけしていく予定です。

提案2:地域の親子がつながってすすめる防災減災プログラム

以前、市民研の「市民と防災 研究会」で、東京で予想される大規模水害に的を絞って、小さな子どもさんを持つ親を対象に「防災パレットinかつしか」というワークショプを実施しました(葛飾区の防災課の担当職員の方にもご参画いただきました)。

その時にわかったのは、「①自分の居住地域のハザードマップの読み解き→②自分にとってのタイムライン(発生する状況を予め想定して防災行動を時系列で整理する計画)の具体的描出→③(コミュニティへの働きかけも含んだ)避難行動の疑似体験」ができるかどうかが、決定的に重要だろう、ということでした。①が単なる「(一般的な)危険情報を知ること」のみにとどまり、②は災害時に周りの環境や状況がどうなるかが具体的に見えてこないので―多くの住民はじつは自分の住んでいる地域のことを“知らない”のです―描けず、したがって③も通り一遍のあまりリアリティのない「避難訓練」しか体験できない、というのがおそらく多くの地域でみられる現状ではないかと思われますが、残念ながらそこからは実効性のある防災・避難行動は生まれてきません。

特に小さな子どもさんを抱えた親にとって、①②③をできるだけ容易に学び体験しておくことは重要ですが、そのためには、①②③の事前学習を地域のなかでつながりを作りつつ、自主的に展開し拡散させていく何らかの方法が必要でしょう。この事前学習のコンテンツと展開・拡散の方法を合わせて開発したいと思っています。

提案3:農と食、大地と住、微生物共生への理解の鍵となる「土を知る」プログラム

市民科学研究室は、今から12年も前になりますが、「めぐる水、不思議な土を知る連続講座」という企画を実施したことがあります。その時点と比べてみて、現在、全般的にみると農や食の人工化はさらに進んで、「豊かな土壌で作物を育み、それを供する」という伝統的な農と食のあり方からより遠ざかったところに来ているようにも思えます。また、東日本大震災以降にそれなりに大きな規模の地震が頻発し、また温暖化が進行しているためでもあるのか異常気象も“常態化”しつつあって、安定しているはずの大地が土砂崩れや液状化などで人間に牙をむくことが増えています。さらに、ヒトと微生物との共生関係の科学的解明がすすんできて(マイクロバイオーム)、微生物の宝庫とでも言うべき「土」を生かし守れるかどうかが―それに触れることも含めて―巡り巡ってヒトの健康をも左右するのだ、との指摘もみられるようになりました(この点を論じた一般向けの良書にD.モントゴメリー & A.ビクレー著『土と内臓 (微生物がつくる世界)』築地書館2016 があります)。

このように「土」は、農と食、大地と住環境(防災も含む)、微生物共生と健康……といった非常に重要でかつ多面的な事柄の中核をなしてと考えられるのですが、では、私たちは「土」についてどれくらいのことを知っているのか、あるいは実際に学んできたかと問われると、はたと困ってしまう人が多いのではないかと思われます。

多面的な「土」の世界を、可能な限り体験的に、環境を守っていくことへの実践が促されるように教えることは、非常に重要なことだと思われます。この「土育」のプログラムを、日本土壌肥料学会の「土壌教育委員会」の長年にわたる活動にも学びながら、開発してみたいと思っています。

以上、多くの方々に関心や共感を持っていただければ幸いです。


この記事論文が気に入ったら100円のご寄付をお願いします




3つの教育プログラムの開発事業の提案―関心のある方のご参加を呼びかけます―」への1件のフィードバック

  1. 蓮沼 啓一

    「3つの教育プログラムの開発事業」に参加して見たいと思います。
    どの課題にも関心がありますが、私が積極的に関われる課題は「防災・減災」に関してではないかと思います。
    「赤ちゃん」や「土」にも関心はあります。

    返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA