家庭でできる楽しい科学実験
「気温・湿度と快適度」と「着衣条件」の相関に関する考察
西田 進(NPO法人市民科学研究室・会員)
PDFはこちら
本稿の目的は、気温と湿度が快適度に与える影響が、「着衣条件」によってどのように変わるかを実験を基にして考察することである。「気温と湿度が快適度に与える影響」としては、従来は「不快指数」が用いられてきた。近年はこれに代り「暑さ指数」が用いられることが多くなった。しかし両者の関係は明らかでないように思われる。そこで、先ず両者の関係を明らかにした。
次に、「気温・湿度と快適度」を論じるときに、いかなる衣服を着用しているかという「着衣条件」が重要であるが、着衣条件を明示した実験あるいは議論は見当たらない。そこで「気温」を変化させて快適な「着衣条件」を選択するという実験を行った。実験は、暑さに慣れた夏の終りと寒さに慣れた冬の終りに実施し、実際に暑さ寒さに慣れるかどうかを調べた。
このような実験は、本来ならば「気温」と「湿度」を独立変数としてコントロールできる恒温・恒湿の部屋で実験すべきであるが、家庭での実験が困難なので、「気温」のみを独立変数として変化させ、「湿度」は成り行きとした。この場合に湿度の変化はどの程度許容できるかについて簡単な考察を行った。
1.「気温・湿度と快適度」に関係する要素
「気温・湿度と快適度」に関係する要素として、次の8つが考えられる。
① 気温(快適度に及ぼす第1の要素である)
② 湿度(人体からの蒸発熱量を決める点から快適度に及ぼす第2の要素である。)
③ 放射(屋外では太陽放射がきわめて大きい。屋内では壁・床・天井からの赤外放射、窓からの太陽および赤外放射が快適度に影響する)
④ 風(風の温度と風速は快適度に影響する)
⑤ 着衣条件(着衣条件は快適度に大きな影響を与えるが、従来の快適度には最適な着衣条件を選択するという考えが明示されていなかったようである)
⑥ 運動条件(軽労働ならば快適だが、激しい運動をすると発汗し不快となる場合がある)
⑦ 順応(夏の終りは暑さに慣れるなど個人的な順応が考えられる)
⑧ 順化(熱帯の民族は暑さに強いなど民族的な順化が考えられる)
本実験の目的は、①気温と⑤着衣条件と快適度の相関に加えて、⑦順応の程度を明らかにすることである。
2.「不快指数」と「暑さ指数」
気温、湿度などの物理量と人間が感じる快適度の関係については、従来から不快指数があった。これは気温と湿度から決まる指数である。一方、暑さ指数は、気温と湿度と放射の3つの物理量から定まる人間が感じる快適度である。暑さ指数は、気温と湿度のみならず太陽による日差し(太陽放射)を考慮している点が特徴で、近年都市環境解析などで使われる。
2.1 不快指数(Temperature-Humidity Index、THI)
不快指数にはいくつかの定義がある。気温と湿度を使用する場合に下記の定義がある(文献1)。
乾球温度(=気温)をT(°C)、湿度を H(%)とすると、不快指数 は下記の式で与えられる。
不快指数 =0.81+0.01(0.99-14.3) + 46.3 (1)
2.2 暑さ指数
不快指数は気温と湿度から定まるもので、身体が太陽などから直接受ける放射は考慮されていない。気温と湿度の他に放射熱を考慮したのもに暑さ指数がある。暑さ指数は湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature、WBGT)とも呼ばれ、環境省によれば次式で定義される(文献2)。
屋外の場合 WBGT(℃) =0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
屋内の場合 WBGT(℃) =0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度
暑さ指数(WBGT)は下記の測定装置による測定値(黒球温度、湿球温度及び乾球温度)をもとに算出される。
●黒球温度(GT:Globe Temperature)は、黒色に塗装された薄い銅板の球(中は空洞、直径約15cm)の中心に温度計を入れて観測する。黒球の表面はほとんど反射しない塗料が塗られている。この黒球温度は、直射日光にさらされた状態での球の中の平衡温度を観測しており、弱風時に日なたにおける体感温度と良い相関がある。
●湿球温度(NWB:Natural Wet Bulb temperature)は、水で湿らせたガーゼを温度計の球部に巻いて観測する。温度計の表面にある水分が蒸発した時の冷却熱と平衡した時の温度で、空気が乾いたときほど、気温(乾球温度)との差が大きくなり、皮膚の汗が蒸発する時に感じる涼しさ度合いを表すものである。
●乾球温度(NDB:Natural Dry Bulb temperature)は、通常の温度計を用いて、そのまま気温を観測する。屋内で太陽放射がなく壁面温度が気温に等しい場合には黒球温度は乾球温度に等しいと考えてよいので、暑さ指数は乾球温度(気温)と相対湿度から計算できる。その結果は、日本生気象学会によると表2のようになる(文献3)。(筆者は表2をまだ検証していない)
【続きは上記PDFでお読みください】