コロナ時代を生きる知恵 ―大江正章さん『有機農業のチカラ』から学ぶ―

投稿者: | 2021年2月27日

市民科学入門講座 報告

コロナ時代を生きる知恵―大江正章さん『有機農業のチカラ』から学ぶ―

講師:中田哲也 (ウエブサイト「フード・マイレージ資料室」主宰)

全文のPDFファイルはこちらから

2021年2月1日(月)、毎週月曜夜の「市民科学入門講座」を担当させて頂きました。

昨年12月に急逝された大江さんのご著書(残念なことに、ご遺稿となってしまいました)をテキストに、コロナと共生するこれからの時代の食べものや農業のあり方について、参加者の皆様と考えてみようという趣旨です。

ちょっと「科学」とは遠いテーマでしたが、20名近くの方が参加して下さいました。

上田代表の開会挨拶に続き、パワーポイントの資料を共有しながら、概要、以下のように説明させて頂きました。

(当日の説明資料はこちら

冒頭、フード・マイレージの概要も含めた自己紹介に続き、大江さんの紹介と、スタディツアーやシンポジウムでの個人的な「思い出」の写真も紹介。

目次から分かる通り、本書は幅広い内容を含んでいる。

「まえがき」で大江さんは、コロナ禍は異常な産業社会・新自由主義経済が招いた当然の帰結であるとし、「脆弱な都市型社会と過剰な便利さの追求を見直し、 第一次産業を重視し様々なレベルにおける食の自給を目指すべき。軸となるのは持続可能な社会をつくる有機農業」とされている。

有機農業の定義については、法律等においては「農薬や化学肥料、遺伝子組み換え技術を使わない」等とされているが、大江さんによると、有機農業とは「もう一つの農業」ではなく「本来の農業」であるとのこと。

また、日本の有機農業の取組み面積は増えているものの、ヨーロッパ等に比べると非常に低い水準にあるが、新規参入者の有機農業志向は高いことについて、大江さんは「彼・彼女らは納得できる仕事と生き方を求めている」と評価している。

大江さんによると、本来、有機的とは「良い関係性を作る」ことであり、道筋や手段の違いを認めて批判しないこと等を「有機的感性」と呼んでいる。

また、日本の消費者は「自分と家族の(半径3メートル)の安全性は求めるが、農業・農村を守ろうとする意識は高くない」として徳野貞夫先生(熊本大)のアンケート結果を紹介。

食べものにはまっとうな対価を払うことが必要で、生産者と関係性を持つことで割高とは感じなくなる、と主張している。

本書でも他の著作でもそうだが、大江さんが自ら歩いた様々な地域の実例が豊富に掲載されている。現地を訪ね、その土地の方たちと交流することの大事さは、市民研の連続講座「日本の市民科学者の系譜」とも重なる。

あとがきには、大江さんがこの本を創ろうと思った理由が記されている。

一つは新型コロナ問題。もう一つは、ご自身が生まれて初めて大きな病気をして改めて命の有限性に向き合い、若い人たちのために集大成となる本を残したかったとのこと。

そして本書が刊行された2か月後、63歳で大江さんは逝去された。お別れ会で頂いたお礼状には「走り抜けた人生」と。

私自身も大江さんの志の一部でも受け継いでいきたいと、決意表明させて頂きました。

続いて、「産地や生産者とつながること」は自分には難しいと感じた方もおられたかも知れないが、コロナ禍の影響もあり、ネット等で生産者とつながる手段は増えているとして、本年1月10日(日)の市民研・新年交流会の際の資料の一部を紹介。

ポケマルでサツマイモを買って下さった上田代表の写真も(ご本人の事前許可を得ず)紹介させて頂きました。

(新年交流会の際の資料はこちら

なお、新年交流会の際に紹介させて頂いたのは以下の通り(私が個人的につながりのある方たちが中心ですので、ごく一部です)。

ポケットマルシェ

スマホアプリ等を通じて全国の農家さん・漁師さんから直接やりとりしながら食材を買うことができるオンラインマルシェ。主催されているのは「食べる通信」も始められた高橋博之さん(著書『都市と地方をかきまぜる』は、地域おこし等に関心のある方には必読の書)。

ちよだいちば

千代田区神田錦町にある日本各地の「食」が集まるアンテナショップで、生産者等を迎えての様々なイベントも開催。主催者は経産省・科技庁OBの方。

おいしいお野菜届け隊

埼玉・小川町で新規就農された農家さんの有機野菜等が、半年間、計12回直接届くといCSA(地域支援型農業)の一形態。

大崎駅前マルシェ「おおさき二十四節気祭」

JR大崎駅南口で毎週金・土曜日の12〜19時に開催。地域をサポートしたいという志をお持ちの若い男性が主催。

東京都農林水産振興財団「TOKYO GROWN-東京の農林水産総合サイト」

江戸東京野菜など東京産の農産物や加工品が買える直売所のリスト等。

母なる地球を守ろう研究所(福島・喜多方市)

農水省の研究機関を退職して移住・新規就農された方が立ち上げられた研究所で、自ら放牧して育てた豚肉のネット販売等も。

本木・早稲谷 堰と里山を守る会(福島・喜多方市)

中山間の条件不利地帯で用排水路を維持しながら有機の米づくり等を行い、棚田でとれた米を使った日本酒の製造・ネット販売等も。

47都道府県レストラン 箕と環 -MINO TO WA-(東京・神田)

全国のこだわりの食材や加工食品を使った料理や飲み物を頂ける地域応援レストラン。食材は全て若き店長さんが自らセレクトされたもの。

お茶の水サンクレールマルシェ

毎月第2、第4週の木・金曜日に新御茶ノ水駅前広場で開催されているマルシェ。

ゴホウビダイナー

東京・世田谷区祖師ヶ谷大蔵にある生産者と産地にこだわったレストラン。ハンバーガーなどはファストフードとは全く異なる絶品。


【続きは上記PDFでお読みください】

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