21世紀にふさわしい経済学を求めて 第11回

投稿者: | 2021年2月27日
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連載

21世紀にふさわしい経済学を求めて

第11回

桑垣 豊(NPO法人市民科学研究室・特任研究員)

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「21世紀にふさわしい経済学を求めて」のこれまでの連載分は以下からお読みいただけます。

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回

第1章 経済学はどのような学問であるべきか (第1回から)
第2章 需給ギャップの経済学 保存則と因果律 (第2回から)
第3章 需要不足の原因とその対策 (第4回から)
第4章 供給不足の原因と対策 (第6回から)
第5章 金融と外国為替市場 (第8回から)
第6章  物価変動と需給ギャップ(第10回から)

 

第7章 市場メカニズム 基礎編

7-1 はじめに

いろいろな物やサービスの取り引きを、基本的に市場にまかせるべきか、それともいろいろ規制すべきかが、大きな議論になっている。

市場にまかせるべきだという立場(新古典派経済学:主流派)では、規制をなくして市場本来の機能を発揮させれば、経済活動はうまく行くと言う。では、現実に規制がある現実の市場ではどのように問題がおきると考えているかと言えば、それは独占・寡占市場など一部しか描けていない。理想的な市場が実現できれば、市場はこのようなメカニズムでうまく行くと言うばかりである。

規制すべきと唱える側(反主流諸派やマルクス経済学など)は、規制を減らしていくとどんな問題がおきるかを描く。しかし、規制やそのほかの制約のある現実の市場がどのようなメカニズムで働いているかは描けていない。

結局、既存の経済学は、現実の市場をうまく描けていないのである。市場を描く経済学をミクロ経済学という。ミクロ経済学とは、おなじみの「需要供給曲線による価格と生産量の決定」を基礎とした「均衡市場」を描く経済学である。しかし、この市場モデルが現実に適用できると思っている経済学者は、新古典派であっても少ない。理念の世界のモデルなのである。

そこで、この均衡市場モデルが前提としている非現実的な前提条件をすべて取りはらうと、どのような市場モデルになるのか。そこから出発して、新しい市場経済学を展開したい。

私が市場経済学をミクロ経済学とは呼ばないのは、市場はマクロ現象であって、決してミクロな現象だとは思えないからである。ミクロの立場とは、例えば一つの店がどのような販売価格を設定し、どれくらい在庫を確保するかという経営の立場である。

マクロの立場とは、例えばテレビの市場を国単位で、どのような価格でどれくらい売れるか、多くの売り手と買い手を想定して、モデルを築くことである。当然、いろんな価格で売れるので、価格分布を考えないといけない。それを表現するモデルを構築し、「価格分布のある市場モデル」と名づけた。

はじめて本格的に経済学を研究したときに、提唱したのがこのモデルである。2011年3月末、東日本大震災発生からそれほど日がたたない時期に、名古屋大学で進化経済学会の全国大会があり、そこで研究結果を紹介した。そのときの好意的な反応が、その後、経済学の基礎部分全般を研究するきっかけになった。

 

7-2 均衡市場モデルの前提

均衡市場モデルが前提としている条件は、以下のとおりである。

1)一物一価

2)完全競争

3)均衡

その結果、「非自発的失業はない」「設備はフル稼働」「在庫なし」なども前提となる。個別の条件をはずす試みは、「複数均衡:2重価格」(教科書にも載っている)、『不完全競争の経済学』(ジョーン・ロビンソン)、『不均衡動学』(小谷清/宇沢弘文)などがあるが、すべてを満たすものはほとんどない。

唯一、「マルチ・エージェント・ベースの経済学」がそれを満たそうとしているが、個別主体のシミュレーションの集計なので結果の解釈ができず、市場構造を理論的に描くにはいたっていない。その上、一足飛びにマクロ経済まで説明しようとしているので、無理がある。均衡市場にかわる市場を研究している経済学者は、このような方法しかないということで合意しているが、はたしてそうであろうか。

 

7-3 「価格分布のある需要供給分析」の入り口

新古典派経済学の均衡市場モデルへの批判は多いが、「一物一価」モデルに対する代替案は少ない。私の提唱する「価格分布のある需要供給分析」は、「一物一価」を打破することから出発する。

一物一価でないということは、価格分布を認めるということである。何の分布であるかというと、販売価格であり、購入者(消費者)の購入許容価格である。ある消費者が、この価格以下だったら、ある商品を買いたいと思っているとすると、その価格以下の値段で売っている店が見つかれば、その商品を買うであろうとする。これを満足化原理による意志決定である。

均衡市場では、全国の市場価格を調べてもっとも安い価格の店まで全員が買いに行くような非現実的なことを想定する。実現できそうなネット市場でも、そのようにはならない。そういう結果の調査や研究もたくさんある。

 

▼一人の消費者からの視点

消費者の購入許容価格が高いほど、条件にあう店を見つけることは簡単である。ある購入許容価格以下の販売額に出会う確率は、販売価格の分布を描いて、その価格以下で売っている店(正確には商品の数量)の数を合計して、全体の店の数で割り算すれば、買える店の割合が計算できる。前提として、店の選択はランダムであり、1カ所目に出会う確率を求める状況を想定している。あとのほうで、その条件もゆるめる予定である。

この価格分布を思い切って曲線であらわせば、「価格分布のある供給曲線」が描ける。均衡市場の供給曲線に似ているが、均衡市場のように価格が安ければいくらでも売れることはなく、供給(店の在庫)の範囲で頭打ちになり、資源の有限性を反映できる。

 

図7-1 供給価格分布(密度関数と累積確率)の例

【続きは上記PDFでお読みください】

 

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