【市民研の動画ノート】
ブックトーク「語っていいとも」
瀬野豪志 (NPO法人市民科学研究室・理事、アーカイブ研究会世話人)
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市民科学研究室では、一年ほど前からインタビューの動画をつくる活動を始めています。この「動画ノート」は、動画をつくりながら書き記す、市民研の動画についての覚え書きです。
ブックトーク「語っていいとも」は、語り手となる会員の方に一冊の本を選んでもらい、聞き手となる会員とその本についておしゃべりをしてもらう企画です。が、インタビューの動画をつくるためにおしゃべりします。第2回の山口直樹さんが「今日は『収録』だから」と言っていたように、おしゃべりをすると同時に映像と音声の「収録」をします。収録にかかる時間の長さは、だいたい30分から1時間以内を目安にしています。
収録したあと、その会話を聞き返して編集します。会話に出てきた文献やキーワードなどの情報を画面に挿入します。そして、語り手の意向にしたがって、市民研の動画サイト「くらしとかがくのアーカイブ」とYouTubeで公開しています。
一冊の本を選ぶ 語り手による演出
これまでの「語っていいとも」の収録で紹介されている本を列挙すると、
- 林信太郎『世界一おいしい火山の本 チョコやココアで噴火実験』小峰書店、2006年
- 西牟田靖『本で床は抜けるのか』本の雑誌社、2015年(中央公論新社、2018年)
- 『別冊映画秘宝 初代ゴジラ研究読本』洋泉社、2014年
- 高木仁三郎『いま自然をどうみるか』白水社、増補新版1998年(初版1985年)
- ロバート・アーリック『トンデモ科学の見破りかた』草思社、2004年
- 『神奈川県植物誌 2018』神奈川県植物誌調査会、2018年
- ポーラ・アンダーウッド(星川淳訳)『一万年の旅路 ネイティブ・アメリカンの口承史』翔泳社、1998年
- 榎木英介『病理医が明かす死因のホント』日経BP日本経済新聞出版本部、2021年
- 梅棹忠夫著、小長谷有紀編『梅棹忠夫の「人類の未来」 暗黒のかなたの光明』勉誠出版、2012年
- 田井正博、加納誠監修『時間の不思議』東京図書、2005年
- 吉村浩一、川辺千恵美『逆さめがねが街をゆく 上下逆さの不思議世界』ナカニシヤ出版、1999年
- 羽角章『日本の若者はなぜ社会的エネルギーを失ったのか―「隠れたカリキュラム」を中心概念として』七つ森書館、2019年
(以下、12月1日現在編集中)
- 井上太一『動物倫理の最前線』人文書院、2022年
- 『女性医師が教えるスーパービタミンC美肌術』日経BP、2019年
- 小堀洋美『市民科学のすすめ』文一総合出版、2022年
- 藤森英二「信州の縄文時代が実はすごかったという本」信濃毎日新聞社、2017年
- 杉本泰治、高城重厚『技術者の倫理入門(第5版)』丸善出版、2016年
- 川端裕人『「色のふしぎ」と不思議な社会:2020年代の「色覚」原論』筑摩書房、2020年
- 岸由二『生きのびるための流域思考』筑摩書房、2021年
- 松尾尊兊編『石橋湛山評論集』岩波書店、1984年
これまでにも市民研では会員同士でオススメ作品を紹介する機会がありましたが、「語っていいとも」の収録では何を選んで話したらいいだろうかと語り手の会員の方は考えてくださっているようです。第1回の柿原理事からして「専門の本ではなく、本についての本」という意外なチョイスでしたが、聞いてみると肩透かしのようなことではなく、第1回にふさわしい、柿原さんらしさが満載のお話でした。このような語り手による「演出」の工夫が「一冊」のチョイスに入っています。「なぜ、その本を選んだのですか」という話になると、「語っていいとも」の収録のための理由が表に出てくることがあります。そのためか、自著や監修した本を紹介する方もいます。本をオススメするだけでなく、語るならこの本という理由もあるのでしょう。
これらの一冊の本は、打ち合わせなしに、語り手の方に選んでもらっていますから、動画をつくる方からすると、どんな本が来るかわかりません。書名は収録前に伝えられてはいますが、どのような話になるかはわかりません。さて、収録するとなると、語り手が持ち込む「一冊」の話に、聞き手の素直な驚きや笑いが生じ、その声と表情が入ります。ふっと、声が生じたその瞬間に、即座に、また語り手が応じていきます。そのように声がつくる場面には、いろんな気づきや情報があり、それはインタビューの相互行為によって共有されます。一冊の本から広がる語りの世界が驚きとともにやりとりされる瞬間、それが見られるのも「語っていいとも」の面白いところです。今後も、驚かされる「一冊」の話が増えていくでしょう。
ブックトークのひとつの形
「語っていいとも」は、杉野理事が提案していた「ブックトーク」からの企画で、そのインタビュー動画版といえるものです。念のために言っておくと、「語っていいとも」という言葉を考えたのは杉野さんではありません。
杉野さんが考えていた「ブックトーク」とは形が違うかもしれませんが、「語っていいとも」の収録を重ねるうちに、「ブックトーク」を様々な形にすればいろんなことができるのではないかと考えるようになってきました。
たとえば、この年末に企画されている「ブックバザー」のオークションは、ある方から本の寄贈のお話があったことや市民研の文献を整理していることに関係しています。本のオークションのためのトークをするなら、その本の来歴というのも大事な情報でしょう。どうしてその本を手に入れたのか、その出会い、入手方法などは、「語っていいとも」でも、しばしば語られることがあります。
あるいは、一冊の本の「情報」や「内容」を紹介するだけではなく、「本というモノについての話」や「本の整理についての話」なども面白いブックトークになります。柿原理事の「語っていいとも」で話題になっていたように、本で「床が抜ける」のが心配な方や、文献の整理をされている方は、市民研の会員の中にもいるのではないかと思います。
オークションでのおしゃべりは、オンラインや動画収録の形でもできるかもしれません。「ブックバザー」に関する動画も何かつくろうと考えています。
本の解説、おしゃべりの準備
「語っていいとも」では、次の3つのポイントを会話のどこかで話してもらうようにしています。
・文献情報 著者、出版社、出版年、など
・技術 どのように書かれたか、どのようにつくられたか、など
・比較 類書があるかないか、など
これは、その本を知らないひとのためのブックレビューになるようにするとともに、収録のおしゃべりを進めるための大まかなガイドでもあります。どんなにおしゃべりが脱線したり、順序が行ったり来たりでも、このポイントさえ入っていれば、あとはどういうおしゃべりであろうと全く問題ないと考えています。
「語っていいとも」では、聞き手からの質問や反応があります。それに応じる形でも構いませんし、オンラインでの収録のときによくあることですが、画面に見せるものをしっかり準備されているのも、そのひとらしさが感じられるのでOKです。本やその内容によっては、視覚的に見せられる資料があるといいですし、編集で画面に図を挿入することもしています。そのあたりは、語り手の「演出」方法にお任せしていますが、「語っていいとも」はインタビューの動画にするための収録ですので、ずっとスライドを見せて話し続けるような講座や発表の形とは違って、最初から最後まで語り手と聞き手が向き合って気軽に語ってほしいと考えています。
「語っていいとも」ではじめてわかること
インタビューする側面からすると、一冊の本を選んでもらうと、その本を紹介すること以上に、そのひと(語り手)自身を語ってもらうことにもなります。なぜこの本を手に取ったのかという話が「語っていいとも」ではよく出てきます。「えっそうなの」と驚くことが多くあります。どんな方でも、子どものころがあり、はじめてのときがあるのです。出会いや偶然や興味や願いに伴う、人生を変える本というのはやはりあるのだということを感じています。
会員同士でのおしゃべりではありますが、聞き手が「えっそうだったんだ」と言うような、はじめて聞くことも出てきます。一冊の本を選んでもらい、インタビューの収録をすることによって、長い付き合いがある者同士でも、はじめて聞く話があるのです。これは、ブックトーク「語っていいとも」の副産物かもしれません。
「語っていいとも」の編集をしているうちに、そのひとのユニークなところに関心を向けることができる動画になればいいのではないか、と思うようになっています。それは、専門的なことへのきっかけや、社会的な広がりにもつながるように感じています。会員同士のやりとりが始まるのは、それぞれが持っている専門性や思いを知ってからのことでしょう。そのひとの生い立ちからの人生、職業的なキャリアについての話、世の中へのメッセージなどを聞くことができるようにすることをわたしは望んでいます。「これからの世代」にとって聞きたいことも、ひととして生きていくためのそのような話にあるのではないかと考えるからです。
動画づくりは楽しくやっています。「語っていいとも」の動画は、「くらしとかがくのアーカイブ」でいつでも試聴できますので、是非ともご覧ください。いっしょに動画をつくる方も募集しています。「語っていいとも」の他に、面白い動画の企画案がありましたら、声をかけてください。