催しとシチズンサイエンス

投稿者: | 2023年9月24日

催しとシチズンサイエンス

 

倉本 宣 (明治大学農学部)

 

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生きものの分布と個体数は空間的・時間的に変動します。シチズンサイエンスの一部はこの変動をビッグデータで捉えるためのものであるといえるでしょう。例えば、大ロンドン市のGIGLや環境省の生きものログがこれに当たります。

コウモリの超音波をヒトの耳に聞こえる周波数に変換して、コウモリを見つける道具にバットディテクターがあります。30年間の大学生活の間に、少しずつ購入して、研究室に25台のバットディテクターがあります。バットディテクターを使った学生実習は遅い時刻になるので、学生が嫌がります。それに、学生に野外でグループ行動を取らせると、ほとんどの場合に、目的と無関係なおしゃべりで終始してしまいます。耳を澄ませて音を聞くという行為とは無縁なのです。

そこで、小学校低学年と保護者に目をつけました。川崎市教育委員会では、地域の寺子屋事業を実施していて、キャンパスの周辺では、みた・まちもり寺子屋(三田小学校)が活動しています。学習支援は水曜日、体験学習は毎月1回土曜日に実施しています。小学校はガードが硬いので、みた・まちもり寺子屋と年に1回協働で、2017年からコウモリの観察会を開催しています。

何度も下見をして、地図に観察ポイントを記入したすばらしい観察ノートをみた・まちもり寺子屋が作ってくれました。子ども1名に、バットディテクター1台を原則にしてきましたので、どの子どもも自分の発見に応じてバットディテクターを超音波の来る方向に向けられます。日没直後なら、超音波の発信元のアブラコウモリを肉眼で捉えることも出来ます。私が子どもだったとしてもおもしろいはずです。夏休みにバットディテクターを借りていって、夏休みの宿題にアブラコウモリの研究をした小学生も現れました。

ところが、コロナ禍がやってきました。中国大陸のこととはいえ、コウモリがウィルスを媒介するという説が流布し、コウモリの観察会は3年間中止になりました。2023年8月に久しぶりに観察会を開催しました。

ところが、4年前と比べて、アブラコウモリがほとんどみつかりません。下見を何度もしてくださったのですが、いままでいた場所にいないのです。

そこでやむを得ず、以下のお知らせをホームページに掲載しました。

8月26日三田小寺子屋体験活動、集合時間と集合場所変更のお知らせ

この度は三田小寺子屋の体験活動「コウモリの観察会」にお申込みいただきありがとうございます。これまでも何度か実施した活動で、今年も五反田神社に集合後、五反田川沿いや三田地区をまわりコウモリの観察をしたいと考えておりました。しかし今年はなぜかコウモリの姿を見かけないのです。そこで昨日多摩川(稲田多摩川公園)で調査しましたところ、飛び交うコウモリを確認しました。熟慮の上、以下の通り集合場所、時間を変更して実施することといたしました。

直前の変更に至りましたことを心よりお詫び申し上げます。また、変更により参加が難しくなられた方には重ねてお詫び申し上げます。申し訳ありません。

8月26日(土曜) 集合場所:JR登戸駅改札 集合時間:午後6時(午後7時ごろ)

直前まで、アブラコウモリが見つかりませんでした。そのため、以下のような相談がありました。

「今、どうしたものかと悩んでいます。
五反田川沿いでは、5時半近くから7時過ぎてもコウモリが見当たりません。
三田第4公園、第一公園(野球場)でも見当たりません。
以前いた、三田保育園付近、五反田神社からカフェに行くあたりの道でも見当たりません。
マムシ公園(三田第2公園)には、6時45分頃2回ほど出没しましたが、今日もう一度確認したら、姿がなかったです。
暑いからなのか、3年たって環境が変わったからなのかよくわかりません。
このままでは子どもたちをがっかりさせてしまい、観察会にはならないのではないか…。
例えば今年は特別暑いので、もう少しして涼しくなれば飛ぶようになるのかもしれない。
いったん延期にしてコーディネイターで観察を続け、日を改めて集合場所も改めた方が良いのではないか…。」

東京動物園協会でアブラコウモリも対象とする観察イベントが行われていることを思い出して、友人に、2023年のアブラコウモリの出現状況を教えてもらったところ、ふつうにみられているという回答でした。そこで、直ちに下見を行い、日没前から多数のアブラコウモリを観察できることがわかりました。そこで、延期せず、多摩川河川敷の公園で開催することにしました。

例年は道路での観察でしたが、広場での観察になったので、子どもたちはバットディテクターを持ってアブラコウモリを追いかけていました。同じ場所を、昼間飛んでいるツバメとちがって、アブラコウモリはひらひら飛び、向きをしばしば変えるので、追いかける子どもも向きを変えなければなりません。

私は、学生実験で学生を夜に拘束しなくてよいように、超音波録音機を相当数そろえてきました。これを使えば、空間的・時間的変動をある程度の精度で記録できます。みた・まちもり寺子屋に10年間分布調査をやらないかとお願いしたら、あっさり断られました。しかし、コウモリの観察会という催しを開催することこそが、みた・まちもり寺子屋にとってのシチズンサイエンスの機会なのだということを教えられました。

おそらく情報の共有は来年度の催しの中で行われることでしょう。ただし、広く公表されるかどうかを考えてみると、公表にはあまり必然性がなさそうです。

プリミティブかもしれませんが、一つのシチズンサイエンスの形を見いだしたように思います。ただし、鍵になるのは情報の共有化です。神奈川県には野鳥の会神奈川支部の「Binos」(※5)や神奈川県立生命の星地球博物館の「神奈川自然誌資料」がありますが、ここに書いたレベルの情報を共有する場は欠けていると思います。

なお、約2週間後の9月6日に生田キャンパスの生田坂と五反田川の魚見橋周辺で私も追試をしました。どちらもバットディテクターで超音波が確認できましたが、魚見橋周辺は大幅に個体数が減少したという印象でした。

 

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