「旧・毒ガス島(広島県大久野島)を訪ねて」に参加して

投稿者: | 1996年4月16日

湯沢文朗

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11月9日、発表者は高橋佳子さん。詳しい論考やテープ起こしは『論文集』に掲載されます。

本年7月、たままた滞在中の広島で、「大久野島土壌からヒ素/毒ガス貯蔵地跡/基準の400倍」という中国新聞の一面記事を見た高橋さんが、その大久野島を訪ね写真を撮り、かつて島で働いていた村上初一さん(元毒ガス資料館館長)、動員学徒の岡田黎子さん、毒ガス工場で働いて被毒した人たちの治療にあたってきた行武正刀さん(忠海病院院長)にインタビューした報告である。

1963年に国民休暇村となった大久野島に旧日本軍の毒ガス製造工場があったことは、最近やっと一般に知られるようになった。1929年にできた「陸軍造兵廠忠海兵器製造所」で、最盛期にはびらん性ガスのイペリットなどを年間1500トン以上を製造した。1925年に締結された「ジュネーブ議定書」で毒ガス兵器は禁止されていたから、地図から島の存在自体が消され、海岸線を通る列車は海側の窓によろい戸を下ろし、海上の客船も窓をカーテンで覆い(岡田さんの証言)、毒ガス工場は徹底して隠された。

工場でのべ6600人が働き、戦後も被毒した人の多くは亡くなったり、後遺症に苦しみ、忠海病院には現在、4500人分のカルテが保存されている(行武正刀さん証言)。戦時中は、島で働くのが特別で素晴らしいことであると考えた14、5歳の少年たちも多かった(村上さんの証言)。

報道の通り、国民休暇村となった島にはヒ素が環境基準を上回って残留している。ヒ素は毒ガスの原料であり、毒ガスを凍らせないため砲弾に混ぜられた。毒ガス工場跡に宿舎やプールやテニスコートがあり、高橋さんが撮った島のスライドが上映された。

たまたま目にした新聞記事に触発されて、自分の足で調べ、写真を撮り(写真はプロです)、人に会い、証言を聞き、真実にせまるという高橋さんの発表は、土曜講座代表の上田さんの「”素朴な驚き”から出発して、調査やインタビューの労をとり、自分の疑問を掘り下げてゆくという、高橋さんの好奇心と行動力が、なんとも素敵です。

土曜講座に参加するいろいろな人が、自分のスタイルでさまざまな自発的な行動を展開していくこと。その成果を適時皆で共有し合うこと。土曜講座の理想は、この辺にあるような気がしています」というコメント通りの内容だった。

しかし、さらに衝撃的だったのは、大久野島で作られ、中国大陸に持ち込まれ、実際に使われ、遺棄された毒ガス兵器の50年以上たった現在の行方である。高橋さんの話に続いて「NHKスペシャル 化学兵器・20世紀の負の遺産」を見て、化学兵器の愚かさを改めて認識し、愕然とせざるをえなかった。

来年4月29日に「化学兵器禁止条約」が発効し、日本は日本軍が中国大陸で捨てた化学兵器の処理、無毒化を10年以内にしなければならないことになった。
日本は中国政府の求めに応じて91年以降、数回の調査をしたが、ほとんどが非公式で、現地の住民にも危険性を十分には説明していない。知らずに遺棄現場に近づき、被害を受けた住民は多い。中国側の資料では200万発、日本側の推計で70万発の化学兵器が捨てられた。敗戦後の混乱と証拠隠し(国際法違反)のため、何の記録もなく、どこに何が捨てられているのかまったくわからない状態である。

50年たち、表面の金属が腐食し、外見ではどの種類の毒ガスかすら特定できない。化学兵器を無毒化する最新の方法(高温で焼く、その他)で何百年もかかる。
まず、鉄屑のような砲弾の毒ガスの種類を特定しなければならない。毒を抜くために穴を開ける過程が一番危険で難しい。1000度を越える高温で分子を弾き飛ばして、無毒化してもヒ素は残ってしまう。

日本政府は98年中に処理を始める方針だが、少なくとも1000億円はかかるプロジェクト(われわれの税金?)という計算もある。
ちなみに、米国とロシアは条約に署名しているが、まだ批准していない。ロシアは4万トンの化学兵器の廃棄費用で苦慮している。米国は化学兵器約330万発を保有し、2004年までにすべて廃棄する計画だと発表した。費用は120億ドル! である。

日本の15年戦争時の行為について50年たっても論争がたえないが、中国大陸に無責任にも捨ててきた化学兵器は50年たった今も毒性を保ち、外見は腐食した鉄屑のようになりながら、残っている。何の言い逃れもできない証拠がまさにそこにあり、50年後の私たちが何千億円も費やし、何百年もかかって、危険を犯しながら(処理の過程で何人もの人が命を落とすかもしれない)、無毒化していかなければならない。

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