PJ report 電磁波プロジェクト 携帯電話電磁波リスク問題について 英国のスチュワートレポート最新版が出る

投稿者: | 2005年4月13日

PJ report 電磁波プロジェクト
携帯電話電磁波リスク問題について
英国のスチュワートレポート最新版が出る
文責:上田昌文
doyou84_ueda.pdf
 英国の放射線防護に関する情報提供と助言を行う機関である英国放射線保護局(NRPB: National Radiological Protection Board)は、携帯電話端末と基地局が人体に与える影響などを調査したレポート「Mobile Phones and Health 2004」を発表した。これは、報告書の作成にあたったメンバーの首班であるタイサイド大学病院長ウィリアム・スチュワート氏(William Stewart)の名をとって「スチュワート・レポート」と呼ばれている報告書の最新版である。
 英国政府は1999年に、科学諮問委員会であるIEGMP(Independent Expert Group on Mobile Phones)を設立して、携帯電話が健康に与える影響を扱った研究を1年をかけて手広くレビューした。それが2000年に出された「スチュワート・レポート」の第一弾だった。そこには「16歳以下の子どもは携帯電話の使用を控えるべきだ」とする勧告などが含まれ、予防原則への立脚を打ち出したものとして、世界中の注目を浴びた。今回の改訂版は、過去5年間に発表された多数の電磁波健康影響研究の結果をふまえたものになっている。改訂版では結論として「現時点では携帯電話の使用が人体への悪影響をもたらすことを示す決定的証拠は見当たらないが、不明な部分が残されており、事実関係が明らかになるまでは、引き続き予防原則に立った注意深い利用が望ましい」と述べており、基本的には前の報告書の結論を踏襲していると言える。しかし、以前よりも踏み込んだ予防的対応を求める勧告も見られ、ことに日本に暮らす私たちからみれば、一歩も二歩も先を行く政策提言がなされている。
 その主だった勧告を列挙し、日本の状況と対比しながらコメントを加えてみる。
(1)市民が携帯電話や基地局の健康影響に関連した最新の情報に容易にアクセスできるよう改善がなされるべきである。
 日本では、政府機関が携帯電話電磁波の健康影響の研究を総合的にレビューしたことはない。ましてや、重要な最新情報をできるだけ偏りなく要約して一般市民に常時提供するような試みもなされていない。
(2)携帯基地局を設置する場合は、その計画策定が独立した機関によって点検される必要がある。
 英国では携帯基地局建設に関して制度がよく整備されていて、情報公開も進んでいるという印象を受ける。英国経済産業省の「Code of Best Practice on Mobile Phone Network Development」では携帯基地局の建設や運用にあたって考慮すべき事項や基本的な指針が示されている。新たな基地局の建設の際には、携帯電話の通信会社は初期段階から自治体などと協議を重ね、公衆の被曝を抑え、景観を保護するための方策がとられている。このような過程において地域の住民との対話の場を設けるよう提案されているのである。また、この指針では基地局の登録制度を設けてその情報を公開することが提案されているが、既存の基地局についても基本的に情報が公開されており、無線通信庁(Radiocommunication Agency)が提供するウェブサイト「Sitefinder」では、日本であれば情報公開制度を利用して情報の開示を請求しても拒否されてしまうような基地局の詳細な情報(通信会社、位置、アンテナの高さ、運用されている出力、許可された最大出力、電波通信方式)が公開されている。また、基地局の運用条件が変わるときには届出をするようになっており、地域住民の知らないうちに基地局の出力が上がってしまうようなことは起こらない制度になっている。さらに、学校や病院については電磁波強度を測定する制度があり1年間に約100箇所の測定が行われていて、その詳細な結果がウェブ上で公開されている。今回の勧告は、計画策定の段階に第三者を入れることでその正当性をチェックしようとするものだろう。
 日本では、世界でももっとも緩やかな規制レベルにある総務省の「電波防護指針」の基準を満たしてさえいれば、携帯電話事業者の一存で基地局がどこにでも建てられると言って過言ではない。すなわち、携帯基地局の設置の計画策定をなすのはもっぱら携帯電話事業者であり、設置場所の土地を提供する土地所有者と契約が結ばれさえすれば、自治体や周りの住民の合意などなくてもいつでも基地局の建設と運用ができる。
(3)マイクロセルやピコセルの設置に関する法制上の権限や規制が明確化され、それらの設置に関する情報公開がもっとなされねばならない。
 従来の自動車・携帯電話では、1つの基地局はセルと呼ばれる半径1.5~数kmという広い範囲をカバーする。マイクロセルは半径数百メートル程度の小さなセルで、PHS等のためにおもに都市部の道路などに設置されている。ピコセルはさらに狭く通常半径数10m以下のエリアをさす。サービス・エリアを小さくすることで、同一面積に必要な基地局の数は増加する。その反面、同一周波数を近いエリアで繰り返し使用できるため、加入者容量が大きくなる。さらに、移動局が低出力ですむので、小型化できることになる。日本では、マイクロセルやピコセルのアンテナ設置に特別な規制はないと思われる。PHSのアンテナは街のいたるところに建っている。たとえば私たちが以前調べた国立市では、2002年の時点で市内に221本のPHSアンテナがあった。
(4)第三世代携帯の基地局によってネットワークを拡大するのなら、その基地局がいかなる被曝をもたらすのかを同時にモニタリングするべきである。
 これは今回の報告書で新たに取り入れられた勧告である。これは、2003年に第三世代携帯電話(3G)の基地局からの電波が、周辺にいる人間の頭痛や吐き気などの原因となる可能性があるとの研究結果をオランダ経済省などが報告したことなどを受けている。日本はユビキタス社会の到来を見込んで、世界でも最も熱心に第三世代携帯を普及させようとしている国である(NTTドコモの「FOMA」、auの「CDMA2000」、J-フォンの「ボーダフォングローバルスタンダード(VGS)」(現ボーダフォン3G)など)。”携帯によるテレビ電話”は第三世代によって可能になった。しかし現在のところ、日本においてこの2.1GHz帯の周波数を用いる第三世代携帯端末ならびに基地局の電磁波の健康影響を独自に調査しようという動きはない。
(5)携帯基地局周辺の立ち入り禁止区域を設ける場合は、その区域がはっきりそれとわかるような設置のされ方をしているかどうかを公的に点検を受けることが必要である。
 私たちにはまだ詳らかでないが、これは英国の何らかの事情を反映しての提言であろう。日本では、基地局アンテナが鉄塔型になっている場合は通常鉄柵による囲いがあり、またビルの屋上に設置される場合などは、その屋上への出入りが関係者しかできないように閉鎖もしくは施錠されている。
(6)消費者がよりよい選択ができるように、いろいろな携帯電話のSAR値を比較したデータが簡単に入手できるようにしなればならない。
 SAR値とはSpecific Absorption Rateの略で、単位質量の生体組織に単位時間に吸収される電磁波のエネルギー量を示す。携帯電話等、人体頭部のそばで使用する無線機器から出る電磁波については「局所SAR」を用い、任意の10g当たりの組織に6分間に吸収されるエネルギー量の平均値で表す。この値は携帯電話の機種により違う。2002年からは総務省によって電波防護指針に基づく局所SARの許容値(2W/kg)を満たすことが義務づけられている。電磁波の被曝量を低減する一つの方法は、SAR値のできるだけ小さな端末を選ぶことであろう。したがって、市販されている携帯電話のSAR値の全部を誰もが一覧できるようにすることが必要だが、日本でこれを現在行っているのは「ケータイ電磁波レポート」という個人運営のウェブサイト(http://ktai-denjiha.boo.jp/index.html)のみである。端末購入にあたって、すべての消費者にSAR値の説明と全機種一覧とが提供されるべきであろう。何ゆえ総務省もしくはメーカーの共同によってこの簡単なことがなされないのだろうか?
(7)たとえば子どもたちのような、電磁波に対する脆弱性が高いと想定されるグループに対しては被曝を最小限度にとどめるために、あるいは高周波に対する特に高い感受性を持つ人々が存在するかもしれないという点を考慮して、最善の対処をなすよう心がけねばならない。
 2000年の報告書で子どもに対する使用制限の勧告がなされたが、実際には現在英国では、たとえば10歳の子どもの約4分の1が携帯電話を持っている。これは2001年と比べると2倍に増えている。スチュワート氏は報告書のプレスリリースに際したインタビューに応えて(Guardian紙、2005年1月12日)、「10年前は英国内の携帯電話ユーザーは450万人だったのに対し、現在では5,000万人を越えており、携帯電話は便利な通信手段として広く日常生活に浸透している。しかしながら、だれもが利用しているからといって、健康への悪影響が潜んでいるかもしれないとの懸念を払拭できるわけではない」と述べ、ことに子どもについては次のようなかなり踏み込んだ発言をしている。「10代の子どもを持つ親なら、身の安全を守る対策として携帯電話を子どもに持たせたいと思うかもしれない。それは個々人の選択だ。でも携帯電話があるからといって常に身を守ることができるというものではない。ただ、(幼い子どもが電磁波被曝への感受性がより大きいと懸念されるので)子どもが3歳から8歳の場合、そのような理由で持たせることは、私はできないと思う。」「8歳から14歳はどうか。持たせるのなら両親はしっかりした根拠に基づいてそう判断しなければならないだろう。予防的対応をとり、(被曝量を抑えるために)通話はできるだけ控えてメール(テキストメッセージ)にしていくといったことも必要だろう。」
 英国の電磁波問題NPOのPowerwatchは、子どもが使用することに関してさらに厳しい対応を求めている。「若い人々はどうしても必要な時以外は携帯を使うべきでない。12歳未満は持つべきでない。12歳以上であっても通話は控え、メールを送る時も送信の瞬間は端末を身体からできるだけ離すべきだ。」「携帯電話を使っている若者たちが中年に達する頃に若年性の痴呆症になる者がたくさん出てくるのではないかと懸念している。以前は65歳以上にだけみられた病気だが、最近では40歳でそう診断される人も出ている。ルンド大学のサルフォード博士たちの研究【注】は、その可能性を示唆していると思う。」
【注】
 人で考えれば10代に相当する12~26週のラットを、携帯電話から放出されるものと同じ強さの電磁波に2時間ほど曝露させた。その結果、50日後にラット脳細胞の相当部分が死んでいるという事実を確認した。報告書は「数十年間、毎日携帯電話を使用し、中年になるころには集団的に脳疾患を起こす可能性も排除できない」という結論を下した。(米国立環境保健科学研究所「環境保健展望」2003年1月号)
 子どもに対する配慮は日本では最も欠落している部分だろう。何しろ子どもをターゲットにした携帯電話のCMがさかんに流されてきたわけであり、健康への悪影響を示唆する研究結果があるという事実そのものが公の場で取り上げられることは非常に稀である。必ずしも周知徹底しているわけではないが英国では、「携帯電話と健康」と名づけた保健省作成のリーフレットが配布され、16歳未満の子どもへの健康影響に関して「健康への悪影響があることの証明はなされていないが、未確定の部分が多く、できるだけ使用を控えるべきだという専門家の勧告もある」と明記されている。化学物質への胎児や子どもの感受性・脆弱性の問題が、今大きくクローズアップしてきており、リスクのとらえ方全体を見直す流れが生まれてきている中で(どよう便り第82号「胎児と子どもに焦点をあてた”環境と健康リスク”」参照)、「携帯電話は売れればそれでよし」とだんまりを決め込んでいるようにみえる日本の行政や企業の姿勢は、とうてい容認できるものではないだろう。
 この勧告でもう一つ注目されるのは、「高周波に対する特に高い感受性を持つ人々」に言及したことであろう。これはいわゆる電磁波過敏症の人々を指している。WHOは、昨年の10月25日~27日にプラハで「電磁波過敏症に関する国際ワークショップ」を開催し、この問題を国際的広がりを持つ未解明の重要な問題であると位置づけた。電磁波過敏症の人にしてみれば、現在の携帯電話電磁波が充満する環境は大変過ごしづらいものであろう。日本では、つい先日の『毎日新聞』1月13日付がほとんど初めてこの問題を取り上げ、自覚症状以外に診断基準を持ちえていない現状において、診断方法の確立の糸口を探る専門家の取り組みを紹介していた。少数ながら社会に厳然と存在する”電磁波弱者”の人々をどうとらえ、彼らの苦しみを軽減していくために何をなすべきか̶̶電気と電波への依存をますます強める私たちに根底的な見直しを迫る問題だけに、真摯に向き合うことから始めていかねばと思う。その意味でこの度の勧告は、具体的な示唆には欠けるものの、一歩の前進であろう。
WHOの「Precautionary Framework for Public Health Protection」(公衆の健康を守るための予防原則の枠組み)に対して、パブリック・コメントを送付しました。
 市民科学研究室電磁波プロジェクトは、以下のような趣旨のコメント(原文は英文)を1月14日付けでWHOに送付しました。WHOからは「受け取った」旨の返信が1月20日に届きました。
「極低周波の電磁波を0.4マイクロテスラ以上被曝する環境において小児白血病の発症率が2倍になる」ことを示す疫学研究が相次ぎ、国際がん研究機関は極低周波電磁波を”発がんの可能性あり”のランク2Bに位置づけました。WHOが予防原則の尊重を打ち出すのであれば、「発がんの可能性」の科学的根拠を明確にさせるよう指示すると同時に、暫定的に「0.4マイクロテスラ」もしくはそれ相当の基準値を採用すること(の検討)を各国に求めていくべきではないでしょうか。「安全性がより向上するなど他の面での利益をもたらすか、あるいはその地域の事情によって超低コストで対策をとり得るということがない限り、技術的な手段の変更を含むいかなる対策も正当化されるとは思えない」(25ページ)という見解では、安全対策として何もしないことが正当化される恐れがあります。たとえば高周波についてはザルツブルグ市などICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の基準値よりはるかに厳しい基準値を採用して都市がいくつもあり、そうした地域でなされているコストとベネフィットの比較衡量を精査してみるべきでしょう。具体的な算定例としてはカリフォルニア州でなされた「電源周波電磁界からの考えられる危険に直面してとられるべき政策選択肢」(Policy Options in the Face of Possible Risk from Power Frequency Electric and Magnetic Fields ,California EMF Program 2002 final report)などを参照することができます。WHOの役割は、各国政府や地方自治体が予防原則に立った具体的な安全対策を講じる際に利用可能な、一般的な検討枠組みを考案し提供することではないでしょうか。

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