携帯電話電磁波の危険性は”神話”ではない

投稿者: | 2009年5月1日

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携帯電話電磁波の危険性は”神話”ではない  上田昌文
『市民科学』第22号「携帯電話電磁波の危険性を警告する声が続々と」でお伝えしたように、これまで”十分な科学的根拠を持たない過剰な反応”ととられるきらいの強かった、携帯電磁波の健康リスクの問題が、ここ1年で風向きが変わり、科学と公衆衛生の両面にかかわる見過ごすことのできない重大な問題と指摘する声が大きくなってきた。これは、22号で解説した大規模疫学研究である「インターフォン研究」が、研究が終了して1年以上が経過しても総括の結論を出せないでいる事態を、ある意味では逆説的に反映していると言えるかもしれない。
というのも、第一に、インターフォン研究が定めた疫学研究の手法の設計(「研究デザイン」と言う)に無視できない不備があることが指摘され、その観点からみると、多くの国で得られた(現在までに公表された13本の論文のうちの11本での)「携帯電磁波曝露は脳腫瘍リスクの上昇をもたらしていない」という結論も、決してそう断定できるものではなさそうだ、と思えるからだ。また第二に、「10年以上の長期間使用」「ヘビーユーザー」といった電磁波曝露の大きなグループを絞り込みながらデータを解釈すると、リスクの上昇がかなりの確からしさで浮き彫りになってくるからである。
この二点をみすえて、インターフォン研究をはじめとするこれまでの携帯電話疫学研究を幅広くレビューし、さらに分子・細胞レベルの実験や動物実験で得られた知見も可能な限り統合して、総合的なリスク評価を行う仕事が大いに待たれている、と言えるだろう。
その期待に応えてくれそうな論文が、最近相次いで発表された。
一つは、Vini Khurana(ヴィニ・カラナ)医師による研究である(オーストラリアのキャンベラ病院の神経外科医、オーストラリア国立大学医学校准教授: 過去16年間に14の受賞歴があり、36以上の科学的論文を発表)。彼は、携帯電磁波と脳腫瘍の関連を警告するホームページを作り、2008年2月に総括的なレビュー報告「Mobile Phones and Brain Tumours – A Public Health Concern」(携帯電話と脳腫瘍 公衆衛生上の懸念)を公開した。これは14ヶ月をかけて100以上の文献を精査してまとめたもの。この69ページの報告は、おそらく携帯電磁波リスクに関する最もコンパクトで包括的なレビューになっているので一読をすすめたい。ここでは冒頭の「鍵となるメッセージ」のみを【要点】に訳出するに留めた。
もう一つは、Khuranaを筆頭著者にした共著論文「Cell phones and brain tumors: a review including the long-term epidemiologic data」(携帯電話と脳腫瘍:長期間の疫学データをお含むレビュー)で、専門誌『Surgical Neurology』に近々掲載予定のものだ。これまでの「10年以上の使用者」を調査対象に含む11件の疫学研究のメタ分析(過去の複数の研究を収集し、いろいろな角度からそれらを統合したり比較したりする分析研究法)を行ったもので、「10年もしくはそれ以上の携帯電話の恒常的な使用によって、端末をあてがちな側には脳腫瘍の発生するリスクが約2倍に高まる(神経膠腫と聴覚神経鞘腫については有意であり、髄膜腫ではそうでなかった)」との結論を引き出している。【要点】ではその結論に関連する表を抜き出し注釈を加えた。
さらに、上記論文の共著者であるMichael Kundi(ミヒャエル・クンディ:ウィーン医科大学環境健康研究所)が雑誌『Environmental Health Perspective』(vol.117,number 3, March 2009)に書いた「The Controversy about a Possible Relationship between Mobile Phone Use and Cancer」(携帯電話とガンとのあり得る相関に関する論争)という論文だ。これはインターフォン研究などのこれまでの疫学の不備やバイアスを再考し、33件の論文のレビューを行ったものだ。これについては【要点】で重要部分を解説した。
こうした仕事に接して私は次のようなことが必要だと痛感する。
第一に、10年という長期に及ぶユーザーが日本では今まさに現れ始めたところであるので、そうした人を対象に組み込んだ詳細な調査を行うべきだろう。その際に、個々人の暴露データを可能な限り正確に把握することが大切だが、従来の書面・面接・電話による回答という方法にとどまることなく、携帯事業者の協力を得て、通話時間・通話頻度のデータを活用すべきだろう。
第二に、将来、特に現在幼少期や学童期にあって携帯電話での通話が日常化している子どもたちには、まさに働き盛りに達した頃に深刻な脳腫瘍になる恐れが否定できない以上、携帯電磁波の暴露を少しでも減らすための指導や対策がただちにとられないといけない(『市民科学』22号で紹介したピッツバーグ大学ガン研究所の「10の予防的手段」が有用)。「携帯電電磁波は決して無害なものではない」という認識を社会に広めると同時に、ユーザーが自分の(累積の)暴露量を常に確認できるように告知していくシステムが必要だと思われる。
第三に、日本において電磁界の研究者、公衆衛生に関わる研究者や行政官、脳腫瘍の専門家らが、上記のKhunara博士やKundi博士らの仕事を無視しないことだ。総務省の「生体電磁環境研究推進委員会」は、一連の研究において「影響なし」との結論を引き出しているが、上記両博士らが提示した批判的な観点からすると、この委員会の研究から「危険はみられない」と結論付けることは到底無理である。加えて、この委員会のメンバー構成をみるなら、電波電気事業の推進組織の関係者が約3分の1も含まれていて、その中立性についても疑念を持たざるを得ないだろう。上記両博士らの研究をどうみるか、この委員会のメンバーもしくはその関係者も含めての公開の場での議論がなされるべきだと思われる。■

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