写図表あり
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ケータイ「統一ルール」に関するやりとりから社会を考える
川合 徹
関東地方(首都圏)の鉄道会社17社(当時)が、車内でのケータイ(携帯電話)の使用を緩和する方向での統一を行うと発表して実施したのが、2003年8月下旬から9月15日。そこから、私の今まで以上にケータイについて考え、行動する日々が始まった。その論理、行動の一端は他にも書いたが、非効率的にして、スローな活動のうちのさらなる部分を紹介しよう。以下の認識は、均一な調査によって得たものではないが、一市民が、1000人2000人を超えるくらいの人と話ややりとり(コミュニケーション)をして、身体で聴き取ったものではあると思う。
統一ルールの波及
さて、「優先席付近は終日電源オフ、それ以外の場所ではマナーモードに設定して通話はご遠慮ください」という統一ルール導入は、その内容、方法においてきわめて問題が多いと考えて、17社のうち半数くらいとは、電話、メール、本社や窓口へ直接訪問という方法の違いはあるにしても連絡を取り、質問や意見・抗議表明を行ってきた。また、それ以外の会社や、旅行・出張などで訪れた際に関東以外の会社・社員ともできるだけやりとりをするようこころがけている。少なくとも関東の場合、会社によって対応のよい悪いはあるが、統一ルールの問題点を指摘しても正対した答えがなかったり、責任を他へ転嫁したり、マナー問題にすりかえたり、これが導入された詳しい経緯を明らかにしないことなどはどの会社も同じである。総じては、「連帯責任無責任」の典型的なものである。また、統一ルールを導入することによって、ケータイに関して上記の文言以外は、何も言えなくなった会社が多い。ケータイの迷惑行為はホーム上でもあふれているし、車内でも多いのであるが、他の行為については、降りるときは声をかけましょう、足を出さないように、新聞を広げないように、荷物は前に持って…など、小さい子どもじゃあるまいしというようなことまで指摘してくれる日本の鉄道であるが、ケータイは野放しとなっている。
■写真 駅構内に貼られた東武鉄道のポスター
統一ルールは、もともとシミュレーションなどをまったく行っていない方式であるが、これがさらに増殖してしまうからたちが悪い。関西地方では2004年1月29日に発表、2月16日より20社において統一ルールが始まった。これが、関東の影響かどうかは聞き損ねているが、始まる前に、JR西日本と阪急、京阪には意見を伝え、問い合わせをした。阪急は、優先席がないこともあり車両によって電源オンとオフを分けるという独自路線をしているせいもあってか、応対は丁寧で聞く耳を持っている会社であった。一方、JR西日本には驚かされた。担当の部署は、こちらが関東の実情を話そうとしてもまったく耳をかさず、京阪が行っていたアンケート結果も無視、まさにケータイ緩和導入まっしぐらであった。これは、関東で一番対応の悪いJR東日本や東京メトロでもみられないほどの姿勢であった。
関東3県のバス会社は、多くが追随。何社かは、それまでの質問で、電車はできてもバスは(物理的に)無理などと言っていたのであるが、行ってしまうと都バスのようにあれは議会で予算を通さなくてはならないという意味であったなどと言い訳をする。電車でも、この方法は無理があると思われるのに、バスは窓が多く大きいということはあるが、空間は狭く、入り口から出口まで移動しなくてはならないのであるから、なおさら無理がある。京都市交通局のように、地下鉄は統一ルール、バスは禁止というのがまだ素直だといえる。東京バス協会に抗議してみると、経緯を教えてくれた。電車がやっているからよいだろうと思って行った。このために独自に調査などはまったくしていない。また、乗務員がケータイのクレームに対処するとき、使用させろ、使うなという双方あれば、前者のほうに対応しきれないと考え導入した面もある…。正直といえば正直なのであるが、何かなさけない。さらに追随はコミュニティバスにまで至る。東京都武蔵野市のように、使用はご遠慮の自治体もあるが、埼玉県朝霞市などのように統一ルールそのままのところもある。路線バスよりさらに車内空間が狭く、優先席付近なんてほとんど居場所がないものにまで無批判に導入されている思考回路停止状態である。
横浜市交通局は、関東の鉄道でほとんど唯一「すべてのお客様の安全と快適さを考え、ケータイ禁止」を選んでいるところであるが、神奈川県のバス協会の会合でも他社が統一に乗る中、横浜市営バスは別の方法でいきたいと堂々発言したという。また、関東3県のバスであっても細かく見ると、東武バスのように統一ルールに「混雑時電源オフ」をかぶせている会社もある。バスは、少しは減ってきたとは言われながら、医療機器使用者その他からかなりの数のクレームがくるような電車よりさらに庶民の乗り物の性格が強いので、すべて調査すると対応の種類は多様かもしれない。
組織として人間として
統一ルールが始まってしまってからは、本社の人と話す一方、改札や駅事務室に飛び込んだり、バスの運転手に終点で話しかけたり、現場の人とできる限り話をしている。対応はまちまちではあるが、今のやりかたに矛盾を感じている社員も少なくはないようである。また、結構身近に医療機器使用者などがいる人も多いこと、なかにはこれで鉄道(バス)には乗りにくくなったとこぼされて困っているという発言、車内のマナーがますます悪くなったこと、他の会社の批判、逆になぜあの路線はマナーがいいのにうちはだめなのか、とかいろいろな本音を聞くことができる。組織としての言動と働く生身の人間としての言動が分断されているように思えることもしばしばある。
JR東日本。ここは組織としてはもうぐちゃぐちゃのようである。本社のみならず、現場の人も平気でその場限りの対応をする。みんな余裕がない。Suica専用改札やホームに人がいないことなど、経費削減が前面に出て働く人や乗客に不安が広がっている。治安も悪い。ただ、ケータイ問題をとっても内部にこれではJRはいけないとする層もいるようで、もう議論の時期は終わった次の行動をせねばという認識も出ているようではある。
東京メトロ。ここは本社と現場の温度差が激しい。現場は多くは生真面目、誠実。しかし本社はそっけない。統一ルールの問題点を決して認めようとしないほとんど唯一の会社。営団の時代に公開していた内部文書をとったことがあるが、当時、ケータイをもっと使わせてほしいなどとする乗客の苦情は、意見が今より伝えにくかったことがあるにせよ、2002年7件、2003年2件程度しかなかったらしい。ここが、JR東日本のように経費削減、乗客・労働者をもの扱いすることにいかないかと危惧している。現在、PASMO導入に伴ってか、いくつかの駅で駅員がいる改札をわざわざ閉鎖して乗客を通れなくする本末転倒のことを行いだしたり、駅から駅員が減りだしたりしている気配もある。
東急。意見は異なっても対応は誠実。社員の質も高そうである。まだ中途半端ではあるとはいえ、ケータイ電源オフゾーンのある出入り口の問題に手をつけている会社はここだけと思える(駅員が出入り口付近でもケータイ操作を注意することがある)。
乗客と話して
2005年から、通勤で主に使っている東京メトロで調査を継続している。電源オフゾーンに乗って、その付近でケータイの電源を入れ操作している人のうち、自分が注意した人の数を記録するということである。2005年500人弱、2006年は900人強、2007年は3ヶ月で200人くらいである。声かけをしてのエピソードは、それこそ1冊の本が書けそうなほどいろいろあるが、ここでは総じての話だけ。印象だが、8割はそのままやめてくれる。1割は少し手間取る。0.5割は確信犯やかなり手間取る人、あとの0.5割は感謝や好意的な反応の人。これが契機で話し込んだり、討論会が始まったり、親しくなったり、けんかになったり、罵倒されたりと、コミュニケーションがあるのはプレッシャーに感じる半面、面白い。しかし、総体としてみると統一ルールの裏メッセージは、「どんな場所でもケータイの電源を入れたままにしましょう。通話はあまり好ましくはありませんが、どんなに混んでいても操作はいいですよ。狭い優先席付近のみ、操作をやめましょう」となっていると言わざるを得ない。これは果たして、もともと仕組まれたことなのか。この先、どのような社会を目指しているのだろうか。
最後に、今まで公にした文章をあげておく。
・「公共性を忘れた関東の鉄道会社、その対応、携帯電話の使用容認に抗議して」(『がうす通信63号』2003年10月)
・国民生活センター『たしかな目 2004年1月号』あがり目さがり目スペシャル(読者投稿欄)への投稿
・「ケータイ統一ルールを検証する」(『がうす通信81号』2006年10月)