【翻訳】 極端においこまれる:気候変動の健康への影響

投稿者: | 2007年5月3日

写図表あり
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極端においこまれる:気候変動の健康への影響
ジョン・ティベッツ
『環境健康展望』115巻4号・2007年4月
原文:Driven to Extremes: Health Effects of Climate Change by John Tibbetts
Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 4, April 2007
http://www.ehponline.org/members/2007/115-4/focus.html

翻訳:杉野実+上田昌文

◆本文写真(左から)
2003年、ポルトガル旱魃で山火事が頻発。1998年、カリブ海上のハリケーン・ミッチ。2006年、アラスカ・マージェリー氷河で分離。1998年、ハリケーン・ミッチがホンジュラスのラ・カルバを直撃。2000年、中国・湖北省の砂漠化。

 昨年は記録的な年であった。2006年にアメリカは、1895年以降最高の地表気温を記録した。昨年はまた、1995年以来11年ぶりに、気温の世界最高記録に入る年にもなった。昨年までの10年間には他にも気象上の極端な事件が多くあった。2003年には、苛烈な熱波のためヨーロッパでは少なくとも22000人が死亡した。1998年には、ハリケーン・ミッチが中央アメリカを襲い、6フィートの降水と大規模な地すべりを引き起こし、11000人の死者を出した。この暴風雨ののちホンジュラスでは、コレラ・マラリア・デング熱の発生が何千件も報告された。

 気候変動は、特定の気象災害の原因であるとは言えないが、世界中の気象を極端にして熱波・旱魃・集中豪雨・洪水を増やす、長期的な傾向を生みだしているとみられる。そういえば極度の低温現象、たとえば日中および夜間の低気温も世界中で少なくなっている。霜さえも減っているのだ。だが集中的な降水は、雨にせよ雪にせよ増えている。だから冬には吹雪にはなりやすいが、急激な寒さは起こりにくいといえる。

 今世紀中に、そのような気象上の事件がより頻繁になる可能性は90パーセント以上であり、世界的な海面上昇が加速し、氷床が減少する可能性も同じくらいある。それだけでなく、熱帯の台風・サイクロン・ハリケーンが将来、より大きな最大風速と降水量をともなう強力なものになり、また旱魃の被害をうける地域が広がる可能性も、66から90パーセントといわれている。すでに旱魃に見舞われている多くの半乾燥亜熱帯地域では、降水量が2100年までに20パーセントも減るかもしれない。その他の地域では、すでに降水はまれだが集中的になっており、洪水がより広範囲に渡るようになった。

 2007年2月2日に、『自然科学の基礎』と題する18ページの要約を、最初の評価報告として提出した、国連の気候変動政府間研究班(IPCC)は、以上のような結論を出している。6年か7年に1度刊行されるIPCCの主要な評価報告は、世界の科学界の合意事項を代表するものとして、多くの科学者により執筆されまた検討されている。第二作業班は評価の第二集『衝撃・適応および脆弱性』をまとめており、その要約は2007年4月6日に発表されることになっている。第三作業班による要約『気候変動の緩和』も2007年5月に刊行される。これらの本文も本年中には刊行されるであろう。

 2007年のIPCC評価報告では、2001年の報告に比べてさらに明確に、人類の活動が地球温暖化の原因であることを強調している。『自然科学の基礎』によると、二酸化炭素のような人工的温室効果ガスの排出が、自然の温暖化傾向を加速している可能性は90パーセント以上あるという。

 ハワイ・マウナロア観測所の二酸化炭素記録によると、大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命がはじまった1750年には280ppm程度であり、1958年にも315ppmほどであったのが、今日では380ppmに増加しているという。20世紀中に、地球の平均地表気温は摂氏0.6度上昇した。『自然科学の基礎』は、大気中の二酸化炭素濃度が現在水準の2倍に達するならば、21世紀中に1.7から4.4度という、地球気温のより急激な上昇を予測している。化石燃料の燃焼が相当に減少されないかぎり、二酸化炭素濃度の倍増は2050年以降に起こると、多くの気候学者が信じている。
 
 第一作業班は『自然科学の基礎』を編集するにあたり、世界中の研究を分析して高性能電算機による模擬実験を行い、二酸化炭素・メタンなど温室化ガスに、地球がこれまでどう反応してきてこれからどう反応するのかを試験した。「われわれには、(過去の行動により)気候を変化させた責任の一端があります。」と、国立大気研究センターの気候学者ジェラルド・A・ミール氏はいう。『自然科学の基礎』の気候予測の章を作成するにあたって氏は、23のことなるモデルをもちいた16の電算機研究集団による結果を評価した。人類活動、たとえば石炭火力発電所や自動車排気管から排出された二酸化炭素は、海洋や、あるいはもっとまれなことであるが、植物特に森林にたまたま吸収されたりする前に、数十年に渡って大気中に残留する。

 ウィスコンシン大学マディソン校と世界保健機構の科学者集団が『ネイチャー』2005年11月17日号に発表した論文によると、太平洋・インド洋沿岸の諸地域は、エルニーニョ南方変動(ENSO)に起因する、深刻な旱魃から強烈なモンスーンに至る、ますます劇的になる降水量の変動に直面するであろうという。太平洋を中心とする、この準通常的な気候の循環は、世界諸地域の天候を崩壊させる。地球温暖化はENSOを頻発させその強度を高めると、2003年の世界保健機構の報告『気候変化と人間健康-危険と対応』はいう。歴史的にみるとENSOのために、旱魃・洪水・暴風雨・山火事など極端な気象災害が増えている。エルニーニョが生じた年には通常、旱魃が惹起する災害が増加する。

極端な気候の副産物としての病気

 多くの地域ではすでに、降雨はまれであるが、激しいものになっている。『自然科学の基礎』によると、1900年から2005年までの間に、南北アメリカの東部を含む多くの地域で、降水量が相当に増加している。1970年代以降全世界で、とりわけ熱帯・亜熱帯で、旱魃はより苛烈で長期に渡るようになった。海面はより温暖になり、風向も変化した。海洋からの蒸発も増えている。このような過程は陸地の降水のあり方を変化させ、ある地域では湿度を増やし、他の地域ではそれを減らしている。

◆本文写真 http://www.ehponline.org/members/2007/115-4/pic1.jpg
ケニア高地科学者はカの幼虫をケニア高地で発見しているが、それは温度の上昇を示している。
山地は抵抗する:ケニアの診療所で、マラリア患者に薬剤を投与する看護師。気温上昇
によりカなど媒介者の分布が変化したため、病気が新たな集団に感染している。

 長期の旱魃に集中豪雨が続くと複数の病気が流行すると、内科医で、ハーバード大学医学部地球環境保健センター副所長のポール・E・エプスタイン氏はいう。氏は近く刊行予定のIPCC第二作業班報告の監修者でもある。

 旱魃のあいだに、水の入手可能性が減るだけでなく、たとえば人々が家畜と水を共有するために、水の質がしばしば悪化する。そこに集中豪雨があれば下水が溢れだし、雨水が農場・草地・街路の微生物を洗い流して、飲料水に混入させる。エプスタイン氏が共編した2005年11月の『気候変動の将来:生態学的・経済学的次元』によると、集中豪雨と胞子虫・鞭毛虫病のような水で伝染する病気との間に関連があることは、多数の研究によって示されている。

 水が再補給されればネズミの数が急増するので、旱魃につづいて洪水が起れば、ネズミが媒介する病気も流行する。『気候変動の将来』によると、気温の上昇と水の急増はまた、ライム病を媒介するダニを繁殖・拡散させうる。おそらく最もよく言及されているのは、強度の洪水が蚊の個体数拡大と関連しており、蚊が媒介するヒトの病気を流行させるということであろう。

 蚊と、マラリア・デング熱・ロス川ウイルス・西ナイルウイルスなどカが媒介する病気は、温度変化と陸地の海抜には特に敏感である。アフリカ・中南アメリカ・アジアの高地では、氷河が後退し、植物群落の分布が上昇し、カとカが媒介する病気がより高い標高で発見されていると、エプスタイン氏はいう。「山地でなにがおこっているのかは、はっきりしています。マラリアのような伝染病が山地で流行するための条件が、変化しているのです。」

 冬に暖かくなり、春に旱魃がおこると、ヒト・ウマ・鳥に感染する西ナイルウイルスの伝播が増幅されるらしい。『気候変動の将来』によると、温暖な気候に旱魃がつづくと、Culex pipiens という蚊のなかでの、西ナイルウイルスを含むウイルスの成熟が加速されるという。水地が縮小すると、カと感染した鳥が同一地に集中するようになり、それによりウイルス感染が促進される。世界保健機構の『2002年世界保健報告』によると、北アメリカにおいては、17000人以上の西ナイルウイルスの患者と、650人以上の同病による死者がみられたという。この病気は1999年夏までは北アメリカでは知られていなかった。

◆本文写真
海の生物に被害:2003年にチェサピーク湾で採集された、このように死んだ、あるいは死につつあるカキは、沿岸水域への病原体の拡散をしめしている。V. parahaemolyticus などの病原体は、ヒトだけでなく海産物の健康にとっても脅威である。
 

 一方、海中環境への感染因子(病原菌や寄生虫)の分布拡大もまた、気候変動に関連しているかもしれないと、エプスタイン氏は言う。デルモとMSXは、最近数十年のあいだに、チェサピーク湾から、デラウェア湾およびメインにまで、分布域を広げた。これらの寄生虫病は、カキの個体数をへらすが、ヒトの健康には影響しない。しかし、少なくともひとつのヒトの病原体、すなわちVibrio parahaemolyticus が分布域を広げている。この亜熱帯のコレラ類似細菌は、いまやアラスカに達しているのだ。2004年にアラスカの遊覧船の乗客が、その細菌に感染した現地のカキを食べ下痢で倒れている。

 この事件の以前には、アラスカの海産物にVibrio parahaemolyticus が検出されたことはなかったが、それというのも、そこの水はその細菌が生存するには冷たすぎるからであった。アラスカ公共保健局の内科医ジョセフ・B・マクラフリン氏と同僚は、『ニューイングランド医学雑誌』2005年10月6日号に、この「症例は、Vibrio parahaemolyticus による食中毒を起こしたと報告されたカキの北限を、1000キロメートルも引き上げた。海水温の上昇が、アメリカで最大とされる同菌による中毒事例に、寄与しているものとみられる。」と書いている。

◆本文図解
気候変動の悪影響気候変動に関する予備的報告は、たった数十年間で、何百万人もが飢餓状態になり、毎年何千万人もが故郷で洪水にあい、十億人が旱魃の被害をうけると警告している。高度に陽性/陽性/中立的/陰性/高度に陰性/情報なし気候変動の推測される影響アフリカ/アジア/ラテンアメリカ/オーストラリア・ニュージーランド/ヨーロッパ/北アメリカ/極地方/島嶼部水資源/海洋生態系/森林生態系/草地生態系/湖沼・河川・湿地/海岸生態系/野性動物/商業的農業/生存的農業/家畜/林業/海岸居住地/都市地域/熱ストレス/媒介者をともなう病気/エネルギー需要の増加/交通/建設業/観光 出所:気候変動に関する政府間研究班

 しかしながら気候変動は、海から感染する病気が高緯度に広がったことの、唯一あるいは最大の原因ではないかもしれないと、コネチカット州マイスティック港ウィリアムズ大学の海洋学科長、ジェームズ・T・カールトン氏は言う。貝類は水質の変化のために虚弱になっているのかもしれないし、あるいは貝類の敏感さが気候とは無関係の要因により変化しているのかもしれない。「これは気候が関係ないということではありません。」と氏は付け加える。「冬は温暖になっているし、海岸の水温も上がっています。低緯度の生物種が高緯度に移動しています。そういう傾向が世界中で見られるのです。」
温暖で乾燥

 過去50年にわたって「日中や夜間の暑さおよび熱波はますます頻繁になっている。」と、『自然科学の基礎』は報告している。この報告はさらに、気候変動により夏期の熱中症患者をふやすという傾向も、続くであろうとのべている。ウィスコンシン大学・世界保健機構の研究によると、気候変動に関連する熱波の増加は、特に都市中心部には脅威をもたらすであろうという。

 熱波はとりわけ、高齢者・貧困者その他、巨大都市部の脆弱な集団にとっては危険である。巨大都市には「ヒートアイランド」効果がある。コンクリートが密集して植物が欠如しているために、夏期の最高気温はしばしば周囲の農村部よりも高くなるのである。ウィスコンシン大学・世界保健機構の研究によると、おそらく過去500年間のヨーロッパでもっとも暑い時期であった、2003年夏の2週間で、約22000人から45000人が熱中症で死亡したという。ニューヨーク(1984年、99年)、フィラデルフィア(1991年、92年)およびシカゴ(1995年)の熱波でも、死者の増加がみられたと『気候変動の将来』は報告している。循環器・呼吸器病などの既往症患者、超高齢者、乳
幼児および虚弱者が、熱波に対してもっとも脆弱である。

◆本文写真
窒息する砂漠社会:エチオピアのヒツジ飼いが、家畜をつれて砂塵の中をいく。この地域の農村住民のほとんどは、年に2回ずつの雨期と乾期に依存している。しかし最近の東アフリカの厳しい旱魃により過放牧においこまれており、そのことがさらに土壌を不安定にしている。

 気温の上昇はまた都市地域における基底状態オゾンの量をも増加させている。対流圏オゾンは、自動車排気ガスから化学反応によって生じる。窒素酸化物と揮発性有機化合物とが特に温暖な天候下では急速に化合する。オゾンの高濃度と、心臓・肺疾患による死亡、あるいは喘息の発症とが、関連しているとした研究は多い。アメリカの大都市のなかには危険因子をもつ人々に対して、屋内に留まるようにとのスモッグ警報を、すでに発令しているところがある。

 『気候変動の将来』は、気候変動のもうひとつの潜在的な健康への影響、すなわちアレルゲンへの曝露についても言及している。二酸化炭素濃度が上昇し温暖化が進めば、強力な花粉アレルギーを起こすブタクサのような植物がよく生長する。『アレルギー喘息免疫学年報』2002年3月号に報告された研究によると、空気中の二酸化炭素濃度を2倍にして育成されたブタクサは、通常の大気中で育成されたものに比べて61パーセントも多くの花粉を生産したという。大気汚染とアレルゲン曝露の同時増加が、先進国と発展途上国の両方でみられる喘息流行のひとつの要因であると、この研究はいう。

 ウィスコンシン大学・世界保健機構の研究によると、サハラ以南アフリカのように、すでに旱魃常習となっている地域においては、他にも特別な危険があるという。サヘル地域・地中海沿岸・南部アフリカおよび南アジアの一部では、南北アメリカとは対照的に、1900年から2005年までの間に、降水量が減少する長期的な傾向がみられた。また『自然科学の基礎』によると、旱魃にみまわれる地域が拡大する可能性は、66から90パーセントにもなるという。

 ジョンズホプキンス大学ブルームベルク公衆衛生学部の公衆衛生内科医シンディ・パーカー氏は、気候変動が水の質や入手可能性に及ぼす影響を最も懸念している。「給水への危険が、私たちの最大の関心事にならねばなりません。」と氏はいう。「アメリカのほとんどの都市では、給水が非常に限られていて、定期的に旱魃が起きてきましたが、気候変動により旱魃がさらに頻繁になろうとしています。いま水不足と思われていない多くの地域が、将来旱魃に見舞われるかもしれません。」

 万年雪は冬を越えて持続する巨大な貯水池であるが、それが解けることによる損失により、アメリカの西部その他の地域での給水が悪影響を受けるであろうと、水の持続的な使用に関する研究計画「世界給水計画」の責任者、サンドラ・ポステル氏は言う。『自然科学の基礎』によると、世界のほとんどの地域での氷河や万年雪はすでに気候変動のために縮小し始めているし、その傾向はさらに続くことが見込まれる。「万年雪が小さくなることにより、ヒマラヤ・アルプス・アンデス・カスケード・シエラネバダ・ロッキーの各山脈に発する河川は影響を受けるでしょう。」とポステル氏は言う。

 そのような河川のほとんどは雪どけから水の多くを得ていると、氏は説明する。しかし気候がより温暖になれば、雪よりもむしろ雨での降水が多くなり、春の雪溶けはより早くより多くなる。「そのことにより雪溶け水に発する河川では洪水の危険が高まります。」と氏は言う。「そして夏になれば、それまでの歴史から期待されるのよりは少ない水流しか得られなくなりますが、でも夏は、灌漑や水力発電その他の用途により、より多くの水が必要とされる時期なのです。ですから農業用水や都市用水の供給不足が悪化するでしょうし、魚その他の淡水生物も夏の水流不足から被害を受けるでしょう。」

 サハラ以南アフリカと南アジアが水不足の影響をもっとも大きく受けることはほぼ間違いないと、ポステル氏は言う。「すでに旱魃常習である地域で旱魃がより多くなるのでしょうが、これは食糧安全保障に重大な結果をもたらします。」

 旱魃の長期化に加えて、すでに100か国以上およぶ問題になっている砂漠化がやってくると、国連環境計画はいう。2001年IPCC第二作業班報告の、アフリカに関する章の班長要約はこう説明する。「気候変動と砂漠化とは、土地劣化と降水量低下の因果循環によって、分かちがたく結びついている。気候変動は、気温・雨量・日射量・風速風向の空間的・時間的なあり方の変更を通じて、砂漠化を悪化させうる。砂漠化は反対に、撤去されまたは枯死した植物からの二酸化炭素の放出や、炭素封鎖の減少を通じて、二酸化炭素に起因する気候変動を悪化させうる。」2007年4月に刊行予定の第二作業班要旨報告では、砂漠化についてより多く取り上げられるであろう。
あるいは温暖で湿潤

 来世紀にかけて地球が温暖化するにつれ、それへの反応として世界の海面は上昇する。世界の気候がより温暖になれば、海洋の表層水もまた加熱される。温暖化がおこれば、海洋表層水は熱膨脹し、そのことにより海面が上昇する。同時に、陸上の氷河と氷床(50000平方キロメートル以上の巨大氷河)がとけつづけ、ますます多くの淡水が海洋に流入する。2100年までに海面は7から23インチ上昇するとIPCCは予測する。

 それでも海面の上昇ないし下降の程度は場所によって異なる。「相対海面水準」は、世界的な海面上昇と、複雑な自然的・人工的な要因による地域的・局地的変動とが、複合した結果である。世界的な海面上昇よりも大きな地域的上昇を起こしうる、地表面の沈没は、さまざまな過程を通じて起こると、合衆国地理調査所ウッズホール科学センターの海岸地理学者S・ジェフレス・ウィリアムズ氏は言う。その中には、厚い連続河川堆積物の収縮、地殻変動、地下水・石油・天然ガス等流体の集中的採取が含まれる。

◆本文写真:
瀬戸際の島国:ツバルの首都フナフティの不法占拠地区の住民が、大潮で海水が地面にのぼってきて洪水を起こしたときに、水の中を徒歩で渡っている。海面の上昇は、このような低標高の国には、現実の脅威をもたらしている。

 合衆国地理調査所国土評価の最近の海岸変動報告によると、前世紀のアメリカの海岸浸食の40から60パーセントは、海面の相対的上昇、暴風雨および人工的な改変によるものであるという。前世紀のあいだにアメリカ大西洋岸の相対海面はおよそ1フィート上昇した。この上昇のほぼ半分は全世界的な影響、特に気候変動によるものであり、あとの半分は沈没によるものであると、ウィリアムズ氏はいう。

 東海岸では多くの海浜が浸食されて、塩水湿地が消え、魚類その他野生生物の生息・育成地が減少している。「すでに海面上昇のために沈んでしまった海浜湿地がアメリカの東海岸にはあります。」と、海洋学者でサウスカロライナ大学ベル・W・バルッフ研究所所長であるジェームズ・T・モリス氏は言う。「湿地喪失の危険地区は、チェサピーク湾の一部など、いくつもあります。これから50年の間に、メキシコ湾と東海岸の両方で、湿地がゆっくりと失われていくでしょう。」

 海岸の三角州など標高が低くゆるやかに傾斜している土地では、相対海面が1フィートも上昇すれば、水面は何百フィートも内陸に移動し、海岸地はしずんでしまう。ウィリアムズ氏は過去20年にわたって調査をして、ルイジアナ南部の相対海面は前世紀中に約3フィート上昇し、いまだに上昇し続けていることを示した。その結果、ルイジアナ南部はメキシコ湾に向かって平均34平方マイルの土地を喪失しており、境界線上の島は毎年何百フィートも浸食されているという。

 ルイジアナの土地喪失は、来世紀にアメリカの東海岸で、相対海面の上昇によって起こりうることを予告していると、合衆国地理調査所海岸流域研究センターの海洋学者アビー・サレンジャー氏は言う。IPCCの予測による最高水準どおりに、2100年までに地球海面が2フィート上昇すれば、アメリカ大西洋岸のほとんどで、相対海面は2.5フィート上昇することになる。

 とはいうもののグリーンランドや南極の氷床が急速に溶けていることを考えると、IPCCによる2007年の海面上昇予測は、控えめでありすぎたのかもしれない。氷床は複雑な方法で変化しているが、それについてはよく記録されていない。陸上の氷床とその下の岩盤との間には、氷床の内部から端へと流れる「氷舌」がある。気候が温暖になると、この氷舌が氷床の端により速く流れるようになるが、そこでは氷の融解がますます盛んになり、淡水が海へと注がれることになる。この過程が氷床そのものを小さくしているらしい。だが科学者はまだ氷床の将来を予見できない。氷床変化のモデル化はまだ初期段階にある。それでIPCCの科学者は、「海面上昇の最善の推定や上限を提示することが」できないと、『自然科学の基礎』はいう。

◆本文写真
氷河がなくなる:1913年(上)と2005年(下)に撮影された写真は、モンタナ氷河国立公園のシェパード氷河が衰退していることを示している。氷床と雪溶けの変化は、世界各地の給水に影響を及ぼすであろう。(氷河国立公園公文書館のご厚意による。)

 海面上昇そのものが海岸地域社会に対する挑戦である。しかしこの問題には熱帯暴風雨からの挑戦もともなっている。1970年以来大西洋では強力なハリケーンが増えているが、そのことは熱帯海面温度の上昇と関連していると、IPCCは報告している。他の海域でも「強力なサイクロンの増加が示唆されている」が、「データの質に関して懸念もある」とIPCCはいう。

 だが相対海面がわずかに上昇しただけで、低標高の海岸地域に破壊的な洪水が起こるため、暴風雨の被害が急増しうるとモリス氏はいう。海岸海洋学者でノースカロライナ大学海洋科学研究所所長のリック・リューティック氏は、「海面が上昇するだけでなく、極端なできごとがそこに被さることが問題なのです。」という。今後数十年に渡って、熱帯暴風雨が強度を増すと同時に地球海面が上昇するならば、この組み合わせは、風水害常習の河川三角州や太洋上の諸島に暮らす多数の発展途上国の人々にとっては、破滅的なものとなるであろう。たとえば『自然災害の重要地:世界的危険の分析』と題された世界銀行の2005年3月29日の報告によると、バングラデシュの海岸地方の事実上すべての住民が、ガンジス川がベンガル湾に注ぐところの低標高の三角州に住んでいる。

 「救援も期待しがたい、標高が非常に低い世界中の海岸地域は、地球から消されてしまう危機に瀕しているのかもしれません。」とモリス氏はいう。「そしていまや、災害に直面しつつある人々は、かつてないほど多くなっています。」人口が100万から1000万の、世界の主要都市の3分の2は海岸付近にある。今日では世界の17の巨大都市、すなわち人口1000万人超の都市のうち14が海岸地域にある。国連人口局は、天津・イスタンブール・カイロ・ラゴスが2015年までに巨大都市になると予測している。このうちカイロを除くすべてが海岸にある。

挑戦に応じる

 気候変動に関連する環境・保健上の問題を緩和するためには、アメリカおよび世界のエネルギー供給において、再生産可能なエネルギー資源が主要な役割を演じなくてはならない。2007年1月の年頭教書でブッシュ大統領は、今後10年間にガソリンの消費量を20パーセント削減することが必要であるとした。大統領によるとこの目標は、部分的には新たな燃費基準を設定することで達成できるが、より本格的には、電気自動車やハイブリッド自動車、クリーンディーゼル自動車、バイオディーゼル燃料など、代替燃料や新技術にますます信頼をおくことにより、達成することができる。

◆本文図解
炭素を捕獲する・技術と理論
各国政府は、二酸化炭素を捕獲し、それを地底ないし水底に貯蔵すること、すなわち炭素
捕獲隔離とよばれる過程の研究を加速することを、催促されている。
二酸化炭素を石炭層に吸収させることができ、そうすれば浅い深度で貯蔵をすることがで
きるだけでなく、メタン回収も促進されうる。
深度2600フィート超の岩塩層または枯渇した油田・ガス田に注入。
主要排出源で捕獲され、炭素捕獲隔離用地に運搬される。
封印岩層は、気体が表層に散逸するのをふせぐために、封をつくる。
固定パイプラインまたは船舶を通じて、深度3300フィート超の海洋水に溶解させる。
海底上に「湖」を形成するために、洋上プラントから放出される。
出所:気候変動に関する政府間作業班

 大統領はまた、クリーン石炭技術、太陽光・風力エネルギーおよび原子力を用いて、アメリカの発電方法を変えることも必要であるとのべた。新技術の導入により「われわれは環境のよりよい支配人になることができ、また地球気候変動の重大な挑戦に対処することもできるようになります。」と、ブッシュ氏は言う。しかしブッシュ政権は、合衆国から排出される温室効果ガスの強制的な総量規制には反対している。
 
一方合衆国上院では、バーバラ・ボクサー議院が、2050年までに炭素排出量を2000年水準の80パーセント増にまでへらすことをめざす、地球温暖化汚染削減法案を提出した。ヒラリー・クリントン、ジョン・マッケイン、バラック・オバマの各議員は、二酸化炭素排出量の強制的な上限と、排出権取引の仕組みを設けることをめざす最初の主要な法律となるべき、2007年の気候管理革新法案を提出している。この法案に従えば、2050年までにアメリカの排出量を、2000年水準の3分の2増にまで、減らすことができる。

◆本文写真
種は適応し始めた:写真中央は、2007年2月の代替自動車実演で、リチウム蓄電池を動力とするハイブリッド自動車についてまなぶ大統領。急速に変動する気候の挑戦に応えるには、世界の指導者の才覚と忍耐および強固な意志が必要とされる。

 2005年にはカリフォルニア州のアーノルド・シュワルツネッガー知事が、温室効果ガスの排出量を、2050年までに1990年水準の80パーセント減にまで削減することを要求する通達を発令した。2006年に同知事は、州の温室効果ガス排出を2020年までに1990年水準にまで削減することを要求する、地球温暖解決法案に署名した。この削減は、産業界向けの排出権取引と、複数の規制の両者によりなされることになる。2007年1月に同州政府は、最初のそのような規制を実施し、2020年までに製品からの二酸化炭素排出を10パーセント削減することを、石油その他の燃料の製造者に要求した。

 カリフォルニアの努力は、「可能であることを示す強力な実演」になりうると、ミール氏はいう。(同州の政策の詳細については、「環境:カリフォルニアが先頭に」『環境健康展望』115号A144-147ページ(2007年)を参照されたい。)旱魃・浸食・砂漠化・森林破壊など、気候変動に関連する問題からのがれようとする「環境難民」の大規模な移動を避けるためには、おそらく国際社会は2020年までに、温室効果ガスの排出量を現在水準の20パーセント減にまで抑えなくてはならないであろうと、氏はいう。そして2100年までに排出量は、現在水準の80パーセント減にまで、減らされなくてはならない。

 2005年のIPCC報告『二酸化炭素の捕獲と貯蔵』によると、二酸化炭素の主要な発生源には、石炭電力・天然ガス・人工水素・合成燃料などを生産する、大規模な化石燃料施設がふくまれる。これらあるいはその他の源泉から排出された二酸化炭素を、捕獲して地下の地学的な貯蔵庫に貯蔵して、気候変動の深刻さを緩和することも出来る。二酸化炭素捕獲貯蔵(CCS)技術は既に、肥料製造・水素生産・天然ガスか高産業において広範に使用されている。だが捕獲技術が改良されたとして、それは変化をおこすのに十分間に合うように利用出来るのであろうか。

 捕獲プラントで加工された二酸化炭素の85から95パーセントは地下に隔離される。しかし、地層(たとえば枯渇した石炭層)あるいは海洋貯蔵庫(深海底)に連結されたCCS装置を装着された発電所は、同出力でCCS装置のない発電所にくらべて、40から60パーセントも余計なエネルギーを、二酸化炭素の処理のために必要とする。

 石炭はあらゆる化石燃料の中で、単位エネルギー当たり最大量の二酸化炭素を排出するので、石炭火力発電所において炭素隔離のよりよい技術を開発することは、特に重要である。今日では世界の炭素排出の約40パーセントは石炭によるものである。石炭は比較的に安価で豊富である。英国石油社の報告『世界エネルギー統計報告2006年版』によると、世界のエネルギー生産の25パーセントは石炭によっている。将来においては、バイオマス・風力・太陽光・原子力等の代替エネルギー源が、より入手容易で効率的になりうる。しかし現在世界の石炭埋蔵量の75パーセントを占める5か国、すなわちアメリカ・ロシア・中国・インド・オーストラリアは、おそらく今後数十年にわたって発電を石炭に依存し続けるであろうと、英国石油社の報告はいう。

 石炭火力発電所で二酸化炭素を捕獲するためには、石炭は化学処理ないし気化されなくてはならない。いずれの過程も、追加的なエネルギーを供給し、発電所の費用を最大50パーセントも増加させうる。処理された二酸化炭素は、圧縮・運搬され、地下深くに押し込められなければならない。炭素貯蔵の余地が地下には十分にあることが、諸研究により示唆されているが、炭素の漏出が起こるかどうかを示すデータはほとんどない。二酸化炭素は空気よりも重い。二酸化炭素の巨大なかたまりが地表近くに留まり、空気から酸素をうばって窒息の危険をもたらすこともありうると、ミシガン大学の地学者ザン・ヨウシェ氏が『環境科学技術』2005年10月1日号に発表した研究はいう。

 隔離の可能性を研究するための、環境局に支援された地域共同計画その他、炭素捕獲のとりくみはいくつか進められている。すべての二酸化炭素を捕獲し貯蔵する無排出石炭気化プラントの建設を目指す、環境局の計画「フューチャー・ジェン」は、2003年にブッシュ大統領の主導により開始された。しかしこのプラントが立地する場所はまだみつかっていない。エクセル・エネルギー社もまた、貯蔵つき石炭気化プラントを建設しようとしている。

 IPCCの2007年評価報告が公表されたことにより、人工的に生成された温室効果ガスが、地球の自然的な気候変動を悪化させており、また将来も悪化させるであろうことについて、世界の数百人の指導的な科学者の意見が一致したことが示された。科学者らはさらに、気候変動の危険な影響がすでに世界各地で明確になっており、これからも自然災害を増やしながらさらに極端になっていくであろうということをも、確信をもって予報している。

 IPCC評価は気候変動科学のもっとも包括的な再評価として認められているので、その2007年の報告は、たとえば第一段階が2012年に終了する京都議定書を継承する、新たな温室ガス排出の目標に関する交渉を支援することによって、国内・国際政治に確実に影響するであろう。しかし気候変動の潜在的影響の多くは未知であり、時間がたたなければはっきりしない。パーカー氏はいう。「たとえば清浄な水や空気の供給のような、生態系によるサービスの多くが、われわれがまだ理解していない方法を通じて、気候変動によって悪化させられるであろうことは確かです。ですから、驚くべきことがあるにちがいありません。」■

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