生活で使う水の本当の話 ” 健康に良い水の虚実”

投稿者: | 2004年1月4日

市民科学研究室+東京理科大学生涯学習センター 共催
講演:天羽優子さん (山形大学理学部物質生命化学科助教授)
pdf版はwatersoil_010.pdf
日常生活で使う水の本当の話 
 天羽と申します。このようなお話をする機会を与えて下さってありがとうございます。水と土を知る講座で、水の一番基礎的な話をするということで、今日は、主に日常生活で使う水の本当のところを御紹介いたします。内容としては、水というものが物質としてどういうものかということと、最近話題になっている浄水器とか活水器の宣伝が、水の科学から見てどうかということです。今日の講演のタイトルにも「健康に良い水」と入れましたが、これをうたっている宣伝文句が水の科学から見た時に、おかしなことが多いのです。どこがおかしいか判断するには、まず、水について正しい知識を持っていただくことが大事ですから、その話をします。水について知っていただいた後で、主に新聞広告とか雑誌、本なんかで出てくる水の話が、本当のところはどうなのかということについて話をします。
健康によいとされている水にはどんなものがあるのか? 
 まず、健康によいという宣伝で、新聞、雑誌などの広告に出てくるものに、どういうものがあるか、大きく分類してみます。
まずは塩素を取り除く、一般的な浄水器があります。これは、化学的な処理をしているものということになります。次に天然のミネラルウォーターがあります。人工的なミネラルウォーターとして、塩素を浄水器で取り除いた後で、何らかのミネラルを添加して、味を変えるということをしているものもあります。これも物質を入れているので、化学的な処理です。
最近特にはやっているのは、電気分解した水です。これも化学処理の範囲に入るんですけれども、アルカリイオン水とか電解水と呼ばれています。電気分解した時にできる弱アルカリ性の水のことです。電気分解で作る別の水に、強酸性水というものがありまして、これは酸性が非常に強く、殺菌作用があるものですから、病院等で使われています。食塩水を電気分解することで次亜塩素酸という物質を作って、その作用で殺菌をするものです。
今回の発表では順番が後になるほど怪しくなってくるのですが、磁場をかけた水、これも大流行しています。もとは、錆びた水道管に磁石をつけると錆がとれて、赤水がきれいな水になるという話です。磁気調整水とか磁化水とか磁気活性水というもので、水の性質を変えようとしているようです。天領水、これも広告で出てきて、店頭でペットボトルで販売されている、天然のものです(日田天領水)。アルカリイオン水や還元水とセットにして語られることが多いのですが、普通のミネラルウォーターの一種です。それから、以下のものは完全にインチキで、πウォーター、電子水、創世水、荷電水などが出てきています。
2002年11月下旬に、教団アレフ(元オウム真理教)が、「単分子水」を作るという浄水器を出して摘発されたという話もあります。この「単分子水」が出てくるということには背景があって、次に話しますクラスター(塊、集合体)の小さい水というもののいきついた先が単分子水だと思われます。
「健康に良い水」のキーワード 
 次に宣伝上のキーワードを並べてみます。まずは「クラスターの小さい水がよい」というのが、ひとつの俗説としてあります。遠赤外線効果で活性化しますよといって、わけのわからないセラミックを装置内に仕込んでいるものもたくさんあります。それから、活性水素が含まれた水がよいという話を、最近、九州大農学部の白畑教授が言い始めまして、活性酸素を減らすためによいとされています。これは活性水素の話にかなり近いんですが、林秀光医学博士が、「抗酸化水がいいんだ、だからアルカリイオン水がいいんだ」と言っています。水処理の企業は「水を活性化するとよい、だから体にいい」ということを主張しています。こういうものが、1つの水の説明にもっともらしく並んでいます。しかし実は、これらの項目というのは相互に全く無関係ですし、因果関係があるのかと言うと、はっきりしないというのが実際のところです。さらに、液体の水のクラスターというのはそもそも測定できない量であるという問題点があります。今までに紹介してきたのは宣伝に出て来る俗説なのですけれども、これを順番にサイエンスの観点から考えてみたいと思います。
「健康に良い」とは何か? 
 そもそも、健康によい水の「健康にいい」とはどういうことか考えなければなりません。健康について、これはWHOの健康の定義からそのまま引っ張ってきたのですが、単に肉体的によい状態や病気でない状態であるだけではないとしています。そうすると、逆に、「健康に悪い水」というのは非常にわかりやすいと思うのです。例えば、病原体が含まれていて、飲むと体を壊す可能性がある水は明らかに健康に悪い水であるといえます。また、有害な汚染物、毒物が含まれている水が、体に悪い水であることは、誰が考えてもはっきりしています。
 ところが、これが「健康に良い水」となると途端に難しくなるんですね。というのは、飲んでも病気にならないということであれば、きれいな水であればよいわけです。本来、水は微量ならたいていのものを溶かしたりするのですが、水自身は水分子の形で体の中をめぐっていまして、ものを溶かして運ぶ働きをしています。体内には、脂質など、水が溶かさないものもあります。溶かすものと溶かさないものが両方あって機能しているのです。有害物質や菌を含まない水は「体にいい」かどうかはともかく、「安全な水」であるということになります。水を摂ることは必要なのだけれども、水は薬ではないですから、それ以上の作用をする、すなわち病気を直したりするためのものではないです。病気や精神状態を改善する作用が水そのものにあるかというと、薬としての効果はない、でも足りないと不調をきたすから、適度にとっていればよいというだけの話になってしまいます。ところが、水に対して+αの価値を求める人が多くて、そこから話がおかしくなっているというように見えます。
「クラスターが小さい水がいい」の起源 
 まず、いろいろな浄水器に出てくる、「クラスターが小さい水がいい」という話がどこからやってきたのか。いろいろなメーカーさんの宣伝を見ていますと、磁石やフィルターで処理した結果クラスターの小さい水になったと称して、NMR(核磁気共鳴)測定の結果が出てきます。NMRという方法がクラスターの測定法だとされているのです。NMRで酸素の同位体の信号をとりますと、ある線幅を持ったピークが出てきます。線幅を見て、クラスターが大きい、小さいという議論をしているわけですが、実はこれは完全に誤解です。NMRの測定というのは、強磁場をかけておいてラジオ波を当てて測定するものです。ものを見ようと思ったら、見たいものの大きさよりも波長の短い電磁波をつかわないとだめなのですが、ラジオ波の波長は水分子の大きさに比べて何桁も長いのです。水分子の空間的な情報というのはNMRでは何もわからないのです(注:蛋白質など分子内の原子位置が固定されているものについては、NMR測定から数値的に矛盾しない構造を計算するということが行われています。水分子は、お互いに動き回っているので、この方法を使うことができません)。
 にもかかわらず、この線幅がクラスターの大きさを反映していると言い出した人がいて、誰も検証しないまま広まってしまったとのです。では、もともとどこから来たのかというと、日本電子という分析装置のメーカの元技術者だった松下氏が、日本電子在職中の1989 年に『現代化学』という雑誌で発表したのが始まりです。その内容は、熟成したお酒は味がまろやかで、熟成したお酒のNMRの線幅をはかってみると、小さくなっているという実験結果を出しまして、酒がまろやかになることと線幅が小さいことには関係があると考えた。そして、まろやかになっているときは、ミクロに見たときは水とアルコールが均一に混じっているに違いないので、つまりは水やアルコールのクラスターが小さいだろうと述べました。この話が、水だけの場合にまで使われるようになったのです。 
 松下氏の報文をもとにして、浄水器、活水器の業者が自社の製品を宣伝するために、皆NMRの測定をいろんな測定センターに持ち込むようになりました。実際に製品のカタログにNMRの測定結果が出ている場合もあります。NMRの測定装置は、実はかなり大きく、超電導のマグネットの大きいものを入れて、コンピューターで測定するという装置です。今なら1台買うとなると、1億円以上します。電磁石に液体ヘリウムや窒素を使い続けなければならないので、ランニングコストもかかる。ですから、分析センターなどに測定依頼すると、1検体20万~30万円かかります。潤沢な開発費用を用意しにくい中小企業が、何の意味もない測定にお金を使うという、困ったことになっています。財力のある大企業では、NMRの測定器を買ってしまったという話もあります。装置を買ってから、実はNMRでクラスターの大きさがわかるというのは間違いだと気づいて、これは使えない、ということになりました。その装置は、近くの貧乏大学の先生が借りに来て、「松下さんには使わせてもらって、非常に助かります」と言って喜んでいる、という話です。
「クラスターの小さい水がいい」は誤り
 
 実は、170のNMRの線幅は中性付近でpHによって大きく変わるという性質があります。飲料水のpHの基準は、中性付近(5.6-8.2)です。飲料に適した水をNMR で測定するということは、中性付近のpHを測定していることと同じことですから、結果がばらつくのは当たり前だという結論になります。また、水は単純な H2O液体なのですけれども、純水を作ったとしても、空気中の炭酸ガスがすぐに溶けこみます。すると、pHは酸性側に傾きますから、NMRの線幅は大きく変わります。高いお金を出してNMRを測定しても、2-3万円で買えるメーターを使って正確にpHをはかっていることとあまり変わらないわけです。
 液体の中の分子の相互の空間的な位置関係の情報がほしいときは、X線とか中性子線などを使えば、分子がどのような位置にあって、隣の分子とは何Å 離れているかという情報を得ることができます。波長が分子のサイズなので見えるわけです。測定結果を「動径分布関数」というものであらわすと、「お隣さんはどこですか」というグラフを書くことができるのですが、それで初めて空間情報を得ることができます。ですが、NMRの測定をやっても空間の配置はわからないし、当然、クラスターの配置もわからない。X線とか中性子線を使うと、お隣さんとか向こう3軒くらいまでの分子のだいたいの場所はわかるのですが、クラスターのサイズのようなものがわかるかというとこのような測定を使ってもわからない。
 クラスターの絵として、水素結合で水分子がつながっているのを、線で囲ったりします。ところが、クラスターを水分子のまとまりとして定義していいかどうかもはっきりしません。水は液体ですから、熱由来で分子が動き回っています。動き回っているので、長時間、空間的に安定な構造を保って存在することはありません。ですから、ある瞬間のスナップショットのような写真を撮って、水素結合のつながっている場所を数えれば、その瞬間についてだけ水素結合のつながりがどうだ、といえるのですが、次の瞬間には、水分子同士のつながりというのは切れてしまって、また組み変わるということが起こっているので、こんな動き回っているもののまとまりをどのように定義すればよいかわからないのです。液体の水のクラスターというものを定義もできない、測定する方法もないのに、クラスターの小さい水が健康によい水だという話がまかりとおっているのは困ったことです。
17O-NMR の線幅とpH 
 
 図1は、『水の分子工学』(上平恒、講談社)から孫引きしてきた図なのですが、17O-NMRとpHの関係です。このグラフをご覧下さい。飲料水はちょうどこのピークの範囲に入ります。これはNMRのスペクトルそのものではなく、線幅とpHの関係を示したものです。pHが少しずれると、酸性側でもアルカリ性側でも、線幅が大きく変わるということが実験によって示されています。実験では、塩酸と水酸化ナトリウムを少しずつ加えてpHを変化させています。加えた量がとても少ないので、水分子の動きには影響を与えていません。このことは、T1緩和時間が全然変わらないということからわかります。炭酸ガスを吹き込む量を変えて中性付近でpHを変化させても、線幅とpHの関係は同じようになることがわかっています。
 
 つまり、17Oの線幅はpHの指標に過ぎないのです。T1の方は、核スピンが作る磁化がどのように時間的に変化するかという指標になります。分子運動を反映するのはT2ではなくT1の方です。クラスターが小さくなったといって17Oの線幅を出しているときに、T1の方は全然変わっていないのです。
水の沸点と融点 
 
 私の前に発表された桃原さんのお話の中で、水の表面張力が大きいとか、水の蒸発熱が大きいといった話がありましたが、水の水素結合によって出てきます。アルコールなどの他の液体に比べ、水の分子間の水素結合は非常に強いということがわかっておりまして、どっち向きに水素結合したがるかということと、分子間の水素結合が非常に強いということ、その2つによって、水の重要な性質が出てきています。地球が温暖であるのも、生物が住める環境に保っているのも、水分子同士の結合が非常に強いということから来ています。
 その一つの例が、この水の沸点と融点のグラフですね(図2)。これは、罫線で囲ったところがH2Oで、図の真中より少し上が0度です。図の上のほうが100度、図の下のほう向かって-100、-200度となるわけですけれども、同属の元素の水素化合物の沸点と融点もグラフにしたものです。水の沸点と融点が異常に高いことがわかります。沸騰させて蒸発させて気体にするためには、分子間で引き合っている力に打ち切るほどの熱を加えて、初めて蒸発するわけですから、分子間の結合が強くなれば、沸点は高くなります。この温度範囲で水液体でいてくれるから生物が生きていけるのです。巷でいわれている「クラスターが小さい水」の絵では、分子間の水素結合がかなり減っているように描かれています。そのような状態で安定している水が存在したならば、おそらく -100度付近で氷になって、-30度付近で蒸発してしまう水になり、生物などは絶対に生存できないということになります。ですから、クラスターの小さい水はよい水だというのは二重の意味で大うそです。どんな操作を施しても、不純物の影響はありますが、大体0度で凍って、100度で沸騰しているのであれば、水分子の水素結合は、全く変わっていないと考えて下さい。
水のM D(分子動力学)計算 
 
 名古屋大学の大峰研究室で行なわれた水のMD(分子動力学)計算と動画をウェッブで見ることができます。水分子は分子間が水素結合で結ばれているのですがときどきこの水素結合ができたり切れたりして、3次元のネットワークのように動いています。このように水素結合が部分的に保たれている時間は大体10のマイナス11乗から12乗くらいです。ピコ秒以上の時間にわたって、水は安定した空間配置を保てません。この計算結果をみると、水のクラスターが小さくなったとか、水分子がばらばらになったといった話はウソで、むしろ水はネットワーク性が非常に強いものだということがわかります。 
 
 ものが溶けるときは、このネットワークの中に水以外の物質が入ってきます。大きな分子やイオンが入ってきたら、ネットワーク構造の一部を壊して、水が物質を取り囲んで再度配置を変えます。このとき、酸素側の電荷は-で、水素側は+ですから、物質が電荷を持っていればうまく引き合って水がまわりを取り囲む感じになります。水を研究している人達は大体こういうイメージで水をみています。以上が、水のクラスターというのはおかしいということと、水はこういうクラスターのものなのですよ、ということでした。
遠赤外線とは何か? 
次は遠赤外線の話に移ります。遠赤外線と言うのは宣伝のキーワードとして良く出てきます。医療品や食品加工でも、水処理でも遠赤外線効果がうたわれています。遠赤外線協会という業界団体がありまして、そこの定義をみると、波長が3-3000ミクロンメートルの電磁波であるとされています。分光学の立場からみると、この範囲には、赤外線も近赤外線も含まれています。さらに、遠赤外線協会のウェブページでは、「何らかの手段で高温に熱したものや常温のもの、それらの表面から多かれ少なかれ、電磁波の形で熱エネルギーが放出されている」となっています。そのものが遠赤外線を放出しやすければ、他の波長に比べて遠赤外線がたくさんでてくるでしょうけど、それも物質の温度によって変わってしまう。温度が高ければ、波長の短い輻射が出てくるということです。遠赤外線協会はちゃんとこのことも言っていて、「遠赤外線は、加熱したその物の分子や格子を振動させ、熱を発生させる」としています。この記述は正しいのですが、ただ、どうして遠赤外線というのかよくわからない。書かれているのは、普通の赤外線の性質なのです。
なぜ、わざわざ「遠」をつける? 赤外線より波長が短ければ、ビューワーという装置を使って出てるかどうかを目で見ることができます。遠赤外線は赤外線より波長が長いので、見る装置はありません。遠赤外線協会が決めた遠赤外線の範囲はこの矢印のところなので、遠赤外線協会の定義では遠赤外線も赤外線も近赤外線も含まれています(図3)。
だから、わざわざ「遠」とつけないで普通に「赤外線」と言えばいいのではないかというのが私の意見です。実際、遠赤外線効果のある下着の測定例ではサーモグラフという装置を使っていますが、この装置は赤外線を検出しています。
「宣伝の遠赤外線=赤外線」である 
宣伝でもよく遠赤外線で水を活性化なんて話が良く出てきますが、まず、宣伝で言っている遠赤外線は赤外線のことだと考えて下さい。じゃあ、赤外線が水に当たると何が起こるかと言うと、単に水に吸収されて温度が上がってお湯になるだけです。活性化などという意味不明のことは起こりません。もっと波長の長いもの、マイクロ波くらいになってくると、分子間の衝突や、分子による吸収で、やはり温度が上がりますが、これは電子レンジの原理です。図4の2本の線のうち、低い周波数のところで高いピークをつくり、全体で3つのピークを作っているグラフで示したのが水の赤外吸収のスペクトルです。横軸が見なれないセンチメートルインバース(-cm)という単位でして、これは電磁波の周波数を光の速度で割り算した値です。赤外線の領域になると、周波数がとても高く、10の 12乗くらいになるので、そのまま書くとわかりにくいから、この単位を使うことが習慣となっています。このグラフの横軸の領域は赤外です。水分子はH2O の形を持っていて、104.5 度開いているのですが、水分子内の酸素と水素の振動による吸収スペクトルはここに出ています。偏角振動と伸縮振動といったものが出ています。
 遠赤外線協会の定義である、赤外線も含んだ電磁波を当てると何が起こるかと言うと、吸収のピークになるところで電磁波を吸収します。電磁波を吸収すると、最終的には熱になります。これは全て分子内の振動なのですが、ある振動に対して電磁波をあてて叩いた時に、一時的にはその振動がエネルギーを吸収することがあるのですが、必ず最後には熱に変わってしまいますから、結局温度が上がるだけです。本来の遠赤外線と言っているのは、この辺ですね。ここからミリ波、マイクロ波などにつながる非常に大きなブロードな吸収があります。
 吸収の低周波数の裾野のところで電磁波を吸収させるのが電子レンジです。遠赤外線は、水の誘電損失のピークのちょうど反対側の裾野のあたりです。このあたりを電磁波でたたいても、やはり最後に温度が上がるだけで、電子レンジによる加熱とかわりません。一方、分子の内部の振動というのは赤外領域で、 O とかH の振動は、1600 cm-1 とか3500cm-1のところに出ているというわけです。
 ちなみに水が青い理由というのもこれで説明ができまして、この3500cm-1のピークは赤外領域なのですが、OHの振動の吸収というのは非常に大きいです。その倍音とか、他の振動数との結合音にあたる振動もありまして、それがちょうど赤色光の電磁波の振動数と同じになります。このため、普通の水は、白色光のなかの赤色の成分を吸収することができます。吸収は非常にわずかなので、コップに入れた程度ではわかりませんが、2mくらいのセルをつくってやって、セル越しに見るとブルーに見えてくるというわけです。海が青く見えるのはこの倍音や結合音による吸収があるためです。H2Oのかわりに、D2Oという、水素同位体(二重水素)の水をつくってやると、水素原子の質量が約2倍になりますから、もとのOH伸縮振動などが軒並みH2Oより低い所に出ます。その倍音や結合音は赤色に届きませんから、D2Oを長さ2mの容器に入れてのぞいてみても。青色には見えません。水が青色に見えるのも分子の振動によるものであるということで、このように説明がついています。
遠赤外領域での電磁波の吸収
 参考までに、本当の遠赤外領域の電磁波の吸収はどうなるのかというと、図5は、この二つの論文から引いてきたデータなのですが、複素誘電率の虚部で、ピークが25GHzにあります。これに角振動数ωをかけたものが吸収係数になります。吸収のピークの高い方が、さきほどのグラフの一番左側の大きなピークにつながっていく部分です。電子レンジのマイクロ波の周波数はこの裾野のあたりにあります。では、このピークがなぜ出てくるのかというと、先ほどの分子動力学(名古屋大、大峰研究室による)のシミュレーションでからわかります。個々の水分子は熱揺らぎがあっていつもふらふら動いていますから、ある部分から一気にバタバタと水素結合が偶然切れるようなことがおきて、そうすると、水分子が20個くらい位置を、がさっと変えるような、そういうような動きがたまに起きます。そういう動きが起きる時間間隔の逆数が、25GHzに対応しているのです。この裾野を叩いているのが電子レンジということになります。よく電子レンジの原理として、水分子に振動を与えて、という解説がなされることがありますが、そうではない、ということを知っておいてください。
 こういうふうに考えていくと、遠赤外線処理で水を活性化するということはウソだよ、という結論に達するのです。
遠赤外線処理は詐欺
 それから、「浄水器や活水器で遠赤外線処理をしました」は、99%以上、まず詐欺です。理由は、ヒーターが入っていないからです。ヒーターが入っていないので、本来はヒーターの材料に使うようなセラミックスを持ってきて、加熱も何もしないで、遠赤外線が出てきていると主張しているのですが、そんなことはない。正確に言うと、ある温度であれば、赤外線も遠赤外線も出ているのですが、ある効果を期待することは間違っている。というのは、例えばそういうものを浄水器の中に入れたとしても、水の熱容量は非常に大きいですから、水を流したら、浄水器の温度はそのときの水温にほぼ等しくなってしまいます。等しくなってしまうと何が起こるかというと、ある温度の物質は、私たちの体もそうですし、水もそうですし、全部、赤外線も遠赤外線も出しています。水も、自称遠赤外線発生装置も遠赤外線を出して、お互いに平衡になってからは、どちらかがもう一方に遠赤外線を浴びせるという効果は全く期待できないということになります。
 ですから、水温と同じ遠赤外線発生のセラミックスを持ってきたとしても、別にそれが特に機能を発揮しているわけではありません。ですから、浄水器に仕込まれている遠赤外処理というのはほとんど勘違いと思い込みによるものです。100℃以下の物体から出てくる赤外線の効果は無視してもかまわないです。ちゃんとヒーターを利用して輻射熱を利用するのは意味があるんですが。以上が、遠赤外線処理はおかしいという根拠です。
マイナスイオンって何?
 次に、最近よく宣伝に出ているマイナスイオン水の話を紹介しておきます。これは、空気の場合と水の場合と状況がぜんぜん違います。空気の場合は、今よく家電製品に搭載されているものですが、エアコンや空気清浄機につけてマイナスイオンが出ると言っているほうは、化学的な物質が何であるかということがなかなかはっきり出てこない。それから測定方も今のところ開発途上でして、これがスタンダードな測定方法だというものがなく、湿度の影響を受けるのではないかということなど、わからないことがいっぱいあるという状態です。
 あと、空気中のイオンに関しては、電荷だけであれば静電気防止以上の効果は期待できないわけですから、それ以上の効果をなにかいうのであれば、どういう物質がどれだけあるかという、種類と濃度ですね、それを特定して、それから種類と濃度を変えて、どういう効果があるのかということを調べて、使えるのかどうか、危なくないのか、安全なのか、何か利用法があるのか、ということを考えるのが本来の開発方法であるわけです。ですから、空気に関してはどうも宣伝だけが先行して消費者をあおっちゃっているというのが、社会的に問題があると考えています。
 その上、水がどういうわけか、空気の話に便乗しています。水の場合は、イオンについては、化学的実態は何だという話は全く不要で、中学高校の教科書に載っている話以上のことはありません。イオンの入っている水というのは水溶液のことですから、成分を調べて何がどれだけ入っていますか、ということを押さえれば、それですべて話は済むんですね。ですから、今更マイナスイオン水という必要はないのに、もともとあいまいな物質をぼかした「マイナスイオン」を持ち込んで宣伝をしているという問題点があります。空気のマイナスイオンにいいイメージがあるものだから、水にまで持ち込んで宣伝が大混乱しているんです。
厚生省の対応
 ですが、水と空気ではちょっと状況が違っています。マイナスイオンの事件がいくつかあったので紹介しておきますが、マイナスイオンで免疫力が向上すると言って医療器具を配って歩いていたメーカーが、薬事法違反で営業停止処分という行政処分がありました。これは空気のマイナスイオンを出すという装置で、会社のホームページを見ると写真も出ています。全国の病院に対し、試しに使ってみてくれという形で、認可が下りる前に配っていたという話です。
このときの厚生省の対応は極めてまともでして、「マイナスイオンがどういう物質で人体にどのような影響を与えるか解明されない限り、医療器具として奨励することはない」というものでした。これだけならば、医療器具の会社が行き過ぎた宣伝をしてしまっただけという話なのですが、実はちょっと調べてみると、おかしなことがわかってきたので紹介しておきます。
権威を作って宣伝していた
 まず、この会社ですが、香川県の行政処分ですから、正式な代表として名前が出てきます。そこに堀口昇という人が代表取締役であると県の行政調書には書かれています。また、経済産業省が行っている、中小企業の開発活動を促進する認定事業という、こんなのに援助していいのかと思いますが、総務代表取締役のこの方の名前がでています。援助認定事業というのは登記情報である代表取締役氏名というのが必要なのです。社内で専務、取締役、助役などいろいろな役職を作りますが、それとは別に正式に責任を取る人の名前が必要です。ですから、お役所がからんだ書類には出て来る。
 ところが、この会社のウェブページをしっかり見てみると、代表取締役の名前がどこにも出てきません。では、名前をださない方針なのかなと思ったら、その㈱セルミ医療器のウェブサイトで、「堀口先生のご紹介」というページがまとまっていまして、そこでは出てきます。受賞暦、著書リスト、マスコミに登場したリストなどが出てきて、こんなに活動しています、マイナスイオンはいいものです、というような宣伝があります。医学博士とは書いてあるが、学歴はどこにも書いていないし、受賞していると書いてあっても、どういう賞かわからないし、一緒に受賞している人を見てみると、この賞ってまともなのかどうだかな、という感じがします。しかし、堀口先生の紹介ページを見ても、セルミ医療器㈱の代表取締役をやっていることはぜんぜん書かれていません。
 「全国マイナスイオン医学研究会」という学術団体っぽいものがあるようで、この堀口さんが会長なのですが、ここのFAX番号がセルミの医療器の東京支店の番号と全く同じです。ウェブをざっと見ただけでは、会社に対して独立したお墨付きを与える学術団体があるような気がするのですが、その実態は同じだった。今はGoogle のキャッシュが残っていると思うので、興味のある方は参照していただけるとわかると思います。要するに会社から独立した、そこそこ中立な研究会や学会が毎年お墨付きを与えているかのような宣伝をしていたということがわかってきまして、これはよくある怪しい宣伝の条件を満たしているのではないかと思いまして、次にこのようなものを考えました。
疑似科学広告の三条件 
疑似科学広告三条件ということで、3つそろったあたりで疑ってくださいとお願いしたいことがあります。まず、ナントカ教授が、とか、ナントカ協会やナントカ学会の会長が、という宣伝文句でくる場合ですね。あと、マスコミ。これは健康法などを解説しているテレビ、ラジオ、新聞についている広告などはマスコミということになります。それと実績なのですが、これが曲者でして「全国の病院で使われています」などと言っても、実は試供品を配って歩いたものが使われれば、この宣伝になるんですね。あとは、ナントカ試験センターの結果などがありますが、3つそろったあたりで疑ってください、とお願いしたいです。
 どういうことかというと、医者や大学教授にも怪しい話にいっちゃう人もいるし、学会というのも何人か人数が集まれば自由に作ることができ、怪しい人だけでも数が集まれば、学会ができちゃうんですよ。だからあまり当てにならないと。
 マスコミに関しては、当然、言論と出版は自由ですから、査読がないので、科学的根拠がなくても、実は業界紙くらいまでなら何でも出ちゃうんです。だから、逆に業界紙の記事を参考にして商品を開発したいという方がこの中にいらっしゃいましたら、必ずその引用文献をあたって、もとの学術論文の根拠があるところまでたどれるかチェックしてください。実は、業界紙で根拠なし、というのも結構あるんです。先ほどの、水クラスターの話もこのパターンでして、業界紙にはあるけれど、論文はない、というもので、元情報までたどっていくことができない、そういうものでした。
 それから、実績のほうですが、これはよくあるパターンで、試供品を配っているだけなのに、たくさんの人に使われていると書いている。あと、大学なんかでもこれはよくやるんですが、施設課に頼み込むんですね、研究者さんとは無関係に。そうすると使われることは確かなのですが、研究者は全く知らないしチェックも何もしていない。
 あと、試験センターの結果、とあるんですが、たいてい、持込でやってくれる試験センターというのは、有料で検査を請け負って、要求されたとおりの数値を出すだけで、このデータをどう使うか、とか、あるいは、そもそもどのような試験が必要か、といったことは逆に依頼するほうの知識や力量で決まってくるんですよ。いちいちその試験に意味があるとかないとかはレクチャーまではしません。ですから、NMRの例ですと、「あの酸素の線幅を計ってください」といえばどこでもやってくれます。その結果に意味があるかどうかまでは関知しませんというのが、こういう分析センターがやっていることです。センターの名前と数値が書いて合って、いかにもそこがお墨付きを与えたかのように見えても全然そういうことはないということで、こういう文言があったら、そろそろ疑ったほうがよいのではないのか、と最近思うことです。
水の宣伝に出てくるマイナスイオン
 話はマイナスイオンのほうに戻りまして、水の宣伝に出てくるマイナスイオンについて少し調べました。これは割と新しく出てきたもので、2002年の夏くらいからテレビで紹介されて出てきたものです。マイナスイオン水というものです。これは何かというと備長炭とトルマリンを水に浸して作るんです。備長炭は導体で、トルマリンは絶縁体で焦電体(圧電素子)ですね。そういうものを水に浸して作るとされています。
 言いだしっぺは東京大学医学部医用生体工学講座に山野井昇という工学博士がいまして(教務職員)、その人がやっています。実はここの研究室は私が医学博士号を取ったときの主査の先生がいらしたところで、その先生が定年退官なさった後を継いだ研究室のところに所属している工学博士です。在学中にニアミスしているのでかもしれないですが、記憶にありません。で、新しく出てきた水は備長炭とトルマリンから作るもので「マイナスイオン水」と言います。
 また、これまであったアルカリイオン水とか電解水の別名として、マイナスイオン水ですよ、という宣伝をすることもあります。それからその他の磁気処理水でも出てきます。しかし、これらには根拠がないのです。このマイナスイオンがエアコンなどでブームになる前は、マイナスイオンの話は水の宣伝では全然出ていなかった。マイナスイオンだと主張しているが、新しく追加された試験結果や実験結果はなく、ただブームに便乗していってみただけだと思われます。
トルマリンが出たきっかけ 
新しく出てきたマイナスイオン水では、トルマリンと備長炭がキーワードになっています。そこでトルマリンの出てきたきっかけを調べました。トルマリンはただの圧電素子(誘電体)ですから、水処理にミラクルな効果を示すことはありません。もともと、マイナスイオンとは何の関係もなくて、トルマリンを水の中に入れると微量の水素が発生してpHがアルカリ側に傾くという実験結果があるだけです。どう見てもトルマリンの成分中のアルカリ金属が溶けているようです。そういう話が3つほど論文になって出ています。トルマリンというキーワードで論文を探したら100件以上、データベースから検索されるのですが、ほとんどが絶縁体とか誘電体などの圧電素子としての基礎研究であって、水の性質を変えますよ、という論文はこの3つしかありません。
 その3つのうちの2つが誘電体の権威である中村輝太郎という人のものです。そのとき一緒にやっていたのが、久保哲次郎という人で、この人は『固体物理』という雑誌に「電気石が作る水の界面活性」という報文を出しました。これはわりと学術的な雑誌ですが、それがどういうわけか、こんなものを掲載してしまった。この報文をもとに怪しい話が広まっています。マイナスイオンについては何も出てきません。
トルマリン大誤解 
トルマリンで水を活性化させましたとか、トルマリンでこの水はいい、という話はたくさんあるのですが、これは、いろいろな企業を見ていると、どうも『固体物理』の方法が元になっているようです。久保氏の主張に書かれている「電気石は自然分極している」、これは正しいんですね。そうすると、「正・負の分極間で電位が発生する」、ここまでも静電現象としての電位ですから正しいんですよ。ところがこの人は、電位が発生することを電池と混同したんですね。で、微弱電流が流れ続けて水が電気分解されるから、水が界面活性の効果を表して、塩素臭を減少させるなどの効果があるということをいったのです。トルマリンの場合は絶縁体ですから、表面に電荷が出てきたとしても、それは静電気的なものであって、トルマリン中では電気は流れません。電流源にはならないので、電池とはまったく違います。
だから、微弱電流が流れ続けると言っていることが大間違いで、これは完全な勘違いです。電気分解は全く起きませんということになります。これ以外にもこの人の文献で、酸化数を見ると変わらないのに酸化還元反応がおきたと主張していまして、高校の化学も危ういという状態です。読んだ人が気づけばいいのですが、気づかずに信じ込んで製品開発をしてしまっている会社がたくさんあるという状況になっています。
「マイナスイオン水」を測る 
では、このマイナスイオン水って何だ、ということで、昨年に簡単なシンポジウムがあったので、その準備のために実験しました。何が溶けているのかを見たかったので、トルマリン20g、備長炭20gを混ぜたものを砕いてポリ瓶に入れて撹拌します。1時間くらいして成分がよく溶けたころに、平均穴径 0.45μのメンブランフィルタを用いてろ過すると溶液が採れる。その溶液について、トルマリンを入れたもの、備長炭をいれたもの、トルマリンと備長炭の両方を入れたものの3種類を用いて成分分析を行いました(図6)。
 
たくさん含まれているものとしては、トルマリンの場合はナトリウムとホウ素と炭素ですね。備長炭の場合はカリウムと炭素が多いというわけです。両方加えたものは、やはり両方全部多くなっているということです。だから、マイナスイオン水といっているのは、濃度はミリモル程度ですが、主に溶けているのはナトリウムとカリウム、ホウ素、炭素とです。
「マイナスイオン水」を試薬で再現
 マイナスイオン水とは、こういう成分の水溶液ができているだけです。マイナスイオン水の宣伝文句としてpHがアルカリになるとか酸化還元反応が下がるとか、水道水よりも低くなるといった話がいっぱい出ていますから、では本当にそうなのかということでその実験もやってみました(図7)。こちらはトルマリンの水溶液、備長炭の水溶液、両方を混ぜたもの、それからもうひとつモデル水溶液というものがあります。モデル水溶液というのは先ほど表に出てきた一番成分が多かった、代表的なものを選んで、同じ濃度になるように試薬で調整したものです。pHを比べてみるとだいたいいい値になっている。酸化還元電位を計ると多少ずれているのは残りの成分を無視しているからであって、そのことを考えればいい値になっていますねということで、試薬で再現できるようなただの水溶液でした、という結論です。ナトリウム、カリウム、炭酸、ホウ酸でおよその調整ができます。
 ここでも用いましたが、非常によく出てくる水の評価法のひとつで酸化還元電位を計るというものがああります。この酸化還元電子の測定を行うと希薄な水溶液の場合ではちょっと成分が変わると変化が非常に大きいので、これは水の評価基準として使ってもあまり意味はありません。基本的に酸化還元電位というのはよく「水の酸化還元電位」というような言い方をするのですが、正確にいうと、「水の酸化還元電位」ではなくて、「水に溶けている電解質の酸化還元電位」というのが正しい言い方です。水そのものに関して言えば、水は溶媒として、この場合使われているので、水のほうではないですね。中に溶けているイオンのイオン化傾向の指標になります。ですから、そういうものが希薄であれば、ちょっと成分が変わっても、その成分の変動が大きいので、あまり指標にはなりません。
活性水素は実在するか?
 次にここ三年くらい流行している、活性水素の話です。アルカリイオン水とか、電解還元水の中に活性水素があって、活性酸素を消去するのだというものです。提案したのは九州大学農学部の白畑教授というかたです。最初の報告は「BBRC(Biochemical and Biophysical Researchcommunications)」という論文誌に出ていました。発光反応をする系に電解水を使って、その発光消去効果があることを示し、その説明のために活性水素を考えましょうという作業仮説を出して、活性酸素消去する効果があるのではないか、と議論しています。
 こういった仮説を立てること自体は研究していく上で何も悪いことではないし、この論文、実は電解水の製造会社である日本トリウムの技術者と共著ですから、別に解釈の方法を書いてもらっても構わないですけれども、問題は論文では仮説だった活性水素の話が、宣伝文句では九州大教授が存在を立証というのに化けたというところにあります。普通、こういう宣伝をされたら、研究している側はまだ研究途上のものが既に解明済みのように思われては困るので、そのようには言っていませんと訂正を出すのですが、白畑教授の場合、ほとんど意図的に放置しているというか、一緒になって宣伝しているということが困ったことだというわけです。
エセ科学としての活性水素
 白畑教授の最初の主張は、「活性水素は原子状の水素である」つまり、H2分子ではなく、Hであるという主張でした。ところがこれも高校の化学の教科書の範囲でわかる話なのですが、化学の常識を覆す話です。というのは、普通、酸素でも窒素でもO2分子、N2分子ですよね。水素ガスもH2分子で、必ず原子でなくて、分子にならないと安定しないんですよ。ですから普通、分子として存在するはずなのですが、原子で存在するというようなことをいっているので、本当にこのような話があったら、化学の教科書は軒並み変わってしまう大発見です。
 それでも、白畑教授自身も「存在を実証した」なんて主張しているようなので、直接、白畑教授に連絡をとりまして、「活性水素が存在するという実験について、溶液化学シンポジウムといって、国内の溶液化学関係の人が集まる機会が年に1回あり、分析の人も来るので、そこに来て発表してください」、とメールで頼んだらですね、「特許をとっているので詳細は公開できません」と、まず一回目は断られました。一年後にもう特許は済んだだろうと思って、もう一回同じようなメールを出したんですね。そうしたら、「膨大な実験結果は短時間の発表ではわかってもらえないから、論文を出す形で理解してもらうようにする」といって結局断られまして、直接証明の実験はありますかという質問に対する答はいまだに得られていません。
 2003年の春ごろに聞いたところによると、最近では説が変わってきて、金属の微小クラスターに原子状水素がトラップされた形で存在するということになってきています。ただ、こういう状況で直接証明ができていないのに、白畑教授ご本人が新聞の宣伝に登場して、電解水には活性水素が入っていますとか、測定法を開発しましたとかいうことを言っている。まともな存在確認の論文が出る前にマスコミに話が流れて、宣伝だけが先行してしまいました。典型的な病的科学というか、一時の常温核融合と似たような状況に見えます。これからどうなるか見ていこうと思っています。
白畑説の変遷
 白畑教授は、2002年2月の九州大が出している分析センターのセンターニュースに報告を書いています。そこの中では、還元水中では、水素原子は金属ミクロクラスターに吸蔵される形で長時間安定に存在するという説を出しています。ただし、寿命がどれほどかは全然書かれていません。一応、金属に吸着された形ということなら、実は今の化学の内容とそう大きく矛盾しません。というのは、水の電気分解をするときに水素がどのような挙動を見せるかというと、最初に1個できた水素原子というのは電気棒の表面に結合していて、水素分子ができてから電極から離れて、水の中に出て、たまって気泡になって水素ガスとして出ていくというプロセスがあることはわかっていますから、表面に吸着するという話であれば、まあ妥当な範囲の説です。
 ところが、この文献の中ではスピントラッピング法という方法で分析ができるということを言いながらも、引用文献リストにはその文献がありません。それから金属ミクロクラスター自身が触媒になる可能性があり、活性酸素に対して効果があるということを言いながらも、反応物の量的な関係が示されていないということで、まだはっきりしたことは出てこないという状態です。というのは、もし活性水素が活性酸素を消してしまうと分子数活性酸素1分子に対して、活性水素1というような量的な関係が成り立っていないとおかしいわけです。一方、金属の微粒子が触媒作用を持つというのはよく知られていることですが、そういうものに触媒作用があるならば1対1とか1対2などの簡単な反応化合物の量的な関係が成り立たなくなりますから、量的にどうなっているのかは、この場合、何が効いているのかを考えるためが重要になのですが、そういう情報は今のところ抜けているということです。
 よくよく考えるとこの活性水素の話というのは非常に消費者を誤解させる話で、九州大学という有名な大学の教授が言っちゃっているので、広まって信じている人も多いし、値段が高い電解装置を売りつけられているということも生じています。
「活性水素」は消費者を誤認させる
 白畑教授の特許、これは公開されていて番号が出ていますが、それを読んでみました。そうすると、白金触媒を使う実験だと書いてあります。それから水素ガスを水に入れる。白金触媒というのは金属白金の微粒子なのですが、それと水素ガスを水に入れて、そのときに少し複雑な物質ですが、3,5ジクロ-4 ニトロ-ベンゼンスルフォン酸ナトリウムという化合物の試薬を入れてやるとこの触媒作用でもって水素ガスと試薬が反応します。で、呈色反応に持っていけるので吸収測定をすれば、反応があったかどうかわかるというものです。よく考えてみると水素ガスH2というのが別の物質を発生するときには瞬間的でもH-H の結合が切れないと他のものとくっつきようがないですから、水素原子が一時的にできるというのは、化学反応のことを考えるとごくごく当たり前のことなんです。そういう反応を触媒するようなものがあれば、触媒表面で水素原子が一時的にできるのも当たり前ということです。
 一方、水素原子が安定だといいながら寿命が明らかにされていないわけです。そうすると一時的に触媒表面で水素原子が存在するとしたら、それは化学反応の中間状態だろうということになります。それなら、一時的にそういうことがあったとしても、それを活性水素と名づけて消費者に売りつけるのはいかがなものかと思うわけですね。実際、こういう活性水素があるから体にいいんです、といって20-30万円の電解装置をいろんな業者が売りつけていると、そして信じて買っている人もいるという状態です。だから、寿命もはっきりしていなくて、反応の中間状態なのか、安定な物質なのかもわからないのにこういうことを言って宣伝しているのは非常にまずいのではないかと私は考えています。
「水の酸化還元電位」は存在しない
 先ほどの酸化還元電位の話なのですが、これもちょっとまとめておきます。これは、林秀光という医学博士が提唱した話です。『抗酸化水が健康長寿を実現する』(実業之日本社)という健康本がありまして、酸化還元電位の低い水は活性酸素消去効果が高くて、糖尿病やアトピーをはじめ万病に有効だということを言いました。ビタミンCの水溶液との比較などもやって、電解水の酸化還元電位が低いということも主張しています。実は、酸化還元電位というのは水に溶けているもののイオン化傾向の指標に過ぎないので、あまり活性酸素とは関係がないのです。
 で、その後、この林秀光さんは何をやっているかというと水の活性水素調製機というものを作っています。中身は何かというと、金属マグネシウムです。金属マグネシウムを水に溶かすと水酸化マグネシウムの水溶液ができます。このときに水素ガスが発生します。温度を上げてお湯の中に入れてやると、もっと速く水素ガスが出たりするんですけれども、これは高校の化学の教科書や資料集に載っています。水酸化マグネシウムは、にがりの成分ですからこの水は 2-3日置いておくと、まずい水になるはずですが、体にいいというような主張をしています。こんなものを見たために多くの業者さんが酸化還元電位を自分のところの製品に関して測定して、いくつがでました、いくつの酸素を消去しました、非常に体にいいですよ、というようなことを言っています。だけれども、酸化還元電位というのはイオン化傾向の指標であって、活性酸素消去の指標にはならないので、本の内容がそもそも全く勘違いだということになります。
 もし仮に、活性酸素を消去するようなものがあったとして、それを溶かした水の酸化還元電位は低い、というようなものがあったとしても、それを飲んで体内で効果を発揮するまでに道のりはいろいろありますから、効くとは限らないですし、濃度によって消去能力は変わってくるはずなのに、そういうところは全然おさえられていない現状では、効果がありますなんてことはとても言えないということです。酸化還元電位というのは水の評価の指標にはならないものです。
 これに関連して、杏林大の先生が実験を進めていまして、実際に日田天領水なんかで、活性酸素の寿命を計るとコントロール(イオン交換水)と比べて寿命が短いという実験結果はあるんです。なぜそのようなことが起こるのかということを、今、水溶液を作って調べようとしていまして、この4月に聞いた話ですと、金属陽イオンがある程度入っている水溶液中では活性酸素の寿命が短くなるという実験結果です。ですから、ミネラルウォーターの成分によってはそういうことがありうるという話です。今年も実験を継続しますとのことなので、あと1年くらいでどういう水溶液のときにどれくらい活性酸素の寿命が短くなるかというような話が出てくると思います。だからといって、ミネラルウォーターを飲むと活性酸素消去の効果があるかというと、そういう話ではないです。体内にも金属イオンはたくさん溶けていますから、別にそんな水を飲まなくても、体内に入っているイオンの量のほうがよっぽど多いんですよ。
水の「活性化」
 よく出てくる宣伝文句として、水の活性化ということがあります。これは磁気処理水の宣伝で使われることが多いです。磁気活水機という呼び方もあるくらいで、水を活水化すると宣伝します。実は、水に対して活性化するという概念は今のサイエンスにはありません。水がどう変わったかということを説明する気はなくても、ごまかすために活性化といっておけば、なんとなくよくなったような気がするので便利な言葉なのですが、何が起こっているのかは全くブラックボックスのままであるということになります。「活性化」は非常に曖昧な表現なので、宣伝に使うべきではないと思います。うがった見方をすると、自分のところの水処理は化学的に何が変わったのかという説明をする力がなかったり、消費者を煙にまきたいためにただこのように言っているのではないかとさえ思えます。
ですから、活性化しますという宣伝を安易にしている業者は、悪意がなくてやってるとしたら、技術力の方が不安になってきます。本当にものをとるとかものを添加するといったことを物質レベルできちんと製品をおさえる業者であれば、こんなあいまいなことはやらずに、何がとれます、何が入っています、ということを言うはずですから、そういうのではなく、なんとなく活性化といっておけばいいというのであれば、まじめに考えていないだろと思うわけで、「活性化」と宣伝している製品は信用しないほうがいいのではないかと思います。
πウォーターは空想 
次はπウォーターについてです。提案者は元名古屋大の山下さんというかたです。提案者は「生命水」という言い方をしています。「2価3価の鉄塩によって誘導された状態」などと言っていますが、何のことだかさっぱりわかりません。肝心なことは「πウォーターを人工的に作ろうとして、効果を発揮させる製造技術はまだないと」提案者が言ってる。にも拘わらず、製品が売られているんですね。提案者が製造技術がないと言っているのに、実験しましたと言って売っているというおかしなことになっています。どうも、πウォーターそのものは山下氏の想像の産物らしいです。どうすればπウォーターと他の水を区別できるのかを実験的に示された話はどこにもないんです。業者がうたっている効果は植物の成長促進などですが、国民生活センターが調べたら、水道水と変わらないし、カビ臭の原因物質除去や有機物除去は平均水準以下だということで浄水器に負けたという結果が出ています。
πウォーターの奇跡は嘘
 最近、πウォーターの奇跡というネットでよく出ている面白い話があったので、紹介します。それは、πウォーターを使うと淡水魚と海水魚がひとつの水槽で飼えますというものです。だからどうなんだ、それがいい水であることと何の関係があるのかと突っ込みたくなります。よく考えてみると、魚によくても人間によいとは限りません。
 実はこれカラクリがあります。魚の進化の過程を考えると両方とも海から来たわけで、体液の生理食塩水の濃度が淡水魚も海水魚も同じなのです。塩分を排出したり水を排出したりする体内の循環の仕組みが違うので、淡水魚と海水魚の住む環境が分かれているわけです。魚の生理食塩水の濃度の塩水を作って、淡水魚と海水魚を一緒に飼うと、どちらも元気に飼うことができます。実際にその魚の体液調製のデモンストレーションとして水族館に展示しているところもあります。
ところが、水関係の展示会で、πウォーターの業者さんが調製を間違えたらしくて、一緒に住めるはずだ宣伝しておきながら片方の魚が弱っちゃっているので、担当者が首をかしげながら毎朝取り替えていたとのことです。そういう証言があってすごく魚には迷惑ですね。だから、どっちの魚もピンピンしているようでしたら塩分濃度を測ってみてください、多分、魚の生理食塩水と同じ濃度です。この知識がなくて、πウォーターを盲信してしまうと、どちらかの魚が確実に弱ります。
波動と水の結晶はインチキ
 もっとオカルトな話に、波動と水の結晶の話があります。これはちょっと別の意味で問題です。元ネタは何かというと、江本さんというかたが『水からの伝言』という波動教育社から出ている写真集ですね。いろんな雪の結晶のようなものをシャーレで作りまして、それぞれにコメントを書いている。写真はきれいなので写真集としてはいいのですが、「いい水の結晶はきれいな形をしている」といっているあたりでもう既に科学的には間違っています。
 さらに、「ありがとう」と声をかけると水はきれいな六角形になって「ばかやろう」と声をかけるときたない形になると写真集には大真面目に書いてあります。ギャグだろうと思ったら、これを本当に信じている人たちがたくさんいるということがわかってきました。当然、こんな結晶に再現性は無く、江本氏自身も著書の中でたくさん作るといろいろな形ができるので、水の性質に合った結晶を自分たちで選んでいると正直に書いています。だから、科学だと思うことが間違いで、犬とか猫とかの写真を撮って、「こんにちは」とか「おはよう」などの吹き出しをつけて写真集を作るのと同じレベルの話なのですが、それが科学と誤解されて信じられていることが非常に問題です。
 お約束の波動測定と結晶写真の結果の比較というもの出ています。雪の結晶がどういう形になるかということは、中谷宇吉郎という北大の先生が50年も前に完全に解明しています。ナカヤ・ダイアグラムという世界的な仕事がありまして、雪の結晶の形というのは、そのときの飽和水蒸気圧と結晶を生成するときの温度に依存して変わることを突き止め、「雪は天から送られた手紙である」という名文句を残しておられます。
 おそらく、江本さんのように、シャーレに入れて作った場合、きれいな六角形の結晶というのは、水蒸気から直接、結晶成長したものでしょうけど、できるときの条件というのは、おそらくはほとんどコントロールができないと思うんですね。だから、実際に江本氏が書いているようにシャーレに入れて冷凍庫に入れるような方法で表面に出てくる結晶の粒を観察すると、いろんな形ができるのは当然のことなのです。ただし、簡単なモデルを作ってできる結晶の形を再現することはまだできていません。固体があって、水蒸気がくっついて、そこで固体になるときに相転移をしますから、熱の移動があります。その熱の伝導と冷え方と次の水蒸気が供給される速度、あとどっちに向かって成長するかというルールを決めて、どのパラメーターだったらこの結晶になるという原理を解明するのは、実は難しくて、まだ物理学会などで発表があります。しかし、結晶のできる条件は実験によってとっくに確定している話です。
道徳教育と波動
 本を出して遊んでいるだけならよかったのですが、義務教育の中に入ってきたというのが問題なのです。現実に小学校の道徳の授業で進行中です。言葉によって水の結晶の形が変わることを根拠にして、きれいな言葉を使いましょうという教育が行われている。小学校の先生が実際に授業参観に日にやっています。教育技術法則化運動という、小中学校の教育技術の交換をしている団体があって、そこのウェブサイトには、この水の結晶で言葉の教育をしたという実践例がいくつも出ています。サイエンティフィックにも間違っているのはさることながら、道徳としても全然ダメなんですよ。言葉をどう使うかというのは相手があって決めることです。きれいな言葉を使うのも、怒るのも、怒鳴りつけるのも、褒めるのも、全部、人との関わり合いによって決まるものです。なのに言葉をどう使いましょうということを水にきいているわけです。これは非常に変です。
 
 そして、次の問題として、言葉をきれいか汚いかで分けるというのは、むしろ日本語を冒涜するようなものではないかと私は思います。というのは、状況によって言葉の使い方は変わるわけで、いい言葉も悪い言葉もちゃんと知った上で、そういう分類もいいか悪いかはまた別ですが、言葉をどう使わなければならないかを考えなければいけないんですよ。場合によっては、言葉の意味が正反対になることだってあります。それを、頭からこのように分類してしまっているのは、言葉そのものを考える上でも非常に困った切り口だと思います。
 もっと致命的なのはいい水はきれいだということで「善=美」と言ってる点です。この価値観は道徳としては完全に致命的です。というのは、普通は「人を見かけで判断するな」と教えています。美人が善人であるとは限らないとも教えています。なのに、美しいものはいいものだとやっちゃうわけだから、道徳としてももうどうにもならないわけですよね。これを本当に義務教育でやっているので、もし、皆さんの近くでそういう授業をしている人がいたら、バカモノといってやってください。
 これを授業参観でやっちゃった先生がいまして、後ろのお母様方は聞いていたのですが、お母様方の方は常識的で、「これって浄水器の宣伝よね……」と後ろでぼそぼそと。そういうことだったので、母親は常識的だったので、洗脳されずに済んだと思うのですが、これが本当に教育現場に浸透していまして、困ったものなのでなんとかならないものかと思っています。
磁気処理水は未完成か?
 次に磁気処理水について簡単に紹介しておきます。磁気処理水というのは水道の配管のところに磁石をつけるというものです。配管の外側に磁石をはめる方式と、配管と磁石の装置を付け替えるという方式とで、2種類あります。水道管の錆や、スケールという炭酸カルシウムの結晶の除去に効果があるといわれています。言われているのですが、問題なのは、効果があったという実験結果となかったという実験結果の両方が出てきているところです。確実に効果があるとか、確実に何もおきないというような条件がまだはっきりしていないのですね。装置を会社の中で似たようなパイプ3本につけたら、1本は効果があったが、2 本は効果がなかったという話があったり、実はウチの共同研究先のお茶の水女子大にもつけられていまして、赤錆がなくなったという話が出てきています。
 一方、1年間試験をした会社がありまして、流路を作って、ポンプで水循環を作って、電磁石をおいて、その流路のてっぺんにもおいて、錆がどうなるかを見たら、全然差がなかったというような話もあります。効果を再現するための条件が全然押さえられていないということで、小見出しに「未完成か?」とつけたのはそういうことです。条件がわからないのでなんともいいようがないということです。体にいい水ができるとされていることはいいのですが、それの根拠もはっきりとしません。ただ、磁気処理水の説明で確実に間違っているのが、水自体が磁化するという説明です。水は反磁性体でして、磁石を近づけると遠ざかる性質があります。ですから、水が磁化するということはありません。だから、水自身に磁石で何か変化を起こさせるというのは確実に間違いなのです。しかし、水の中の不純物に何か変化を起こさせて、その結果で何らかの効果があるかもしれないという可能性は否定できない。今は、実験的に試すつもりでやるのはいいのですが、100%の効果を期待するとハズレもありうるということです。ただ、何が起きているかわからないということは何が起こるかわからないということを意味しているわけで、実際に海水に使って、養殖ヒラメが全滅して、磁気処理のメーカーが損害賠償を払ったという裁判もあります。
 どうもいろいろ見ていると錆除去というと、水道管における一種の電気化学反応ですから、表面の反応をキチッとおさえていけば、何が出てくるのかな、とも思います。実際、磁石を流路にとりつけて、イオンを含んだ液体が流れてくるときの起電力を測って流量を求める、電磁流量計という装置もあるくらいです。可能性があるとしたら、不純物の効果で電気化学反応が何か起きているのかなという気もするのですが、そうすると海水だとイオンの効果は全然違いますから、多分、金属でも何でも条件が整えば溶け出しますし、生物によくないことがあってもおかしくはないです。ただ、皆さん、これを水に対する効果だと思い込んでいるものだから、本当に調べなければならない電気化学反応なのではないかというところの調査が進まないんです。
バラエティ番組の事情
 最後にマスコミの話です。バラエティー番組の事情というのも紹介しておきます。これは実際にウチにテレビの製作会社のかたが相談に来たときにいろいろ話してわかったことなのですが、トラコテの水を長寿の水として紹介したいという企画でした。いろいろ話をしていたら、要するに、番組を作る側の立場としては、ウソでなければいいんだ、ということをおっしゃっていました。
 もし、長寿の水があって、そこの水がいいんだという番組を作ろうとして、科学的に調べたら実は長寿が遺伝子の効果だとわかったりしたら、番組としては成立しないのだと言われました。どうしてかというと、番組を見た人が、長寿の理由は水かもしれないという話になっていれば、その水を買いにいくという行動をとれます。視聴者が何かアクションをとるようにならないと番組にならない。だから、長寿の原因が科学的に解明されていない状態であれば、原因が水かもしれないという番組を作ることができるということで、むしろ解明されていないほうが番組を作る側にとって都合がいいということでした。含みは持たせてもいいが、明らかな嘘は言えないということだそうです。夢を持たせないと番組として成立しませんよ、という事情でバラエティー番組では水は紹介されているので、そのつもりで見ていないと、振り回されてしまう。あまり健全でないでしょうね。
「安全な水」で満足しよう
 これでラストですが、安全な水とは言っても、水道水もそこそこ安全なので、安全な水、おいしい水で満足しませんか、ということを提案したいです。有害物質が無く、感染症を引き起こさない水であればもういいではないですか、と。いろいろ見てきましたが、水に必要以上の付加価値をつけて売ろうとするからおかしいことになるわけで、結局、水は体内に取り込まれたらH2Oとしてしか働かないわけですから、それ以上の付加価値をつけようとするとどこかでウソが入ってきます。
 味にこだわるというのは趣味の問題ですから、味にこだわりたいかたは、自分の口にあったミネラルウォーターや浄水器でも使ってください。ですが、必要以上に健康にいいとか、味にこだわったりするとおかしなことになります。安い浄水器でも塩素臭が取れれば飲み易い水になりますし、湯冷ましでも飲めるし、水道水はおいしさは保障しませんが、少なくとも有害物質を持たない、感染症を引き起こさないことは保障しているわけです。ですから、それ以上を求めるのであれば、何か処理をしてもよいけれども、それ以上がんばる必要もない。
 塩素が怖いとかいろいろなものが入っているとか言われますが、これはちょっと考えればわかるように、日本人は水道水をずっと使っています。ずっと使っていて、日本人の平均寿命は世界のトップです。そう考えると、水道水はリスクだ、リスクだ、と浄水器の業者が言ったとしても、本当にそんなに大きなリスクなのですか、と問わなければなりません。みんな元気じゃないですか、長生きしているじゃないですか、という話になります。ですから、お金をかけて水道水の塩素の小さなリスクを減らしたとしても、例えば、タバコ一本を吸ったときの発ガンリスクのほうが大きいとなると、あまり意味はないので、それ以上、水で健康になろうというのは無理がある。もともと水は薬でもないし、食物でもない。
だから、治療効果とか栄養補給の目的だったら、水以外のものから摂ったほうが効率がいいです。ミネラルを補給するといっても、食べ物のほうが圧倒的に量は多いですから、食物から摂ったほうが効率はいいです。ミネラル云々で味がよくなるというのには意味がありますが、実際に健康によいことの実証は難しいのです。だから、水に必要以上の効果というか、効能を求めることはやめにして、安全で、ある程度おいしくなれば、それでいいじゃないですか、ということが一番バランスが取れた考えではないかなと思います。
 
以上です。ご静聴ありがとうございました。
(どよう便り 73号 2004年1月)

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