ナノテク化粧品は安全か?

投稿者: | 2005年10月5日

藤田康元
pdf版はnano_004.pdf
様々に提案されているナノテクノロジーの応用の多くが現在はまだ研究段階にあるなかで、すでに市場に出回っている製品の一つにナノテク化粧品がある。例えばコーセーのナノウェア・シリーズのように商品名に「ナノ」を冠した商品も多く、インターネットで検索してみると「ナノテク」という言葉はすでにユーザーの間でもしばしば口にされているのが分かる。
ナノテク化粧品と一口に言ってもいろいろなものがある。例えば、「乳化滴やカプセルのナノ化により、皮膚への浸透性や貯留性を向上させたスキンケア」、「乳化滴やカプセルのナノ化により、美白や保湿効果の発現を高めたり、その効果を持続させるスキンケア」、「紫外線遮断剤のナノ化により、塗膜が透明でありながらも高いSPF[紫外線防止効果を表す指数]を持つ日焼け止め」、「粉体のナノ化により、毛穴や小じわを目立たなくさせながらも自然な仕上がり感を与えるファンデーション」、「粉体のナノ化および多孔質化により、匂い成分の吸着効果を高めた制汗デオドラント剤」といったものである[佐々木 2004]。
これから分かるように、ナノテク化粧品はどれも粒径がナノメートル(nm=10のマイナス9乗メートル)サイズのナノ粒子を用いている。ところでナノ粒子はより大きな粒子にはない新奇な性質を示すことが多いゆえ、それをうまく利用して有用な技術にしようというのがナノテクノロジーの目的の一つなわけだが、まさにその性質によってナノ粒子が人体や環境にとって有害になる可能性も指摘されてきている。ナノ粒子を用いた化粧品は果たして安全と言えるのだろうか。
ナノテクノロジーの様々なリスクに対して社会の不安を呼ぶ前に推進する側が先手を打って対処して行こうという内外の動きに関してはこれまでの報告で触れているが、特にナノテク化粧品の安全性に関しても基礎的な調査が行われ報告書が発表されている[日本化粧品工業連合会 2005]。この調査によれば、アンケートに回答した化粧品製造・販売企業478 社のうちナノ原料を化粧品に配合していると回答したのは25.5%の122社であった。最も多く用いられているナノ原料は酸化チタンで、日焼け止めやファンデーションに用いられていることが多い。また報告書は、広範な項目について安全性確認がなされているとしているが、慢性毒性、生殖発生毒性、がん原性といった長期毒性に関する安全性確認を行っている企業は数社に過ぎない。しかも「安全性試験項目」ではなく「安全性確認項目」について質問したため、実際に自社で試験を行って確認したのか否かは不明だという。では化粧品メーカーにナノ原料を提供している原料メーカーはどうかと言えば、2社だけを対象にした調査ではどちらも各商品に関して吸入毒性試験等は特に実施していなかったという。
化粧品に用いられているナノ粒子の安全性に関する一つの問題は、肌に塗られたナノ粒子が皮膚を通過して体内に吸収されるか否かという点である。報告書は、ナノテク化粧品およびナノ粒子の安全性に関する文献調査の結果も掲載しているが、それらの文献では、化粧品中の酸化チタン粒子は角層深部、表皮層、真皮へは浸透せず、安全であるとされているという。しかし、現時点で結論が出ているわけではもちろんない。
化粧品に用いられているナノ粒子の有害性に関して強く警告していている研究者もいる。リバプール大学の毒性学者ヴィヴィアン・ハワードは環境団体のETCグループの委託でナノ粒子の毒性に関する短いレポートを書いたが、その中で、直径1ミクロン以下の微粒子が表皮にまで達したという実験結果を参照しつつ日焼け止め剤の酸化チタン粒子が体内に吸収される可能性を示唆している[Howard 2003]。ただし、ここで彼が参照している論文[Tinkle et al. 2003]が酸化チタンではなくベリリウム粒子を用いての実験についてものだという点には注意する必要がある。仮にナノ粒子が体内に吸収されるとしても、それが直ちに有害と言うわけでもない。ナノ粒子の体内での挙動、影響もよく分かってはいない。いずれにしてもナノテク化粧品の安全性について結論を出すことは今はできない。
ナノテク化粧品ではなくとも化粧品には多かれ少なかれ有害性はある。ナノテク化粧品だけを警戒するのはおかしい ……このように考える向きもあるかもしれない。確かに化粧品一般の有害性にも目を向けると同時に、ナノ粒子だから有害だという短絡は避けるべきである。しかし、ナノ粒子に関しては未知の部分が多いにも関わらず、十分な研究を積まぬまま様々な領域で利用が進みつつある。それゆえ、ナノ粒子を用いたナノテク化粧品には特別の注意を払う必要があるのである。
(市民科学第6号 2005年10月)

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