電子本、貸してください

投稿者: | 2010年8月10日

 本は電子化されると言われて久しいが、最近になって国内の状況が慌ただしくなってきている。今年3月には総務省・文科省・経産省が合同で「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」を立ち上げた。また同月、出版社31社が日本電子書籍出版社協会を設立、7月には印刷大手2社が中心となって電子出版制作・流通協議会の設立を発表している。また、6月には国会図書館「納本制度審議会」が電子書籍の納本を義務づける答申を出した。
 米国では、07年末にアマゾンが読書端末キンドルを売り出し、電子書籍市場が急拡大中だ。09年度の段階で、米国の電子書籍売り上げは約3億ドルで全書籍売り上げの約1.3%となっており、今年中に5億ドルを超えると言われている。今年7月には、いよいよグーグルが電子書籍販売に参入する。
 これまで日本では、コミックなどは携帯電話向けにかなり電子化されて流通していたが、一般書籍に関してはさほど目立っていなかった。一般書の電子書籍数は米国にくらべて圧倒的に少ない。加えて、日本の出版業界には再販制度と委託制という紙の本の流通を減らしたくない事情がある。出版業界の構造変化への対応、著作権関係の問題、データフォーマットの整理など課題は多く残っている。紙の本はなくなりはしない。だが、電子書籍が増えていくのは確実だ。
 ところで、電子書籍の普及で図書館がどうなるか、個人的には非常に気になるところだ。米国では、すでに公共図書館が電子書籍の貸し出しをおこなっている。例えば、ニューヨーク公共図書館には約2万タイトルの電子書籍があり、PCにダウンロードして「借りる」ことができる。1度に1冊だけダウンロードでき、紙の本と同じように借り手が多い電子書籍には順番待ちができるらしい。ダウンロードした電子書籍ファイルは期間が過ぎると読めなくなるそうだ。電子書籍はいくらでも複製が可能であり、順番待ちなど不要なはず。技術的に簡単に実現可能なことであっても、これまでの著者や出版社との関係を含めて社会的な仕組みを変えるのはかなり難しいみたいだ。
さて、日本で借りられるようになるのはいつだろうか?
【上村光弘(市民研・理事)】
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