第93回環境ホルモンの衝撃(その2)「化学物質の適正管理にむけて」

投稿者: | 1998年3月27日

第93回環境ホルモンの衝撃(その2)「化学物質の適正管理にむけて」

◆◆◆参加者報告◆◆◆

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参加者20名、化学や生物を専門にしている方も参加しました。今後もこの問題に関する報告を紙面で続けたいと考えます。次号では具体的な行動提起も行います。

 

【鎌形正樹】

今年の夏は、突然起きた産廃処分場計画で、どうしてもダイオキシンや環境ホルモンについて考えざるを得ない状況になりました。自分が住んでいるすぐそばにたくさんのゴミ捨て場が有り、そのほとんどがよその地域からのものだったのです。これはいったいどういう事か?といろいろ調べてみると、各地で似たような事が起きているとわかりました。
そんななか隣の海上町では、住民投票が行われ「投票率87%、建設反対97%」という結果が出ました。(8/30投票)住民の意志は、はっきりと出ましたが残念ながら法的拘束力はありません。更に、日本中に同じような問題が起こっている事からしても、より地方へそして途上国へと流れる事は、明らかです。ゴミをどんどん作り出してしまう社会の仕組みそのものを何とかしなくてはなりません。その点に関する数字を拾ってみました。

輸入約7億t、輸出約7000万t、(1990年貿易統計重量より)日本に残る量6億3千万t、一人当たり年5.25t(12000万人として)ダイオキシンに関係が深い塩ビの生産量は、1941:7t、’61:30万t、’81:110万t、’96:247万t……55年で350000倍。もう一つ気になる数字は、9:1というものです。これ何の比でしょう。ゴミを把握した確かなデータが少ないのでこれは、廃棄物処分場問題全国ネットワークのものですが、産業廃棄物と一般(生活系)廃棄物の比です。つまり、市民住民が生活の中でリサイクルなどの形で関われるのは、10分の1の部分でしかないという事です。

ですから、ゴミを出さない産業構造への転換は、絶対に必要です。それでも出るものは再利用し、更に残るものはどんなにエネルギーを使ってもお金をかけても無害化するという方針にしなくてはならないのではないでしょうか。その際、10万とも1千万ともいわれる化学物質を合成してきた関係機関は、その処理法を開発する任に当たるべきでしょう。
いまだ成人した人への影響を断定する調査結果は少ないとはいえ、発育段階の暴露が危険なのは確実です。まずは胎児乳児を、ダイオキシン・環境ホルモンに被曝させない対策を取るべきと考えます。

 

 

【田所勝己】

大学生協で働く個人として、上記の研究発表に参加しての感想を若干述べたいと思います。土曜講座は今年3月の「遺伝子操作作物」に参加して以来、2度目になります。前回同様、問題の要点を良く理解できました。
「環境ホルモン」の問題は、大量生産−大量消費−大量破棄という社会システムのなかから生まれたもので、多分、「量」が「質」を大きく変えたのでしょう。未曾有の消費社会からはきだされる「ゴミ」は年間8億t。これまでの《埋め立て》と《焼却》という処分方法も限界にきているといわれています。
今回の発表のなかで印象に残ったのはドイツの「環境問題」への取り組みに関するものでした。リサイクル法ひとつにしても、根底に流れる『哲学』が日本とあまりにも違うことを学びました。天と地ほどの違いがあります。これは文化の差なのでしょうか。
個々の人間が、意識的に今日の生活様式を変えることが求められていますが、利便性を放棄し、日常の消費生活を変えるには、おおきな労力が要ることも確かです。簡単ではありません。
大学生協は、様々な商品やサービスを学生・教職員(約1万2千人)に提供し、業務内容は、基本的に書籍部・購買部、そして食堂部からなります。食堂部と購買部の日常業務から出るゴミは、つぎのようなものです。
大学生協の実質営業日数は200日余、食堂部の出す一日の「ゴミ」(廃油・残飯・缶・弁当の容器・紙・プラスチック等)は200~250。「割りばし」は数年前から樹脂製のものを使用していますが、最近、「環境ホルモン溶出疑惑」もあって、再検討の対象になっています。廃油・残飯は回収業者に引き渡され「焼却」処分、缶はリサイクルに回ります。食材に含まれるの添加物に関しては、流通経路や提供価格の問題もあり、不充分な面が多々存在します。
購買部では、パソコン等事務機器・家電製品・文具・弁当や菓子類・2ペットボトル・缶飲料・雑貨・衣料品等を取り扱い、日々排出されるゴミは年々増加しています。他の店舗と異なる点としては、森永製品不買(食品公害の原点とも言える砒素ミルク事件に発する)と合成洗剤不買ですが、こうした「商品」そのものを店舗に置かないことで、組合員にアピールする意味もあると自己満足しているレベルで、積極的な情報宣伝はここ数年為されていません。
学内のごみ箱は雑多なゴミで満杯。アルミ缶とスチール缶の分別回収箱は、店舗前に一ヶ所。こうした現状のなかで、近年爆発的人気の500ペットボトル導入を巡る論議が生協内に起きたことをきっかけに、ゴミの減量化を目指し、コンポスト導入も検討されています。
一方で「商品」を媒介に、ゴミ問題を学生組合員へ伝え、理解を得ることの難しさを実感してきました。広告メディアの影響力は絶大で、棚に並ぶ商品はコマーシャル一つで売れ行きが違ってきます。「大量消費社会」での理想と現実のギャップは大きく、個人や一つの事業体で何ができるか考えてしまう毎日でした。
最近、各地で多発している毒物混入飲料事件では、食品・商品の「安全」がマスコミの紙上にのり、人々の過剰な関心を集めています。環境ホルモンも『毒』であるという認識が要るのではないでしょうか。水俣病の教訓は何も活かされていません。
今回の藪さんと上田さんの研究発表を聞き、生活のなかに存在する「物」をもう一度捉えかえしてみようと思いました。諦めることなく、地道に取り組むことで、大海の一滴も何らかの役割を担うことができると信じて。ある種の「環境ホルモン」が1ナノグラム(10億分の1)で生物に影響を与えられるのなら、個人も55億分の1であり、行動することで多少の影響力を持つことも可能でしょう。

 

 

【松村陽子】

土曜講座では日本の環境ホルモン対策の動向など、これまできちんと把握できていなかった現在のさまざまな動きについて勉強させて頂き、私にとって貴重な時間となった。
なかでも今回の講座の副題「合成化学物質の適正管理」ということに関わってくる化学物質管理政策についての上田さんのお話には大変刺激を受けた。
化学物質によるリスクから生命が守られる世の中をつくっていくにはどういう方策があるのだろうか、というのは私の大きなテーマである。昨年卒論でリスク評価という、化学物質管理の基礎となる方法論の一つに取り組んだのも、そういう思いからだ。
卒論作成時にずっと気にかかっていたことは、実際に化学物質の管理について日本では一体どういう政策がとられているのか、ということであった。昨年はちょうど環境庁のPRTRのパイロット事業が始まったりシンポジウムが開かれたりと、政策についても動きが出ていた頃でもあった。けれどもその時はやはりリスク評価という方法論が先にありき、で現実の社会のシステムや動きの中での意味は明確に捉えられてはいなかったように思う。
土曜講座で受けた刺激が発端になって、一年間何となく目や耳にしたこと、集めていたものを引っ張り出してきて整理してみようか、という気になった。化学物質管理の現状についてはまだ勉強中なのだが、現時点でいくつか思うことについて書いてみようと思う。

★PRTRをめぐるこれまでの動き
新聞記事や報告書での記述から、最近取り上げられることの多いPRTRについての環境庁・通産省・産業界の今までの動きについて整理してみた(上表)。
一般紙でPRTRが取り上げられたのを私が初めて目にしたのは、環境庁のPRTR試験的実施の発表のときである(1997/5/31付朝日)。それ以前の産業界の動きは一般には見えてこない。通産省としての動きは1997年からのように見えるが、この表を見れば実質的には産業界の動きが通産省の動きにつながっているということが明らかだと思う。現に1992年に始まる産業界のPRTR導入への取り組みは「通産省からの支援を受けて」行われたものである、と先ごろ出された化学品審議会の中間報告書にもハッキリと書かれている。
今更ではあるが、業界の利益のために動くという通産の体質を思い知った感がある。産業界がPRTRについていち早く取り組んだということは、ちょうど環境ホルモン問題の情報が日本では最初に業界紙(誌)で話題になった、ということを思い出させる。

★「総合的な」化学物質管理政策と「リスク評価」
人工化学物質は製造・使用・(回収)・廃棄というライフサイクルをたどる。このライフサイクルの全段階で環境中への排出の可能性があり、人や生物への曝露に結びつく。そして全人工化学物質のうち、ごく限られた数の、毒性が「科学的に確認された」物質についてのみ各段階での禁止・制限などの規制が行われている。しかし製造・使用だけでも「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」(一般化学品、慢性毒性対象)・「農薬取締法」(農薬対象)・「毒物及び劇物取締法(劇法)」(急性毒性対象)といった法律があり、其々所管が通産省・厚生省・(環境庁)、農水省、厚生省というものすごいタテ割りである。
新聞報道によると、今年5月下旬に環境庁・中央環境審議会ではPRTRを中心に据えた総合的な化学物質管理の方策についての検討が行われ、包括的な新法の法制化を目指しているという。これに対し通産省は化審法の一部改正案でのPRTR導入を図ろうとしている。
それでは「総合化」の中身は一体何だろうか。通産の中間報告は現行の化審法+MSDS+PRTRという単なる切り貼りにしか見えない。新しい考え方の導入は何かそれだけで画期的なことですぐに問題の解決に結びつきそうな取り上げられ方をされがちな気がする(といってもちろんPRTRやMSDSという制度自体は工場付近に住む人たちや化学物質を扱う人たちにとって重要な情報を与えるものであり、その意義を否定するわけではない)。そもそも化審法は化学物質の製造・使用を禁止したり制限したりするもので、PRTRやMSDSは実際に製造・使用しているものについて、リスクをどう減らしていくかの判断のための基礎的な情報提供という意味の違いがある。その違いの認識は大切だと思う。
化審法については通産省(生分解性・蓄積性)や厚生省(毒性)が判定をしているのだが、どういう判定がなされたのかははっきり見えない。一番の問題点は一体どこで誰がどうリスクを判断しているのかが市民に知らされていないことである。新しい制度の導入だけでなく、こういった現存する制度の問題点の見直しも必要である。
「総合化」の中身に盛り込まれそうなのが、中西準子氏の「リスク論」にもその一部として登場する「リスク評価」の手法である。10月2日の環境科学会の年会で、PRTRにつてのセッションがあり、その中で環境庁・中央環境審議会委員である法律学者の発表があった。某氏の発表中で化学物質管理システムの全体構想について触れられ、情報システムとしてのPRTRの位置づけ、また、それに加えて「環境リスク評価システム」が必要だといった趣旨のことが述べられた。同様に化学品審議会の中間報告にも「リスク評価手法の開発・普及」という項目が見られる。
リスクの定量化を試みるこのリスク評価の方法論をリスク管理政策の基礎とする際に重要な姿勢として、次のような記述を目にしたことがある。

「リスク評価は決して「正確な答え」を与えることはないし、リスク管理は決して「絶対的な」解決法を与えることはない。…リスク評価はこれに頼ってリスク管理プロセスを報告する人がその性質と限界を知り、それに基づいて用いるようなときに最も有効なものとなる。」
通産省にしろ環境庁にしろ、「リスク評価」手法の導入と言ったときに、その科学的客観性というものを盲信しているように思えてならない。リスク評価はそれをする人の主観によって結果がどうにでもなると言っては言い過ぎかもしれないが、かなり幅が出てくるのは確かだと思う。
今年7月20日付の日経新聞で中西準子氏は「環境ホルモン問題は冷静に」という文章を載せている。また、9月15日付の読売新聞紙上では「「環境ホルモン」対処冷静に」というそっくりのタイトルの宮本純之氏(国際純正応用化学連合(IUPAC)「化学と環境」部会長・住友化学顧問)の発言を取り上げた記事が載っている。両氏の主張がまたそっくりで、科学的な「リスク評価」をした上で冷静に対処すべき、というものである。毒性についての「科学的な」証明自体に議論があるような物質についてリスク評価を持ち出すことは、対策をとらないことの単なる言い訳のようにも見える。リスク評価という手法は何か問題をごまかす口実を作り出すために使われてしまう危険性をはらんでいるように思う。

★「リスク評価に基づくリスク管理」から「リスク削減」へ
リスク評価に基づいてリスク管理を行う、というのが環境庁・通産省の考えている化学物質管理政策の方向性である。しかし肝心の「ではリスクを一体どう減らしていくか」についての構想は見えてこない。
リスク削減をどうやって行っていくのかを具体的に考えていかなければ、ただリスクをだましだまし受容させていくだけの政策になってしまうのではないか、という感じがする。
スウェーデンは農薬消費量を10年間で75%削減するためのプログラムを実施してきている、という。「レストランに入ったら机も椅子も木製で、ビニールの壁紙も床紙もなかった。きっと昔のくらしを取り戻すための努力が為されているのだろう」−先日ストックホルムから帰ってきた方にこんなお話を聞いた。リスク削減は出来るのである。私はまだ不勉強でリスク削減のためにどんな取り組みがあるのか知らないのだが、ぜひ調べてみたいと思う。PRTRについても、得られた情報を活用して排出量の削減へつなげていくための方策として何があるのか、ということを考えたいと思う。

今回の土曜講座は私にとっていままで漠然としていた問題意識をはっきりさせる作業をするきっかけになりました。これからの宿題を沢山もらったような気もします。貴重な時間と場をどうもありがとうございました。

 

環境庁通産省産業界
1992年日化協が取り組み開始・13物質の排出量調査
1993年日化協調査物質が28に
1994年日化協調査結果取りまとめ
1995年日化協55物質の調査実施→43物質を化学品審議会に報告
1996年OECD勧告により検討開始日化協が調査結果公表開始(PRTR技術検討会)経団連が検討開始
1997年PRTR試験的実施の発表
化学品審議会が審議開始経団連が45団体について調査を実施(5月30日)
経団連欧米へ実態調査団を派遣(10月)
1998年134物質の調査結果公表(5月1日)中央環境審議会・環境保健部会がPRTRを中心に据えた総合的な化学物質管理策を検討(5月下旬)
経団連45団体について調査結果公表(6月)
PRTR法制化にむけて審議会に諮問(7月)
PRTR法制化審議本格化(8月)
OECD主催の国際会議
化学品審議会安全対策部会・(9月9日~12日)
リスク管理部会中間報告(9月8日)
注:日化協…社団法人日本化学工業協会

 

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