プロジェクト報告 ◆電磁波プロジェクト② 携帯電話を対象に研究助成

投稿者: | 2002年4月18日

プロジェクト報告
◆電磁波プロジェクト②
携帯電話を対象に研究助成
電磁波プロジェクトリーダー 上田昌文
doyou52_ueda.pdf
電磁波プロジェクト(以後PJと略する)はこのたび (財)消費生活研究所から50万円の研究助成を受けることになった(実施期間 2002年4月1日~2003年3月31日、報告書提出は2003年5月31日)。テーマは「携帯電話の端末ならびに基地局がもたらしている電磁波リスクへの政策的対応に関する研究」である。この資金のおかげでもともと私たちが狙いとしていた携帯電話問題の研究に本格的に着手できることを喜びたい。
携帯電話が7600万を超える契約件数の普及を示す中、携帯端末ならびに携帯タワー(基地局)からの高周波電磁波の人体影響が懸念されている。専門家の間ではそのリスクに関して意見が分かれており、疫学調査もほとんどなされていない。ことに日本では若年層への普及が著しく、将来的に大きな健康被害を被ることになるかもしれない若者自身が、そのリスクを自身で判断できるように、情報が的確に提供されなければならない。そこで私たちは昨年、携帯電話の高周波と近接した帯域で長年比較的強い電波を発信してきた東京タワーに注目し、その電磁波の計測と周辺地域の保健統計の調査を実施してきた(その成果はこの文章の最後に一覧で示す)。今年は、携帯電話(端末、基地局)のリスクや政策に関する諸外国の情報や、我々自身の実地調査によって使用者の現状を把握するためのデータを収集し、それらを比較分析することで、携帯電話について「予防原則」に立った適正な政策的判断を促すための基礎事項を明らかにしたい。
具体的な作業としては、(1)携帯電話電磁波リスクに関する研究成果の整理と評価、(2)各国政府の政策動向の整理と評価、(3)適正なリスク対応のための政策提言、(4)携帯タワー・端末の被曝状況把握のための方法の開拓(必要なら本格的な電波計測と公開されていない企業情報探索)、(5)必要な疫学研究デザインの提案、(6)若者・一般向けのブックレットの作成、といったことを想定している。これらすべてを50万円の助成金でできるわけではないので、研究の進展の具合をみて課題を絞り込んでいくことになるだろう。
携帯電話のリスクを探ろうとする大規模な研究が本格化してきている。たとえば英国では1月25日総額4500万ポンド(6400万ドル、およそ770億円)の第1次助成を受ける15のプロジェクトが発表された。ウィリアム・スチュワート卿を中心とする「独立専門家委員会」が2000年にまとめた報告『携帯電話と健康』を受けて、そこで提起された問題を扱おうとするものだ。またドイツでも、連邦放射線防護局は携帯電話の安全性に関する新しい調査プログラムとして15種類のプロジェクトの提案を検討し、4年間で総額は85,000,000ユーロ($76,000,000)を費やすことを決めている。(以上『マイクロウェーブニュース』2002年1・2月号より)
私たちの研究は、こうした人体影響に関する最新の研究や各国の政策対応の動向を整理・分析しながら、日本の現状においていかなる政策を打ち出すことが必要でありまた有効であるかを明らかにすることを目指す。自ら実験研究や疫学研究に着手するわけにはいかない場合でも、必要とされる研究課題や望ましい研究デザインを提案することはできると考えている。
グループとして問題を多角的に分析する力を身につけるには、メンバーの間で基礎的理解をいかにうまく共有していくかが肝心だ。私たちは、事前の自習テキストとして『あなたを脅かす電磁波』(荻野晃也、法政出版2002)を選び、この先2~3ヶ月ほどかけて、英国の上記報告書『Mobile Phone and Health』を輪読していくことにしている。それとあわせて、電磁波計測を適宜実施しながら、環境中の電磁波を数量的に把握することのセンスを磨いていきたいと思っている。さっそくこの4月に、多くの図書館の導入されている盗難防止装置(ゲート)の電磁波を計測することを予定している。
昨年の活動成果の一つの集成として、この3月29日に、「東京タワーからの放送電波の強度分布と周辺地域の電磁波リスク」と題した学会発表を行なった(日本金属学会、第0分科会「環境」、発表者は小牧史枝、共同研究者は上田昌文)。その内容は、できれば『どよう便り』次号でお伝えしたい。その他にも、次のような成果物がある。ご関心のある方に手にとってみていただけることを願っている。
★『東京タワーの電磁波リスク 調査報告資料集』(電磁波PJ作成、800円)
★携帯電話問題で上田昌文へのインタビューの記事『月刊 クーヨン』2002年4月号「くらしをひらくEYES」
★小牧史枝+加納誠+上田昌文の共著論文「東京タワー周辺地域における送信電波の電力束密度測定」『EMC(電磁環境工学)』2002年4月号(4月5日発売)
電磁波PJは専門性の高い問題を扱うがゆえに、プロジェクトにはじめて入ろうとする人にとっては敷居が高いように見えるかもしれない。しかし実際はそうではない。私たちの中に誰も電磁波の専門家はいない(専門家たちとのつながりが次第にたくさんでき、いろいろな相談が現実に行なえるようになってきた)。テキストの分担をこなしていくのはなかなか大変だが、やる気のある人なら誰が来ても一緒にやっていけるよう、細大の配慮をしているつもりである。関心と意欲のある方々に参加していただけることを期待している。■

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