プロジェクト報告◆科学技術評価プロジェクト④ 量子化機能素子「評価報告書」を読み比べて

投稿者: | 2002年4月18日

プロジェクト報告◆科学技術評価プロジェクト④
量子化機能素子「評価報告書」を読み比べて
プロジェクトメンバー 尾内隆之
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 春の合宿からだいぶ間があいてしまいましたが、6月22日(土)に、合宿で決まっていた宿題をみなで持ち寄って勉強会を開きました。その宿題は、「量子化機能素子研究開発プロジェクト」について経済産業省が作成した評価報告書を読み比べ、問題点・疑問点を拾い上げるというものでした。また今回から、吉澤剛さんが新たにメンバーとして加わってくださいました。吉澤さんには、この欄を担当するときにあらためて自己紹介していただこうと思いますが、科学技術政策について研究している方で、大きな戦力となってくださるはずです。
●勉強会(6/22)の内容
 6月22日には、その吉沢さんも初参加で2ヶ月ぶりに勉強会をもちました。各自の自己紹介・近況報告と合わせて、最近の半導体研究開発の動向について藤田さんが情報を提供してくれました。現在、当プロジェクトで追っている「量子化機能素子研究開発」は、半導体に関する「国策」であるわけですが、民間の側でもさまざまな企業提携や統合によって国際競争力を再び取り戻そうとしています。競争力低下に対する企業の危機感と悩みは深刻で、そこに官の予算獲得合戦が絡んで巨額の税金が不透明な印象を残しつつばらまかれていく、という構図は相変わらず続いているようです。こうした構図はあちこちにあるはずで、そこに市民の側から風穴を空けていく方策を探り出さねばなりません。
 まず、宿題となっていた「量子化機能素子」評価報告書の比較・分析について、各自の見方をつき合わせて議論しました。メンバーの共通認識として、「評価書」と言いつつも「評価」の体をなしていないことが指摘されました。「評価」の基準や方法 を単純に一般化できないという難しさはあるにせよ、その難しさを克服していこうとする姿勢が何ら伺えない「評価書」には、やはり大いに疑問を感じざるを得ません。その原因には、評価にあたって外部の目を反映させようとする意識の欠如が挙げられ ます。評価部会のメンバーは、もちろん外部の研究者やジャーナリストですが、その発言は、できあがった評価書になると実に無難なところに収束しています。実施主体が評価にあたってもイニシアティブを取る、という「内部評価」の限界は、私たちが 読んだいくつかの評価書からも如実に見て取れます。
 当プロジェクトの進め方については、これ以上「評価書」のみを読んでいてもさほどのアウトプットは期待できないことから、いよいよ積極的に「外へ出よう」という方向になりました。具体的には、研究開発プロジェクトを立ち上げる合意が、どのようなシステムの中で、どのように形成されていくのか、市民にもわかるように見取り図を得たいということ。また、実際に「評価書」がどのような作業手順で、誰の責任の元に「作文」されていくのか、文字だけでは伝わってこない事情をさぐること。この二点を切り口として、関連人物へのインタビューも行おうと考えています。特に、研究開発のテーマがどのような経緯で選ばれるのかは、市民にとって非常に見えにくい部分ですが、外部からの「評価」を考える上では、まずここを把握しなければなりません。〈官僚-研究者〉コミュニティの内幕を、市民にとって有益な形で明らかにする作業に取り組んでいきます。
 もちろん、可能な限り研究開発資金の流れも追いたいのですが、こちらは情報入手がかなり困難と思われ、今後の検討課題となりました(どなたか良い知恵をお持ちの 方、ぜひアドバイスを!)。
●新藤宗幸著『技術官僚』(岩波新書)の紹介
 春の合宿のときにも注目したこの本について、簡単に紹介します(あ、「おもしろブックス」にとっておけばよかったかな……)。この本は、政治学分野でも「コロンブスの卵」と言われています。行政の作用を、官僚の「資源獲得戦略」との関わりで 分析する視点の重要性は、つねづね著者が強調していることですが、技官の役割をこうした視点から分析した仕事はこれまでほとんどなかったからです。「技官の王国」といった言葉はこれまでも聞かれてきましたが、その技官の役割が、具体的に官僚の「資源」拡大戦略の中でどう機能し、公共事業や薬害事件にどう結びついているのかを明快に記述しています。つまり、企業の論理と官僚制の論理に相同性があるとすれば、それはまずもって自己保存・自己拡大への欲求にあるわけで、行政を市民や企業との関わり方のみから批判するにとどまらず、官僚機構のリソース拡大欲求という自律的な面にも目を向けなければ、有効なオルタナティブは提示し得ないことになります(私は大学院のゼミで直接著者の講義を受けたのですが、この点は本当に繰り返し聞かされました)。そして、「技官の王国」を解体していくためには、やはり外部からの評価の目が不可欠で、それを制度として構築していくことを著者は提案しています。その方向を、市民の側からも積極的に肉付けしていくことが求められていると言えるでしょう。土曜講座の皆さんには、ぜひ一読をおすすめします。■
尾内隆之プロフィール
連れ合いとSOHOワーカーとして日銭をかせぐ傍ら、修士論文の準備をする日々です(日本の社会運動と政治の関係について考えています)。最近はそこに「育児」という大仕事も加わり、毎日が東京ディズニーランドのSTAR TOURSのようです。あぁ、目が回る……。

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