特別寄稿 住基ネットってなに?

投稿者: | 2002年4月19日

特別寄稿
住基ネットってなに?
上村光弘
doyou61_kamimua.pdf
今年8月5日、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が稼働を始めました。ほとんどの皆さんの元には、住基ネットに登録された11桁の住民票コードを通知する書類が届いていることでしょう。住民にとっても自治体にとっても便利なはずの住基ネットですが、8月の施工時点より、東京都中野区や杉並区など幾つかの自治体が不参加を表明しました。また、横浜市は住民による選択方式を採用した結果、2割以上の住民が不参加を選択するという事態になっています。いったいなにが問題だったのでしょうか?
住基ネットとは
住民票のことは皆さんよくご存じだと思います。住基ネット以前から、全国の自治体には、それぞれに住民基本台帳データを管理するコンピュータが稼働しています。そのデータには氏名、住所をはじめ、選挙人名簿への登録記録だとか国民年金に関する事項など、14項目にわたる内容が入っています。
住基ネットとは、その14項目のうち本人認証に必要な4情報(氏名、生年月日、性別、住所)とその変更情報を、その市区町村内だけではなく、全国からネットワークを通じてアクセス・確認できるようにしようというものです。住民票コードを元に、全国どこの行政機関からも、この4情報を見ることができるようになるので、従来住民票の添付が必要だった各種申請でその必要がなくなり、行政事務が簡素化され住民の利便向上に繋がると総務省は言っています。
この4情報は、各地方自治体にある台帳管理用コンピュータに直接アクセスして利用するわけではありません。いったん(財)地方自治情報センターにあるコンピュータに全国の自治体から4情報を集約します。利用にあたっては、この集中管理されたコンピュータにアクセスするわけです。これらのデータをやりとりするに当たっては、インターネットではなく専用線を使います。
今のところ、この情報を利用できるのは各種免許の交付など10省庁93事務に限定されています。今後、旅券発給などの事務に拡大してゆくことが予定されています。
一部自治体が離反したわけ
情報公開請求者の身元調査リストを防衛庁が作成していたという事件をご存知でしょうか? 5月末に明るみに出たこの事件により国への信頼はどん底になりました。それまでもジャーナリストを中心として反対の強かった個人情報保護法案が不成立、継続審議となりました。
そもそも住基ネットは個人情報保護法の成立を前提としていた経緯があります。まず、住民基本台帳法によれば、行政内における目的外利用についての禁止はありますが罰則はありません。役人が外部に情報を漏らした場合は、2年以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。しかし、覆水盆に返らずで、いったん流出した情報を民間が利用しても、保護法のない状態ではなんら歯止めがありません(保護法自体の是非は取りあえず保留します)。
また、当然のことながら自治体間でセキュリティレベルに差があります。ほとんどの自治体で問題ないとしても、3300ある自治体のうち1つでも杜撰な管理になっていると、そこから他の自治体の情報も引き出せてしまうわけです。自分のところが大丈夫でも安心できません。
一部の自治体はこういった点を憂慮して離反しました。総務省は、個人情報保護法の必要性を認めつつも住民基本台帳法による保護で十分とし、住基ネットへの不参加は違法であるとの立場です。システム上・法律上も問題山積みにもかかわらず、強行する理由がよくわかりません。なにを焦る必要があるのでしょうか?
個人情報が保護されればOK?
現在離反している自治体は、適切な個人情報保護の法整備等が整えば、住基ネットに参加すると言っています。費用対効果の点で疑問を呈する向きもあるのですが、揚げ足取りみたいになるのでやめておきましょう。
現在のところ、住民が受けることのできる利便は、行政への申請(の一部)で住民票の添付がいらなくなるという点だけです。これだけだとさすがに400億円もかけて作る必要はないと思います。国の思惑としては、住基ネットを基盤として、申請や届け出のほとんどをインターネット経由で可能にしたいというところにあるようです。
また、来年8月からは、住民基本台帳カード(ICカード)を希望者に発行するという計画があるようです。申請手続きなどに使えるほか、自治体の条例で個別に利用目的を追加できるようになるらしい。例えば、施設利用や図書カードとの兼用ですね。素案では商店街のポイントサービスなんていうのもありました。冗談みたいですが。
総務省は、この住民票コードは、いわゆる国民総背番号制(National ID)ではないと言っています。その根拠はあくまで4情報に限っており、あらゆる情報を一元管理するものではないからということなんですが・・・。さて?
いくら大丈夫だと言われても、心情的には図書カードとの併用は思想調査されているみたいでいやですね。もちろん、カード内部では領域をきちんと分けて使うそうです。ほんとかなあ?
◆参考情報◆
1)「緊急特集 憂鬱なるかな住民基本台帳ネットワーク」パソコン批評2002年12月号、マイクロマガジン社
2)「住民基本台帳ネットワークシステム・住基ネット」Mainichi INTERACTIVE インターネット事件を追う、毎日新聞社
http://www.mainichi.co.jp/digital/netfile/archive.html
3)「住民基本台帳ネットワークシステムの構築」、総務省
http://www.soumu.go.jp/c-gyousei/daityo/index.html
4)反住基ネット連絡会
http://www1.jca.apc.org/juki85/index0.html
5)「特集 住基ネット 反対論・離脱論の研究」bizTeck Special 本格的に動き始めた電子自治体、日経BP社
http://premium.nikkeibp.co.jp/biz/e-gov/sp1010a.shtml■

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