早期警告を生かせなかった教訓 ナノテクノロジー

投稿者: | 2013年6月10日

欧州環境省リポート|No 1/2013
早期警告を生かせなかった教訓
ナノテクノロジー

Steffen Foss Hansen(デンマーク工科大学環境工学部上級研究員)
Andrew Maynard(ミシガン大学公衆衛生学部リスクサイエンスセンター教授)
Anders Baun(デンマーク工科大学環境工学部教授)
Joel. A. Tickner(マサチューセッツ大学社会保健・環境保全学部准教授)
Diana M. Bowman(南ア・ノースウエスト大学動物学部教授)
訳注:小林 剛(カリフォルニア大学環境毒性学部元客員教授)

PDFはこちらから→csijnewsletter_018_kobayashi1_201306.pdf

サマリー
ナノテクノロジーは、テクノロジーを原動力とした新しい分野の繁栄に導く最先端技術である。現在および将来のナノテクノロジーの利用は、実質的な社会的および環境上のベネフィット、経済発展と雇用の増加、より低い環境コストによる、より優れたマテリアルの創出、診断および治療などの医学的手法の新しい道をもたらすと期待されている。それにもかかわらず、ナノスケール加工に基づく新しいマテリアルは、ラボラトリーから市場に移動し、我々に過去における「驚くべきテクノロジー」の教訓に学ぶ、あるいは過去の誤りを繰り返すのかを問うている。

本章では、最初に、ナノテクノロジーの紹介、ナノマテリアルの用語解説、これらのユニークな物質の現在の利用状況について述べる。次いで、一部のナノマテリアルの有害影響に関連する早期の警告のサインについて、いくつかの政府の対応を要約した。欧州環境省の「早期警告を生かせなかった教訓」第1版に鼓舞されて、本章では、ナノテクノロジーの未成熟状態にもかかわらず、既にどのような教訓が学ばれたかについて慎重に検討した。ナノテクノロジーの開発は、化学者らと物質開発者らが、デザインにおける健康・安全・環境の懸念を統合することなく、明確なデザインルール不在のまま行われた。「グリーン・ナノテクノロジー」の新興分野では、将来の予防的デザインの重視を約束している。しかし、その実効性を挙げるためには、マテリアルの持続性研究に対して、早期の警告の確認に十分なレベルの研究助成が必要であり、規制システムはより安全な持続可能のマテリアルにインセンティブを与えることは重要である。

政策決定者は、ナノテクノロジーやその他の新興技術の法律制定、研究開発、リスクアセスメントの限界、管理とガバナンスなどにおける多くの欠点に対応できていない。その結果、ナノテクノロジーの分野において、社会的および経済的に十分な対応できる戦略において、予防原則の採択を妨げる開発環境の状態が存続している。もし、これらの問題が解決されなければ、信頼されるナノテクノロジーの発展を保証する社会の能力は失われるであろう。

1. ナノテクノロジー、ナノマテリアルとは何か?
ナノテクノロジーは、物理学・化学・生物学・物質科学・エレクトロニクスなどを含む広範囲の科学およびテクノロジー分野に根底を有すると、それらの特長が述べられることが多い。このように、ナノテクノロジーの範囲は広く、多様な物質・技術・商業的利用と製品を取り扱う [英国王立協会(RS)および王立工学協会(RAE), 2004]。ナノテクノロジーの用語の起源は、1974年、タニグチ(訳者注:東京理科大学の故谷口紀男教授) により、物質をナノメートル (nm) レベルで正確に加工する能力について用いられた(Taniguchi, 1974)。それ以降、この用語は多様な関係者により数十年にわたり内容構成の変更が重ねられ、ナノテクノロジーの定義の統合という願望にもかかわらず、今日その定義には多くの解釈が存在している。現在、我々が用い、広く容認されている定義は、米国の国家ナノテクノロジー戦略(National Nanotechnology Initiative, NNI)において、次の通り示されている:

ナノテクノロジーとは、ユニークな現象により新規の利用を可能とする約1~100 nmの間の物質の解明とコントロールである。ナノスケール科学・エンジニアリング・テクノロジーの周辺には、この長さのスケールにおける物質の画像・測定・モデリング・操作などが含まれる。(NNI, 2009)

化学においては、通常、互いに作用し合う多数の原子および分子を扱う。個々の原子や分子の挙動は、量子物理学ベースの枠組みの中で最も良く理解される一方、物理学の対象の大量採集の原子や分子は、典型的力学あるいはニュートン物理学に十分に述べられた物理的な力の影響下にある。ナノテクノロジーはこれら二つの領域の中間に位置し、その結果、ユニークな新しい現象を発現する可能性を有している。

表現は異なるが、多くの定義には加工マテリアルと見なすには、次の二つのクライテリアを満たすことが求められている。(注2:この文脈におけるナノマテリアルは、ナノスケール構造を有するように意図的に加工された物質を示す。)

● それらは少なくとも一つの次元が約1~100 nmの構造として、ある意図をもって加工されたものであるべきこと。
● このナノ構造は、同一物質のバルク形状と異なるシステム特性を示すべきこと。

その定義は広いが、大多数の物質またはシステムにおいては、それらがナノマテリアルに含まれるか否かについての決定が可能である(Hansen et al., 2007)。

【続きは上記PDFにてお読みください】

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