講演録:赤ちゃんの死へのまなざし  周産期の死をみつめて

投稿者: | 2013年6月10日
シリーズ「語る+聞く リプロダクションのいま」第4回
赤ちゃんの死へのまなざし
~周産期の死(流産・死産・新生児死亡)をみつめて~
講演録
竹内 正人(産科医 東峯婦人クリニック副院長)
2013年 4月 6日(土)光塾 COMMON CONTACT 並木町にて
主催::NPO 法人市民科学研究室・生命操作研究会+babycom+リプロダクション研究会

PDFファイルはこちらから→csijnewsletter_018_takeuchi_201306.pdf

こんにちは、産科医の竹内正人です。今日はこんな風雨の中、会場にいらして頂きありがとうございます。今日の話題に入る前に、僕がこの領域に関心を持つようになり、携わるようになった経緯について少し話をさせてください。

1987年、昭和62年に僕は大学の医学部を卒業して産婦人医になりました。ここ最近、産科医は、昼夜関係なく大変なわりには、何かがあれば訴えられたりで、報われないと、なり手は少ないのですが、僕らの時代は、別の理由で産婦人科を選択するものは少なかった。団塊世代の多産多子から少産少子、少子化時代をむかえ、産婦人科医がだぶつくようになったためです。産婦人科を開業している先生たちは、これからは産婦人科では食べてゆけなくなるので、子息が医学部に進んでも産婦人科医だけにはなるなと言っていました。実際、多くの産婦人科医院が閉鎖されました。学生の時は、将来は外科医になりたかったんですけど、当時の外科は花形で、100人のうち、20人位が外科に行っている時代、そんな所に行ってもなぁ、っていう気持ちがありました。産婦人科という選択は、最初はまったくなかったんですが、なり手がいなかったこと、臨床実習で産科はあたたかい感じがしたこと、昔から途上国にいって子どもたちを助けるような仕事をしたいという思いがあって、産科でも赤ちゃんも見ることができるだろうと、急にその選択肢が浮上してきて、えいっ、と決めてしまった。

僕の家はサラリーマンだったので、両親としてみれば、頑張って息子を私立の医学部に入れたんだから、医師になったら自分たちのことを看てくれるだろうという期待があったんと思うんですけど、産科に行っちゃった…なんて、相当がっかりしてた記憶があります(笑)。

産科医になってみると、「待ち」の時間がすごく長いんですよね。医者になったら、バリバリ働いてっていうイメージがあったんですけど、お産はとにかく「待て」でした。しかも何をするにも先輩の後ろについて、ただ見ているだけ。お産がない日もあるんですが、いつ何が起こるかわからないから、他の医局は遅くても21時~22時頃には仕事を終えて、飲みに行ったりしているのに、自分はずっと病院に居なきゃいけない。この生活って何なんだろう…みたいな感じでした。ただ、医療的なことを少しずつできるようになって、実際に患者さんを担当するようになると、だんだん面白くなってきましたね。気持ちも大きくなって、全ての女性を、すべてのお母さんと赤ちゃんを救うんだなんて・・・若かったですし、自分が産科を選択したことを正当化したかったのでしょう。今思うと少し恥ずかしいですが。毎日、かなり熱い思いをもって過ごしていました。

医師になったという事は、「救う」、「助ける」でした。研究して新しい器械を発明してとか、効率的な搬送システムを整備して、何かあった時は、地域や小児科の先生と協力して、すべての命を救うんだみたいな感じでしたね。医師が医師になっていくプロセスってそんな感じですよね。ですから、赤ちゃんが亡くなる時のケアとなんてとても考えられなかった。救わなければいけないんだから、そんな意識もなかったしね。そうした概念を教えてくれる授業も、医学部にはなかった。医者になった最初の2年間で、僕が研修医から専門医になっていったプロセスの中では、亡くなった命、その家族を慮る医者になるってことは、それぞれの良識を働かせて、勝手にやってくださいという感じだったんでしょうね。

患者さんは、ひとりひとり違う人間なのに、そうした個別性は無視して、すべてできるだけ客観的に見るのが医療という感じでした、今で言うエビデンス(根拠)ですよね、経験や、その人なりのという個性には目をつぶり、きちんとした根拠があって、それに基づいて医療を行使し、ひとつでも多くの命を救っていくんだという、科学的といわれる考えやアプローチですね。なので、出来るだけ検査をたくさんして、より多くの情報をもって、それを分析し、皆でカンファランスし、話し合って方針を決めていました。考えてみると、そこにはお母さんや、家族の思いっていうのはなかったですよね。

【続きは上記PDFにてお読みください】

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