光触媒のナノ粒子放出によるリスク

投稿者: | 2013年7月20日

光触媒のナノ粒子放出によるリスク-環境医学的考察-
小林 剛(カリフォルニア大学環境毒性学部元客員教授)

PDFはこちらから→csijnewsletter_019_kobayashi_03_201307

1.光触媒の光と影 ─安全性に懸念─
光触媒の有用性については、その先進的技術による広範な用途が高く評価され、その製品は日本のみでな<、世界的にも広く販売され、知名度は極めて高い。しかも、それが日本発のイノベーションであることは、日本人としての矜持を触発させる快挙であるといえよう。
しかし、光触媒のマイナスの側面については、かねてより、内外の識者らから、その材料物質である二酸化チタンナノ粒子類によるEHS(環境・健康・安全)リスクの問題が提起されてきた。特に、その経年変化による光触媒の分解/摩耗/剥離などの品質の劣化および性能低下のほか、さらに重視すべきナノ粒子類の環境中放出がヒトの健康や生態系に有害影響を与える懸念は、その分野の研究の進展により高まりつつあった。

これらの危惧に対して、研究開発・製造者は、プラス面の性能向上には極めて熱心(やや滑稽なほど)であったが、「粒子類の放出については、光触媒は膜状態化されているので心配はない」と強調し(裏付けテストの実施の有無は不明)、楽観視していたようである。

2.光触媒はナノ粒子を放出する
ところが、先般、欧州の有力研究機関TECNALIAの環境部門(大規模で高度の研究能力で知られ、研究者約1,350名を擁するとのこと)からの研究報告で、光触媒の劣化促進実験装置により、セルフクリーニングガラスの有名ブランド「ピルキングトン・アクティブ」(日本板硝子の特許ライセンス製品、英国およびイタリアにて販売)と実験用コーティングから二酸化チタンナノ粒子類の放出の存在を検出し、世界初の重大な事態がクローズアップされた。堅牢であると信頼されていたナノフィルムが、意外に脆くて危険なことが判明した。本論文は、触媒化学の専門誌「Applied Catalysis B: Environmental」(2012年7月23日)に発表されたが、この画期的な成果により、性能低下のほか、自然環境、ヒト、野生生物、植物への影響についての我々の長年にわたる危惧が顕在化するに至った(付属資料1、2)。
今後、これらの新知見発見を契機として、触媒化学の周囲をめぐる環境生物学や生態学を含む科学分野において、光触媒応用の種々の製品の有用性と安全性についての本質的な論議が盛り上がることを期待したい。(本文中の図参照)

セルフクリーニングガラス「ピルキングトン」のベネフィット
●魅力的なブルーカラーは、素晴らしく美的な最適の性能を提供します
●優れた光線の透通性と、ソーラーコントロールの組み合わせです
●日光と雨水により、ガラスの表面から有機性の汚れを分解し洗い流します
●曇りの日も、夜間でも機能します
●Pilkington ActivTM のコーティングは、ガラスの寿命の限り有効です
(今回の研究結果から言えば「誇大広告?」)
●外部反射を減らし、温室を美しく見せます

光触媒より放出されたナノチタン粒子類の電顕像(Basque Research提供)。多数の遊離状態の微小サイズの球状ナノ粒子により構成され、凝集/疑結状態は認められないため、その影響マグニチュードは比較的高いことが憂慮される。さらに排出実態の十分な検討とその効果的な防止対策の開発が必要。(本文中の図参照)

光触媒のリスクは、金属としての二酸化チタンと、バルク状物質とは著しく異なるナノサイズの形状による物理/化学/生物学的特性の活性化発現の両面から派生している。さらには、その分解遊離後の挙動などについて、物質化学や物質物理学(material physics)的検討により、最強の吸入毒性を示す分離単体一次粒子(free crystal)/結合力の強力な一次凝結粒子集合体(aggregate)/結合力の弱い二次凝集粒子集合体(agglomerate)などの構成状態の変化について、化学的/物理的条件(気温・湿度・共存大気汚染物質・照射光線など)と時系列的変化などの研究が不可欠である。
セルフクリーニングガラスのメーカーは、発売以前に、自社内で劣化確認実験を行い、先手を打っておくべきであったにもかかわらず、これらの一連の実態を解明した報告は見当たらず、このような事態に至ったのは、製品の先進性の点からも残念である。これは光触媒の有用性の「盲点」乃至「陥穽」ともいうべき、早急に解決すべき重要課題であろう。

種々の用途に用いられる光触媒材料から放出されたナノチタン粒子類は、塗料として施工された建築物などから、風雨による劣化分解により、土壌や排水路を経て下水処理場において処理され、汚泥肥料として、畑地での農作物として、食物連鎖により人間の食卓に至り、種々の有害影響が推定される。この問題については、先に、筆者発行の環境医学ニュースレター「農作物のナノ粒子汚染」(2012-09)および「ナノチタン粒子の生態学的影響」(2012-10)として報告した。
最終結末として憂慮される生態系への影響についての一般的な参考文献として、筆者訳注の「加エナノ粒子類物質の生態毒性」(Wiley社刊:「ナノ素材の毒性・健康・環境問題」Oberdorster博士らによる名著)を添付したので参照されたい(参考資料)。

【続きは上記PDFにてお読みください】

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