ドイツ環境省報告 二酸化チタンナノ粒子の環境中挙動

投稿者: | 2013年7月19日

ドイツ環境省報告
二酸化チタンナノ粒子の環境中挙動

翻訳&訳注:小林 剛(カリフォルニア大学環境毒性学部元客員教授)
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1.Introduction
加工ナノマテリアルは、多くの日用品に利用されている。2006年以降、その製品における利用は521%の増加を示し(ウッドローウイルソン・データベース2011)、将来における用途の成長が予想されている。これより、これらのナノマテリアルのライフサイクル期間中における環境およびヒトへの暴露が想定されている(Kaegi et al., 2008, 2010)。環境媒体へのーつの経路は、例えば下水処理プラントによる直接的あるいは間接的な排出を介した水生・底質・土壌生態系への放出である。
放出後の環境中における最終結末や挙動についての情報は、依然として不足しているが、リスクアセスメントの重要性について、最近の研究は、ある種のナノマテリアルは毒性の可能性を実証している(Oberdorster et al., 2004, 2006, Poland et al., 2007, Hund-Rinke et al., 2006)。
化学物質の影響分析については、多くの標準化されたテスト方法が存在し、その結果はリスクアセスメントに用いられている。OECDの化学物質についてのテストガイドライン(TG)は、国際的に調整されて受容されている標準の例である。ナノマテリアルは、バルク物質あるいは化学物質と比較すると、異なる挙動を示すことがある(Tiede et al., 2008, Nel et al., 2006, Burteson et al., 2004)。従って、ナノマテリアルのテストにおいては、これらのTGの適用性について慎重なテストと評価を実施すべきである。必要であれば、ガイドラインの特異的な修正に同意すべきである。
二酸化チタンナノマテリアルは、多くの種々の製品に広く用いられ、それらの製品からの流出はKaegiら(2008)あるいはHsu&Chein(2007)などにより示され、白色色素あるいは塗料・紙コーティング・プラスチック類・サンスクリーンなどの消費者製品として、莫大な量が使用されている。工業的用途には、セルフクリーニング・コーティングのほか先進的下水処理や大気中のNOx除去などが含まれる。上述の用途の一部においては、水生環境への放出が誘発され、下水および土壌への流入が予想される。
本研究においては、3種類の官能化および非官能化ナノマテリアル(P25、PC105、UVチタンM262)が対象とされ、これらのうち、P25はラボラトリー下水処理プラント、PC105とUVチタンM262は土壌媒体においてテストされた(表1)。
●OECD-TG 303A:シミュレーションテスト ー 好気性下水処理:活性化汚泥ユニット
●OECD-TG 312:土壌カラム中の浸出
●OECD-TG 106:吸着/脱着 ー セット平衡方法の利用
これらの物質が環境媒体に進入する際に最も可能性の高い経路のシミュレーションに用いるため、ナノマテリアルを水中において懸濁させた。また、これは均質性と、比較し得る条件の発生と利用の可能性を示す。本研究においては、水中における粒子サイズについては、実際的な最悪のケースを想定して、より大きな凝集体による干渉を最小化するため、平均250 mn以下のナノマテリアル懸濁液が採用された。この懸濁液の安定性は、凝集体のサイズ分布と、懸濁液中のゼータ電位(訳者注)の側定のほか、目視による沈殿の観察によりテストされた。24時間以内での変動が10%以下の懸濁液は安定と決定された。
訳者注:ゼータ電位とは、固体と液体が相対運動をするとき、個体と密着して動く層(固定層)の最外面(滑り面)の電位と液体内部の電位の差をいう。
以下のセクションは、得られた結果の提示と考察である。
●異なる環境テストに対する懸濁液の調製および特性解明
●サンプル中のチタン分析方法の開発・立証・信頼性確認
●以下の項目における各TGについての、独立したテストの実用化・分析・データ評価を含む環境テスト:
・下水処理湯
・土壌洗脱
・土壌吸着
●検討されたOECD-TGに対する勧告
2.OECD-TGに対する勧告
下水処理プラント(Sewage treatment Plants:STPS)におけるナノスケール粒子類の最終結末と挙動は、それらの環境リスクアセスメントにとって決定的に重要である。そのため、3件のOECD-TGについて、それらのナノマテリアルに対する適用性がテストされた。次の3節は、これらのTGに対する我々の勧告の要約である。
今後のすべてのTGにおいては、ナノマテリアルに対する適用性が問題である。懸濁液に適用する際の標旗的な分散プロトコールについて、広範なテストと開発が行われ、その結果、次の勧告が行われた:
pH、イオン濃度その他の僅かな変化が、懸濁液の安定性に対する著しい影響を生じさせるであろう:
・調和蒸留蒸留水(harmonised distilled water)を含む不純物のない溶液を使用すべきこと。
・すべての偏差を記録すべきこと。
・適切な分散操作(振盪・攪拌・音波破砕)を選択すべきこと。
・最低レベルでの懸濁液安定性の評価は、沈降の観察とサイズ分布測定に基づく。
・懸濁液のサイズ分布を報告すべきこと。
・TGにおける適用との関連を検討すべきこと。
同一のテクニックと懸濁媒体の適用および上記のクライテリアに基づく連続テスト(round robin test)は、ラボラトリー間の十分な比較性を示す。本テストにおけるナノマテリアルの粉末の採用については、特異な勧告はなされていない。
2-1.OECD-TG 303A「好気性下水処理のシミュレーションテスト」のナノスケール粒子類のテストに対する適用性
ラボラトリー下水処理プラント(LSTP)の利用は、下水処理プラント(STPS)におけるナノ粒子類の最終結末と挙動を評価する選択の一つであるが、今日までにナノマテリアルの適用性について得られているデータは少ない。そのため、OECD-TG 303A(2001)のシミュレーションテストがナノスケールTiO2を用いて評価された。
訳者注:OECD-TG 303A 好気性汚泥下水処理(要約):
本TGでは、好気性汚泥下水処理における2件のシミュレーションテストを扱っている。
本テストの活性化汚泥ユニットは、活性化汚泥システムにシミュレートした継続的運用テストシステムにおける好気性微生物による水溶性有機化合物の除外と、一次および最終生物学的分解を測定するようにデザインされている。二つの継続的に運用されるテストユニットは、同一条件で操作される。通常は、水中滞留時間は6時間で、汚泥の平均年齢(mean age)は6-10日である。汚泥は1-2種類の方法で消費され、テスト物質は通常10~20mg/lの溶解有機炭素(DOC)濃度において、ユニットの流入物に負荷される。第二のユニットは対照として用いられる。DOCと化学的酸素要求量(COD)は、テスト物質を含むユニットからの流出物において、特殊分析により、テスト物質の濃度と共に測定されるのが望ましい。
バイオフィルム(訳者注)においては、合成および家庭下水に対して、テスト物質が夾雑物として、あるいは単独で、緩慢回転傾斜試験管の内部表面に負荷される。試験管からの流出物は収集され、DOCあるいは特殊方法によるテスト物質分析の前に沈降あるいは濾過される。
対照ユニットも同一条件で並行的に運用される。
訳者注:バイオフィルム(biofilm)とは、身近な例としては、歯垢や台所排水口の「ヌメリ」などがある。これは環境中のあらゆる場所に存在し、それらの内部と外部では、微生物の生息密度が異なり、例えば、水中では数百から数千倍の差がある。バイオフィルム内には、嫌気性および好気性細菌はもとより、原生動物や藻類など多種多様な生物が生息しており、自然界における物質の転換や浄化作用などに深く関与している。基質に付着した細菌が細胞外多糖質(EPS)を分泌し、バリアや移動経路の役割を果たし、環境変化や化学物質から内部の細菌を守る。これらの作用により、生息密度の高い閉鎖的なコロニーが形成され、恒常性が保持される。
テストおよび対照のユニットからの流出物中のDOC/CODの濃度差は、テスト物質のためと想定される。この差異は、テスト物質の除去を算定するため、追加テスト物質の濃度と比較された。生物学的分解は、通常の場合には、除去一時間カーブの慎重な検討により明確に認められるであろう。
その結果として、下水処理プラントの効率についてのOECDガイダンスは、ナノスケール粒子類の評価に理論上適用できることを示した。このTGは、問題への適用デザインの改善に十分な余地を備えている。しかし、得られた結果の比較性と評価性を可能にするためには、ナノマテリアルに特異的な特定のクライテリアを設定すべきである。
●本テストは、活性化された汚泥に対するナノマテリアルのインパクトを評価するため、大多数のテクニカルSTPのように硝化状態において実施すべきである。ここでは、最も感受性の高い活性化汚泥の中に硝化バクテリアが存在している。このため、関連データの記録が勧告されるべきである。
●一次沈殿・脱窒作業のような生物学的下水処理や、その他の段階を含む明確な記述を行うべきである。浄水器からの流出水は、このシステムでは類推できず、ナノマテリアルにより影響されるのであろう。
●再現テスト条件を得るためと、ラボラトリー間のより良い比較性を達成するため、水道水の代わりに、合成飲料水(Synthetic Drinking Water: SDW)の使用が勧告される。
●ナノスケール粒子類の用量は、粒子類の凝集を避けるため、有機合成廃水とは別に行うべきである。適切な分散液の採用が勧告されるが、その処理プロセスヘのインパクトを評価すべきである。
●テスト前における分散液のインパクトの測定は容認され、基準のLSTPユニットも、テスト  LSTPユニットと同一濃度の分散液により運用される。しかし、浄化効率への分散液のネガティブのインパクトは、テスト全体の信頼性を減殺するであろう。
●流出水中の濾過可能土壌の測定は、分散液の影響を知るための追加的ツールをもたらすため勧告される。さらに、流出水中のナノスケール粒子類の特性と分配について、濾過可能土壌の吸着の有無を知るため、少なくとも指示的分析(indicative analysis)を実施すべきである。
●その後の化学物質についての主要なサンプリングポイントには、LSTPの流失水の後の活性化汚泥が含まれる。問題のナノマテリアルの全体のバランスの算定は、精度管理として勧告された。OECD-TG 303 Aには、そのようなバランスおよび達成可能の回復レート算定の原則を述べるパラグラフを含めるべきである。質量バランスの可能性が確立されている限りは、水に難溶性あるいは蒸発性のテスト物質に対するOECD-TG 303Aの付属条項Ⅲにおいて言及すべきである。OECD-TG 314「廃水中に排出された化学物質の生物学的分解性評価のシミュレーションテスト」は、質量バランスの記述の例として有用であろう。
→我々は、上述の諸点を、OECD-TG 303Aをナノマテリアルに利用する際に追加することを勧告する。この追加について、我々は、ナノマテリアル、特に二酸化チタンへの適用可能のテストガイダンスであることを見出している。
2-2.OECD-TG 312「土壌カラム中における洗脱」のナノスケール粒子類のテストに対する適用性
OECD-TG 312は、ナノマテリアルに特定した化学物質の環境中の移動についての情報を得るため、土壌カラム中における可動性をテストしている。我々は、OECD-TG 312はナノマテリアルの挙動評価に理論上適用されることも見出した。このTGは、一連の提案された改善を可能ならしめた。適用の一部の段階では、確かに困難が発生したが、その適用は以下の点で考慮すべきである:
訳者注:OECD-TG 312 土壌カラム中における洗脱(要約):
本テストガイドラインにおける方法は、攪拌された土壌中における土壌カラムクロマトグラフィーに基づいている。測定には次の2種類の実験が行われた。(ⅰ)テスト物質の洗脱ポテンシャル(ⅱ)コントロールされたラボラトリー条件下での土壌中の移動産物の洗脱。
乾燥空気入の、物質負荷のない、ふるいにかけた土壌(2mm以下)を詰めた約30cmまでの高さの、少なくとも2本の洗脱カラムが準備された。次いで、それらは「人工雨水」(artificial rain)の液で満たされ平衡状態とし、排出されるに任せた。その後、各土壌カラムの表面にテスト物質(水や土壌中で揮発性でない)と、テスト物質の中古(aged)残留物が負荷された。土壌カラムと洗脱液に適用された人工雨水は収集された。洗脱プロセス後に。土壌はカラムから除去され、本研究に必要な情報に応じて、適当な数の区域に区分される。本洗脱実験には標準物質(アトラジンまたはモニュロン)(訳者注)を用いるべきである。各土壌区域および洗脱区分については、テスト物質、生成産物、非袖出物、もし含まれる場合には標準物質などについて、当初の適用量を%として記述すべきである。
訳者注:アトラジンはトリアジン系非ホルモン型移行性除草剤、モニュロンはフェニル系除草剤。
●土壌の選択
●濃度と検出
●ナノマテリアルの適用
土壌の選択
本TGにおいては、pH値・構造・有機成分について、土壌選択におけるいくつかのクライテリアが示されている。しかし、それらの水分浸透性についての限度は定められていない。本研究では、背水土壌(backwater soil)(Gleyic Podsol A04)が用いられているが、水の重量による不十分な浸水による困難を生じさせている。適用された吸引力がこの問題を解消すると、化学物質の流出を誘発させる。土壌中での化学物質の移動は、カラムに沿ったTiO2の沈着により見られるように、不運なことに、この移動は主としてガラスカラム壁を伝って起こる。
→我々は、重量による水の移動を可能にする土壌カラムテストにおいて、正常から低レベルの滞留性能のタイプの土壌の使用の限定を勧告する。もし、他のタイプの土壌が採用された場合には、吸引力の助力を必要とし、すべてのデータは、土壌カラム壁に沿った移動について慎重に評価すべきである。
濃度および検出
本ガイドラインにおいて決められたテストで適用された物質の用量は、すべての単一区域における0.5%の最低レベルでの検出を可能にするには多量であった。その代り、この用量は勧告された最高使用レート、実際の暴露濃度(単回適用)と一致するであろう。
後者の勧告は、環境中における追加的な、人工TiO2ナノマテリアル濃度の情報が得られないためフォローできない。1.3μg/kg*a付近の土壌中の人工Tiの増加を予測するモデル濃度(Gottschalkら、2010)のみが利用可能である。下水処理プラントの汚泥を負荷された土壌では、約89μg/kg*aの増加が予測されている。対応する土壌濃度は、バックグラウンドのTiの高濃度と必要とされる検出限界を考慮すると、土壌カラム実験に用いることはできない。
土壌カラムのすべての区域における負荷Tiの検出を確実にするため、平均分散の推測に基づき500mgTiO2が用いられた。これは、土壌カラムに負荷された100mLのストック懸濁液の5g/Lの濃度に相当する。この物質の使用濃度は移動性に影響(凝集体と濾過の増加、孔の目詰りなど)を及ぼすと想定される。
→我々は、異なるナノマテリアルをより良く比較するため、テストシナリオを明確に決定するよう勧告する。ここで選択されたTiO2の場合は、比較的高濃度のワーストケースで、高度の凝集体形成と孔詰りを誘発する可能性がある。もし、著しく低濃度の他種のナノマテリアルが用いられた場合には、より速い移動速度が測定されるであろう。従って、ナノマテリアルのテスト土壌カラム中における濃度依存性の影響についての情報が必要である。
→我々は、テストデザインにおいて、より低濃度の懸濁液とより長い期間による、より現実的なシナリオのシミュレーションの適用を勧告する。
→我々は、高濃度のサンプルにおけるテストを行うには、溶出液の異なる分別部のサンプリングを勧告する。
→我々は、高濃度の他の物質が存在する媒体においてナノマテリアルを検出するため、流動場分析と質量分析計を組み合わせたFFF-MS、あるいは表面励起ラマン分光計を組み合わせたSERSのような、溶出駅におけるその他の検出方法を用いた一部のテストの詳細を勧告した。しかし、これらの検出方法は高価で、この詳細な方法は、主として方法評価の目的において実施すべきである。検出方法についての、さらなる情報はTiedeら(2008)において見出される。
→エネルギー分散型走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)は、分離されたTiO2凝集体および微量のTiとそれらの形状を検出するツールとして有用である。
ナノマテリアルの適用
土壌カラムに対するナノマテリアルの適用方法については、特段の勧告は与えられなかった。
本研究においては、その物質は環境への進入経路に模して懸濁液の形態により、土壌カラムに適用された。懸濁液の利用は、適用された粒子サイズ分布の再現条件を可能にする。懸濁液の均質な適用が保証される一方、乾燥粉末による再現可能な均質性は課題である。現状では、未だ土壌区分と乾燥粉末の事前混合も用いられている。

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