【書評】 『核拡散』

投稿者: | 2008年8月18日

書評 『核拡散』 川崎哲 著(岩波新書 2003年)

 国際法違反の戦争を支持することを「国際貢献」と言いくるめ、その是非を国民に問うこともなく自衛隊はイラクに派遣された。疑いなく日本の国防の転換点になるだろうこの事態をいかにとらえるべきか。米国追従路線のもとに戦争への加担や自身の軍事化をすすめることが何をもたらすのか――今ほど真の安全保障のあり方を真剣に議論すべき時はない。時宜を得たこのコンパクトな一書が世に現れたことを私たちは見逃してはならない。

 国際的な安全保障の要は、核拡散をいかに防止するかであろう。米国はその脅威(大量破壊兵器の所有の可能性)を声高に唱えることでイラク攻撃を正当化した。しかし当の米国はどうか。ブッシュ政権は包括的核実験禁止条約の批准を拒否し、核不拡散条約の無期限延長に際しての「非核兵器国への核攻撃を行なわない」という約束を踏みにじっている。 小型核兵器(「使える核」)研究の解禁、地中貫通型核爆弾(「核バンカー・バスター」)の開発、ミサイル防衛関連予算の増額(日本も本格導入を決定)……と、国際条約に基づく軍縮のプロセスを崩壊の危機にさらしている。著者が明確に指摘するように、日本は「自らの安全保障のためのとしてアメリカの核兵器に与えている役割を縮小させる義務を、国際条約上負っている」にもかかわらず、”日本が必要とするアメリカの核抑止力を減じてしまうような核軍縮要求は賛成できない”という惰性的な立場をとるばかりだ。

 著者は核軍縮のための国際会議や対政府交渉の歩みを簡潔にふり返ることで、国際条約の持つ意義を明らかにし、それをとおして米国や日本のスタンスの問題点を照らし出す。丁寧に事実を追うことで自ずから浮かび上がる説得力がここにはある。北朝鮮敵視とともに台頭してきた核武装論に対しても「こうした無責任な言論に引きずられて、国内的な論争点を”核武装か、非核の堅持か”といった低水準のラインに設定してしまうことは、大きな誤りである」と断じているが、これもNPOの一員として国際交渉の場に関わってきた著者の経験によって、建設的な議論のありどころを察知できるからこそであろう。

 では、軍縮の風をどう起こすのか。著者が重視するのはすでに実績をもって示されている新しい多国間交渉の方法論であり、軍縮において日本がとるべき国際的なイニシアティブの方向性である。前者は「新アジェンダ連合」に代表される。対人地雷全面禁止条約を実現させた「オタワ・プロセス」の核兵器版とも言うべきもので、中堅8カ国がNGOとの連携をも生かしつつ、2000年の核不拡散条約再検討会議において核兵器国に「核廃絶の明確な約束」を誓約させることに成功した。後者は「東北アジア非核地帯宣言」が眼目だ。日本、韓国、北朝鮮の3ヶ国が共同で非核地帯条約を結び米国、ロシア、中国の3つの核兵器国からの安全の保証を取り付けること狙う。軍縮の実りある議論と行動が、本書が提起するこの2つの論点から開かれてくることを期待したい。■
(上田昌文、『週刊読書人』所収)

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