市民研「低線量被曝研究会」主催
市民科学談話会「原発避難と生活再建を考える」
2014年4月21日実施
講師: 山下祐介さん (首都大学東京准教授)
市村高志さん (「NPO法人とみおか子ども未来ネットワーク」理事長)
PDFファイルはこちらから→csijnewsletter_025_yamashita_ichimura_20140701.pdf
福島第一原子力発電所の大事故から3年が経過しました。10万人を超える多くの人々が避難を強いられるなかで、3年という時間によって、県内と県外、家族、地域社会の間に生まれた分断や軋轢が複雑な様相を示すに至っています。政府がすすめている「帰還政策」がほんとうに人々のためになるのか、被災地の再生につながるのか、そうでないなら、その原因は何か、打開策はあるのか……私たちは今一度、この原発事故が何をもたらしているのかを根底から考えてみたいと考え、『人間なき復興 原発避難と国民の「不理解」をめぐって』(明石書店2013年11月)を共著で書かれた三人のうちのお二人に話題提供をしていただきました。
山下さんと市村さんのお話を簡潔にまとめた報告をここに掲載いたします。
はじめに
山下さん:
2011年震災直後に富岡町が郡山のビックパレットに避難。首都大学東京の大学院生から声をかけられたのがきっかけで、富岡町役場と交流ができて、8月くらいに市村さんを役場の職員に紹介された。
「とみおか子ども未来ネットワーク」は、富岡町のPTA役員を活動母体とした住民団体。市村さんが代表。2012年の2月11日に活動をスタートした。2011年の夏から、市村さんら全国に散らばったPTAの役員十数人の方にインタビューをした。インタビューを行ったのは、2011年の6月に立ち上げた社会学広域避難研究会・富岡調査班。とみおか子ども未来ネットワークで8回、タウンミーティングを郡山、いわき、東京、埼玉、新潟、横浜などで行い、私たちがそのお手伝いをした。最終的には2013年2月に、とみおか未来会議を行った。町民と当時の町長、議長(現町長)の間で、警戒区域の解除の時期だったので、解除の意味、どういうことが起きるのかを2時間くらいかけて議論した。社会学者の目から見ると、議論を通じて役所と住民の壁が氷解していく一つのきっかけになった。
この本「人間なき復興」は3人で丸4日間、昼夜を徹して話し合ったテープの内容をまとめたもの。今日は、その本を頭からどんな内容かを紹介する。原発避難当事者の論理を作ってみようと思い形にした。
本のサブタイトルに「国民の不理解」という奇妙な言葉を使っている。理解はされているけれど、これは理解じゃないという理解をされてしまっている。「理解にあらず」ということが、非常に頻繁に起きている。たとえば帰還政策について。当初、「帰りたい」、「早く帰してくれ」と確かに言っていた。これも一つの不理解。確かに「帰りたい」と言っているが、「帰りたいんだけれど、帰れない」。矛盾しているけれども、一貫している。
「帰りたい」というところだけ、つまみ食いされている。そこだけで政策が進んでいく。政策を進めていく人にとっては、それが一つの正義。みなさん、関心がある分、自分で勝手に理解してしまって、そのことが理解をかえって難しくしてしまっている。国民の不理解が深く関わっていまの事態ができていて、国が単純にこの原発事故を終わらせて、原発推進したいから帰還政策ができているとは、あまり僕は思っていない。特に国民世論が深く関わって政策ができていると理解した方がよく、不理解を理解に変えていくのが一つの解決の道筋と考えている。
第1章「不理解」の中の復興
1.理解が難しい問題
山下さん:
第一章には、「多重のダブルバインド(二重拘束)」という言葉が入っている。例えば、「年間1mSvは危険か」という問題。そう言っている専門家を僕も最初、被災者にとって味方だと思っていたが、結局、あの日あの場所にいた方は大なり小なり被曝しているので、被曝した以上、「あなたの身体はもうだめですよ」ということにつながりかねない危険性を持っている。そうすると、20mSvでも安全、100mSv被曝してもたいしたことないと言ってる方が、被災者にとって実は味方かもしれない。とはいえ20mSvで安全だから帰りなさいと言われても帰れない。帰還政策として20mSvが使われてくると、被災者にとっては苦しいものになってくる。帰還者にとっては1mSvで危険だと言われても、100mSvで安全だと言われても困る。帰るということになると、1mSvで危険だということで議論しなければならない。かと言って、1mSvでものすごく危険かというとそんなことはない。子供たちはちゃんと結婚できるし、普通に生活していいんだよということになる。で、20mSvでも100mSvでも、そんなにたいしたことないんだよ、と言わなければならない。ダブルバインドとは、そういうこと。
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