2014年8月25日 ワークショップ報告
食習慣の『非』科学:食生活から自分を振り返る
吉澤 剛(市民科学研究室・理事)
PDFファイルはこちらから→csijnewsletter_027_yoshizawa_20141027.pdf
京都は言うまでもなく独自の食文化が発展し、そこに住む人、訪れる人たちはさまざまなこだわりをもって食を楽しんでいます。また、仕出し弁当や外食が盛んで、和食ばかりでなく、世界各国の料理がしのぎを削る地でもあります。市民研では2014年8月25日、その京都で食に関するワークショップを開催しました。タイトルはその名も「食習慣の『非』科学:食生活から自分を振り返る」として、みなさんがふだん食べるものをどのように決めているか、その「決め方」に注目した話し合いを行いました。
当日の参加者は全部で7名とこぢんまりした集いでしたが、京都大学の吉田泉殿というお屋敷の掘りごたつ式の大きな居間という素晴らしい空間も手伝って、ふだんなかなか出合えない人たちによる、ふだんなかなかできない夜話が繰り広げられました。参加者募集をNPO法人京都カラスマ大学に手伝っていただいたこともあり、幅広い世代交流や生涯学習に関心の高い熟年層が中心となりました。食をテーマにしているため、食への関心が高い人が多かったのは驚くべきことではないものの、その経緯が一様でないことが実に興味深いです。海外駐在が長く、レンジフードやファストフードに囲まれた世界などを目の当たりにして日本食に関心を持ったという方や、病気をきっかけにしたという方、そして原発事故に大きな影響を受けた方まで。これら男性が自分の健康や社会の変化によって食に対する意識が高くなったと告白する一方、女性参加者からは子供や親の健康や嗜好への配慮、また公教育としての食育としての必要性など、自分以外の家族や公共圏への視点が提示され、単純化したジェンダー論は禁物とはいえ、議題の構図が鮮やかな対比を見せていました。上田さんが食に対して若い頃から「本当にいいもの」をインプットしておかなければならないという発言に賛同し、多くの参加者から原体験や文化としての食の大事さが語られました。いわく、昔は大鉢をみんなで食べるというスタイルは、食事という家族一緒にいる時間を大切にするあらわれである。逆に、海外では皿に取り分けるのはマナー違反だが、外食などで食べられない分は持ち帰りができることはよい。また、魚や肉など食べられるために調理されている生きものはなるべく残さないようにしているという方もいて、海外のような宗教的な菜食主義者ではないものの、日本的な死生観・自然観があらわれた意見のように感じられました。
もう一つ面白いやり取りとして、食に対して余裕を持てる男性参加者に対して、女性参加者からは、ふだん時間に追われており、お金がないとなかなか理想の食生活は実現できないとチクリとしたコメントがありました。これに対して上田さんは、お金や時間をかけなくてもほどほどに美味しくきちんとしたものはできると述べ、いくつか実例を挙げました。ただこれは、一人の男性参加者に言わせると「5分でいいから運動して」というのと同じだそうで、その大切さや楽しさが実感できないと食も運動も気を向けることがおっくうになるのだろうと感じます。そこで欠かせないのは美味しいものを自分で作れたという体験や、さらに自分で完結するのではなく人に食べて喜んでもらうという体験でしょう。そこまでできないとおっしゃる御仁でも、食への関心を高めるために、外食先を新たに開拓し、自分の食べたものや感想といった記録を取ることや、身の回りの人から美味しい飲食店や食材についての口コミを得ることなどでもいいかもしれません。とかく外食・中食産業が隆盛を極め、食に対する情報がスマホやケータイで容易に手に入るようになった現代だからこそ、少しの手間ひまをかけて料理をしたり食の情報を得たりすることが貴重な体験になりつつあります。食べることは単に栄養を摂取することではなく、食材を生産する人や調理する人との直接的・間接的なコミュニケーションであり、食体験や食文化を通して自分のルーツを確認する行為でもあります。きっかけは自分の健康でも社会の変化でも家族でも公教育でも構いません。ただ、自分の食に対する意識を高め、食生活を営んでいく際には、これらのことに少しずつでも思いをはせて、できること少しでも実践していくことが必要です。
この会合の最後に、毎年恒例の市民研主催のお味噌づくり講座に参加者全員が強い関心を示し、ぜひ次回は京都で開催できればという話で盛り上がりました。実際にどう実現していくかはともかく、一般市民が手軽に味噌を作れるのだ、現にそうやって簡単に美味しく味噌を作っている市民団体が東京にあり、京都にいる自分たちでもそのような形で食に関わっていくことができる、という可能性を示し、参加者一人一人の意識が明らかに変わっていった瞬間を目の当たりにすることができたことが今回のワークショップの何よりの収穫でした。