災害危険地域
平松 朝彦 (市民研・住環境研究会)
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日本非常事態
今、日本列島では自然災害が多発している。2011年に発生した東日本大震災では未曾有の地震と津波が発生した後、日本中で集中豪雨による土砂崩れ、都市部の冠水など人々の住環境を巡る異常事態が相次いでいる。それらについて国は、想定外という言葉を決まり文句のように使い、あらためて想定を変える必要があるという。そもそも「想定した」のは国であるが、想定外という人ごとのような言葉は国にとって便利ないいわけになってしまった感がある。そもそも自然災害という言葉はどういう意味であろうか。単に無人島に津波が発生したり、あるいは豪雨が降っても、人が住んでいないので災害とはいわない。国は人が住んでいる限り災害を予測する義務がある。こうした大災害がおきるたびに改めて国と国民の関係を考えざるをえない。
国と国民の基本的関係は日本国憲法に規定されている。憲法には国の義務として国民の人命の尊重、私有財産の不可侵がうたわれている。地震により直接人が亡くなることはまずないが、地震で建物が崩壊することによりその建物内にいた人命が損なわれたり、けがをしたりする。このように自然災害とは自然といいながら人為的なものだ。建物の中の財産も建物が倒壊すれば破損するがそもそも自分の私財を投入した建物そのものが国民の私財の最たるものである。
建築基準法(注1)はそうした国民の生命・健康・財産の保護を目的として、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低基準を定めた法律である。その規定は建物設計に関するものであるために基本的に建物を建てようとする建築主、所有者の義務と責任に関することになっている。憲法における国の国民に対する安全と安心の約束は建築基準法により守られるのであれば、建築基準法に合致していれば、国は国民に対して建築の安全と安心を保証すべきではないか。ところで建築基準法第39条では災害の恐れのある危険区域での建築行為が制限されている。それは建築主の規定であると同時に地方公共団体についての規定でもある。
(1)建築基準法第39 条第1項
地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができる
(2)同条第2項
災害危険区域内における住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限で災害防止上必要なものは、前項の条例で定める
「地方公共団体は災害危険区域を指定することができる」という言葉の意味はやや曖昧であり言葉の解釈としては「指定しなくても構わない」というニュアンスを含むが、その地に住む人々が「指定」に反対することを想定した上で、反対しても指定はできるという積極性を読み取ることができる。憲法の趣旨からすると、「指定することができる」とは「指定しなくてはならない」のであり「指定しなかったために災害が起きた時は指定しなかった責任」が問われるはずだ。この場合、指定しなかった時、災害が想定外だったという言い訳は、被害を想定すべき者が想定できなかった能力の問題となるだけで結果責任は問われるはずだ。しかし東日本大震災において被害を受けた東北沿岸部において事前に災害危険区域は指定されたのか。
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