『バイオイニシアティブ報告書』より 「公衆のための要約」

投稿者: | 2008年4月3日

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『バイオイニシアティブ報告書』より
「公衆のための要約」(執筆:Cindy Sage)
ここに掲載するのは、2007年8月31日に発表された『BioInitiative Report: A Rationale for a Biologically-based Public Exposure Standard for Electromagnetic Fields (ELF and RF)』(バイオイニシアティブ報告書:生物学にもどづいた高周波ならびに超低周波の公衆被曝基準のための理論的根拠)のうちの「公衆のための要約」の部分(原著の3~27ページ)の全訳である。この報告書の作成にあたったバイオイニシアティブ・ワーキンググループは、14名からなる電磁波の人体影響の研究や公衆衛生の政策に関する専門家であり、その中には、C.F. Blackman(Bioelectromagnetics Societyの創設者、米)、Michael Kundi(オーストリア)、Henry Lai(米)Lennart Hardell(スウェーデン)、Denis Henshaw(英)といった著名な科学者や長年『Microwave News』という一流の情報・運動誌を発行してきたLouis Slesinらが含まれている。「公衆の健康を守るには、現行の電磁波曝露の規制値は不十分であり、もっと厳しい規制が必要である」ということを、現時点での最新の研究成果を総動員して示した、注目すべき報告書と言えるだろう。翻訳は加藤やすこ氏(VOC‐電磁波対策研究会・代表)が作った訳稿に、市民科学研究室の杉野実ならびに上田昌文が修正を加えたものである。報告書の全文は以下のサイトからダウンロードできる。
http://www.bioinitiative.org/index.htm
1. 公衆のための要約
A. はじめに
それは見ることも味わうことも嗅ぐこともできないが、今日の工業国ではもっとも普遍的な環境曝露のひとつである。電磁放射(EMF)あるいは電磁場(EMFs)は、いくつもの便利な方法で生活の光景を一変させた、一連の有線・無線技術によりつくりだされた、曝露をさす用語である。そのような技術はエネルギー効率と利便性を最大化するように設計されているが、人体への生物学的な影響は考慮されていなかった。その種の技術に関連して健康上の危険がありうるという、最近の研究にもとづく証拠が、科学者と公衆のあいだで、次第に認められてきている。
人体も生物電気的な機構である。心臓と脳は内部の生物電気的信号により制御されている。人工的な電磁場への環境での曝露は、人体の基本的な生物学的過程と相互作用をおこしうる。場合によっては不調や病気の原因にもなりうる。電気的な発生源から生じる電磁場のバックグラウンドの値は、第二次世界大戦後に指数関数的に上昇してきたが、最近では携帯電話(2006年に20億台あまり)やコードレス電話、WI-FI・WI-MAXネットワークなどの無線技術が急速に普及したことが目立っている。電磁場は動物体および人体に対する活性をもち、重大な健康上の結果をもおこしかねないことが、数十年間の世界的な科学研究により確認されている。
今日の世界ではだれもが2種類の電磁場に曝露している。送電線と電気・電子機器からの超低周波数電磁場と、携帯電話・コードレス電話、携帯電話アンテナ・基地局および放送電波塔からの高周波がそれである。本報告では特定種類の曝露をさす超低周波電磁波と高周波を、電磁場全般とは区別してもちいる。これら2種類の放射はいずれも、X線や断層撮影などとはちがい、原子核周囲の軌道から電子をひきはなし原子をイオンにするのに十分なエネルギーをもたない、非電離放射線に属する。用語と定義については18章を参照していただきたい。この要約を読むのに必要な、超低周波電磁波と高周波に関する簡単な定義については、章末の「簡便な定義」を参照のこと。
B. 報告の目的
本報告は、電磁場に関する科学的証拠を提示するために、14名の科学者および公衆衛生・公共政策専門家により執筆された。ほかに12名の外部審査員が草稿を査読・修正している。
本報告の目的は、現在の公衆曝露基準をしたまわる電磁放射による、健康への影響に関する科学的証拠を評価し、将来の公衆衛生への危険を減らすためには、その種の基準にどのような変更がのぞまれるのかを、みきわめることである。
この主題については未知のことも多い。だがはっきりしているのは、電磁波放射レベルを規制する既存の公衆安全基準は、ほとんどすべての国で数千倍も緩やかであり、基準値の見直しが必要である点である。
曝露源について政策決定者と公衆を教育し、現在想定される健康被害を回避することのできる代案を見出すための施策が必要であるが、変化を起こすための時間はまだある。
科学者および公衆衛生政策専門家からなるワーキンググループ(バイオイニシアティブワーキンググループ)が、既存の曝露基準の十分さ(または不十分さ)に関する国際的な議論において考慮されるべき、情報をまとめるために結成された。
本報告は、低強度電磁場曝露(高周波と電力周波数の超低周波電磁波との両者、および生物活性が知られている各種の複合的曝露を含む)によって生じる生物学的効果について、知られていることを概観するための、国際的な研究・公共政策活動の産物である。本報告は、様々な研究と既存の様々な基準を調査して、それらの基準が、公衆衛生をまもるのに十分というにはほど遠いことを示している。
アメリカ・イギリス・オーストラリアや、多くのEUおよび東欧の諸国、さらには世界保健機構がこの主題についてさかんに議論している。バイオイニシアティブワーキンググループは、これらとは独立して、科学研究と公衆衛生政策を再評価をおこなった。本報告はこの主題について確固とした科学的知見を提供し、政策決定者と公衆に対して勧告をおこなうものである。各著者個人の結論、および全体的な結論については、表2・1(バイオイニシアティブの全体的な結論)を参照されたい。
低強度電磁場の効果に関する科学的研究およびその再評価を記録した、本報告の11の章はバイオイニシアティブワーキンググループのメンバーにより執筆されている。第16章と第17章は公衆衛生と政策の専門家により書かれた。これらの章では、公衆衛生計画に適用されるべき証拠の基準とは何か、「慎重なる回避」を実現するためには公衆衛生政策において科学的情報の評価がいかになされるべきかを議論している。そして、入手可能な知識に対応した予防的施策が何を基礎とすべきかを明確にしている。そこではまた、あらたな公衆安全基準(予防的施策としてではなく、実際に必要であると実証されている基準)の勧告につながる、超低周波電磁波に関する証拠も評価されている。
他の科学的再評価団体・機関のなかには、公衆安全基準の新設につながる結論をさけようとするあまり、証拠の採否の基準を不当に高くして、本報告とは異なる結論に達したものもある。既存の(不十分な)基準の緩和を勧告したものさえ実際にある。そういうことがなぜおきるのか。超低周波電磁波と高周波の曝露については、これまでもっぱら関連業種の科学者・技術者の団体が勧告をなしてきたのだが、政府機関もそういう勧告を採用して策定してきたというのが理由の一つである。職業的技術者とそれに密接に関連する商業的利害以外の、利害関係者の意見が基準設定過程に反映されることは、たとえあるとしても、きわめてわずかである。リスクや危険がどう許容されるべきかを決めようとするときに、産業界の考え方のほうが、公衆衛生専門家よりも大きな影響力をもつことがしばしばなのである。
専門家の意見が一致しないおもな理由
1. 科学者と公衆衛生専門家とは、科学を判断するのにもちいる証拠の基準について非常に異なる定義を採用しているので、なすべきことについても結論が違ってくる。科学者にも役割があるが、それは排他的なものではなく、他の意見も考慮せねばならない。
2. 同一の科学的研究について議論していながら、計測の方法が異なっていて、「証拠がある」とか「証拠はもうたくさん過ぎるほどある」などと主張している。
3. 専門家のなかには、効果が存在すると確実にいえるためには、(いつものとおり)すべての研究結果が首尾一貫していなければならないと主張する者がいる。
4. 短期的な、急性の効果だけをみればよいという専門家もいる。
5. (慢性的な曝露の効果を示すために)より長期にわたる研究をすることが不可欠であり、そうすることでしか世界は理解できないという専門家もいる。
6. 小児・高齢者・妊婦・病人を含むすべての人を考慮すべきという専門家もいれば、平均的な個人(高周波であれば身長6フィートの男性)だけで十分とする専門家もいる。
7. 曝露していない人はいないので、病気の危険がどれだけ増しているのかをみるのが困難である。
8. 生物学的な機能のメカニズムについても意見の一致がない。
9. 超低周波電磁波・高周波への曝露による人体への危険に関する疫学的研究は強力な証拠を示しているが、動物実験の結果はそれほど強力なものになっていない。
10. 既得権益が健康に関する議論に相当影響している。
<公共政策の決定>
電磁場への公衆曝露の安全基準は、科学者だけでなく、公衆衛生専門家・公共政策決定者および一般公衆をも含む、相互のやりとりのなかで策定される必要がある。
「原則として証拠の評価は、たとえば費用と便益、危険の受容可能性、文化的選好などの社会的価値と統合されて、健全で効果的な意思決定をみちびくべきである。そのような場合、下された決定とは、つまるところ、その意見がさまざまな要因に依存して重みづけされる、決定過程に参加する利害関係者の意見や価値観や利害がからまりかって機能するものの一つとみなされる。科学的証拠は、比較的に大きな重みを、おそらくもってきたし、またもつべきでもあるが、しかし排他的な位置にあるものではない。決定は証拠に依拠するが、他の要因にも依拠する。」(1)
バイオイニシアティブワーキンググループのメンバーのあいだで意見がはっきりと一致しているのは、超低周波電磁波と高周波の両方に関して、既存の安全基準が不十分であるということである。
以下の提案は、低強度の超低周波電磁波・高周波への慢性的曝露については、その安全性を明確には証明できないという事実を反映している。他の多くの環境的曝露の基準と同様に、これらの提案は十分に予防的ではないかもしれないが、これより厳しい基準は現在のところ現実的ではない。癌や神経退化症の危険がわずかに上昇するだけでも、公衆衛生上の重大な結果につながりうる。超低周波電磁波への規制的な措置と、高周波への予防的な措置とが、どの程度の慢性的曝露によりそういう危険は生じうるか、また危険を減らすためにどういう対策がとることができるか、という点について公衆に知らせるために、現在必要とされているのである。
C. 既存公衆衛生基準(安全基準)の問題点
今日の通信による公衆曝露の基準は、高周波については人体組織の加熱が、超低周波電磁波については体内の誘導電流が、それぞれ生物が電磁場に曝露したときに考慮すべき唯一のことがらであるという仮定に立脚している。そのような曝露は、非常な短時間であっても有害であることが知られている、組織の加熱をひき起こす。したがって加熱作用に関する制限は目的にかなっている。たとえば職業のためにレーダー施設や電磁加熱器の近くで仕事をしなければならない人や、無線アンテナ塔の設置・運営にあたる人にとっては、加熱(電源周波数である超低周波電磁波の場合には組織中の誘導電流)による損傷をさけるためにそれが必要である。過去において科学者と技術者は、どれほどの非イオン化エネルギー(への曝露)に、人体が損傷なくたえられるかは、組織の加熱(高周波)および体内の誘導電流(超低周波電磁波)を計測することによってのみ決められるという、現在ではあやまっていると思われる仮定にもとづいて、曝露基準を策定した。
加熱あるいは誘導電流が生じないような、非常に低レベルの高周波ないし超低周波電磁波に曝露しても、生物学的効果およびなんらかの健康への悪影響が発現することは、過去数十年間に疑問の余地なく確認されている。そういう効果のなかには、加熱がおよそありえないような、既存の公衆安全基準の数十万分の一といったレベルでおこると考えられるものさえある。
生物学的な変化を生じさせるのは、熱よりもむしろ、電磁放射が輸送する「情報」であるようにみえる。そういう変化のなかには、健康障害や病気や、さらには死さえももたらすものがある。
生物学的効果は、政府が公衆の安全を確保すると称する水準の数千分の一にあたる、加熱のない、低強度の暴露水準でも生じる。無線技術を用いた新型の機器のなかには、規制基準がまったく適用されていないものも少なくない。利害関係にとらわれずに科学文献を合理的に評価してみると、低強度の慢性的曝露による害を規制するためには、既存の基準は不十分であったことがわかる。それは、生物学的な基礎ともいうべき、まったくあらたな曝露基準の基礎が必要であることを意味している。超低周波電磁波と高周波(いずれも非電離放射線)についてわかっていることを考慮し、生物の正常な機能に重要な意味をもつことが示されている生物学的効果に立脚した策定をすることが、新規の基準には求められる。あらたな電磁波源が急増して、予想をこえた水準の人工的な電磁場が、よほどの僻地をのぞく居住地域のすべてをおおうようになったいま、そのようにすることは重要である。世界的な広がりを持つ公衆衛生の問題となることを回避するには、超低周波電磁波と高周波への曝露をひき起こす新技術を受容・試験・展開にあたっては、それらの途中の段階であっても修正もほどこすことが必要である。
現在の曝露基準が不十分であることは、最近も専門家により指摘されている。加熱作用にもとづく基準は時代おくれで、生物学的な観点からの曝露基準が必要であることは、広くうけいれられている。第4章では、世界保健機構の超低周波電磁波環境健康基準報告(2007)、欧州委員会のための健康評価委員会報告(2006)、英国のSage出版社報告(2007)、英国保健省報告(2005)、北大西洋条約機構高等調査団報告(2005)、米国高周波部局間ワーキンググループ報告(1999)、米国食品医薬品監局報告(2000・2007)、世界保健機構報告(2002)、国際癌研究所報告(2001)、携帯電話に関する英国議会独立専門家委員会報告(スチュワート報告2000)などに示された懸念について記述する。
先駆的な研究者のひとりである故ロス・エイディ博士は、生物磁気治療に関する最新の論
文(Roche and Markov eds., 2004) のなかで、こう結論している。
「人体への曝露が間欠的・周期的で、個人の生涯の相当部分にわたりうる場合に、各種の人工的な電磁場への曝露によって生じうる健康上の危険については、まだわかっていないことが多い。」
「農村電化の進展や、より最近では商業施設での電力の供給・利用に関連して、危険が上昇しているという歴史的な証拠にもとづいて、疫学的研究は超低周波電磁波と高周波を人体の健康への危険要因と評価してきた。このような生物学的効果を記述するのに適当とされるモデルは、非線形電気力学を重要な要素とする、非均衡熱力学に立脚している。均衡熱力学に立脚した加熱モデルは、重要な意味をもつ目を引く最近の成果を説明するのに失敗している。…わかっていないことも多いが、組織中の遊離基の磁場との相互作用は、場の強度がゼロであるときにまで拡張されるかもしれない。」(2)
これ以下なら悪影響はないであろうという、曝露の下限はないのかもしれない。これ以下なら生物学的効果や健康への悪影響がないという下限が存在するのかどうかわかるまでは、超低周波電磁波や高周波への曝露、とりわけ意図しない曝露を増加させるような、「これまで通りの業務のやり方で」 新技術の展開をつづけることは、公衆衛生の見地からみれば賢明ではない。
2. 科学の概要
A. 癌の証拠
1) 小児白血病
送電線その他の超低周波電磁波の源泉が、小児白血病の高率の発症と一貫して関連しているという証拠があるため、世界保健機構の下部組織である国際癌研究所は、超低周波電磁波を「ヒトの潜在的発癌要因」(発癌要因目録2Bに収録)に指定した。白血病は小児においてもっとも一般的にみられる癌である。
超低周波電磁波への曝露が小児白血病の原因になることは、ほぼまちがいない。
危険がます曝露水準はとても低い。背景・環境水準をわずかに上回る程度であり、現在の曝露基準よりはずっと低い。非イオン化放射防護国際委員会による既存の超低周波電磁波基準は1000ミリガウス(アメリカでは904ミリガウス)である。小児白血病の危険は、安全基準のほぼ1000分の1の水準でましはじめる。ある研究では小児男子の白血病の危険は1.4ミリガウスでますとされている(7)。他の多くの研究では、0歳から16歳までの子どもが同時にとりあつかわれているため、曝露が2から3ミリガウスに達するまで危険率は統計的な有意をしめさない。諸研究を総合して小児白血病の危険は4ミリガウスでますとしたものもあるが、2から3ミリガウスで危険が生じるとした多くの研究結果がそこでは反映されていない。
2) 他の小児癌
脳腫瘍を含む他の小児癌も研究されているが、それも十分ではないため、危険があるのか、それはどの程度のものか、どのくらいの曝露水準が危険上昇につながるのか、ということはよくわかっていない。他の小児癌に対する知識の不確実性は、「すべてよし」という意味にとられてはならない。ただ研究がたりないだけである。
2007年の世界保健機構超低周波電磁波基準報告322号も、他の小児癌の「可能性も否定できない」としている(8)。
他の小児癌が超低周波電磁波への暴露と関連しているという証拠が若干あるが、十分な研究はなされていない。
最近の研究のなかには、超低周波電磁波への曝露がその後の小児白血病および癌の危険要因であるという、より強力な証拠を示しているものがある。ある研究(9)では、超低周波電磁波の強い環境で治療した小児において、生存率の低下がみられた(超低周波電磁波が3ミリガウス以上になると、死亡率が450パーセント上昇)ことが報告されている。超低周波電磁波2ミリガウス超の環境で治療した小児は、1ミリガウス以下で治療した小児よりも300パーセントも死亡しやすいとした研究もある。この研究ではまた、1から2ミリガウスの環境で治療した小児においても、死亡率が280パーセント上昇するとしている(10)。これらの2研究は、小児の超低周波電磁波への曝露が、1ミリガウス水準でも有害であるという、強力な新情報も提示している。高圧電線から300メートルの範囲内で養育された小児において、どのような癌の危険がみられるのか調査した研究もある(11)。生後5年まで300メートル以内で養育された小児においては、生涯になんらかの癌を発病する危険が500パーセントも高いという。
住居内(あるいは治療施設内)での超低周波電磁波の水準が(ある研究では)1から2ミリガウス(別の研究では3ミリガウス超)であれば、白血病を発症し回復途上にある小児の生存率が低くなる。
超低周波電磁波と小児白血病の危険との関係を指摘した研究は多いし、2から4ミリグラムの曝露が小児における危険に関連しているという結果も比較的に一貫しているので、新規の建築においては住居内での基準を1ミリガウスとすることが推奨される。既存の住居を1ミリガウス水準にあわせるのは困難で非経済的でもあるが、そうすることは、特に小児や妊婦が長期間をすごす場所において、のぞましいこととして推奨される。
既存の科学的証拠と、公衆衛生政策上の予防・介入の必要性とを考慮するならば、超低周波電磁波へのあらたな公衆曝露基準が、現在要求されているといえる。
3) 脳腫瘍と聴神経腫
携帯電話・コードレス電話からの高周波と、脳腫瘍ないし聴神経腫(聴覚に関連する脳の部位の腫瘍)とを、関連づけた研究は12以上もある。
携帯電話を10年以上使用した人においては、悪性の脳腫瘍ないし聴神経腫を発症する危険率が高い。携帯電話が主として頭部の片側で使用されていた場合には、さらに悪い結果がでやすい。
脳腫瘍については、携帯電話を(頭部の両側で)10年以上使用していた人では、発症の危険が20パーセント上昇する。携帯電話を主として頭部の片側で10年以上使用していた人ともなると、脳腫瘍の発症率は200パーセントも上昇する。この情報は、脳腫瘍と携帯電話の多数の研究を総合したもの(諸研究のメタ分析)に依拠している。
コードレス電話を10年以上使用した人においては、悪性の脳腫瘍ないし聴神経腫を発症する危険率が高い。コードレス電話が主として頭部の片側で使用されていた場合には、さらに悪い結果がでやすい。
脳腫瘍(高段階悪性膠腫)の危険は、(頭部の両側で)コードレス電話を使用していた人では220パーセント高くなる。コードレス電話を主として頭部の片側で使用していた人ともなると、脳腫瘍の発症率は470パーセントも上昇する。
聴神経腫については、携帯電話を10年以上使用していると発症率が30パーセント上昇する。携帯電話を主として頭部の片側で使用していれば、聴神経腫の発症率は240パーセント上昇する。これらの危険率は各種の研究を総合したもの(メタ分析)に依拠している。
コードレス電話の使用においては、主として頭部の片側で使用されたとき、聴神経腫の発症率は3倍(310パーセント)高くなる。
脳腫瘍・聴神経腫発症の危険を報告した諸研究を考慮すると、携帯電話・コードレス電話からの放射への曝露に対する現在の基準は十分とはいえない。
携帯電話・コードレス電話以外からの低強度高周波への曝露が、脳腫瘍を発症させるという報告もある。作業場で曝露している(職業的曝露)人々の研究では、脳腫瘍の発症率がやはり高いとされている。Kheifets (1995) は、電気関係で雇用されている人々では脳腫瘍の危険が10から20パーセント上昇すると報告している。このメタ分析は、脳腫瘍と電磁場曝露または電気関係の職場での作業との関係を研究した、29の刊行論文を調査したものである(6)。電磁場曝露をともなう作業など、他の源泉からの高周波への曝露との関係に関する証拠も、脳腫瘍発症の危険をいくらか高めるということで一貫している。
4) 他の成人の癌
曝露評価に重大な問題はあるものの、職業的曝露と成人の白血病とのあいだには、統計的に有意な関係があるとする研究は複数ある(11章参照)。Lowenthal et al. (2007) のごく最近の研究は、高圧送電線付近の居住と、成人白血病との関連を調査したものである。その結果によると、高圧送電線付近に居住するすべての成人で危険の上昇がみられたものの、15歳までを電線から300メートル以内ですごした個人においてはオッズ比は3.23(95パーセント信頼区間1.26-8.29)であった。この研究はふたつの重要な結論を支持している。成人白血病は電磁場曝露に関連しているし、小児期の曝露は成人後の発病の危険を増加させる。
電気作業者および職業的に電磁場に曝露している成人における重大な危険については、Kheifets et al. (1995)のメタ分析で報告されている。それは受動喫煙による肺癌の危険(US DHHS, 2006) と同程度であった。このメタ分析は12か国の住民を対象とする29の研究をとりあつかっていた。すべての脳腫瘍に関しては、相対危険比は1.16(95パーセント信頼区間1.08-1.24)、つまり危険率が16パーセントますということであった。電気的職業でのグリア細胞腫においては、相対危険比は1.39(同1.07-1.82)、つまり危険率が39パーセントますということであった。Kheifets et al. (2001)によるもうひとつのメタ分析は、1995年をすぎて発表された9の研究をくわえたものである。その推定結果はオッズ比1.16(同1.08-1.01)であって、95年の結果とほとんどかわらなかった。
曝露と乳癌とが関連するという証拠は、男性において比較的に強力であり(Erren, 2001) 、一部の(すべてではない)研究は、女性においても、曝露が増加すれば乳癌の発症率が上昇することを示している(12章参照)。脳腫瘍と聴覚神経腫瘍は、曝露した人々にはより一般的である(10章参照)。その他の癌については発表されている証拠が少ないが、Charles et al. (2003) は、上位10パーセントの電磁場曝露をしている労働者では、曝露のより少ない者にくらべて2倍も(オッズ比2.02、95パーセント信頼区間1.34-3.04)、前立腺癌による死亡率が高いと報告している。Villeneuve et al. (2000)は、電力供給作業者において、電磁場曝露に関連する非ホジキン型リンパ腫の、統計的に有意な発病率の上昇がみられると報告しているし、Tynes et al. (2003) は、高圧送電線付近に居住する人々において、悪性黒色腫の発症率が高いことを報告している。これらの観察は追試を必要とするが、白血病以外の成人の癌と曝露との関係を示唆するものである。
総合的にいえば、電磁場曝露と成人の癌とが関連しているという科学的な証拠は、すべての研究が正確に同一の積極的な結果を示していないとはいえ、予防的措置を要求するには十分なほど強力である。電磁場曝露に関係するかもしれない病気の変化をみるのが困難になっている今日では、そのことはますますよくあてはまる。たとえば比較対象になるべき、曝露していない人々はもういないし、曝露評価にはほかにも困難がある。電磁場曝露と、癌や神経退化病との関係に関する証拠は、現在では、曝露を減らすための予防的措置を意義づけるには、十分なほど強力である。
5) 乳癌
超低周波が乳癌に関連しているという強力な証拠は、複数分野の科学的研究からあがっている。超低周波との関連にはついて科学者のあいだで論争もあるが、男女両性の乳癌に関する疫学的研究は過去20年間おこなわれてきた。そのような研究の多くは、超低周波曝露が乳癌発症の危険増加と関連していることを報告している。すべての研究がそういう関連を報告しているわけではないが、科学では、100パーセントいや50パーセントの一貫性さえ期待されていないし、合理的な予防的行動もかならずしも要求されていない。
作業中の女性に関する研究からの証拠は、10ミリガウス以上の超低周波への長期的曝露が、乳癌の危険要因であることを強力に示唆している。
10ミリガウス以上という比較的に強力な超低周波に作業中に曝露している人々を研究すると、乳癌の発症率が高いことがわかる。超低周波に曝露する労働者に関する多くの研究では、高曝露水準の基準を2から10ミリガウスのあいだのどこかに設定しているが、このように比較的に低い水準も混入されているために、真の危険水準は曖昧にされている。職業集団研究においては、4ミリガウス以上が最高曝露水準とされている。つまり、それをこえる水準の曝露をしている人はほとんどいないが、4ミリガウス以上という比較的に低い超低周波の水準で発病がみられる、ということがわかる。このことはまた、933から1000ミリガウスという既存の超低周波基準が、危険がますと報告されている曝露水準に適合しないということの、別の表現でもある。
ヒト乳癌細胞を使用した室内研究では、6から12ミリガウスの超低周波への曝露が、癌細胞の成長を抑制するメラトニンの防御作用に介入することを示している。環境水準ともいえる低水準の超低周波に曝露しただけで、ヒト乳癌細胞の成長が加速するという証拠が過去10年間にあがっている。これは超低周波曝露が体内のメラトニンを減少させるためであると考えられる。メラトニンが存在すれば、培養された乳癌細胞の成長が抑制されることは知られている。超低周波曝露その他の要因によるメラトニンの不在が、癌細胞の成長を加速するというわけである。
動物実験においては、乳癌を発症している動物が、超低周波と化学的発癌剤とに同時に曝露すれば、腫瘍は大きくなりその数もふえることがしめされている。これらの研究を総合するとわかるのは、超低周波は乳癌の危険要因であり、重大な結果をまねくその暴露水準は、多くの人々が家庭や職場で曝露している水準とかわらないということである。危険の合理的な懸念が存在し、新規の超低周波基準を勧告し、予防的措置を制定するのに十分な証拠もある。
生涯にわたる乳癌発症の非常に高い危険と、予防の重要性とを考慮するならば、長期にわたり超低周波のレベルの高い環境にいる人々の曝露はへらされるべきである。
超低周波曝露を減少させることは、乳癌を発症している人にとっては特に重要である。2ないし3ミリガウス以上の超低周波に曝露した小児白血病患者の生存率が低いという証拠もあるので、回復環境中では超低周波は低水準でなくてはならない。乳癌発症の危険が高い人に対する予防的措置もまた要求されている。タモキシフェンもメラトニンと同程度に、低水準の超低周波曝露によりその効力が減殺されるので、予防のためにタモキシフェンを摂取している人にとっては、その種の措置は特に重要である。乳癌と超低周波曝露との関連を支持する、すでに十分に存在している証拠を無視することは容認されない。この病気から生じる巨額の費用と社会的・個人的負担とを考慮すれば、決定的な証拠が出るまでまつことはゆるされない。
ヒト乳癌細胞の研究と動物実験は、超低周波が乳癌の危険因子であるらしいことを示している。乳癌と超低周波曝露との関連を支持する証拠は、培養細胞と動物の実験だけでなく、ヒト乳癌の研究からもあがっている。
他の癌についても論点は同様である。電磁場(超低周波と高周波)が、すべての癌と他の病気を発症ないし悪化させると、仮定することはいまや合理的である。
ひとつかふたつの癌が関連しているのなら、他の癌の危険が問題でないなどということがあろうか。現在の知識が人体の健康への危険を排除するとはもはやいえない。この問題をまえもってとりあつかわないことによる、社会的費用と人的な損害は甚大であり、実質的な公衆衛生政策行動、それも現在入手できる証拠にもとづく、公衆衛生の保全のための政府機関の行動が、必要とされている。
B. 神経系と脳機能の変化
電磁場への曝露については、アルツハイマー病・運動神経病・パーキンソン病との関連も研究されている(4)。これらの病気のすべてで特定の神経が死滅しており、これらは神経退化病に分類されている。高水準のアミロイドベータがアルツハイマー病の危険因子であるという証拠があるが、超低周波電磁波への曝露は脳内のこの物質を増加させる。メラトニンがアルツハイマー病につながる病変から脳をまもるという相当な証拠があり、超低周波電磁波への曝露がメラトニン水準を低下させるという強力な証拠もある。したがって、アルツハイマー病の発症から人体を保護する機構のひとつとしてのメラトニンが、超低周波電磁波への曝露により調達困難になると、仮定することができる。長期的な超低周波電磁波への放射は、神経中のカルシウムイオン水準を変化させ、酸化ストレスを誘発しうる(4)。長期にわたる超低周波電磁波への曝露が、神経(特に巨大運動神経)を同期発火させ、毒物の増強による損害をみちびく可能性もある。
曝露と神経退化病、とりわけアルツハイマー病・萎縮性側索硬化症との関連の証拠は、強力であり比較的に一貫している(12章参照)。すべての研究が曝露と病気とのあいだに統計的に有意な関係を示しているわけではないが、アルツハイマー病に関するオッズ比2.3(95パーセント信頼区間1.0-5.1,Qio et al., 2004)、2.3(同1.6-3.3,Feychting et al., 2003)、4.0(95パーセント信頼区間1.4-11.7,Hakansson et al., 2003)および萎縮性側索硬化症に関するオッズ比3.1(同1.0-9.8,Savitz et al., 1998 )、2.2(同1.0-4.7,Hakansson etal., 2003 )を無視することはできない。
アルツハイマー病は神経系の病気である。超低周波電磁波への長期的曝露がアルツハイ
マー病の危険要因だという、強力な証拠がある。
癲癇の患者が高周波への曝露により敏感になりうることも懸念されている。低強度の高周波への曝露は、神経学的効果の他のストレス要因との類似性にもとづくストレス要因であるのかもしれない。低強度高周波は、脳内麻薬その他向精神薬と類似の作用をしめす体内の物質を活性化する。実験動物におけるそのような効果は、依存症患者の脳内での薬物の効果と類似している。
室内実験によると、人間と動物の神経系はいずれも超低周波電磁波と高周波の両方に反応する。携帯電話を含む新技術の使用に関連する程度でも、脳機能と行動の測定可能な変化が生じる。ヒトの脳波活動を変化させる携帯電話からの放射の水準は、特種吸収率でいうと、アメリカの許容水準1.6ワット毎キログラム、非イオン化放射防護国際員会の許容水準2.0ワット毎キログラムよりずっと低い、0.1ワット毎キログラムである。これで記憶と学習に影響しうる。これで正常な脳波活動に影響しうる。低強度の超低周波電磁波と高周波への曝露は、動物の行動を変化させうる。
携帯電話の使用と、携帯電話から放射された電磁波が、脳の電気的活動に影響していることは、ほとんどうたがいない。
脳機能への影響が、曝露中の精神的作業量の負担に依存していると、みえる場合もある。(2種類の作業に脳の同一部分が使用されるとき、両方の作業を同時にうまくこなすのはむずかしい。)携帯電話への曝露が脳活動の速度を高めるとする研究もあるが、だが同時に脳の効率性と判断力も縮小されるという。10代の運転者が携帯電話を使用しながら運転したとき、高齢者と比較される水準にまで反応時間がおくれるとした研究もある。速く思考できても、思考の質が高まるとはかぎらないのである。
脳と神経系の反応のしかたの変化は、特定の曝露に非常に強く依存している。ほとんどの研究は短期的な効果しかみていないので、曝露の長期的結果は未知である。
効果を決定する要因は、頭部の形状と大きさ、脳内小器官の位置・形状と大きさ、頭と顔の薄さ、組織の湿潤度、各種組織の厚さ、組織の誘電率その他に依存しうる。個人の年齢と健康状態もまた重要な変数となりうる。曝露条件も研究結果に重大な影響をおよぼすものであり、周波数、波形、曝露の方向・持続時間・回数、信号のパルス変調、効果の測定時点(高周波への反応のなかには効果がおくれてでるものがある。)などの条件によっては反対の結果がでることもある。超低周波電磁波・高周波曝露の試験結果には多大な変動があり、影響する要因がさまざまに変化する以上、それは当然予想されることである。しかしある種の曝露条件のもとで、ヒトの脳と神経系の機能が変調をきたすということは明瞭である。成人においても小児においても、長期的な曝露の結果が徹底的に研究されたことはない。
小児の神経系は思春期後期まで発達しつづけるが、そういう小児への曝露の長期的な結果は現時点では未知である。小児期の長期的な超低周波電磁波・高周波への曝露が、思考・判断・記憶・学習・行動抑制の能力を抑制するのだとすれば、それは成人の健康や、社会の機能にさえ重大な影響をおよぼしうる。
低強度の無線アンテナからの放射に長期間曝露した人々は、不眠・疲労・頭痛・ふらつき・集中力低下・記憶障害・耳なり・平衡方向感覚喪失・同時進行作業困難などの症状をうったえている。小児においては、携帯電話からの放射の曝露が、ある種の記憶試験の際の脳の振動活動の変化につながるという。科学研究はいまだに因果関係をあきらかにしてはいないが、スウェーデン・デンマーク・フランス・ドイツ・イタリア・スイス・オーストリア・ギリシア・イスラエルなど無線技術が十分に成熟し広く普及している国々では、その種の不満は一般的で公衆の重要な関心事になっている。たとえば第3世代無線電話の公開と、それに関連するオランダでの地域アンテナからの高周波は、諸症状に関する公衆の不満をすぐにひきおこした。
実施された少数の諸研究の結果が対立することがあるのは、集中的な曝露のある環境と比較するための、曝露のない環境を用意するのが困難であるせいかもしれない。試験のために実験室にでかける人々は、事前に相当な超低周波電磁波と高周波に曝露していて、すでに実施以前から症状をうったえていたのかもしれない。高周波曝露による行動変化はおくれて、つまり曝露がおわってから出現するということも、事態を複雑にしている。時間をへてあきらかになる神経系の持続的な変化があって、それは短期の試験中には観察されないかもしれないことを、このことは示唆している。
携帯電話その他個人用機器を含む無線技術による長期的曝露や、携帯電話電波塔・アンテナからの高周波への全身曝露の効果については、確実なことはまだわかっていない。しかし既存の証拠が示しているのは、生物学的効果および健康への影響が、公衆安全基準の数千分の一という、極度の低水準で生じうるし、また生じているということである。
この種の放射の使用と、それへの曝露が一般的になるにつれて、合理的な証拠がしめす重大な公衆衛生上の結果と経済的損害の可能性は、世界的な関心事になるであろう。新規の無線曝露に関連する、発病例や認識能力損失の小規模な増加でさえも、重大な公衆衛生上および社会経済上の結果を生じさせうる。疫学研究が健康への危険を報告するのは、曝露から数十年をへたあとか、あるいは「平均的」諸集団を横断して巨大な変化がみられたときである。したがってありうる危険に対する早期の警告は、現在の政策決定者により深刻にうけとられなくてはならない。
C. 遺伝子(DNA)への効果
癌の危険は、成長と発達の遺伝的設計図を変更する、DNAの損害に関連している。核酸が損傷されれば、損傷された細胞は自然死しない危険がある。かわりに核酸を損傷された細胞は増殖をつづけ、それが癌の前提条件のひとつになる。DNA修復の減少もまた重要な役割をはたしうる。核酸の損傷率がその修復率を上回れば、変移が保持され癌が発症する可能性がある。超低周波電磁波と高周波の核酸への作用の研究は、癌との関連もありうるので重要である。
たった10年前まではほとんどの人が、微弱な超低周波電磁波と高周波が、DNAや、細胞が機能する(あるいは損傷をうけて適切に機能しなくなる)しくみに、影響をおよぼすことなどありえないと信じていた。そういう微弱な場は物理的に十分に強力ではなく、損傷をひき起こすほどのエネルギーをもっていないというのがその根拠であった。しかし、損傷の生起にもっとも重要なのがエネルギーではない場合について、すでにわかっていることがいくつもある。たとえば毒性をもつ化学物質への曝露は損傷をおこしうる。体内のホルモン均衡など、繊細な生物学的過程の均衡を変化させることは、細胞を損傷もしくは破壊し、病気をひきおこしうる。実際に慢性病の多くはこの種の損傷に直接に関連するものであり、加熱をなんら要求していない。細胞間相互作用(情報伝達)への介入もまた、直接に癌をひき起こすか、あるいは既存の癌が成長するのを加速するかするのかもしれない。
現代的な遺伝子解析技術を使用することにより、将来においては、電磁波が体内の分子をとらえそれに影響する過程について、非常に有益な情報がえられるであろう。遺伝子段階では現在すでに、電磁場(超低周波電磁波と高周波の両者)がDNAの機能を変化させる方法について、いくらかの証拠がえられている。実験室においても、微弱な電磁場が核酸や蛋白質の機能に影響するかどうか、あるいはどのように機能するか、ということが研究されている。そういう変化がみられたとする研究もあるが、すべての研究で変化がみられたわけではない。
蛋白質ないし遺伝子発現の微小な変化は、細胞の生理を変化させ、のちに健康にも影響をおよぼすのかもしれない。遺伝子・蛋白質および電磁場の研究はいまだ初期段階にあるが、遺伝子・蛋白質段階で微弱な電磁場への曝露がたしかに変化を起こすことは確認されており、そのことが健康への危険を確立する重要な一歩になるかもしれない。
DNA・蛋白質と電磁場の研究においてきわだっているのは、電磁場が損傷を起こすには弱すぎるというのが本当だとしても、効果は全然ない方がいいということである。電磁場のエネルギーは無視しうるもので、損傷をおこしそうもないと信じている科学者は、変化を説明するのに苦労するあまりそれを無視しがちである。ここで問題なのは効果が生じていることである。効果の説明ができないということは、それを架空とか重要でないとかみなしていい理由にはならない。
ヨーロッパの研究計画(「官能的試験管内方法を使用した低周波数電磁場曝露の潜在的な環境への害悪の危険評価」)は、DNAの試験において、通常の生物学的機能の変化を多数記録している(3)。そのような結果が重要であるのは、核酸に変化が生じるときには、そういう効果が、人体に危険が生じるかという問題と直接に関連しているからである。この大規模な研究においては、12名以上の研究者が、電磁場の効果に関する情報を提供している。重要な発見は以下のとおりである。
「遺伝子変異・細胞増殖および細胞死は、遺伝子・蛋白質の表現型の変化の、原因であり結果でもある。あらゆる慢性病の発症はそういう変化の集中を要求する。」(3)
「電磁場曝露後に、遺伝毒性効果と、多数の遺伝子・蛋白質の発現の変化とがあらわれることは、多大な確実性をもってしめされる。」(3)
「高周波は、ラットの繊維芽細胞・HL60細胞・肉芽腫細胞と、マウス胎児幹細胞から生成された神経芽細胞に遺伝毒性をしめす。」(3)
「特殊吸収率0.3から2ワット毎キログラムの高周波に対して細胞は、DNAの片方または両方の螺旋の破壊および小核の形成で反応した。」(参加者2・3・4)(3)
「HL60細胞においては、高周波への曝露にともなう、細胞内遊離基の生成増加が、明確にみとめられた。」(参加者2)(3)
「誘発されるDNAの変化は熱的効果にもとづくものではなく、超低周波電磁波曝露の環境安全基準の再考が要求される。」(3)
「効果は高齢の提供者の細胞でより明確に観察されるが、そのことは、超低周波電磁波に誘発された核酸螺旋破壊の修復の効率性が加齢で低下しうることをしめす。」(3)
超低周波電磁波と高周波の両者は、既存安全基準を下回る曝露水準を含むある種の条件下で、遺伝毒性(核酸の損傷)をしめすと思われる。
D. ストレス蛋白質(熱ショック蛋白質)への効果
ほとんどすべての生物において、毒物や悪環境の攻撃にさらされたときに細胞により生起される特殊な反応が存在する。これはストレス反応とよばれ、このとき生成されるのがストレス蛋白質(熱ショック蛋白質)である。植物・動物・細菌はすべて、高温・酸素不足・重金属汚染・酸化ストレス(早期老化の原因)などの環境ストレス要因に抵抗するために、ストレス蛋白質を生成する。生理学的ストレス反応を生起する環境ストレス要因のなかに、いまでは超低周波電磁波と高周波への曝露がくわえられる。
非常に低水準の超低周波電磁波と高周波に曝露した細胞もストレス蛋白質を生成するが、そのことは細胞が曝露を有害と認識していることを示している。これもまた科学者が超低周波電磁波と高周波への曝露を有害とするひとつの理由であるが、その反応は既成安全基準をはるかに下回る水準でもおこる。
追加的な懸念としては、ストレスがあまりに長期間持続すれば、防御反応は縮小するということがあげられる。ストレスがあまりに長期間持続すれば、防御効果は減少するという減少関数関係がある。このことは、細胞が損傷からあまり保護されなくなることを意味しており、またたとえ非常な低強度であっても、長期的・慢性的な曝露がきわめて有害であることの理由でもある。
生起される生物化学的経路は、超低周波電磁波と高周波とで同一であり、熱的でないものである。(加熱や誘導電流を要求するものではなく、したがって加熱からの保護にもとづく安全基準は、保護的でなく不適切である。)5から10ミリガウス程度の超低周波電磁波への曝露でも、ストレス反応遺伝子を活性化することが判明している(6章表2)。特殊吸収率は熱的損傷のみを規制するものであるので、これは生物学的限界や
用量の適切な指標ではなく、安全基準の基礎として使用されるべきではない。
E. 免疫系への効果
ウイルス・細菌その他の外来分子の侵入に対する、もうひとつの防御が免疫系である。
免疫系は病変・病原体・癌細胞からわれわれを防護してくれる。免疫細胞にはさまざまに異なる種類のものがある。各種の細胞は特定の機能をもち、有害かもしれないと身体が判断した曝露からの防護のために出動する。
現在の公衆安全基準で許容される水準の超低周波電磁波と高周波が、炎症・アレルギー反応を生起し、通常の免疫機構を変化させるという十分な証拠がある。
身体の免疫系が超低周波電磁波と高周波曝露の危険を感知すると、それらの場を標的として、ストレス蛋白質の生成と類似した防御反応を生起する。非常に低強度の超低周波電磁波・高周波への曝露の指標としてはほかに、細胞に認識されることと、あたかも有害であるかのような反応を惹起することとがあげられる。アレルギー・炎症反応を持続的に増強する要因への慢性的な曝露は、健康には有害とみられる。慢性的な炎症反応は、長期的な細胞・組織・器官の損傷につながりうる。多くの慢性病は、免疫機構の慢性的な問題に関連しているとみられる。
ヒスタミンのような免疫物質の放出は、皮膚反応・良性腫瘍・アレルギー過敏など、通常はなんらかの防御機構に関連する状態を惹起することが知られている。免疫系は、周囲の環境からの有害な曝露から人体をまもる、総合的な防御障壁の一部である。なんらかの攻撃により免疫系が活性化されたとき、さまざまな種類の免疫細胞が反応する。免疫系を慢性的に刺激していれば、その通常の機能が長期的に損傷されるかもしれないので、免疫反応を惹起するものはなんであれ慎重に評価されるべきである。
アレルギー・炎症細胞反応の指標である皮膚肥満細胞の増加のような、計測可能な生理学的変化が、非常に低強度の超低周波電磁波と高周波により惹起される。電磁場により活性化された肥満細胞は、皮膚炎症状をひき起こす刺激性化学物質を細分化して放出する。
携帯電話・電子計算機・ビデオ再生機・テレビその他の源泉に関連する水準の超低周波電磁波と高周波が、皮膚反応をおこしうるという大変明確な証拠がある。皮膚過敏性の変化は生体検査により計測されるが、その結果は顕著である。その種の反応のなかには、無線技術により日常曝露している水準で生じるものもある。肥満細胞は脳と心臓にもみられ、これらの臓器もまた、超低周波電磁波・高周波曝露に対する細胞反応の標的になっているとみられるが、頭痛・光過敏性や不整脈その他の心臓症状が一般に報告されているのは、そのためと思われる。超低周波電磁波・高周波曝露による慢性的な刺激は免疫機能を不全にし、慢性アレルギー反応や炎症、さらには長期にわたって継続すれば、健康障害をひき起こす。
このような臨床的知見はまた、いかなる水準の超低周波電磁波・高周波曝露にもたえられないという、一部の人にみられる電気的過敏性を説明するかもれない。管理された条件下での科学的評価は、可能であるというのに十分におこなわれてはいないが、多くの国からの単発的な報告によると、そのような性質をもつ人は全人口の3から5パーセントほどいて、しかもふえているともいう。電気的過敏性は化学物質過敏性と同様に、障害をおこさせるものであり、被害者の就労・生活環境の根本的な変革を要求して、多大な経済的損害と自由の喪失をしいるものでもある。スウェーデンでは電気的過敏性は全身機能障害の一種として公式に認定されている(つまり病気とはみなされていない。6章と付録Aを参照)。
F. ありうる生物学的機構
低強度の超低周波電磁波・高周波への曝露による生物学的効果の大部分を合理的に説明する、もっともらしい生物学的機構はすでに特定されている。(遺伝毒性の原因となる、遊離基による酸化ストレスとDNAの損傷。低水準のエネルギーによる分子機構は、たとえば電子伝達への効果が酸化損傷に、核酸の活性化が異常な生合成と変異にそれぞれつながるように、病気に関連するとみられる。)伝統的な公衆衛生と疫学においては、電磁場曝露と病気との関連を推定するのに、証明された因果関係が要求されないということも、思い出されるべきであろう(12)。公衆衛生上の賢明な措置が実行される際に、機構の証明は知られていなかったということは多々あった。
「大部分のヒトの癌において、遊離基によるDNAの損傷が最初の契機になると信じられていることを考慮すると、核酸を酸化による損傷から保護するメラトニンの能力が、白血病を含む各種の癌において重要な意味をもつことはあきらかである(Ceru-tti et al., 1994) 。癌だけでなく、アルツハイマー病とパーキンソン病を含む高齢者の神経退化病においても、遊離基による中枢神経系の損傷は重要な構成要素である。これら両方の状況に関する動物実験において、メラトニンが、発症の予防と症状の緩和とのいずれにも、非常に有益であることが証明されている(Reiter et al., 2001) 。」(13)
遊離基の活動によるDNAの損傷を通じた酸化ストレスは、癌と、超低周波電磁波による中枢神経系の損傷をともなう病気との、ありそうな生物学的機構である。
G. 電磁場のもうひとつの見方:治療への応用
ある種の電磁場治療が実際に効果をしめすと知っておどろく人は多い。この療法は、骨折・皮膚と下部組織の外傷・痛みと腫れの治療や、手術後の処置に、特定の方法で電磁場を使用するものである。鬱病の治療に電磁場が使用されることもある。
病気を治療する状況において電磁場は、現在の公衆安全基準をはるかに下回る水準でも効果的であることがわかっている。科学者はいかにして、有効性が証明されている電磁場治療を使用すると同時に、曝露の悪影響を論じることができるのであろうか。
現在の公衆安全基準を下回る水準の電磁場が、治療では有効に使用されているが、そのことは、身体が低強度の電磁場信号を認識し、それに反応するということの、別の証明でもある。そうでなければ治療も成功しない。政府は電磁場治療器を認可したが、ということは、この逆説を理解しているということである。
医学的な監督のもとでの曝露ではない、一律な電磁場への曝露は、監督なしの医薬品の使用と同様に、害悪をおよぼしうる。無差別な電磁場曝露がおそらく悪い考えであろうという強力な警告が、ここからでてくる。
病気の治療と予防に使用される医薬品を公衆に、特に小児に、無差別に投与することを推奨する人はいないであろう。しかし無差別で意図されない電磁場への曝露は、日常生活でつねにおこっていることである。
曝露の蓄積、あるいは潜在的に危険な曝露の複合を考慮しない、日常生活における複数の源泉からの電磁場への曝露の結果は、さまざまなことを意味する。第一に、曝露していない人をみつけるのはほとんど不可能なので、臨床的研究は困難になっている。第二に、病気のある人もない人も、複数の、重複する曝露をうけているので、曝露の状態は個人によって異なる。
イオン化放射もまた病気の診断や癌の治療に効果的に使用される一方、曝露条件によっては癌の原因にもなる。電磁場も病気の原因であると同時に、その治療にも使用されるものであるので、公衆曝露基準が生物学的危険性に関する現在の理解を反映することと、あらたな公衆安全基準と、将来の曝露を予防する対策との両者を、策定することとが、生命にもかかわる重要なことである。
3. 電磁場曝露と慎重な公衆衛生計画
・科学的な証拠は、超低周波電磁波に対して規制的措置を要求するに十分なほどあり、高周波場に対しても予防的措置を要求するに十分なほどある。
・措置に必要とされる、たえず出現する科学的証拠を判定する証拠の基準は、健康と福祉への影響と均衡していなくてはならない。
・曝露は広範囲におよんでいる。
・本報告では、科学を判断するのに広くうけいれられている基準をもちいている。
電磁放射(電力周波数・高周波・マイクロ波)への公衆の曝露は、世界中で指数関数的に増加している。発展途上国でも、農村地域においてさえも、電化が急速に進展している。いまや社会の構成員のほとんどが、コードレス電話・携帯電話・ポケットベルを所有し使用している。それだけでなくほとんどの住民は、無線高周波信号を送信する地域アンテナからの放射にも曝露している。発展途上国のなかには、携帯電話が容易に使用できるため、高価な電話線の敷設を中止した国さえある。それほど多大に増加した、長期的に蓄積する高周波は、人類の歴史上前例のないものである。そしてもっとも顕著な変化は、1日数時間を恒常的に携帯電話についやす、少年少女にあらわれるものとみられる。だれもが多少とも曝露している。電力のない山頂にすんでいたとしても通信周波数の高周波には曝露しうるので、だれも曝露をさけることはできない。妊婦・乳幼児・高齢者・低所得者など被害をうけやすい人々も、一般公衆と同程度の曝露にさらされる。したがって危険を評価し曝露を削減する方法を考慮することは不可欠である。よい公衆衛生政策は、害悪の潜在的危険と、措置がとられないことによる衛生上の結果とに相応した、予防的措置を要請するものである。
4. 勧告
A. 超低周波電磁波の新規曝露基準の策定
既存のすべての科学的証拠をもちいた、公衆衛生分析に立脚した、新規の超低周波電磁波基準が要求されていると、本章では結論する。公衆衛生の見地からみれば、新規の基準がいま必要とされていることはあきらかである。そのような基準は、小児白血病や、おそらくその他の癌、および神経退化病を増加させることがしめされている、超低周波電磁波の環境水準を反映したものでなくてはならない。超低周波電磁波基準は、小児白血病研究において発症の危険に関連づけられた水準に、追加的な安全因子をくわえたものを、下回る水準に設定されるべきである。危険と判定された曝露環境に住民をおくような、送電線その他の電力施設を新規に建設することは、もはや許容されない。その水準は2から4ミリガウスの範囲であって、数十ミリガウスや数百ミリガウスではない。非イオン化放射防護国際委員会の1000ミリガウス(アメリカでは904ミリガウス)という既存の基準は、あやまった仮定にもとづく時代おくれのものである。安全緩衝あるいは安全因子が、生物学にもとづく新規の超低周波電磁波基準に適用されるべきであり、危険水準よりも低い安全因子を付加するのが通常の方法である。
新規の超低周波電磁波基準が策定されるまでは、新設あるいは改良された送電線周囲の居住地では1ミリガウスの、その他のすべての工事においては2ミリガウスの、計画基準を課すのが合理的な方法である。小児と妊婦(超低周波電磁波への子宮内曝露と小児白血病との関連がうたがわれるので)の居住域においては、1ミリガウス規制を確立することも勧告される。この勧告は、自分で自分をまもることができず、従来の常識からいっても規制をするのに十分なほど高い白血病の危険にさらされている小児に対しては、より高い水準の保護が必要とされるという仮定にもとづいている。この状況は特に、1ミリガウス規制を既存の居住地にまで拡大することを要求している。ここで「確立する」というのは保健当局の正式な諮問がえられることを意味している。既存のすべての配電設備を再建することは、短期的には現実的でないが、とりわけ小児が時間をすごす場所では、そういう既存の設備からの曝露を削減することは、奨励され実施されなくてはならない。その基準は、小児白血病の危険上昇に関連づけられている水準(一般小児で2から5ミリガウス、6歳以下では1.4ミリガウス超)を反映すべきである。成人の癌と神経病に関するほとんどすべての職業病研究は、最高水準の曝露を4ミリガウス以上としているので、新規の超低周波電磁波基準も、より高い領域でなく、その程度に設定されるべきである。
学校・家庭・職場において、病気の危険上昇に関連づけられる水準の超低周波電磁波への慢性的な曝露をさけることは、超低周波電磁波に関する文献で言及されている生物活性因子の大部分をも、さけることにつながるであろう。
B. 高周波曝露削減のための予防的措置の策定
生物学的効果が報告されており、したがって健康への重大な影響も想定される水準の、パルス高周波に人々を長期的に曝露させる、新無線技術の急速な普及が、公衆衛生上の関心事であることは、既存の科学的証拠(17章)をみてもあきらかである。17章では、公衆への高周波曝露を縮減するための予防的措置が要請されているという、公衆衛生上の勧告につながった、証拠を要約した。現在の規制基準を下回る水準の高周波が、細胞膜機能・細胞間情報伝達・細胞代謝・発癌前駆体活性化の変化をひきおこし、ストレス蛋白質の生成を惹起することを示唆する、強力な証拠がある。おこりうる結果としては、DNA破壊と染色体異常・脳神経を含む細胞の死滅・遊離基生成の増加・脳内麻酔機構の活性化・細胞ストレスと早期老化・記憶喪失を含む脳機能の変化・学習遅滞・運動神経の遅滞その他小児における発達障害・頭痛と疲労・睡眠障害・神経退化状態・メラトニン分泌の減少・癌などがあげられる(5・6・7・8・9・10・12章)。
早くも2000年に、たとえば携帯電話電波塔その他の無線技術による、パルス高周波への意図しない曝露から公衆を保護するために、生物電磁気学の一部専門家は、野外の曝露基準として0.1マイクロワット毎平方センチメートル(0.614ボルト毎メートル)を推奨している。2000年のザルツブツグ決議は、公衆の高周波曝露基準の目標として、この数値を設定した。それ以降、低出力の無線送信機(無線音声・データ通信アンテナ)の付近での病気と健康障害に関する、信頼できる単発的な報告が多数でている。その効果には睡眠障害・記憶と集中力の減退・疲労・頭痛・皮膚障害・視覚症状(飛蚊症)・嘔吐感・食欲不振・耳なり・心臓症状(心拍増加)がふくまれる。携帯電話電波塔水準(推定0.01から0.5マイクロワット毎平方センチメートル)の高周波曝露が、無線アンテナ施設から数百メートル以内に居住する住民に悪影響をおよぼすとする、信頼できる報告もいくつかある。
このような報告では、現在の連邦通信委員会・非イオン化放射防護国際委員会の全身曝
露基準を相当に下回る、制限・指針が議論されている。公衆衛生の見地からみてどれほど
の低水準まで考慮せねばならないか不明であることは、既存の情報に応答する努力をしな
くていい理由にはならない。高周波による生物学的効果や健康被害の下限は確
立されていないので、たとえば無線WLAN・WI-FIシステムによる潜在的な健康への危険については、さらなる研究が必要とされており、また現時点においては、いかなる水準の無線曝露(慢性的曝露)においても、確実な安全性は保証されない。人体の健康に影響しめすと報告された下限は、既存基準にくらべると、移動電話・携帯情報端末では100分の1に、遠距離の携帯電話電波塔やWI-FI・WLAN施設では1000分の1から10000分の1にもあたるものである。安全基準そのものの基礎が問題とされており、いかなる水準の高周波の安全性をも問題視するのも無理なことでない。
携帯電話電波塔・WI-FI・WI-MAXその他類似の源泉に適用される、環境無線パルス高周波曝露の警告目標水準が提案されている。パルス高周波への曝露が公衆に影響しうるところでは、警告目標水準は0.1マイクロワット毎平方メートル(0.614ボルト毎メートル)とされている。この勧告は、証拠にみあったものであり、慎重な公衆衛生政策にも適合するものである。野外の蓄積的な高周波曝露に対しては、0.1マイクロワット毎平方センチメートルの警告水準が適用される。人々が生活し就労・就学する場所での、パルス高周波(環境)曝露に対して、合理的に適用されるべき、現在の科学と慎重な公衆衛生政策とが、そこには反映されている。この水準の高周波は、全身曝露として経験されるものであり、携帯電話・ポケッ
トベル・携帯情報端末その他の放射減による音声・データ通信に必要とされる無線通信網が存在するところでは、慢性的曝露をおこしうるものである。野外の警告基準が0.1マイクロワット毎平方センチメートルということは、建造物内ではそれ以下の基準、たとえば0.01マイクロワット毎平方センチメートルが適用されるということである。それよりさらに低い水準での健康被害も、一部の論文と多数の記事では報告されている。しかしいまの段階でも、放射施設にもっとも近い場所でのもっとも不適切な負担を軽減することはできる。この警告によってWI-FI技術のさらなる発展を阻止することはできないが、ありうる健康への影響についてより多くのことがわかるまでは、特に学校や図書館において、小児がより高水準の高周波に曝露しないようにするために、WI-FIにかわる有線の代替物を使用することも勧告される。この勧告は、予防的措置を指導するための暫定的な警告基準と理解されるべきである。将来においては、より厳格な基準も必要とされるかもしれない。
周辺住民を振幅変調・周波数変調およびテレビのアンテナからの高水準の放射に慢性的に曝露させる放送施設もまた、非常に高用量の高周波への曝露の可能性を考慮するならば、公衆衛生上の重大関心事である。たとえばコロラド州ルックアウト山やオレゴン州ベンドのオーブリー丘などの放送用地から半マイル以内の居住地域では、高周波の水準は数十から数百マイクロワット毎平方センチメートルにも達しうる。居住地域や学校に立地しているか、あるいはそれらを曝露させる放送施設には、高周波の水準を上昇させることから、安全のために再評価される必要が多大にある。
携帯電話・携帯情報端末等無線機器からの放射についても、脳腫瘍と聴神経腫の危険をますという十分な証拠があるので、その使用への介入が要請される。たとえば有線ヘッドホン併用かスピーカーモードでしか作動しない新型器を設計するなどして、携帯電話や携帯情報端末を再設計することにより、頭や目への直接の曝露をふせぐことができる。
制御されない慢性的な曝露により、これらの効果が、健康被害と病気をもたらすと仮定すべき合理的な根拠はあり、とりわけ小児は被害にあいやすいとみられる。そういう環境から自発的にはなれることは、若者にとっても相当に困難である。二次的喫煙に類似した二次的曝露もまた、既存の証拠にもとづく公衆衛生上の問題である。
5. 結論
・「通常の業務」をする余裕はもはやない。超低周波電磁波が低水準である環境を保証する通常の作業のなかで、送電線や住宅や学校や、居住地域内のその他の施設をあらたに設計しなおすことがいま必要である。「通常の業務」による新無線技術の配備は、危険ではあるが、教育された社会の成員により、規制に関する決定が早急になされないかぎり、変更されるのも困難である。新無線技術に関連する高周波が、どの水準まで許容されるかを決定するために、研究は継続されねばならない。しかし研究が必要だからといって、将来の生命と財産をすくい社会崩壊をふせぐ現在の実質的な変化を、とめたりおくらせたりするようなことがあってはならない。
・超低周波電磁波のあらたな規制基準が要求されている。その基準は、小児白血病研究で発病の危険と関連づけられる曝露水準に、危険因子を追加した水準を下回るように設定されるべきである。超低周波電磁波が危険になる環境水準(通常2ミリガウス以上)に人々をおく、送電線等の電気施設を新規に建設することはもはや許容されない。
・あらたな超低周波電磁波基準が策定・実施されるまで、合理的な方法となるのは、新設・改良された送電線の近傍では1ミリガウスを、それ以外のすべての新規工事では2ミリガウスを、それぞれ計画基準とすることである。小児と妊婦のための既存の居住空間において、1ミリガウス基準を確立することも勧告される。自分で自分をまもれない者や、通常なら規制措置を講じるに十分なほど高率の小児白血病の危険にさらされている者に対しては、より高度の保護が必要であるという仮定に、この勧告は立脚している。この状況はとりわけ、1ミリガウス基準を既存居住空間に拡張することを要請している。「確立する」とここでいうのは、保健当局による公式の監督を意味している。
・すべての既存の配電設備を再建することは短期的には現実的でないが、とりわけ小児が時間をすごす場所においては、そういう既存設備による曝露を削減するための措置が、推進され奨励されるべきである。
・0.1マイクロワット毎平方センチメートル(0.614ボルト毎メートル)の警告基準が、野外の蓄積的な高周波に適用されるべきである。人々が生活し就労・就学する場所での、パルス高周波(環境)曝露に対して設定されるべき、慎重な公衆衛生上の施策と、高周波に関する現在の科学とが、ここには反映されている。この水準の高周波は、全身曝露として経験され、携帯電話・ポケットベル・携帯情報端末その他の機器による、音声・データ送信に必要な無線通信網があるところでは、慢性的曝露をおこしうる。一部の論文と多数の記事は、より低水準の曝露でも健康への悪影響が生じるとしている。しかしいまの段階でも、その種の施設のもっとも近くにいる公衆に課せられている過大な負担を軽減することはできる。この目標高周波水準は、WI-FI技術のさらなる発展を阻止するものではないが、健康への影響についてより多くのことがわかるまで、小児がさらに多くの放射に曝露することがないようにするために、特に学校と図書館において、WI-FIの有線による代替手段を導入することが勧告される。この勧告は予防的措置を意図した暫定的な基準と解釈されるべきであり、将来より厳格な基準が要求される可能性もある。
◆参照文献
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(3) REFLEX, 2004. Risk Evaluation of Potential Environmental Hazards from Low Frequency Electromagnetic Field Exposure Using Sensitive in vitro Methods.
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◆超低周波電磁波・高周波計測単位の簡便な定義
ミリガウス
ミリガウスは超低周波電磁波の強度の単位であり、mGと略記される。これは電気機器・送電線・室内コードなどからの電磁場を記述するのに使用される。
マイクロワット毎平方センチメートル
電力密度で表現される高周波はマイクロワット毎平方センチメートルで計測されるが、この単位はμW/cm2と略記される。これが使用されるのは、無線施設からの放射を問題にするときか、あるいは環境中の高周波を記述するときである。たとえばある種の携帯電話周波数において、電波塔の付近で許容される高周波の量は1000マイクロワット毎平方センチメートルである。
特異吸収率(ワット毎キログラムで計測)
SARと略記されることもある特異吸収率は、たとえば携帯電話やコードレス電話が頭部におしつけられたときに、どれほどの高周波エネルギーが体内に吸収されるかを計算したものである。特異吸収率は、組織1キログラムあたりのワット(W/kg)で表現される。脳組織への吸収が許容されるエネルギーの水準は、アメリカでは1.6ワット毎キログラムである。全身曝露の場合、公衆への30分以上の曝露による平均値は0.8ワット毎キログラムである。ほとんど国の基準値は国際基準に準じているが、まったく同じであるわけではない。

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