子ども料理科学教室「料理に塩がとっても大切なわけ」

投稿者: | 2008年9月3日

写図表あり
csij-journal 019 kobayashi.pdf
報告
子ども料理科学教室「料理に塩がとっても大切なわけ」
小林友依(市民科学研究室・食の総合科学研究会)
●はじめに
塩はおいしい料理を作るのに必要な調味料ですが、実は味を決めるための調味料としての働きだけでなく、食材の甘さを引き出したり、醤油や味噌などの発酵状態を作ったり、漬物などの保存性の高い食品を作ったりとさまざまなところで大活躍しています。
家庭で何気なく使っている塩を味比べや実験などの体験を通して、塩の見えない役割に注目できる教室にしました。
 
●まずは味覚実験から
まず食材の味を最大限に生かし、1種類の調味料がいかに食材の美味しさを引き出すことができるのかを舌で確かめる味覚実験を行いました。食材は木綿豆腐、胡瓜、薄焼きたまご、トマトです。調味料は塩だけでなく砂糖、酢、ごま油、胡椒の合計5種類を用いり、比較してみました。子どもたちは「塩との組み合わせがおいしい」と、言っていましたが、「トマトが好きだからトマトはどの調味料でもおいしい」などといった意見も聞かれました。
食物特有の食感や浸透圧などの味以外の刺激がおいしさを左右したり、嗜好によって変わったりするので、この味覚実験は少々無理があったのかもしれないと思いました。
 しかし、塩は食欲増進に役立つこともあります。塩は生理的に不可欠なものであることから、塩が欠乏すると塩欲求がおこります。また、塩の欠乏状態ではなくとも適度な塩味が好まれ、食欲の増進をさせられます。また塩味が薄いとおいしくないと味覚が判断し、食欲が損なわれてしまうのです。子どもたちの食べっぷりから、もしかしたら食欲がわくのにちょうど良い塩加減で、それを好んで塩との組み合わせがおいしいと言ったのかもしれません。
●塩の種類と作り方
続いて塩の種類とつくりかたを教えました。ここではまず海塩、岩塩、精製塩の観察から始まりました。
塩に色の違いがあったことに驚き、黒い岩塩を見て「これは塩なのだろうか」と疑問を持った子がいました。匂いをかいで「こんなくさい塩があるのなんてしらなかった」と匂いをかぐだけで食べるのを嫌がる子がいました。「これは粒の大きさが違うよ。結晶の形もきっとちがうのだよ」とそれぞれの塩に触れては科学者のような発言をしていた子もいました。ひとつに塩といってもさまざまな種類があり、調理によって、国によって、さまざまな色、形をした塩があるということに触れていただけたと思います。
続いて塩のなかで最も身近であり、古くから使われている海水の塩についての説明をしました。
古くから伝わる塩の製法の説明をした後、海水からどれくらいの塩が取れるのかを確かめる実験をしました。用いたのは海水とガスコンロ、大きな空き缶です。実験方法はいたって簡単です。空き缶に海水をいれ、火にかけるだけ。それだけで塩がとれるのです。この塩を味見もしました。味見をした子どもたちは苦いと言っていました。おそらく海水に含まれている成分が作用したのかと思います。子どもたちは沢山の海水を用いていたので沢山の塩が取れると思っていたようで、とても塩辛い海水からできあがった塩がほんのすこしだけだったことに驚き、がっかりしていました。この実験では500mlの海水からおよそ7gの塩が取れました。
最後にあさりと塩の実験をおこないました。精製塩を溶かした塩水と自然塩を溶かした塩水にあさりを入れておくと精製塩に入れたあさりはまったく口を開こうとしないのです。これはどうしてなのかわからない、とても不思議な現象でした。こどもたちはこれをみて、精製塩はとても怖いもの、つまり毒なのだと思ってしまったようで、家庭で使われているのかを親に聞いてしまった子もいたと伺いました。これは少々反省しなければならない点です。このような誤解が子供たちに植え付けてしまいました。しかしこれはとても興味深い実験です。これを今後検証し、次の授業に生かしたいと思いました。
●味付けにおける塩の役割
ここまでは塩に直接ふれる授業になりました。続いては塩の性質と作用についての授業を行いました。
冒頭にも言いましたが塩は調味だけでなくさまざまな効果があります。食欲増進、脱水作用、発酵調整作用、食品の物性変化、磨砕作用、氷点下降下作用などに大別できます。
まず、味付けにおける塩の役割を知ってもらいました。
塩加減によっておいしさが変わることを子どもたちに実感してもらうために、だし汁に塩を入れてもらい、各自がおいしいと思える清まし汁を作ってもらいました。
子どもたちはどのくらい入れたら美味しいのか検討がつかないため、少し塩を入れたら味見をして、また少し入れたらまた味見。この動作を繰り返し、各班で美味しいと思える塩加減を見つけていました。
塩の加減は人それぞれでした。出来あがった後、ある子どもが美味しいだし汁ができたと自信満々にほかの子に飲ませてもそれを飲んだ子は濃いと感じ、また自分が作ったものが一番おいしいと、意見が飛び交っていました。
ここで子供たちを驚かせたのが各班で比較した入れた塩の量です。だし汁の中に入れる前に塩の重量を測定しておきました。入れた後、減った塩の重量を測定し、差を各班で出し、班毎にどのくらい入れたのかを比べました。各班それぞれ0.01g程度しか差がなく、塩がだし汁の中に入っているのに、濃いと感じたり、薄いと感じたりとこんなに塩味が変わるのだと言うことに驚いているようでした。微量の塩加減で味がずいぶんと変わってしまうことを体験していただき、注意深く塩を使わなくてはいけないことを知ってもらえる実験となったと思います。
ダシがとてもおいしかったので塩がなくても良いとの意見も聞けました。この味覚実験でダシをとる際、私達独自の材料の割合を検討すべきであると気づかされました。というのも多くの昆布を使い、多くの鰹節をつかう。これが贅沢であり、とてももったいないということを感じました。ここまでこれらを入れないといけないのだろうかと疑問さえ浮かびました。今後、必要最低限で最大のうまみを引き出すための研究を進めたいと思います。
味付けにおける塩の役割についてもうひとつ実験を行いました。
2種類のあんこを用意しました。一つは小豆と砂糖、もう片方は小豆と砂糖と塩で作ったものです。この2種類を食べていただき、子どもたちがより甘さ・おいしさを感じるのはどちらかを食べ比べしました。
子供たちの反応はちょっと塩を強く感じたらしく、塩の入ったものと入っていないものを合わせて2で割るくらいがちょうどいいなどと言っていました。
この2つの味覚実験は、塩の対比効果を利用した味覚テストです。対比効果とは2種類以上の異なる味を動じに味わった場合、一方又は両方の味が他方を強める現象をいいます。つまり、うま味と塩味、甘味と塩味の組み合わせによって、塩味がうま味、甘味を強めたのです。では、実際においしいと感じられる塩分濃度はどのくらいかというと、人それぞれに閾値が異なりますので幅がありますが、吸い物や汁物は0.8~1.1%の間で、煮物はご飯と一緒に食べたときに薄められて程よい塩味となる1.5~2%が良いといわれています。
●塩の脱水作用、浸透圧の実験
 続いて塩は味付け以外にどんなときに使うかについて授業を行いました。まず塩の脱水作用についてです。
 輪切りに切った大根を用意し、中心をスプーンなどのかたいもので穴を掘り、その穴に塩を入れておきます。時間が経って観察をするとさらさらしていた塩が溶けていました。
 さらに赤キャベツを2つのボウルに100gずつ用意し、一方には塩を、もう一方には砂糖を同じ10gだけ入れます。すべての材料を入れた後、重量を測定します。そのあとは5分間、やさしくかき混ぜるように塩や砂糖をなじませます。5分後にキャベツからでてくる水分をコップに空け、ボウルに入ったキャベツの重量を再度測定し、それぞれの調味料の脱水作用を比べました。塩と砂糖では塩のほうがはるかに多くの水分をキャベツから取り出すことができました。
 なぜ塩がとけてしまったのか、どうして塩で揉んだキャベツのほうが砂糖で揉んだキャベツよりも重量の変化が大きいのかを説明しました。
 
 植物の細胞は細胞壁、細胞膜、細胞質、液胞膜、液胞および核により構成されています。細胞の周囲の細胞壁は透膜で水や糖、塩、調味料の通行の障害とはなりませんが、細胞膜は半透過性作用を持っており、細胞内濃度よりも高い濃度と接すると、浸透圧の差によって植物の細胞内水分が半透性を有する細胞膜を通って細胞外へ引き出され脱水されます。そして植物の細胞の状態が変化し、細胞膜の半透性も失われ、塩分やその他の成分の自由な浸透が起こるようになります。
大根の実験もキャベツの実験も浸透圧が関係します。大根中の塩分と穴に入れた塩分濃度では穴に入れた塩のほうがはるかに高いです。そのため同じ濃度になろうと大根の中から水が移動してきたため、塩が溶けていたのです。キャベツでも同じことが起きています。
浸透圧と聞きなれない言葉を耳にし、非常に難しいことを話されるのかと子どもたちは構えていました。しかし、パワーポイントで画像を利用し、説明することでこれは解消されました。
塩と砂糖では最終的にキャベツの重量が異なったことについて説明するために比重の話をしました。塩10gを含む100gの塩水。砂糖を含む100gの砂糖水。どちらも同じ濃度ですが、分子といわれる小さな小さな粒の数が水の中に含まれる塩と砂糖では異なると話をしました。これだけでは分からない様子なので、アルコールと水、小豆と胡麻を用いて説明しました。
水50ml、アルコール50mlを混ぜるとどうなるか子どもに問いかけると「50+50だから100になる」とかえってきました。しかしメスシリンダーに水とアルコールを混ぜ入れると100mlに達しません。子どもたちにはとても不思議なことが起きています。これはまたパワーポイントで画像を用いて教えました。どちらも小さな粒が集まったものですが密度が違います。この二つが合わさると大きな粒の間に小さな粒が入り込み、体積が小さくなるのです。
胡麻と小豆も用いて説明をしました。胡麻と小豆を水とアルコールの分子に見立てて行います。同じ体積の小豆と胡麻を用意し、それを混ぜ合わせると体積が小さくなります。こちらも粒の大きさが異なるため、水とアルコールと同じ現象が起きているのです。
この密度が異なることで砂糖と塩がキャベツに違いを起きたのです。キャベツの浸透圧は8.53atm。食塩の浸透圧は2%の濃度で17atm。浸透圧を食塩の濃度のあわせるとショ糖20%で16.6atmとなります。
植物の半透膜を説明するため、植物をつくっているちいさな部屋「細胞」を見ることにしました。キャベツと大根を薄く切り、顕微鏡で観察をしました。実際に細胞を見ながらの説明になったので子どもたちの理解が深まったように感じました。
さらに半透膜について理解を深めるために卵を用いりました。卵の卵白を包む膜は、半透性に近い性質をもつことが知られています。卵殻を酢で取り除いた卵を使った実験を画像で説明しました。画像だけでなく、実際に実験を行った卵を用意しました。ゴムまりのように膨れ上がった卵の弾力や様子を子どもたちにはとてもおもしろいものだったようで、いつまでも卵に触っていました。
これらが終わるころには子どもたちに最初の緊張の面持ちは消えました。浸透圧が起きる原理や浸透圧によって何ができるのかを浸透圧ってどういうことかわかった?と聞くと私たちに一生懸命説明しようとしていました。
●いよいよ、かまぼこ作り
かまぼこ作りには塩は2つの役割をしています。一つは魚のうま味を引き出すための調味料としての役割。もう一方はかまぼこ特有の弾力性を作り出す、塩の食品の物性変化という役割です。
魚を細かくした後、タンパク質が塩によって変化することが分かる実験にするため、塩を加えて魚をすり鉢ですったかまぼこと塩を加えないで魚をすり鉢ですったかまぼこを作りました。塩を加えた場合はすり鉢ですっていると次第に粘りが出てきました。子どもたちの手が疲れるくらいの粘りです。ここで親御さんが登場。一生懸命すりつぶしていただきました。逆に塩が入っていない魚は弾力が出てくるなどの変化を見ることはできませんでした。すりつぶした魚はサランラップで包み、蒸し器に入れました。
かまぼこをつくろうというだけでわくわくします。これが意外と簡単に作れることに子どもたちも驚いていました。材料も足の強い魚と塩、でんぷんだけである。魚肉中に含まれているタンパク質は変性し、ゴム状の物性を作ります。この物性を「足」といいかまぼこの物理的味を作り出すにはこの「足がつよい」魚を用いります。塩は魚肉100に対しておよそ2.0~2.5。でんぷんは5~20%で足の弱い魚を用いるときに足を強める補強となりますが、足の強い魚は逆に足を弱くするので注意が必要です。
蒸しあがったかまぼこを食べ比べました。塩が入ったかまぼこのほうが断然おいしいと子どもたちは言っていました。塩が食感をよくし、うま味をしっかりと引き出してくれました。少量の塩がこんなにも頑張ってくれるのなんて塩の力の偉大さを感じていただけたと思います。
 最後にシャーベット作りを行いました。これはしおの凝固点降下を利用した実験です。
塩をまぶした氷は0度よりもずっと低い数値を指します。氷と食塩の割合にもよるがー20度まで下げられるようです。これを実験にとりいれましたが気温が高かった為かなかなかシャーベットができませんでした。これはなぜだろうと調べたところ、これは過冷却が起きているのも原因かもしれません。これは子どもたちの前では説明ができなかったことです。なかなかかたまらないシャーベットを不安そうに見ている子供の顔が忘れられません。
水が0度まで冷やされると、自由に動き回ることができた分子の運動は極限まで小さくなります。0度では、結びつく為に適切な振動をして、分子同士が結びつこうとしている状態を作りますが、それよりも温度が下がる早さが速いと、結びつくことができません。氷点下でも凍らないのは、分子同士が結びつく直前の状態が微妙に保たれてしまったからです。その状態から熱のエネルギーが奪われると、さらに分子はほとんど動けない状態となります。冷却によって熱エネルギーだけが奪われていき、氷点下になっても温度が下がり続けていくのです。このように過冷却が起こると考えられます。つまり過冷却が起こすためには水を動かさずにそっと冷すことになります。水は0度になったら凍ると言うわけではないのです。この過冷却の状態を脱するには衝撃を与えたり、小さな氷をいれたりすると氷点下で、結びつく直前の状態を保っている分子は、熱エネルギーを奪われ、運動できずに、結びつきたいけれども結びつくことができずにいる。この分子同士が絶妙な関係を保っているときに、氷の結晶ができると均衡が破れるのです。
シャーベット作りには氷と塩だけでなく、分子が結びつける条件。つまりかき混ぜるなどの振動を与えると凍ることができるのであると、実験後の調べによってわかりました。
たしかにかき混ぜ始めてからやっとシャーベットができやすくなっていました。
●全体をふりかえって
小学生の低学年には少々難しい言葉が出てきたりしましたが、子どもたちには実際に触ったり味をみたりできる体験の時間を多くしたり、映像を見て理解を深めたりしたので、無理なく理解ができたのではないかと思います。また体験の時間を多くとることで飽きることなく最後まで顔を先生に向け、しっかりと耳を傾けていました。
今回の授業では触れられませんでしたが塩には発酵調整作用や磨砕作用もあります。まだまだ塩には不思議が多くあります。その中の一部を子どもたちに授業を通して伝えることで、古くから大切に使われてきた塩の重要な役割を理解していただけたと思います。■

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA