TALKING SCIENCE 科学と市民の対話は可能か? (4)  Dana Centre

投稿者: | 2005年4月12日

TALKING SCIENCE 科学と市民の対話は可能か?
(4)  Dana Centre
岡橋 毅
doyou83_okahashi.pdf
 Dana Centreは、2003年11月、ロンドンの科学博物館のすぐ近くにオープンした。ここは「科学を話す(talking science)」ことを主眼とした対話型イベントを数多く開催している新しいタイプの科学館であり、展示物はなく、「科学」という話題のもとに人と人が出会う場を提供することに重点がおかれている。ほとんどのイベントは夕方におこなわれ、お酒や食べ物がはいるように、大人向けの科学館でもある(注1)。ここでは、コメディや演劇、アートを織り交ぜた「エンターテイメント」を意識したイベントから、科学者と市民との討論を中心にした「対話」を重視するイベント、ノーベル賞学者の講演にいたるまで、科学技術をテーマにした様々な方式・種類のイベントが開催されている。これらのなかでも、「Naked Science」と「The x-change」というイベントは、とくに双方向の「対話」を重視している。以下では、それぞれの大まかなコンセプトと方法を、事例をあげながら説明していく。
 Naked Scienceは、日常生活に影響してくる科学技術の話題について話し合うイベントで、論争的な話題や巷で話題になっている事柄をとりあげている。スピーカーとして、3~4人の専門家(自然科学者だけでなく社会科学者や政策担当者、活動家など)が招かれ、聴衆と議論する。基本的な流れは、ファシリテーターによる導入、10分ずつの専門家のスピーチを経て、その後はすべて質疑応答になる。最近のテーマをあげると、「院内感染」「風力発電」「遺伝子スクリーニング」「生体認証ID」「ジェンダー」「喫煙・禁煙」など。なお、過去のいくつかのイベントはウェブ上でみることができる(注2)。
事例:遺伝子検査(Genetic Screen)〈9月8日〉
 「生まれる前のすべての胎児は、嚢胞性線維症やハンチントン病や鎌状赤血球貧血などの遺伝病について、全国的なスクリーニング・プログラムによって検査されるべきなのだろうか? それでわかったことであなたはどうしますか? 専門家に自分の意見を言ってみましょう。」
 この日のトピックは、遺伝病になる確率を妊娠中に検査する技術についてだった。折しも、イギリスではHuman Genetics Commissionという人間の遺伝子に関する諮問機関が生殖医療技術に関するパブリック・コンサルテーションを行っており、遺伝子検査はホットな話題であった。スピーカーは、生命倫理学者、障害者団体代表など。イベントは、はじめに聴衆の意見をリモコンの電子投票機をつかって明らかにし、スピーカーが意見をひととおり述べ、その後に倫理から障害者の差別、優生学、妊婦の責任や権利、多様化する社会など活発な議論が行われた。イベント終了後のリモコン投票では、参加者の73%が、自分の価値観を考え直したと答えた。また、スクリーニングに肯定的な意見が減ってもいた。
 The x-changeは、exchange(交換する)のもじりであることからもわかるように、参加者の意見交換を主眼としている。ここでもNaked Scienceと同じように、主題となるのは論争的であり、ニュースなどで話題になっているものであることが多い。基本的な形式は、これもNaked Scienceと同様に、数人の専門家が登場してそれぞれが意見を表明し、その後に聴衆を含めた参加者どうしで質疑応答、意見交換を行う。意見交換(exchange)を促すために、グループディスカッションをしたり、イベント中にリモコンを使った電子投票を行ったりもする。ちなみに、このイベントは英国科学振興協会(The BA)のサポートを受けており、過去のイベントのまとめをウェブ上で参照することができる(注3)。
事例:核エネルギー(Nuclear power)〈6月27日〉
 「核エネルギーは我々のエネルギー危機を解決できるのだろうか? 核廃棄物を安全に廃棄する方法はあるのか? この問題や今月の他の最新の問題について、あなたの意見を一流のコメンテーターと交換する(exchange)のに参加してみましょう。」
 この日のThe x-changeはエネルギー問題が中心であった。参加者は、物理学者、新聞記者、環境コンサルタント、原子力関連団体の安全担当者。彼らが自らの意見や現状認識、そして聴衆からの質疑に答える形で進行していった。関心の高い聴衆は、自説をくりひろげることもできる(例えば「代替エネルギー推進論」)。現役のブロードキャスターでもあるファシリテーターは、質問をまとめたり、時間配分をしたり、応答するスピーカーを選んだり、まさに場を仕切っていた。話題も、核エネルギーの短期的・長期的な議論から、核廃棄物の問題、フランスなどの諸外国の現状、風力発電の可能性、化石燃料の枯渇問題、個人の責任、パブリック・ディベートについてなど多岐にわたり、賛否両論の活発な議論となった。
 次回はもう少し自分の感想も含めながら、イベントの考察に入っていく予定。
注1)”Cool Science, for Adults Only” (Wired News)
http://www.wired.com/news/culture/0,1284,61279,00.html
注2)Dana Centre Webcast Archive
http://www.danacentre.org.uk/Default.aspx?DanaMenu=_WEBCASTARCHIVE
注3)Reports by the BA.

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