食品放射能汚染計測データ(2011-2012)を分析する(その1)

投稿者: | 2013年7月23日

食品放射能汚染計測データ(2011-2012)を分析する(その1)
上田昌文(市民科学研究室・代表理事)

以下に掲げる1)の論文は、2)のデータをふまえて書かれています。 1)では部分的に2)のグラフを引用していますが、読者は自身の目的や興味に応じて、2)のデータ自体を活用していただければと思います。

1)食品放射能汚染計測データを分析する(その1)
報告の全文のPDFはこちら→csijnewsletter019_201308_ueda.pdf
2)食品放射能計測データ一覧(2011~2012年度厚労省発表分)

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食品放射能汚染計測データ(2011-2012)を分析する(その1)
上田昌文(NPO法人市民科学研究室)

この報告は3部から成る。第一部では2011年度ならびに2012年度の厚労省データ(各都道府県が国のガイドラインに基づいて実施した食品放射能の計測データ)を扱う。第二部では2011年度ならびに2012年度の自主流通グループのデータを扱う。第三部では放射性物質の移行の低減化をすすめるためになされてきた様々な対策(実験研究や現地調査や実施されてきた具体策)を振り返り、そこから得られた知見を整理しつつ今後の課題を考察する。
なお、この報告は、科学技術社会論学会による2011年度「柿内賢信記念賞研究助成・実践部門」での助成を受けてなされた「食品放射能汚染の計測の合理化・適正化に関する社会実験的研究」の成果の一部をまとめたものである。

対象とする食品の類別
放射性物質による食品汚染の把握は一様にはいかない。それは、おおよそ【表1】に類別した場合に応じて、それぞれ異なった汚染・被曝状況が生まれるからである。

【表1】食品における放射能汚染の状況把握のための食品の類別
(a) 農畜産物(1)市場に流通させる(都道府県の計測・モニタリングの対象)
(b) 農畜産物(2)自家栽培もしくは個人で狩猟採取したものを市場に出さずにそのまま(計測しないで)個人で消費する
(c) 水産物(1)市場に流通させるもの(都道府県の計測・モニタリングの対象)
(d) 水産物(2)河川や海で捕獲したものを市場に出さずにそのまま(計測しないで)個人で消費する
(e) 加工食品(大半は計測の対象外、一部自主的な計測がなされている)
農畜産物と水産物の汚染の、現時点における最大の違いは、農産物では、事故を起こした原発由来の新たな放射性物質の大気中への放出がないため、すでに降下した放射性物質の移行だけが問題になるのに対して、水産物では、事故サイトから海への汚染水の漏出が今後も相当長期間止まらないと思われることから、(効果的な低減化対策が見出しにくいことも関係して)新たな汚染の広がりや高まりを懸念せざるを得ない、という点にある。放射性セシウムでみて、農畜産物では2013年に入って大半の品目が「不検出」になっているか、検出されても2011年に比べるとかなり低減化したと言えるものが多いのに比べて、福島県の川魚や福島県近海で獲れる魚類などは、農畜産物と似たような低減化の傾向を示しているとは言えないものが多数ある。
このうち、(b)と(d)で得られる食品は、(a)と(c)のうちから「品目・地域・時期・生育条件」などが同じもしくは一番類似しているものの公表されたデータを調べて、汚染度を推測できる場合があるが、正確を期するにはそれ自身を計測するしかない。(b)と(d)の食品のうち汚染度の高いだろう品目を頻繁に摂取している人では、その人の内部被曝量はかなり大きくなる可能性がある。
(e)は当然のことながら、加工のやり方次第で製品の汚染度は大きく変わる。同じ汚染度の大豆を使った加工品でも、「豆腐」と「納豆」と「おから」と「きな粉」では、それぞれの製品の汚染度が違ってくる。実際には、どこでいつ生産された原料を調達するかで、まず大きく違いが出てくるが、それに加えて原材料の含有割合や加工法による移行や除去の割合が異なってくるので、最終製品に含まれる放射線物質の濃度は原材料とは大きく異なってくる場合がよくみられる。

3種類の放射能測定データ群
ここではまず、「市場に流通」(A)と「自主流通」(B)に対応した計測データがあること、そして「自家栽培採取で自家消費」であっても測定にかけたものがあること(C)、をふまえておきたい。

(A) 各都道府県(自治体)が国のガイドラインに基づき、主として、流通して間もないものからサンプリングして検査する(基準値を超えた場合は出荷制限をかける)ことによって得られたデータ。このデータは最終的には厚生労働省(ならびに農林水産省)に集約され、一覧として公開されることになる(◆注1)。

◆注1:厚生労働省の関連ページ
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001m9tl.html
http://www.maff.go.jp/noutiku_eikyo/mhlw3.html
ならびに農林水産省の関連ページ
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_chosa/

サンプリング対象地域の設け方、サンプリングの検体数や頻度、測定における精度(「検出限界値」の設定など)が、各自治体の判断に委ねられている部分もあるため、必ずしも統一がとれているわけではない。とりわけ、2012年4月から導入された「新基準」の前と後では、各自治体でデータの取り方が変化したため、単純に2011年度と2012年度のデータを比較するのが難しくなっている場合が多い。ただし全体としてのデータ数は品目のよっては非常に多くなっているため(その極端な例は、福島県が実施した2012年の福島産の新米の「全袋調査」であり、そのデータ数は1000万件を超える)、地域や時期による放射性物質の濃度の違いや推移から、様々なことを推測し、今後の予測につなげることが可能なものもあるように思われる。

(B)JAや卸売市場を通さない、産直などを手がける自主流通グループによる計測データ。こうしたグループのうち、それぞれが独自に計測したデータを公開している代表例に、「生活クラブ生協」、「大地を守る会」、「らでぃしゅ坊や」、「パルシステム」がある。政府が決めた「基準値」とは異なるより厳しい「自主基準」を採用し、早い時期にゲルマニウム半導体計測器を導入した(検出限界を小さくした)所が多い。またほとんどで、出荷前にサンプリングしてチェックを入れる体制になっているように思われる。しかし、サンプリング対象地域の設け方やサンプリングの検体数や頻度はやはり必ずしも統一がとれておらず、データ数も品目によっては非常に少ないものがあったりする(その品目の生産者がごく限られているという事情のためだと思われる)。おおまかに言って、こうした自主流通グループの公開データだけから、今後の食品汚染状況の推移を読み取ることは難しい。(A)と重ねあわせて判断・推測していくことが望ましいと思われる。

(C)生産者個人や消費者個人が市民放射能測定などに検体を持ち込んで計測して得られたデータ。これらは、時期も検体数も品目も、それぞれ持ち込まれた測定所によって、ばらばらであるが、(b)や(d)のように自家栽培や自己採取、(e)の中でも消費者の懸念が大きいだろう品目のデータが多く得られるので、(A)と(B)のデータと重ねあわせてみることで、今後へのいくつかの示唆が得られるように思われる。

この報告(第1報)では、まずはAを扱う。すなわち、元データはすべて厚労省ならびに農水省のホームページで公開されているが、それらのデータから、品目別に見た場合に食品放射能汚染についてどんな特徴や傾向が読み取れるかを考察する。

食品の汚染度を決める要因
まず、食品の汚染度を決める要因を確認しておこう。大気圏核実験由来の放射線降下物は、日本の土壌がどのくらい汚染したのか、そして農産物や海産物にどのくらい吸収されたのか(移行係数)が、長年にわたって細々と継続して調査されてきた(◆注2 )。そうした調査やその他の実験などから得られた知見が、では福島原発事故による食品汚染の分析や対策にどの程度生かされたのか(あるいは生かすことのできる知見が存在したのか)は本報告の第三部で詳しく考察するが、少なくとも農産物・畜産物については、過去の知見もふまえつつ事故後2年ほどの間に得られた膨大な検査データや種々の調査や実験の結果から、「何が食品の汚染の度合いを決めるのか」ということの複雑な様相がより明確になってきたのではないかと思われる。考えられる要因のうち主だったものを【表2】に示す。

【表2】 農産物・畜産物の汚染度決める要因
①放射性降下物を付着する構造物(葉、茎、枝など)の量や大きさや付着度合い
②事故直後に降下物が最も多かった時期と生育時期とのタイミング(例:葉面吸収の著しい時期との重なり具合)
③土壌に付着した放射性降下物の量(濃度)
④葉面吸収や経根吸収のメカニズムに由来する、放射性物質吸収度合い
⑤灌漑水の存在(生育環境である水や泥の汚染と、生育中の植物体への移行)
⑥土壌の質(放射性物質の吸着度合い)
⑦周囲の環境からの放射性物質の飛散・流入の度合い
⑧肥料や堆肥、原木・菌床それ自体の汚染/畜産物では与える餌や水の汚染
⑨大気中の放射線物質の濃度と呼吸によるその取り込み具合
⑩肥料などの成分のうち、放射性物質移行の低減化に寄与する物質の存在

◆注2:原発事故後の調査も含めて、主だった関連情報は、原子力環境整備促進・資金管理センターの「環境パラメーター・シリーズ」、農業・食品産業技術総合研究機構・食品総合研究所の「放射性物質影響WG(ワーキンググループ)」、社団法人日本土壌肥料学会、東京大学農学部の「放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会」、福島県農業総合センター、などのそれぞれのホームページで関連資料や論文やシンポジウム記録などが入手できる。

これらの要因の相互の関係性や寄与の具合を、ある品目について全部を明らかにすることは難しいが、放射性物質の検出が比較的に高い値になった品目や、コメや麦のように恒常的に摂取する主食にあたるような品目については、この2年で移行メカニズムの主だったところの解明がすすみ、その知見に基づいてある程度の低減化対策がとられ、その中にはいくらか功を奏したものがあったりする。例えば、農水省がまとめた
放射性セシウム濃度の高くなる要因とその対策について(米・大豆・そば)
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_seisan_1.html
はその代表例である。

(以下、続きは上記PDFファイルにてお読み下さい。)

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