大塚典子(グラフィックデザイナー)
前回で分かったのは(1 )酵母は単細胞の真核微生物( 2 )ビ-ルやパン、ワインで代表的な酵母の名前は「サッカロミセス・セルビジエ」 (3 )サッカロミセス・セルビジエは細胞から芽を出して増える出芽酵母 で(4 )甘いものが大好き (5 )糖分をアルコールと炭酸ガスに分解します (6 )分解する時に酵素を使うため、栄養培地から補酵素ビタミンやミネラルといった栄養を吸収。その結果ビタミンB やアミノ酸が生み出され、栄養満点に食品になる!酵母ってすごいね!・・・ということでした。
しかし酵母の世界はもっと深い。今回はもう少し細かく酵母のプロフィールについてまとめました。(サッカロミセス・セルビジエに限定しています)
■酵母のプロフィール
●かたち●
つるりんとした卵形。目も鼻も口も手足もない。卵形だけど孵化して増えずに、体の一部から芽を出して増える「出芽増殖」。ぽこんと分裂した酵母には、母酵母には「出芽痕」子酵母には「出生痕」が残る。
●大きさ●
およそ5 ~ 1 0 マイクロメートル(1 m m の1 0 0 分の1 ~ 2 0 0 分の1)。1 0 0 億個が集まって1 g 程度の重さ。色/酵母の色は白い。本当は無色だが、光を拡散し白く見える。たくさん集まると白く見えるそう。確かに濁り酒のオリは白い。あれは酵母たちだったんですね。
●酵母の行動●
酵母は自力で運動しない。顕微鏡で見た時、ウジャウジャ動く酵母を期待していたのですが残念。
●酵母の比重●
水より重い。お酒の中のオリが下がるのは、酵母が重くて沈んだから?
●酵母の食●
糖類(ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖)が大好き。デンプン質やタンパク質は大分子なめ、麹や麦芽などの分解酵素の助けを借りなければ食べられない。酵母の食べ物は空気のある時とない時で変わる。空気のある時はグリセロール、アルコール、乳酸、酢酸などの有機酸も食べる。
●酵母を育てやすい環境●
培養温度は2 8 ~ 3 0 ℃、糖分は2 %くらい。酸素が十分ある好適な条件では、およそ1 時間半ごとに二倍ずつ増えていく。しかし無限に増殖はできない。アルコールが1 0 %を越えた時、酵母の数が増え過ぎた時には、自然にストップしてしまう。
●酵母の生息する場所●
甘いものが好きなので、果実、花の蜜などのある場所、パン工場の排水にも多く住んでいるらしく、人里近くを好む。
自宅でパンを作るようになって、酵母の保管用冷蔵庫に蓋を開けたヨーグルトを入れておいたら、発酵してしまったことがありました。酵母が集まってきた? 他にも、熱帯のジャングルや南極、深海からも酵母が発見されている。
■酵母の強み
酵母の大好物、糖分。糖分は酵母だけではなく、他の微生物にとっても魅力的な食べ物です。さらに、周りにはたくさんの微生物や雑菌が存在しています。そんな中でお酒やパンを作るには、微生物たちの生存競争に勝って、酵母に優勢な環境を作ってあげなくてはいけません。酵母にとって優勢な環境とは、どういうものなのでしょう?酵母の性質を考えてみましょう。
(1 )酸素があってもなくても生きられる。
カビ・バクテリアなどのように、酸素がなくては生きていけない微生物がいます。逆に、酸素があっても生きていけない微生物もいます。そのため酸素があってもなくても生きられる性質はどちらにも優位に立ちます。
(2 )酸性の環境にも耐える(レモン程度ならO K )
レモン程度の酸性は通常バクテリアは耐えられない状況なんだそう。
(3 )濃い糖分の環境に強い
(4 )アルコール濃度の高い環境に強い
多くの微生物にとって、糖は魅力的な食べ物ですが、あまりにも濃い糖分や高いアルコールには生息できないようです。食べ物の砂糖漬けやアルコール漬けが保存食に使われる理由はここから来ているようですね。ということは、酵母は(1 )酸素がなく(2 )酸性の(3 )高い糖分の環境で(4 )高いアルコールを生産でき、生きられるということになります。この酵母の性質が、パンやワインを作る工程に生かされています。
■酵母の性とライフサイクル
通常酵母は、栄養のあるときは出芽(もしくは分裂)して増える「無性増殖」です。一見酵母には性があるように見えません。しかし本当は酵母には雄と雌がいて(厳密にはα型とβ型)、栄養条件が悪くなった時、雄酵母と雌酵母はお互いに性ホルモンを分泌し接合を行い、その後減数分裂、胞子形成といった有性生殖を行います。酵母の顔はつるんとしていて、もちろん見た目では雄か雌か判断はできません。
なぜ酵母が有性生殖するのかというと、遺伝子の「かきまぜ」にあるのでは、という意見があります。遺伝子の組み合わせのバラエティが富むことで、より優秀な?遺伝子になるのと、胞子は生存に不利な悪条件に強く、種の生存のために行われていると考えられます。
酵母は単細胞とはいえ、1 0 億年の昔から試練をくぐり抜けて生き延びてきただけある、すごい微生物なのです。
こんにちわ!私は今セルビジエについて調べており、こちらのサイトを参考にさせていただいています。
1つ質問があります。セルビジエは「酸素がなくても大丈夫」とありますが、フルーツからパン酵母を作っているときに「必ずビンを1日に1回開けて空気を入れましょう」と聞きました。
もしかしてこれは溜まった二酸化炭素を少し外に出す事が本来の目的だったりしますか?
どうぞよろしくお願いいたします。
S. cerevisiae の「発酵」と「増殖」の両面から考える必要があります。ご存知のように、
酸素ありの環境:呼吸 C6H12O6+6O2→CO2+6H2O+38ATP (好気的呼吸)
酸素なしの環境:発酵 C6H12O6→2CO2+2C2H5OH+2ATP (嫌気的呼吸)
と言われますが、グルコースが存在する限り、酸素が存在してもS. cerevisiaeは発酵を行うことが知られています(よく使われる出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)や分裂酵母(S. pombe)は酸素があっても発酵を好むため、適当な培養条件を選ぶと好気条件でもエタノールを生産するのです)。
ただ、増殖には必ず酸素が必要で、酸素が不足してくると、増殖を止め、糖をアルコール(エタノール)と炭酸ガス(二酸化炭素)に分解して生命を維持します。この活動が、パン生地中での発酵作用にあたります(つまり、パン生地という酸素が遮断された環境でもアルコールの香りと炭酸ガスに寄る膨らみが活かせる、というわけです)。
ただし、グルコースの供給がなくなると、S. cerevisiaeは周りのエタノールと酸素を用いて好気増殖にシフトします。
こうしたことから、「ビンを開ける」のは酸素を入れて増殖続けさせるためと、二酸化炭素がたまりずぎて容器が破裂する―めったにないことだとは思いますが―のを防ぐためだと考えられます。