米国におけるナノテク化粧品問題とわが国の現状

投稿者: | 2009年1月5日

写図表あり
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米国におけるナノテク化粧品問題とわが国の現状

小林 剛*

わが国では、化粧品へのナノテクの導入が一種の「流行」になっており、メーカーは盛んに「 ナノ」を売物にしている。ところが、最近の「コンシューマーリポート」の情報によると、米国ではもっぱら「ナチュラル」「オーガニック」を謳い、ナノの表示は極力避けているようである。

ナノ粒子類のサンスクリーン(日焼け止め)への配合は日米とも同様といわれているが、米国ではナノ粒子含有を伏せているのに対して、わが国では ナノテクを大宣伝している、という奇妙な現象が起きているようである。この原因は、メーカーが消費者をどのように見ているかによると考えられる。米国では、消費者のナノリスクに対する意識が高く、日本では低いためであるとすれば、わが国の消費者も随分見くびられたものである。日米間の消費者の意識の落差は何とも皮肉な様相を浮上させている。
 
日本においても、目下のところ、ナノ粒子類のユニークな特性に由来する健康リスクについて十分な安全性の確認がないにもかかわらず、ナノテク標榜の美白効果を謳う広告が増加の一途を辿り、消費者の購買欲をさかんに刺激して幻惑を生じさせ、安全意識の希薄化を招きかねない状況を呈している。この点について、厚生労働省の見解を求めたところ、「個々の論文に対しては答えられない」「検討会の結果を踏まえて必要な対策を講じる」とのことで、現状を早急に是正する意向はないことが明らかになった。しかし、消費者の視点に立てば、行政当局の使命は製品の安全確認が第一で、販売宣伝は二の次にすべきである。先年のアガリクス(抗腫瘍性ありと喧伝されたサプリメント)狂騒曲の二の舞は回避すべきでる。

また、化粧品工業会からの回答は全くなく、完全に無視された。企業の社会的責任から、安全性データを積極的に開示し、消費者に対する説明責任があることは言うまでもない。

この問題を契機に、わが国の消費者も、ナノテク化粧品の安全問題について十分に検討すべきではあるまいか。

* Takeshi Kobayashi、M.D.、環境医学情報センター・代表、医学博士 
元カリフォルニア大学環境毒性学部教授
〒238-0035 横須賀市池上4-12-11、TEL/FAX: +81-046-852-6074 
E-mail: tak-kob.md@tbc.t-com.ne.jp

以下、「コンシューマーリポート」関連の資料を紹介する。

メーカーがナノ粒子を含まないと主張したサンスクリーンの
80%からそれらの存在をテストにより検出
(2008/10/30 Nanowerk ニュース)

「コンシューマーリポート」の発行者である非営利団体の消費者ユニオン(CU)は、本日、ナノ粒子を含まないと主張していた5種類のサンスクリーンのうち4種類からそれらの含有を実際に検出した、との新しい製品テストの結果を発表した。CUは、ナノ粒子類はミネラルベースのサンスクリーンに広範囲に存在し、製品を避けることが困難であると述べ、食品医薬品局(FDA)に対して十分な安全評価を強く主張した。
消費者ユニオンのシニアサイエンティストのMichael Hansen 博士は、「サンスクリーン中の二酸化チタンおよび酸化亜鉛のナノ粒子類の広範囲の使用は、これらの製品の安全についての広大な実験に消費者を巻き込んでいる」、「これらの小さいナノサイズの粒子類は、従来のこれらの化学物質類とは異なる特性を有し、健康に有害であることが知られている。FDAはこれらのすべてのナノ粒子類の安全データを要求すべきであり、最低限でも、メーカーに対してナノ成分の使用の有無を正直に申告させるべきである。」と述べている。

一部の消費者は、これらのテストされていない成分を含まないサンスクリーンの購入を希望するかもしれないとの理由から、「コンシューマーリポート」はそのような製品が入手できるかどうかを検討することを決定した。「コンシューマーリポート」は、メーカーの代表者が二酸化チタンあるいは酸化亜鉛のナノサイズ粒子類を含まないと述べた5種類のサンスクリーンのブランドのテストを実施した。それらのすべては「ナチュラル」あるいは「オーガニック」と表示されていたが、その内の4種類では実際にナノ粒子類の存在が確認された。それらのブランドは、(1)Aubrey Organics Natural Sun SPF 25 Green Tea Protective Sunscreen (2) Badger SPF 30 Sunscreen (3) Kiss My Face SPF 30+ Sun Screen with oat protein complex (4) Mexitan SPF 30 Sunscreen であった。ナノ粒子類を実際に含まなかったのはZinka Colored Nosecoat の1製品のみであった。

サンスクリーンのメーカーは、「不透明」よりも「透明感」のある製品を好む消費者の趣向に合わせるため、これらの成分のナノサイズの粒子類を用いている。「コンシューマーリポート」が2007年に外部のラボラトリーで実施したテストでは、8種類のサンスクリーンのすべてに、ナノ粒子類を含む酸化亜鉛と二酸化チタンの含有が見出された。このうち1種類のみがこの事実を開示していたが、その他はナノ粒子類の含有には言及していなかった。
科学的研究は、サンスクリーン成分のナノ粒子類の安全リスクの可能性についての疑問を提起している。欧州連合では、既に、ナノ粒子類を含むサンスクリーンの安全性を実証するデータの提出を要求している。FDAへのレターの中で(注:以下に訳出)、消費者ユニオンは、同様の措置を要請し、ナノ粒子類を含む製品にはその事実を表示し、これらのナノ粒子類を含まないとの虚偽の主張を行わないことを求めている。

出典:消費者ユニオン(プレスリリース)
訳:小林 剛

付属資料:消費者ユニオンから食品医薬品局長官あての書簡

2008/10/30
米国食品医薬品局長官
医学博士Andrew C. von Eschenbach殿

親愛なるフォン・エッシェンバッハ博士:

我々は、加工ナノ粒子類の利用、特に、化粧品・日焼け止め剤などにおける利用について十分な安全アセスメントを要求し、ナノ粒子類の存在の有無についての正確な表示を確保するのに可能な規制措置に検討するために、本書簡を書いております。「コンシューマーレポート」で発表された最近の知見では、ある種のナノ粒子類はミネラルベースのサンスクリーン類に広範囲に存在し、メーカーの代表者らは、彼らの製品中におけるこれらの粒子類について誤った主張をしていることが判明致しました。

消費者ユニオンは、2007年より、サンスクリーン中のナノ粒子類についての調査を開始しました。2007年のリポートの論文では、酸化亜鉛および/または二酸化チタンを含むミネラルベースのナノ粒子類を含む8種類のサンスクリーンをテストし、そのすべてにナノ粒子類の存在を見出しました。しかし、それらの中の1種類では、その事実を表示により開示しておりました。その他では表示による開示はありませんでした。(資料添付)

一部の消費者は、ナノ粒子類を含む製品を避けたいとの意思表示をしているため、2008年には、我々はメーカーがナノ粒子類を含まないと言っているサンスクリーンを購入し、彼らの主張の信頼性を確認するためにテストしました。2008年の初期に、我々は、メーカーの代表者らが、二酸化チタンあるいは(および)酸化亜鉛を含まないと言っている多数のサンスクリーンを入手しました、2008年12月の「コンシューマーレポート」には、我々のテストの結果が含まれています(論文添付)。我々は、ナノ粒子類を含まないと声明している5社のうちの4社(Aubrey Organics Natural Sun SPF 25 Green Tea Protective Sunscreen, Badger SPF 30 Sunscreen, Kiss My Face SPF 30+ Sun Screen with oat protein complex, Mexitan SPF 30 Sunscreen)において、ナノ粒子類を含まないとの主張は正しくないことを見出しました。これらの製品のすべてに「ナチュラル」あるいは「オーガニック」との表示がなされていました。我々の委託テストでは、Zinka Colored Nosecoat 以外のすべてのサンスクリーンにおいて、二酸化チタンおよび/または酸化亜鉛のナノ粒子類が見出されました。

このように、我々の二つのプロジェクトは、二酸化チタンおよび/または酸化亜鉛のナノ粒子類が広範囲に用いられ、メーカーがナノ粒子類を含まないと言っているミネラルベースの製品を買うことにより、消費者が一般的には、二酸化チタンおよび/または酸化亜鉛のナノ粒子類よりの暴露を回避できないことを示唆しています。

これらの製品は広く子供や成人に用いられているため、その安全性の確保は極めて重要であります。マクロスケールの二酸化チタンおよび/または酸化亜鉛は、長い間、医薬品を含む利用において安全性が実証されています。これとは対比的に、二酸化チタンのナノ粒子類の動物実験では肺への損傷が示されています(1)。In vitro(試験管内)研究においては、その種のナノ粒子類は、神経および脳の細胞(2)と多数の培養細胞のDNA(3)にダメージを与えることが示されています。二酸化チタンまたは酸化亜鉛のナノ粒子類が、どのような条件下で皮膚を通して吸収されるのか、有害な健康影響にとって皮膚吸収が不可欠であるか否かの点については、依然として疑問のままであります。

欧州連合(EU)は、サンスクリーン中のナノ粒子類について大きな関心を有し、十分な安全アセスメントを要求しております。欧州連合の新健康リスク科学委員会は、このサイズの問題について、明らかに「ナノ粒子類の挙動は、サイズ・表面積・表面活性などを含むいくつかの特性に大きく依存し、ヒトの健康および環境の双方に関連するリスクアセスメントはこれらの特性に基づくべきである」と述べています(4)。さらに、EUの消費者製品科学委員会は、昨年末、「化粧品中のナノ粒子類についての見解」というリポートを発行し、「現在使用されているサンスクリーン中の不溶解性ナノ粒子類(例えば、二酸化チタンや酸化亜鉛)の安全性のレビューが必要である」と述べております(5)。実際、2008年9月10日には、欧州委員会(EC) はメーカーに対して「ナノスケールおよび最終製品(化粧品)において使用されるすべての物質について、十分なリスクアセスメントが完了できるよう、2008年12月31日までに安全データを送付するよう」要請しております(6)。

EUは、サンスクリーン類や化粧品類に用いられた酸化亜鉛および二酸化チタンを含むナノ粒子類は、より大きなサイズの同一物質とは異なる毒性を有するため、それらの安全の評価が必要であることを認識し、メーカーに対して十分なリスクアセスメントの実施に必要なデータの送付を要求しました。米国においても、サンスクリーン中の酸化亜鉛および二酸化チタンの使用が広範囲にわたることは、我々のテストにより明らかであり、我々はFDAに対して、同様な措置すなわちサンスクリーンに用いられているナノ粒子類の安全アセスメントデータを要求致します。また、我々はFDAがメーカーに対して、その種の粒子類を含むすべての化粧品類あるいは対面販売医薬品の表示においてナノ粒子類の存在を開示し、サンスクリーン中にこれらのナノ粒子類は存在しないとのミス表示について、「コンシューマーレポート」に対するメーカーの調査の実施を要請します。さらに、我々は、特にFDAに対して、ナノ粒子類の存在を開示しなかったこれらのサンスクリーン製品は、合衆国法典21§332(b)の違反行為条項において、合衆国法典21§332(b)により成文化された連邦食品・医薬品・化粧品法の商標違反に該当するか否かについてのご検討を要請致します。

何らかの疑問あるいは追加情報を必要とされる場合には、どうぞ 914-378-2451にコンタクトしてください。

敬具

Michael Hansen, PhD
シニア・サイエンティスト

(訳:小林 剛)

参照文献:

(1) Chen, HW, Su, Chien, CT, Lin, WH, Yu, Chen, JJW and PC Yang. 2006. Titanium dioxide nanoparticles induce emphysema-like lung injury in mice. The FASEB Journal, 20: E1732-E1741, At: http://www.fasebj.org/cgi/reprint/20/13/2393

(二酸化チタンナノ粒子類はマウスにおいて肺気腫様傷害を誘発)

(2) Long, TC, Tajuba, J, Sama, P, Saleh, N, Swaetz, C, Parker, J, Hester, S, Lowry, GV and B Veronesi, 2007. Nanosize Titanium Dioxide Stimulates Reactive Oxygen Species in Brain Microglia and Damages Neurons in Vitro. Environmental Health Perspectives, 115(11): 1631-1637.
http://www.ehponline.org/docs/2007/10216abstract.html

(ナノサイズ二酸化チタンはin vitro(試験管内)において、脳小膠細胞内の活性酸素種を刺激し、ニューロンにダメージを与える)

(3) Sayes, CM, Wahi, R, Kurian, PA, Liu, Y, West, JL, Ausman, KD, Warheit, DB and VL Colvin. 2006. Correlating Nanoscale Titania Structure with Toxicity: A Cytotoxicity and Inflammatory Responses Study with Human Dermal Fibroblasts and Human Lung Epithelial Cells. Toxicological Sciences, 91(1): 174-185.
At: http://toxsci.oxfordjournals.org/cgi/reprint/92/1/174

(ナノスケール・チタニア構造と毒性との関連:ヒト皮膚線維芽細胞およびヒト肺上皮細胞の細胞毒性および炎症性反応の研究)

(4)pg.13in: : http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_scenihr/docs/scenihr_o_010.pdf
 
(欧州連合新健康リスク科学委員会:ナノ粒子類の挙動は、サイズ・表面積・表面活性などを含むいくつかの特性に大きく依存し、ヒトの健康および環境の双方に関連するリスクアセスメントは、これらの特性の基づくべきである。)

(5) pg. 14 in:
http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04-sccp/docs/sccp-o-123.pdf

(欧州連合新健康リスク科学委員会:現在使用されているサンスクリーン中の不溶解性ナノ粒子類(例えば、二酸化チタンや酸化亜鉛)の安全性のレビユーが必要である。)

(6) http://ec.europa.eu/enterprise/cosmetics/docs/cons_nano/cons_nanoparticles.pdf
 
(欧州委員会:ナノスケールおよび最終製品(化粧品)において使用されるすべての物質について、十分なリスクアセスメントが完了できるよう、2008年12月31日までに安全データを送付するよう要請する。)

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