関係性の食学 第3回 油(その2)

投稿者: | 2005年8月5日

食の総合科学研究会
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●現代の食事に見る油

 私たちは食事の中で、どのような油をどのような食品からどれくらい摂っているのだろうか?  食事モデルを通して見てみよう。朝食では食パンにマーガリンを塗ってトーストを焼き、インスタントのコーンスープを飲み、昼食は外食のランチセットでスパゲティ・カルボナーラ、ドレッシングのかかったサラダとコーヒー。夕食はご飯と味噌汁にお惣菜屋さんで買ってきた酢豚と野菜のごま和えを食べたとする。この一日の食事モデルでは摂取したエネルギーは2376kcal、脂肪は120gになる。脂質のエネルギー比は25%が理想とされるが、この食事モデルでは45%にも上る。マーガリンやドレッシングなどわかりやすい”見える油”からは21%、肉や卵や乳製品など食品にもともと含まれている”見えない油”からは79%の割合で、油を摂取している。見えない油の割合が大きい―それは、油は意識しない限り、知らないうちにたくさん摂取してしまうことを意味する。

 次に、今から40年前、つまり日本の伝統的な食事をしていて少しずつサラダ油が家庭に普及し始めた頃の食事モデルを見てみる。朝食ではご飯、味噌汁、焼き魚、野菜の煮物を食べ、昼食は今のような外食はほとんどなく、お弁当でご飯、卵焼き、おひたし、ウィンナー、そして夕食はご飯、貝の味噌汁、刺身、切干大根の煮付け、ドレッシングのかかったサラダを食べたとする。このモデルで一日に摂取したエネルギーは2614kcal、脂肪は55gになり、脂質エネルギー比は19%。”見える油”からは11%、”見えない油”からは89%の割合で油を摂取している。

 この2つの食事モデルの比較から、現在では脂肪の摂取量がかなり増えたこと、脂質エネルギー比が高くなったこと、”見える油”からの摂取が増えたことが推測できる。また、飽和脂肪酸:多価不飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸の摂取割合を比較してみると―厚生労働省では推奨する比率を3:3:4としているが、その科学的根拠は明確でなく、メーカー側の「植物油は健康によい」の宣伝の引き合いに出されることが少なくない―40年前の食モデルでは 2.8:3.6:3.7であるのに比べて、現在の食モデルでは4:1.8:4であり、多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)の割合が小さくなっている。健康面でより深刻なのは、表に見るように現代の食事ではリノール酸(n-6系)過多(αリノレン酸(n-3系)不足)の傾向がはっきり現れていることだ(厚生労働省の推奨値は「n-6系:n-3系=4:1」)。αリノレン酸を多く含む食品は、魚や海藻類、野菜、種子、胚芽類だが、穀物の精白や肉食化でαリノレン酸の摂取量が減っており、それに「植物油信仰」(リノール酸が多いコーン油、大豆油、紅花油などを健康によいと信じて多用すること)が追いうちをかけているのだ。

●避けるべき油

 油を摂る量と(脂肪酸のバランスに留意した)摂り方が問題なだけではない。摂ってはいけない油、摂らない方がい油がある。

(1)動物性油脂を控える

 飽和脂肪酸が主成分で必須脂肪酸が少ない。動物の体温は人間より高いので、動物性油脂は人間の体内で固まる傾向があり血液の粘度を高め、血流が悪くなる。動脈硬化や肥満の主因にあげられて久しい。

(2)水素添加加工の油脂は避ける

 「バターは動物性で、マーガリンは植物性だから、マーガリンがいい」と思っている人は大きな勘違いをしている。常温では液体の植物油を固形にするために、「部分水素化」という化学反応を経てマーガリンは出来上がる。油であって油にあらず。酸化されにくく味も劣ることのないこの代物は、安価なので、市販のスナック類などに必ずといっていいくらい使われている。マーガリンだけではない。最近は市販の植物油や精製油には日持ちをよくするためにこの部分水素化を施しているものがある。問題なのは、その反応の過程で、植物油の脂肪酸がかなりの割合で、自然界には存在しない構造の「トランス脂肪酸」に変化することだ。悪性リンパ腫、乳ガン、冠状動脈疾患、糖尿病、アトピー性皮膚炎などアレルギーとの関連などその有害性が指摘されるようになったので、たとえば米国では「部分水素化」した油であるかどうかの表示が義務付けられている。日本ではただ「植物性油脂」と書かれているだけだ。

(3)化学製法で抽出精製された油は使わない

 安い原材料をできるだけ早い時間で製品化することに腐心する油脂メーカー。そこでは、酸化・変性しやすいn-3系のαリノレン酸を多量に含む原料はそもそも使用しない。そうでない別の原材料にαリノレン酸が微量に含まれていてもそれを不純物として精製して除去してしまう。脱色、脱臭、酸化防止剤添加、高熱処理、ベンジンやヘキサンなどの溶剤を使った抽出…。化学的製法で工業的に大量に作られた油を大量に使用する──これがどれほど私たちの健康に影響しているかをしっかり検証する必要がある。余分な精製を行わない伝統的な圧搾法で搾られた油にはビタミンやミネラル分が損なわれずに残っている。市販物の安さに惑わされず、伝統的製法の良質な油を選ぶことから食の改善は始まるだろう。

●植物油の賢い見分け方・使い方

 良質の油を適切な組み合わせで適量摂取する──ここでは、日常的に接する4種類の植物油からその見分け方と使い方を見てみる。

 図1から分かるように、飽和脂肪酸の摂取量を減らす点では、パーム油(◆コラム参照)を控えなければならない。大半の加工食品に「植物油脂」の表記のもとに相当量含まれているので、摂取を減らすには加工食品をできるだけ食べないようにするしかない。

 オリーブ油は成分のほとんどがオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)なので、必須脂肪酸の供給源としては不向きである。嗜好食品として位置づけたい。

 ゴマ油はリノール酸(多価不飽和脂肪酸)を40%以上も含む優れもの。リノール酸自体は酸化されやすいが、ゴマ油には抗酸化成分が豊富に含まれているため、きわだって保存性がよい。しかし比較的熱に強い一価不飽和脂肪酸の含有率が大きくないこともあって、揚げ物などの加熱料理には向かない。
 リノール酸とαリノレン酸のバランスが2:1と優れているのが菜種油(「キャノーラ油」はその一種)だ。オリーブ油と同じく、加熱にも向いている。ただし、輸入のキャノーラ油は遺伝子組み換え菜種を使っている恐れがあるので、国産のものを使いたい。

 以上の特性を考えると、油は菜種油を主とし(加熱料理にも使える)、それにゴマ油をいくらか混ぜながら摂取するのが賢明だと思われる。混ぜることで菜種油の酸化安定性も高まる。

●油は食問題・食生活の改革の要

 現代の食のゆがみが集中的に現れているものの代表格が油だろう。トウモロコシから生産された低価格の異性化糖(連載第1回「砂糖」参照)、パーム油などから生産される低価格植物油という、1970年代に現れたこの二つの安価で人間の嗜好に合う原料と、大量生産・大量消費の社会システムが噛み合い、大量の高脂肪・高カロリー食品が低価格で市場に出回るようになった。ファーストフードや加工食品の拡大である。ここ30年で私たちの食生活は大きく変わったが、それと同時に健康を脅かす事態も拡大している(例:図2にみるような子どもの肥満の増加)。賢い油の摂り方を自分の食生活で確立することが、食のゆがみと社会のゆがみを改めていく大きな一歩になるだろう。

◆コラム:パーム油って何?

 気候や風土の違う国の油を大量に輸入し摂取するのは、どこか無理と矛盾を抱えることになるのではないか?  食用油は本来”生鮮食品”扱いされてしかるべきだが、熱帯産の油が日本の気候の中でその”鮮度”を本当に保ち、私たちの身体になじむのだろうか?

 パーム油は、アブラヤシの実の果肉からとれる植物性の油でありながら、飽和脂肪酸がほとんどなので常温で固まっている(ココナツ油も同様)。産地はマレーシアやインドネシアなどの東南アジアだ。ここでは諸外国に輸出するためのヤシを栽培して低コストで大量に生産する。今やパーム油は世界で二番目に多く消費されている油脂である。日本では食用には、マーガリン、お惣菜などの加工済み食品(例えば現在ではインスタントラーメンの80%にパーム油が使用されている)やファーストフード、冷凍食品、菓子類のショートニングなどに多く使用され、菜種、大豆に続き、三番目の消費量を誇る。保存性が良く、加工しやすく、安価であるのでどんどん消費が伸び、石鹸や洗剤、化粧品などへの利用も著しい。日本における消費量は、1960年に1万3000トンだったのが 1994年には37万トンとなり、30年間で30倍近く増大している。この背景には、アブラヤシプランテーションの驚異的な拡大がある。プランテーションを作るために失われる熱帯雨林、固有の生態系、先住民の暮らしと文化、プランテーションで使用される大量の化学薬品により、土壌、水質汚染のほか、薬品を使用する労働者(主に女性)への被害が深刻であり、プランテーション用の土地確保のために企業による森林への火入れが大規模な山火事などを起こし大気汚染も発生している。プランテーションで働く労働者の劣悪な労働条件や児童労働なども問題だ。

(市民科学第4号 2005年8月)

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