第5回 科学技術コミュニケーションデザイン・ワークショップ 参加報告

投稿者: | 2008年7月3日

写図表あり
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第5回 科学技術コミュニケーションデザイン・ワークショップ
参加報告
日時:2008年6月14日(土)・15日(日) 場所:北海道大学 遠友学舎
報告者:江間有沙(東京大学大学院 修士課程2年)
 大阪大学コミュニケーションデザイン・センターが毎年6月に開催している「科学技術コミュニケーションデザイン・ワークショップ」に参加してまいりました。例年は大阪大学で開催されるのですが、今年は北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)との共催ということで、涼やかな北海道大学のキャンパスでの開催でした。
科学技術コミュニケーションデザイン・ワークショップとは
科学技術の問題を市民参加型手法によって考えていくことが、今後の日本社会に重要になっていくという認識のもと、様々な参加型手法を「実践事例」を共有することで討議していこうというワークショップです。実践の事例紹介を通して、論文には表れない悩みや具体的な手続きなどの情報を共有していこうというのが基本的な趣旨で、今年で5回目となります。年々参加者は増加して、今年は総勢40名以上が参加されるという、大きなものとなりました。
 一日目は参加型手法の事例が7件、報告されました。
サイエンスカフェを用いた科学技術コミュニケーションの実践的教育プログラム
-CoSTEPの実習授業の事例報告-
三上直之(北大)
北海道大学のCoSTEPでは、授業にサイエンスカフェの企画運営というものがあります。一つ一つのサイエンスカフェは受講生が数か月かけて準備し、また内容も理工系のみならず、考古学などの人文系のカフェもあるなど、様々です。さらに、毎月そのようなイベントを開催していると学内の他部局から「ウチでも似たようなイベントをやりたいのだけれど…」と依頼や相談を受けることもあり、大学の広報支援を体系的に行えるような仕組みづくりも模索されています。カフェが非営利なものである以上、大学との連携や学生の実践の場という教育という観点からの評価をどうしていくか、というのが今後の課題として挙げられました。
GMO小規模対話フォーラムの対話手法を活用する-『集団』の抱える問題点を発見する方法-
吉田省子(北大)
北海道における遺伝子組み換え作物での小規模対話フォーラムを、「北海道とこんぶの未来を考える集い」に応用し、NPO法人と一般市民が意見交換をした事例を紹介されました。当初、NPO法人は、市民への啓蒙としての対話フォーラムを期待していましたが、対話が進むにつれ、市民を集めて情報を提供しただけではうまくいかないとNPO自身が気づいた点に吉田さんは注目されました。小規模対話フォーラムは、GMOのように対立が存在するものを議論するだけではなく、「こんぶの未来」というような対立事項がないものでも、NPOという組織の対話に対する態度を考えなおさせる、あるいは問題点をあぶりだす手法としても有効なのではないかと提案されました。
大阪大学サイエンスショップの試み-猪名川での事例を中心に-
中田和智絵(京大)
サイエンスショップとは「市民やNPO/NGOなどの依頼に応えて、研究・調査を行い、市民らの問題解決や公共的活動をサポートするための組織」です。大阪大学では去年「猪名川・藻川で獲れた魚は食べられるのか」という市民の疑問にこたえるため、魚に含まれる化学物質などを調査してきました。この調査を通して、大学の学生や教員をいかにして動員していくかということが課題として見えてきました。また、サイエンスショップでの調査は、どのような化学物質が魚にどのくらい含まれているかを定量的に示せるものの、だからといって科学的に「食べても絶対に大丈夫」とは言えない不確実さを、市民にどう理解してもらうかも今後の課題として挙げられました。
原子力問題に関する新しい対話方式の可能性-オープンフォーラムの試み-
八木絵香(阪大)、北村正晴(東北大)
原子力専門家の本音のコミュニケーションを聴きたい、という市民のニーズに応えて、推進派と反対派の専門家各一名ずつの専門家によるオープンフォーラムを行った事例報告です。本フォーラムでは、公正性をいかに確保するかが課題となっており、企画段階から両方の専門家の参加を促したり、相手の主張に部分的にせよ同意できるとこはあるかkey questionに取り入れたりするなどの工夫がなされました。原子力という難しい問題を扱ううえで、ファシリテータの公平性や報告書のまとめ方はどうやっても議論を呼ぶものとなりがちですが、対話の工夫をこらすことで専門家同士の対話が成立し、今後も同様の企画の継続を希望する声があるなど、肯定的な評価を引き出すことができたと報告されました。
小型家電を考える市民の会議報告―実用のための会議設計を中心に-
若松征男(東京電機大)、三上直之(北大)、森岡和子(北大)、庄山紀久子(北大)
小型家電のリサイクル・システムの可能性を検討するため、東北6県から15人の市民と専門家である情報提供者が、シナリオワークショップや、ディープダイアローグといった手法を用いて対話を行いました。会議は外部から依頼され、手法コンサルタントとして若松さんたちは参加されましたが、依頼機関との目的や考えの共有の仕方の難しさが課題として挙げられていました。また、市民の間で「問題」と認識されていない小型家電のリサイクル・システムについて議論を行うということで、シナリオを詳細には作れなかったという課題が残るものの、ディープダイアローグなどによる「対話」を重視することで、バラバラの意見が集約していくといったことが見られたことが挙げられていました。
脳科学と市民・社会の共生を目指して-東京大学の試み-
立花幸司(東大)
脳科学への期待と懸念が市民の間で高まっており、東京大学の中ではグローバルCOEやJST/RISTEXのプロジェクトなどを通して、「脳科学リテラシー」を向上させるための試みが行われています。社会の脳科学への期待に対して、実際の研究の進捗状況がズレていることが指摘され、現状の基礎的研究を適切に評価できるように市民・行政・研究の調整を図るためにも<脳科学リテラシー>が必要とされているのではないか、と提案されました。脳科学リテラシーが向上することによって、市民が脳科学研究の実態をキチンと把握し、よりよい社会や生活の実現のために脳科学研究への公的支援の配分の格付けに参加できるようになることが求められているのではないか、と報告されました。
大学と市民のつながりを指向した取組-水圏環境リテラシープログラムについて-
佐々木剛(東京海洋大)
水圏環境リテラシーとは、「水圏環境の総合的理解」のことであり、リテラシーを広く国民に身につけてもらうために、水圏環境や資源について、広い見識に基づいた責任ある決定を行うための教育を東京海洋大学はこれから始めようとしています。「水圏環境」に関するリテラシーというと、汚染問題やクジラの問題など多くの問題が対象に入ってきてしまい、具体的なプログラムにするときに範囲を絞り込むことなどがフロアから提案されておりました。しかし、持続可能な水圏環境というテーマは重要であり、多くの人々の参加が望ましいため「水圏環境」という大きなテーマに対し、無関心な人びとにも興味を持ってもらえるようなプログラムを作ることについて様々な意見や提案が議論されました。
2つの問いをめぐるワークショップ
 二日目のワークショップでは、1、市民参加はなぜ必要なのか、2、「科学技術」に関する市民参加の特殊性とは何か、という二つの問いをめぐり、5グループに分かれてディスカッションを行いました。「科学技術と社会」に関する問題や、様々な市民参加の形態や手法を取り上げ、分類・図化を行いましたが、軸や表現の仕方はグループごとに様々でした。参加者全員が発言を行い、誰が市民参加の課題を設定するのか、どのような手法がどのような事例に効果的なのか、そもそもなぜ参加が必要なのか、市民とはだれなのか、「リテラシー」や「ファシリテータ」という言葉が安易に使われていないか、「市民参加型手法実践」業界化することの是非など、様々な議論が行われました。
感想
 以上二日間にわたって、ワークショップに参加しましたが、このワークショップ自体がある種の市民参加型の実践の場であるということを感じました。「科学技術への市民参加:participatory Technology Assessment」のワークショップでありますが、その目的や設計の仕方は、参加者同士が対話しやすいように工夫されています。そこでの議論・あるいは懇親会や昼休みなどのちょっとした時間でのおしゃべりを通じて、「市民参加」という手法について討論や情報交換ができる場があるというのは、とても貴重なことだと思います。「大学関係者のみならず、企業や政策関係者、NPOの人の参加も望ましい」「実践事例の紹介以外にも、具体的な手法についても議論したい」など、今後のワークショップの方向の可能性は広がっています。毎年毎年、新しい試みと新しい人たちの交流があるこのようなワークショップに参加でき、大変有意義な時間を過ごすことができました。■

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