「発酵であそび、発酵で学ぶ」第6回 実験はひと休み 南国の果物でおこした酵母は…

投稿者: | 2004年12月4日

大塚典子(グラフィックデザイナー)
pdfはdoyou_otuka_06.pdf
 みなさん、こんにちは。大塚です。近ごろは寒くなって、酵母おこしに一苦労する毎日です。やっぱり冬は酵母がおこしにくい! 発酵の温度まで届かずに、家の中の暖かい場所を探して右往左往。夜はお風呂の残り湯で、昼間は出勤してしまうため温もりの残った布団の中にバスタオルにくるんで、ポカポカさせています。うっかり温度を上げ忘れて、まんまとカビさせてしまったり…(酵母が優勢になるまえに雑菌が繁殖したんでしょうね…悲しい)そんなこともあって実験が滞っていまして…(すみません!)今回はちょっとひと休みして、先日おこした面白い酵母のお話をしたいと思います。
■南国のキウイで酵母をおこせる?
 あるとき「キウイで酵母がおこせないの?」と友だちにたずねられて、答えに困ってしまいました。「南国の果物で酵母はおこせない」と聞いていたからです。でも本当にそうなのか、やってみたことがありません。そこで噂を検証するために、キウイ酵母作りを試してみることにしました。通常の酵母おこしと同じ要領で、キウイの皮を剥き、果肉をつぶして砂糖と水を少々。暖かいところに置いて発酵させました。発酵の準備から4 日。キウイはぶくぶく泡をたてて、とても良い香りに…立派にアルコール発酵していました。何とキウイで酵母はおこせたのです! 「何だ~できるんじゃん!」と、早速質問してきた友だちに「できたよ~!」と報告し、気をよくしてキウイ酵母パン作りをはじめました。
■酵母はおこせたけど…
 初めてのキウイ酵母パン…甘酸っぱくて、うっすら緑色のパンになるのかな? 独特の黒い粒々の食感はどうだろう? と期待に胸を脹らませて、用意した小麦粉に酵母を入れて、こねこね。
……こねこね。
……こねこねドロドロ。
……ん? ドロドロ!?
 いくらこねても弾力は出ず、みるみるうちに、キウイ酵母を入れた小麦粉はベタベタ、ドロドロ~っとしてきました。もう手にくっつくわ、まとまらないわ、まさに「小麦粉が溶けた」状態。一体何がおこったのだろう?!
 おこしかたが悪かったのかな? と考えてはみたけれど、ちゃんと適正なスピードで酵母をおこせているはず。いつもと変わりなくできたのに…どうして? ドロドロになったパン生地を前に、途方にくれてしまいました。
■小麦粉を溶かした犯人
 どうやら、小麦粉をドロドロに溶かした犯人はキウイに含まれる「酵素」だったようです。南国の果物には独特のエグみがありますね。パイナップルやキウイなど、食べた後、舌にピリリ残るようなエグみ。あれが酵素のようです。そういえば、パパイヤから生まれた「酵素洗顔」の化粧品もありますし、CM でおなじみ「酵素パワーの○ップ」でも言っていたことを思い出しました。酵素にはタンパク質を分解する能力があるんですね!
 そっか~! 何だかとっても納得してしまいました。
 小麦粉にはタンパク質の少ないものから「薄力粉・中力粉・強力粉」があって、パンを膨らますには「グルテン」というタンパク質が大きく作用しています。それなのに、小麦粉の中にタンパク質を分解してしまう「酵素」が強い果物でおこした酵母を入れたから、小麦粉のタンパク質が破壊されて、ドロドロになってしまったんですね。これが「南国の果物で酵母はおきない」と言われた理由なのだと思いました。本当にあっという間に溶けてしまったキウイの酵素の強さにびっくりです。
 いままで酵母ばかりに気をとられていましたが、酵母が食べる果物の特性は思いのほか影響があることをあらためて知りました。この特性を知ると、また特徴を生かしたパン作りや発酵食品作りに応用できそう! パン作りは失敗してしまったけど、とても勉強になりました!
■キウイ酵母の使い道
 さて、そうは言っても手塩にかけて育てた酵母がパンにならない…。こんなにがっかりすることはありません。
 もったいないし、どうしよう…。
 強いタンパク質分解酵素を含む酵母…タンパク質分解…これは肉を漬けこんでみるしかないでしょう!
 さっそくカレー用のぶ厚い豚肉を漬けこんでみると、何と想像以上に柔らかくジューシーに! 酵素パワーが効いたみたい!? キウイの甘酸っぱさも効いて美味しい~。こんな使い道もあるんですね。
 ちなみにそのままのキウイ酵母を味わってみると…ちょっと大きな声じゃ言えませんが、これもかなり美味しい~! プハーと思わず一気飲み! パンに肉に嗜好品(?)に。やっぱり酵母はすごいです。
 あ、さっき「キウイで酵母がおこせるよ~」と報告してしまった友だちには、早めに訂正しないと…。小麦粉が溶けちゃって、びっくりさせちゃうかも。

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