連載「博物館と社会を考える」第11回 博物館の世界的組織の環境保全と教育への取り組み

投稿者: | 2022年2月9日
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連載:博物館と社会を考える 第11回

博物館の世界的組織の環境保全と教育への取り組み

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林 浩二(千葉県立中央博物館)

これまでの連載
第1回 科学館は博物館ですか? (2015年5月)
第2回 博物館はいくつありますか? (2015年7月)
第3回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その1 (2015年9月)
第4回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その2 (2016年2月)
第5回 博物館の国際的動向2016 (2016年10月)
第6回 科学館・科学博物館の社会的役割宣言(2017年3月)
第7回  世界科学館・科学博物館の日(2017年8月)
第8回  第2回世界科学館サミットと東京プロトコル(2017年12月)
第9回 ツールとしての持続可能な開発目標(SDGs)(2018年3月)
第10回 京都で開催された国際博物館会議ICOM大会(2019年10月)

<連載が間遠になったことをお詫びします>

博物館の世界的組織の環境への取り組みについてわたしは、林 浩二(2008)以来、関心を持ち続けてきました。このところ動きが激しいのは、2015年の国連での持続可能な開発目標(SDGs)の採択と呼応しているように思います。歴史的記述についてはこれまでの連載との重複もあることをお許しください。本稿の一部については、林浩二(2020・2021)でオンライン・ポスター発表しました。

 

1.はじめに

博物館には館種ごとに世界的組織があります。ここでは、博物館全体については国際博物館会議(International Council of Museums,ICOM)、動物園・水族館については世界動物園水族館協会(World Association of Zoos and Aquariums, WAZA)、植物園については植物園自然保護世界機構(Botanic Gardens Conservation International, BGCI)を取りあげます。加えて、世界的会合を定期的に開催し、宣言などの文書を発表している世界科学館サミット(Science Centres World Summit, SCWS)(連載第5回第6回第7回第8回参照)についても言及します。

国連教育科学文化機関(UNESCO)は、2003年の国連総会において、国連「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」(2005-2014)の主導機関に指名されました。また国連総会が2015年に採択した、2030年までの世界の目標「持続可能な開発目標(SDGs)」(連載第6回第9回参照)の進捗のとりまとめもUNESCOが行っています。そのUNESCOはこれまでに2回、1960年と2015年の総会でUNESCO加盟国政府に対して博物館に関する勧告を採択しました(連載第5回参照)ので、あわせて考えていきます。

 

2. 国際博物館会議 ICOM (https://icom.museum/)

ICOMはあらゆる館種を含む博物館の国際組織で1946年に設立、141の国と地域に40,000以上の個人会員と団体会員がいます(注1)。3年ごとに大会が行われ、直前は2019年の京都大会(連載第10回参照)、その前は2016年のミラノ大会(連載第5回参照)でした。今年2022年8月にはプラハ大会が参集とオンラインのハイブリッドで開催が予定されています(注2)。

連載第10回で紹介しましたように、2019年の京都大会時の臨時総会で、ICOM規約内の博物館の定義の改定が取りあげられましたが、長時間に渡る激論の上、「採決の延期」を決議して終了しました。京都大会の臨時総会に提出された改定案とその元になった文書では、民族性、人権、ジェンダー、持続可能性等の課題が言及されており、SDGsの目標と強く結びついていることがわかります。松田陽(2020)はICOM京都大会の報告集の中で、ICOMの博物館定義の改定をめぐる議論の経緯をわかりやすく紹介しています。その後の改定のプロセスは公開され、会員は所属の各国の国内委員会やテーマ別の国際委員会を通じて博物館定義に組み込むべき用語などの提案に参加しています。プラハ大会時の臨時総会での採決が期待されていますが、本稿執筆の時点で定義文案は示されていません。

一方、ICOMには倫理綱領(Code of Ethics for museum)があります(注3)。最新は2004年版で、規約における博物館の定義(2007年)よりも更に時間が経っています。こちらも改定のための委員会が発足しており、プラハ大会での改定が目指されています。ICOMサイトでは自然史博物館の倫理綱領(2013)や文化財の所有に関する倫理綱領(2011)も公開されており、自然史博物館の倫理綱領には環境配慮・動物福祉、持続可能性などにも若干の言及があります。

連載第10回はICOM京都大会直後の執筆でしたので、博物館の定義の改定について速報しただけで、定時総会で採択された大会決議等については全く触れられませんでした。その後、しっかりした報告書(ICOM京都大会準備室(編). 2020)が刊行されています。決議1で持続可能性とSDGsの実現について、決議5で博物館とコミュニティと持続可能性についてと、持続可能性について重ねて決議が採択されたことから、ICOMが環境・持続可能性に大きく舵を切ろうとしていることは伺えます。また持続可能性に関するワーキンググループを2020-2022の時限で設けました(注4)。さらに持続可能性とコミュニティ開発についてのページ(注5)では、ICOM京都大会でのセッションの成果として、OECDと共に作成した自治体・コミュニティ・博物館向けのガイドが公開されています。ICOM日本委員会の京都大会ページには日本語訳もあります(注6)。

あらゆる館種を含む博物館の国際組織であるICOMの環境への取り組みは、徐々に進んでいる段階というところでしょう。恒久的な文書などへの反映という点では、2022年のプラハ大会で開催される臨時総会で規約の博物館定義と倫理綱領の改定がどうなるか、これからのプロセスに注目していきたいと思います。わたしも一個人会員ですので、権限は限られていますが参加に努めます。

 

3. 世界動物園水族館協会 WAZA (https://www.waza.org/

WAZAは世界中の動物園・水族館の国際組織で、1935年に設立、2022年1月現在の会員数は、世界各地域の23の協会会員、281の館園会員、10の関連組織会員、22の企業会員となっています(注7)。

WAZAは環境保全などへの取り組み戦略等のテキストとして発表して協会自身の姿勢をアピールすると共に、直接にはつながっていない館園を含めて世界中の動物園水族館に向けて普及啓発を行っていると見えます。ここでは、出版順に7つの出版物を取りあげます。

 

3-1. 世界動物園保全戦略 世界の動物園と水族館が地球環境保全に果たす役割 (1993)

IUDZG/CBSG (IUCN/SSC), 1993. The World Zoo Conservation Strategy; The Role of the Zoos and Aquaria of the World in Global Conservation.

WAZAの前身であるIUDZG (The World Zoo Organization)とThe Captive Breeding Specialist Group of IUCN/SSCが刊行(76p.)し(注8)、日本語版冊子(B5判、95p.)も1996年に刊行されました。テキスト全体はウェブでは見つかりませんでしたが、Executive Summary (14p.)は、IUCN(国際自然保護連合)のサイト(注9)で公開されていました。

世界動物園保全戦略 (1993) 表紙(注8)

 

3-2. 野生生物のための未来構築 世界動物園水族館保全戦略 (2005)

WAZA 2005. Building a Future for Wildlife – The World Zoo and Aquarium Conservation Strategy.

WAZAは全面改定した戦略(A4判、72p.)を発表し、12か国語で公開しました(注10)。日本語版としては恩賜上野動物園飼育課スタッフによるテキストの仮訳(2005)が関係者で共有されました。

「動物園・水族館・植物園だけが、生息域外での絶滅危惧種の人工飼育・研究・一般市民への教育・専門家への訓練・影響力のあるアドボカシー活動から、本来の生息地での種や個体群の人工飼育のサポートに至るまでの保全活動の全領域で活動することができます。また、動物園・水族館・植物園には来園者という大勢の「なじみのお客様」がいて、その知識・理解・態度・行動・関与のすべてに積極的な影響を与えることができるのです。(Box.5 p.9) (私訳)」という記述は、 これら動植物を生きたまま取り扱っている施設ならではの自負と言えるでしょう。

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