連載「博物館と社会を考える」第10回 京都で開催された国際博物館会議ICOM大会

投稿者: | 2019年10月8日

連載:博物館と社会を考える
第10回

京都で開催された国際博物館会議ICOM大会

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林 浩二(千葉県立中央博物館)

連載「博物館と社会を考える」
第1回 科学館は博物館ですか? (2015年5月)
第2回 博物館はいくつありますか? (2015年7月)
第3回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その1 (2015年9月)
第4回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その2 (2016年2月)
第5回 博物館の国際的動向2016 (2016年10月)
第6回 科学館・科学博物館の社会的役割宣言(2017年3月)
第7回  世界科学館・科学博物館の日(2017年8月)
第8回  第2回世界科学館サミットと東京プロトコル(2017年12月)
第9回 ツールとしての持続可能な開発目標(SDGs)(2018年3月)

連載を1年半お休みしたことをお詫びします。

この連載でもこれまで何度か国際博物館会議(ICOM)について言及してきました(注1)。そのICOM(アイコムまたはイコム)の第25回の大会が2019年9月1日(日)〜7日(土)に京都市を中心に開催されました。ここでは、その速報をコンパクトにお知らせすることにします(注2)。今大会の誘致に関しては栗原祐司(2019)(特に第4節「ICOM大会の招致」)を参照してください。

ICOMは国際連合教育科学文化機関(UNESCO)と同じく1946年に設立された国際NGOで、本部はこれもUNESCOと同じくパリにあります。3年に1度のICOMの大会がアジアで開催されるのはソウル(2004年)、上海(2010)に続いて3番目、日本では初めてのことです。

大会には120か国から4,590人が参加し、ICOMの大会史上最多でした(注3)。うち、日本人は1,866人とのこと。そのうち全日程券は約800人、他は1日券(9月2・3・4日のうち2日間まで)での参加です。ボランティアは延べ約700名とのこと。参加者数は間違いなく大成功と言えるでしょう。

 

写真 ICOM京都大会の主会場となった国立京都国際会館メインホール(2019.9.7 パノラマ撮影)

 

〈プログラム〉

日程概要は大会プログラムに掲載されて公開されています。

大会プログラム(日本語)

大会プログラム(英語)

詳細なプログラム(セッションごとの発表者・タイトル等)はスマートホン用のアプリで提供されています。

アプリのダウンロードサイト

〈基調講演〉

基調講演として次の3人からの講演が設けられました。

・隈研吾(建築家)「森の時代」(2日)
・Sebastião Salgado(写真家)「アマゾン熱帯雨林保護 ─ブラジリアン・イニシアティブ─」(3日)
・蔡國強(アーティスト)「私の美術館春秋─ミュージアムあれこれ考」(4日)

いずれも博物館と環境や地域との関わりが強調され、今回の大会の方向性を示す役割を果たしたように感じました。

〈プレナリー・セッション〉

京都大会では以下の4つのプレナリー・セッションが設けられました。いずれもその映像がYouTubeで公開されています。

博物館による持続可能な未来の共創(2日)

ICOM博物館定義の再考(3日)

被災時の博物館 ─文化遺産の保存に向けた備えと効果的な対応(4日)

世界のアジア美術とミュージアム(4日)

それぞれ、現代の博物館が直面している課題について議論されました。博物館の定義については後述します。

〈ICOMの組織と大会プログラム〉

ICOMには30ほどの国際委員会(専門ごと)、6つの地域連盟、21の加盟機関、8つほどの特別委員会、ワーキンググループなどがあります(注4)。それぞれの国際委員会は毎年、世界各地でそれぞれの年次大会を開催しますが、ICOM大会時には大部分の国際委員会が分科会としてセッションを持ちます。

〈オフサイト・ミーティング〉

9月5日(木)は主会場を離れ、国際委員会ごとにコース・訪問場所を決めて参加者を募り、そこで発表や討議を行いました。わたしはMPR(マーケティング・交流国際委員会)のお世話係をして京都市内を回り、京都鉄道博物館に行ってセッションを持ちました。

〈エクスカーション〉

9月6日(金)はエクスカーションとして、希望のコースを1つまで選び、訪問・見学しました。わたしは「山陰海岸ジオパークの神秘と特別天然記念物コウノトリの郷を訪ねて」のコースを選び、城崎国際アートセンターと地磁気逆転の発見でも知られる玄武洞、兵庫県立コウノトリの郷公園を見学しました。

〈ICOM規約における博物館の定義の改定〉

ICOMは博物館に関する国際NGOの一団体ですが、その規約における博物館の定義は、はるかに重く受け止められるため、今回の博物館の定義の改定は、大きな争点として注目されました。

博物館の定義のこれまでで最後の改定は2007年のウィーン大会の際の臨時総会で、前回2016年のミラノ大会では、近い将来の改定に向けて作業を進めることが確認されていました。博物館の定義、見通しと可能性(MDPP)常設委員会が2017年に立ち上がり、改定に向けて全世界の会員・関係者から意見を募りました。MDPPは意見収集と討議の結果を「提言と報告」としてICOMの執行役員会(executive boards)に提出、執行委員会は報告を受諾し提言を採択しました。こうして、MDPPの「提言と報告」は2018年12月に公開され「ICOM博物館の定義」の見直しに関して2019年5月まで意見募集することになりました。

(ICOMウェブサイト)
Museum Definition
MDPP 2018 Report and recommendations (ICOMウェブサイト)

(ICOM日本委員会ウェブサイト)
MDPP「提言と報告」仮訳 
「ICOM 博物館の定義」の見直しに関する意見募集について

この時点で、新たな博物館の定義は、従来のものとは、形式も内容も大きく変わることが要請・期待されていることが明らかになりました。これに対して5月20日までに意見を受け付け、それを元にMDPPは新しい定義の案を5とおり作成しました。7月21日・22日、パリで開催されたICOM執行役員会(理事会)はそこから1つを選び、9月7日、京都で開催される臨時総会で投票にかけることを決めました。

口頭発表を聞いてのメモですが、8つほどの国際委員会と26ほどの国内委員会(各国の委員会)から、投票の延期の提案が寄せられ、またICOMの内部対立かとセンセーショナルに報道されたりもしました。これに関して大会開幕前日の8月31日午後4時に、Aksoy会長から全会員に電子メールで、投票の延期はしない、予定通り9月7日の臨時総会で投票にかけることが知らされました。大会直前の執行役員会(理事会)、諮問委員会等の議論を踏まえて大会に臨む姿勢を表明したものです。

9月3日のプレナリーセッションでは、予定されていたMDPPメンバーの発表に続いて、投票延期を呼びかけている側の代表(ICOFOMの委員長)に時間が割り当てられ、投票の延期をするよう呼びかけていました。わたしは国際委員会の分科会をあきらめ、同日午後に開催されたラウンドテーブル2つにも出席しました。

2つのラウンドテーブルは文字通り丸いテーブルに十数名ずつが着席しました。しかし、テーブル内での議論は行われず、司会・進行を担うMDPPのメンバーから数分ずつ改めてプレゼンテーションがあった後は、発言希望者が自由に発言できる形で運営されました。43ほどの発言があり、今回の臨時総会での投票に反対する意見が大部分でした。後半のラウンドテーブルでは、慎重派側が司会・進行をすすめ、同様にフロアからの発言を募りました。こちらはほとんどが慎重(反対)の立場の発言でした。ただし、どの発言にも敬意を表しての拍手がほぼ同様にあったことは特筆しておきたいです。

それにしても、この後3日間をはさんで9月7日の臨時総会がいったいどうなるのか、予想もつかない状況でした。

〈臨時総会〉

規約の改定は臨時総会で取り扱うことになっています。そして、この改定だけを議題にした臨時総会は7日(土)の朝最初のプログラムとして、9:30〜10:30に設定されていました。

この臨時総会ではわたしを含めて日本人数名がそれぞれのツイッターアカウントで逐次ツイートして、現場の様子を伝えました。これらのツイートをサイト「トゥギャッター」で集めて時系列に並べたものは、まるで現場からの実況中継となっています。ツイッターも原則として公開されていますが、このトゥギャッターでまとめたものも公開されていて、白熱した総会の様子がうかがえます。

ICOM第25回京都大会 臨時総会(博物館の定義の変更)日本語ツイート

参考:(大会期間中を中心にICOM京都大会に関する日本語ツイートもまとめてみました。)

ICOM第25回大会(京都大会)の日本語ツイートまとめ 

改定案への投票のはずが、途中で議長(=会長)から、改定採決の延期に対する投票にするということになり、激しく議論した結果、投票の延期について採決することになりました。

最終的に投票延期が70%ほどを占めて、延期されることになりました。次の臨時総会は2020年6月、パリで開催される予定で、それまでの間、議論が続くことになりました。

ICOM臨時総会(2019.9.7)での「改定案への賛否の延期」への投票結果。延期と決定。

〈通常総会〉

臨時総会直後に通常総会を始めると宣言があったのですが、さすがに休憩が必要ということで、アナウンスもないまま休憩となり、座席まで弁当が配られました。

予定から3時間以上遅れて通常総会が始まり、活動報告・決算報告、名誉会員の選任などが行われました。

〈まとめに代えて〉

ICOM規約における博物館の定義の改定に関して、今回は速報ということで内容に踏み込む余裕はありません。それでも、改定案が示す博物館がめざす方向ということでは同意・賛成する声が大部分であったことは記しておきたいと思います。

執行役員会(理事会)を経て改定案が示されたのは7月で、あまりに周知・議論の時間がなさすぎた、これでは投票のための検討もできない、ということで延期という提案が出たようです。

今回、デコロナイゼーション(decolonization、非植民地化)について繰り返し発言があり、それを主題としたパネルディスカッションも設定されました。それが前面に出た改定案でしたが、臨時総会で阻まれた形に見えます。2020年6月のパリで決まるのか、2021年パリ、さらにはプラハで行われる2022年の第26回大会に先送りするか、予断を許しません。

国内でもこの改定案が出て来た背景、新しい定義となったらどうなるのか等、意見交換したいものです。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

ご参考までに、ウェブ等で公開されている記事等をリストアップします。

  • カレントアウェアネス・ポータル (国立国会図書館のページ)

国際博物館会議(ICOM)、規約に含まれる博物館の定義の新たな案を発表:2019年9月に京都で開催される臨時総会で採決へ  2019年8月1日

※タイトルと本文の一部を修正しました(Extraordinary General Assemblyの訳)(2019/8/5)

※博物館の定義の新たな案の日本語訳の試訳を削除しました(2019/8/9)

国際博物館会議(ICOM)、博物館の定義の新たな案の採択を延期 2019年9月9日

  • 美術手帖 ウェブ版 (「美術手帖」は株式会社美術出版社が発行する月刊誌)

日本初開催。ICOM(国際博物館会議)京都大会で「Museum」の定義が変わる? (NEWS / HEADLINE – 2019.8.30)

ミュージアムは持続可能な社会にどう貢献すべきなのか? ICOMでセッション開催 (NEWS / REPORT – 2019.9.3)

ミュージアムは「文化のハブ」になれるのか? ICOMが問い直す「博物館」の定義 (NEWS / REPORT – 2019.9.3)

ミュージアムを災害からどう守るべきか? ICOMでセッション「被災時の博物館」開催 (NEWS / REPORT – 2019.9.4)

ICOM(国際博物館会議)京都大会が閉幕。「Museum」の新たな定義のゆくえは (NEWS / REPORT – 2019.9.7)

  • 朝日新聞ウェブ版

・【京都】ICOM京都大会 博物館の定義めぐり議論 (森本俊司 記者) 有料記事

ICOM京都大会 閉会 2019年9月9日11時39分 (森本俊司 記者)

協調と対話 これからも ICOM京都大会 2019年9月13日12時53分 (森本俊司 記者)

  • アートスケープ

芦田彩葵「ICOM博物館定義の再考」が示すもの──第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019  2019年10月1日号

  • Museum International Vol.71 No.1-2. ICOM / Routledge

Museum Definition 特集号  序文・各章の概要は無料、他は有料(ICOM会員は無料)

 

注1 ICOMの現状と活動については、ウェブで公開されているAnnual Report(年報;英語)で把握できます。

注2 京都大会の直前回であるミラノ大会(2016)について、ICOM日本委員会の報告書がウェブで公開されていて、大会の全体構造・流れを理解するには便利です。

注3 参加者数等については大会事務局等からの速報値を掲載します。個々の数値については、数か月後に刊行予定の報告書でご確認ください。

注4 プログラム日本語版のp.32にその一覧が出ていますので適宜参照してください。

 

文献

栗原祐司・林菜央・井上由佳・青木豊. 2019. ユネスコと博物館. vi+230+3p. 雄山閣, 東京. 定価:2,400円+税

栗原祐司. 2019. ICOMと日本の博物館. 栗原祐司ら. ユネスコと博物館. 雄山閣, 東京. p.139-172.)

 

本文中のウェブサイトのURLはいずれも、2019年9月末に確認したものです。

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