連載「変わりゆく高等教育」第4回 日本の大学産業界の今後

投稿者: | 2019年10月8日

連載「変わりゆく高等教育」第4回(最終回)

日本の大学産業界の今後

a.k.a.ミンミン

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はじめに

連載「変わりゆく高等教育」も今回がいよいよ最終回である。第1回「米国の知られざるエリート・オンライン全寮制大学 Minerva(ミネルバ)」ではアメリカの最難関かつ最先端の教育を展開している小規模大学を取り上げた。この学校については日本のマスメディアでも時々紹介されているが、それらはことごとくオンライン授業のやり方に注目しているだけで、具体的なカリキュラム編成の成果でCLA+(大学教育の成果をはかろうとする米国のテスト)で1年生が他大学の4年生よりよい成績を取った、というより重大な事実を見逃している。第2回「悪魔か救世主か?その1: MOOC(ムーク)の出現」では世界レベルで台頭してきているMOOCの数々を紹介した。日本がこの分野では圧倒的に遅れていることを感じていただいた。第3回「悪魔か救世主か?その2:英語支配の終わりの始まり」では、今後の教育に大きな影響を与えるAIによる通訳翻訳が既にプロレベルまで進歩していることを示し、そもそも学ぶための道具に過ぎない英語の習得にかける時間と費用のコストが投資に見合うものなのかに疑問を呈した。ここで紹介したみらい翻訳は試していただけただろうか?是非試していただき、その訳のレベルの高さを実感していただきたい。以上を踏まえて、本稿では今後の大学産業界のあり方を、先ずはアメリカの先端事例を見ていき、その後、わが国にどのような影響を与えてくるかを考えてみる。

 

アリゾナ州立大学の取り組み

最近は日本の大学入試でも伝統的な一発勝負の学力試験や推薦入試と共にAO入試というのが増えてきているようだ。AOとはAdmission Officeの略で、大学の入試事務局で決めた一定の基準によって合否の判定を行う、というものである。AO入試においては、一発勝負のペーパー学力試験の成績に依存することなく、また特に高校の推薦も必要とせず、高校時代の成績や勉強以外の活動歴、小論文、面接などで総合的に合否を決める。1990年に慶應義塾大学のSFC (湘南藤沢キャンパス) が導入し始めたとされている。その後、多くの大学に広まり、各大学でいろいろな取り組みをしているようであるが、一般的に私学の場合には早めに新入生を確保する為の手段(つまり新入生の青田買い)として利用されているようである。

しかしアメリカにはもっと過激にかつ革新的に新入生を受け入れている大学もあり、特に第2回「悪魔か救世主か?その1: MOOC(ムーク)の出現」で紹介したMOOCを活用した先端事例としてArizona State University のEarned Admissionというシステムを紹介したい。

先ずはArizona State University がどんな大学なのか簡単に見てみると、1885年設立の、アメリカの文字通りアリゾナ州の州立大学である。現在、学部生の数は4万人を超え、全米でも有数の大きな大学の一つとして数えられている。日本の大学も最近大いに気にしている大学ランキング、例えばTimes Higher Education (THE) の最新2020年度の世界ランキングでは155位につけている(ちなみに東大は36位、京大が65位で、日本で200位以内なのはこの2校のみである。中国は清華大23位、北京大24位をはじめ7校が200位以内にランクインしている)。

またランキング好きのアメリカ人が大いに気にするUS News & World Reportの最も革新的な大学ランキングでは、このカテゴリーが作られた2015年以来4年連続して全米1位に輝いている。

さらにUS News & World Reportの外国人留学生の比率のランキングによると、2017-8年度は12%と大規模な州立大学としては全米屈指の多様性を誇っている。全体的に、なかなか優良な大学なのである。

Arizona State UniversityのSun Devil Stadium 
大学のフットボールチームの為にこんな立派なスタジアムがあるのもアメリカならではだ。https://sundevilstadium.asu.edu/

 

この大学が2015年に始めて以来、筆者が注目してきた革新的なシステムにGlobal Freshman Academyがある。MOOCの最大手の一つedXのプラットフォームを用いて提供される大学初年度レベルのオンラインコースなのであるが、2017年にEarned Admissionと名前を変えてアップグレードされるまでの3年間で180カ国から延べ23万人の受講者を集めたということだ。

ではこのEarned Admissionの何が革新的なのであろうか。簡単に見て行こう。

1) 授業料後払い

日本に限らず学費を払う国では、金を払わないと学校を追い出される。先ず授業料を半年分なり一年分、または履修した科目の単位数に応じて払う、というのは当然と思うかもしれない。アメリカの大学などでは、初めの1-2回授業に出てみて、よさそうだったら正式に履修届を出して、授業料を支払うというシステムもある。しかし一度履修を決めた科目は途中で投げ出すわけにはいかない。投げ出したらそれも成績表に残るし(普通はW=Withdrawとして残る)、あとからつまらない科目と感じて、適当に勉強していると悪い成績をその科目で取るばかりか、平均点(GPA=Grade Point Average ) にも悪影響を与える。

ところがEarned Admissionはこれと全く違うのである。すなわち、先ずはedXで科目を無料で履修して、テストを受けて、良い成績だったらここで初めて授業料を払い単位認定してもらう。もっと良い成績を取りたければ、再度無料で履修して、またテストを受け、成績に満足すれば、ここで初めて授業料を払い、単位に換算してもらうのである。

無料で勉強を始めると書いたが、正確には少額の手数料が必要である。また授業料(というより既に成績の出た科目の単位を正規の大学の単位として組み込む手数料)であるが、3単位の科目あたり400ドルとなっている。これはArizona State Universityの伝統的な対面形式の教育による授業料が、外国人の場合3単位の科目あたり1,000ドル程度 (これでもアメリカの水準からすると格安) になることを考えると非常に安く抑えられている。

2) 誰でもいつでも始められる

普通、外国人がアメリカの大学で勉強するとなると、入学審査に多くの提出書類が求められるが、Earned Admissionは面倒な手続きは必要ないのである。国籍も、英語力も問われないし、中学生でも高校生でも90歳でもいい、中高校の成績表すら出さなくていいのである。ただedXのオンラインのコースを勉強していけばいいのだ。

3) Arizona State Universityに自動的に入れる

オンラインのコースを取って、テストで満足のいく点を取って、1科目400ドル払えば、それがArizona State Universityの正式な単位として認定される。 単位を積み重ねていけば、世界中のどこにいてもArizona State UniversityのFreshman(1年生)相当の単位をアリゾナに行く前にとってしまえるのだ。しかもアメリカのほとんど全ての大学に留学する際に必要な、高校の成績や推薦状、入学志願のエッセイ、TOEFLなど不要になるのだ。

当然ながら、Arizona State Universityの単位を認めている他の大学に、履修した単位を持ち込んで転校することも可能になる。

日本の場合、一発勝負の大学受験の成績が、大学の学業成績とどのように連関してくるのか、これを測定するのはなかなか困難である。日本の大学は一度入ってしまえば、受験の長年のプレッシャーから解放され、部活やサークル、バイトや趣味に多くの時間を使っても適当に勉強していれば卒業はできる、といったことも関係してくるだろう。そもそも勉強への過大な負荷のかかる授業も少ないだろう。少なくとも日本の受験は、学生の大学での勉強のパフォーマンスを予測するものでないことは明らかである。もしそのような機能があるのなら、例えば1,000人の定員に対して、絶対評価で1100人とか900人しかとらない年が出てきてもおかしくはない。しかし現実は毎年募集定員と同じ程度の人数が入学してくる。学生の学力うんぬんより、その年の受験生の全体から、必要なだけの頭数を揃えることが優先されているのだ。もっともこれは人気校の場合で、頭数を揃えることも困難な学校や学部が多く存在するのは、ご存知のとおりである。

そんな事を考えると、Arizona State UniversityのEarned Admissionは日本の受験などより全く合理的なシステムに見えてくる。要は大学1年生の勉強を志望者にオンラインで勝手にさせてみて、良い成績が取れれば入学させてあげるよ、ということである。日本のような一発勝負の暗記中心の試験や、アメリカの大学志願者の標準テストであるSATACTなどに比べても、遥かに入学後の学業成績を予測するには良いだろう。何しろ大学の正規の授業そのものをやらせて選別しているのだから。そしてMOOCという世界に開かれたプラットフォーム上で授業を公開することによって、必要とされる学力の水準を世界に公開していることともなる。日本のいわゆるFラン大学のように、ブラックボックス化した入試で、割り算の計算や%の概念が分からない高校生を入学させることはないわけである。

 

Online Proctored Exam (オンライン監督者付試験)

ここまで読んで、「オンラインの授業でしょ。いくらでも人の助けを借りたり、参考書をこっそり見て良い成績とれるじゃない」、と読者の中には思う人もいるかもしれない。しかし、そう都合よくは出来ていないのである。

先ず、人の助けを借りて入学出来ても、その後の成績が悪いと容赦なく退学させられる。日本ではアメリカの大学は勉強が大変だ、という印象が広まっているが、実はアメリカなどはまだ優しいで、世界基準だと学生は成績が良くないと退学になるのは当たり前だ。例えば、筆者がむかし留学していた欧州のとある国など、学部生が1000人入ってきたとすると、2年生に上がる時に300人とか400人単位で間引かれていた(退学させられていた)。ある世界的に著名な学部などは、入るのも難関だが、運よく合格しても入学者のうち卒業出来るのは3割から4割にとどまっていた。とりあえず入学させて実際の授業を受けさせて、その成績で選別していくのである。Arizona State Universityはこれをオンラインで最初の1年間分を課して行っているにすぎない。むしろ、日本の一度入れたら大学で面倒見て卒業させる、という感覚が世界でも異常なのだ。「自己責任」が大好きな日本人が、こと大学教育になると極めて温情的なのは、何とも不思議である。それだけ大学での学業の成績が重視されていない、ということであるだろう。むしろ大学の勉強ばかりしていると、偏った人間として就職試験などでは嫌われるだろう。

ところが海外では普通は大学の成績が就職や進学に際して大いに問題になってくるのだ。またどこの大学を出たかも大いに問題になってくる。簡単な例を出すと、現代日本では東大卒でも、地方のFラン大学卒でも、同じ企業に入れば同じ大卒で初任給は同じである。これを東大卒初任給月25万円、しかし地方Fラン大卒初任給は月18万円、などと募集を開始したら、即座に批判の嵐でTwitterトレンド歴代最短時間で1位入りすること必至だろう。しかし、戦前の日本では東大や京大のような旧帝大と、例えば今の一橋大学になった東京商科大学 (でさえも)で初任給が違うのは当然であったし、海外では現代でも出身大学によって初任給が違ってくるのは当たり前なのである。例えばマサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピューターサイエンスを専攻した学部生と、アメリカの中西部の田舎の州立大学で同じような専攻をした学部生と、同じ会社に入っても、初めからやる仕事が違ってくれば、初任給が違って当たり前なのだ。それどころか同じMITの卒業生が同じ会社に入っても給与の違うことも普通にあるだろう。就職なんて個人と会社の個別の契約に過ぎないからだ。現実的には就「社」して会社に入って何をやらされるかわからない日本だが、アメリカでは、就「職」して、具体的な仕事上のパフォーマンスを期待されるのだ。

これが大学教育に意味するところは、アメリカの大学では学業の成績がより重視される、これはオンラインであってもそうであり、決して人の手を借りて楽に良い成績が取れるようでは社会的に評価されないのである。むしろ日本人の感覚からすると性悪説に立っているとしか思えない位の管理をされるのである。そしてこれがオンラインコースでのProctored Exam (監督者付試験)に如実に表れている。

修士課程や博士課程ならば討論や論文が指導の中心になってくるだろうが、こと学部生においては依然として制限時間を設けて教室内で参考資料無しに行うペーパーテストが必要な場面も多くあるだろう。Diploma MillsやDegree Mills(学位製造工場)と呼ばれる、金さえ払えば学位を簡単に手に入れることのできる大学ならいざ知らず(日本の大学ではそんなところで博士取った教員のプロフィールを時々見るが、大学も教員も恥ずかしくないのだろうか)、東大や京大よりも世界的には評価の高い大学もオンラインで学位を出す時代である。伝統的な対面での教育と同等の質を担保するためにオンライン試験で不正を防ぐことが出来なければ、オンラインの学位は大学の権威を棄損し、同時にオンライン学位そのものの評価を低め、したがって結果的にオンラインコース自体の存続を脅かす。対面の教育においても不正を完全に防ぐことはできないだろうが、それでは大教室で100人や200人の学生が一斉に試験を受けることと比較して、オンライン試験ではどのように不正を防いでいるのであろうか?監督者は、また学生はどのように振舞うのであろうか?

オンラインの試験監督のソフトウエアは各種発売されているが、どれも似たり寄ったりである。ここでは大手教材出版社のPearson Vueのビデオが分かりやすい。百聞は一見にしかず。厳格さに驚きを通り越して、ここまでやるのかと、むしろ滑稽にさえ思えてくるだろう。筆者にはこういうところの厳格さが如何にもアメリカ的で面白い。

Pearson Vue- Taking an Online Proctored exam

Vimeo のPearson Vueのオンライン試験監督紹介ビデオ 部屋中をチェックされる。
https://vimeo.com/268082257

【続きは上記PDFでお読みください】

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