【連載】21世紀にふさわしい経済学を求めて(14)

投稿者: | 2022年2月9日

連載

21世紀にふさわしい経済学を求めて

第14回

桑垣 豊(NPO法人市民科学研究室・特任研究員)

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「21世紀にふさわしい経済学を求めて」のこれまでの連載分は以下からお読みいただけます。

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回

第7回 第8回 第9回 第10回 第11回 第12回

第13回

第1章  経済学はどのような学問であるべきか (第1回から)
第2章  需給ギャップの経済学 保存則と因果律 (第2回から)
第3章  需要不足の原因とその対策 (第4回から)
第4章  供給不足の原因と対策 (第6回から)番外編 経済問答その1
第5章  金融と外国為替市場 (第8回から)
第6章   物価変動と需給ギャップ (第10回から)
第7章  市場メカニズム 基礎編 (第11回から)
第8章  市場メカニズム 応用編 (第13回から)番外編 経済問答その2

 

番外編 経済問答 その2(つづき)

論者

研究員(基礎経済学研究所金融部門) 比良木(ひらき)
日本国営放送(NKH)解説委員 石清水(いわしみず)

※「基礎経済学研究所」(基経研)は、21世紀初頭現在実在しません。科学捜査研究所(科捜研)のように、ドラマ(1970年代)の架空組織名が現実化するかも知れませんが。

 

バブル経済の時代

比良木

この図で注意していただきたいのは、あくまで1980年を基準にしていることです。グラフで、円での物価の相対的低下を円高が超えていますが、1980年時点で円が安すぎた可能性が高いので、2007年ごろまで円が高すぎたと解釈することはできません。ただし、プラザ合意後の円高は急激すぎたのは確かです。日米ともに、西ドイツ(マルク)も、貿易業務に携わっていた人はもちろん経済全体に大きな影響をおよぼします。そして、ドルを通じて世界中が迷惑をこうむります。

図表8.5-1 消費者物価比(日/米)と外国為替相場(USドル/円)の推移(指数)[再々掲載]

 

石清水

輸出産業を中心に大変なことになると、各方面で急いで対応を迫られました。

比良木

日本銀行は、円高対策として強力な金融緩和を実施します。それが長期にわたる低金利政策です。投資資金を借りやすくして、景気を支えるということなのですが、その投資先が問題でした。

石清水

その後、株や土地の値段が急上昇します。バブル経済ですね。

比良木

株や土地などの金融資産の価格高騰だけだったら、熱が冷めたときに、おおむね元にもどるのですが、実体経済にも影響しました。実体経済に影響すると、簡単には安定した経済状態にもどりません。株や土地だけでも、結構社会に影響するのですが、実体経済が動くと大変なことになります。

石清水

具体的にはどんなことがおきたのでしょうか。1980年代後半と言えば、リゾートブームを思い出します。

比良木

日本経済は欧米にひけをとらないくらいに豊かになったので、これからは余暇が大事だということで、リゾート法が成立します。株価や地価があがると、個人は資産が急増したように見えるので、「このお金で、今までにないぜいたくをしてみたい」というわけです。

全国でゴルフ場、スキー場などのリゾート開発が進みます。利用者の需要に見合ったものならまだよかったのですが、ゴルフ会員権や開発企業の株価自体が投機の対象となり、バブル経済が加速します。ゴルフ場・スキー場は、大規模な森林伐採や農薬の使用が環境破壊になるので、全国で反対運動がおきました。『ゴルフ場亡国論』のような本も出ました。

石清水

『ゴルフ場亡国論』の著者の山田国広氏は、知り合いだった太宰先生(経済問答 その1に登場)から、タイトルの提案を受けたということでした。

比良木

実は、太宰先生が、島津康男氏が1970年代に唱えておられた「ゴルフ場国賊論」を覚えまちがえて、山田氏に教えたのが、いつのまにかタイトルになっていた、というのが真相です。

石清水

経済活動への影響は、どうなっていたのでしょうか。ゴルフ場開発は、現実の経済活動ですね。

比良木

GDPは実体経済のものやサービスの生産高をあらわしています。株価や地価の上昇は財産の総額は増やしても、直接何も生み出すわけではないので、その値上がり部分はGDPには含めません。株価や地価が上るだけでもバブル状態かも知れませんが、現実の経済活動にはそれほど影響は与えません。

バブル経済というためには、株などの金融資産が増えたことによって、実体経済にも影響が出ることが必要です。リゾート施設などに加えて、マンション、オフィスビル建設も進みます。高級車、宝石類、絵画なども売れ行きが急増します。

株価の上昇を見て、今まで株に手を出さなかった庶民も株を買うようになります。電車の中で主婦とおぼしき女性でも、株のことを話題にするようになるようになったと聞きます。そうやって庶民がバブル経済に巻き込まれると、いろいろな家電製品や家具なども売れるようにます。また、グルメということばが、はやるようになって、ぜいたくな食事をする人が増えます。

石清水

それが、経済の実体に見合ったものではなかったのですね。

比良木

そうです。金融資産の価格とGDPの伸びが平行していれば、ただの高度経済成長です。環境破壊や資源浪費はあったかもしれませんが。

石清水

たしかこの時期、公社の民営化や、消費税の導入がありました。関係あるのでしょうか。

※3公社:日本国有鉄道(国鉄)→JR、日本電信電話公社(電電公社)→NTT、日本専売公社→JT

比良木

バブル経済を後押しする制度や現象が、悪いタイミングで成立しました。消費税の導入もそうです。消費税自体には支出抑制効果がありますが、宝石や毛皮などのぜいたく品物にかかっていた物品税が同時に廃止になりました。物品税は税率40%など、導入当初の消費税3%よりはるかに高かったので、ぜいたくの促進と日用品の値上げが同時におきます。

電電公社の民営化でNTT株の公開(売買)をしますが、これが株価の高騰を招きます。国鉄の土地を売りに出すと言いながら、地価が高騰しているという理由で、売るのを延期します。

石清水

売ると言いながら売らないと、かえって地価が上ると思いますが。

比良木

そのとおりです。国鉄の土地を特定企業に割安で提供しようという利権がある、といううわさがありますが、真相はわかりません。バブル期に国鉄の土地を売れば、高く売れて巨額債務も直ちに解消できたはずですので、売らなかったのは不合理です。それで、おそらく利権のためだろうと推測できるわけです。

それから先ほどふれたリゾート法が成立します。こちらのほうにもNT株が登場します。

石清水

どういうことでしょうか。

比良木

自治体が国の設定した条件を満たしたリゾート開発をすると、国が売ったNTT株の売上げで得た資金を無利子融資する、という制度をつくりました。民間企業だとバブル崩壊後に経営に行き詰まると倒産し、銀行が不良債権として計上して損失をこうむるという形で決着します。ところが、自治体はつぶすわけに行かないので、長年借金に苦しみます。利子をあきらめだけなら、たいしたことはないのですが、借金本体が回収できないのです。施設建設を請け負った企業は利益を得るだけで、その後のリゾート経営に行き詰まっても損害はありません。

民間企業が開発する場合も、金融緩和で資金があまっている銀行は、自分のほうから資金を貸そうとする異常事態でした。リゾートなどの経営の見通しは不透明でも、土地を担保すればいくらでも貸したといいます。それまでは、銀行融資は審査が厳しくて、なかなか貸してくれませんでした。

石清水

地価があがっているので、担保価値もあがりますね。

比良木

それで貸し出し枠がさらに増えて、貸し出し残高が相乗効果で増えました。

整理すると、日本銀行は公定歩合をさげて、銀行が日本銀行から資金を借りるときの利率を下げて融資資金を確保しやすくする一方、借りるほうの担保価値があがって借りやすくなる。両面で、バブル経済を後押ししました。

石清水

日本銀行は、気が付かなかったのでしょうか。

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