子どもの体験活動

投稿者: | 2023年10月5日

子どもの体験活動

 

倉本 宣 (明治大学農学部)

 

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今回は、子どもの体験活動と研究的なオリジナリティについて考えてみたい。

みた・まちもり寺子屋(※1)は、明治大学生田キャンパスの隣の川崎市立三田小学校の「地域の寺子屋事業」として、学習支援(水曜日放課後)と体験活動(土曜日等月1回)に2019年11月から取り組んでいる。我々が小学校に入り込んで活動することは容易ではないものの、市民が運営している「地域の寺子屋事業」では協働が図りやすい。前回、報告したコウモリの観察会(※2)はみた・まちもり寺子屋との協働であった。多摩区には15の「地域の寺子屋事業」が活動している。

※1:https://matimori.net/index.php?terakoya

※2:https://www.shiminkagaku.org/csijnewsletter_072_202309_kuramoto/

私は例年みた・まちもり寺子屋の体験活動を1回担当することにしてきた。今年度はなぜか3回依頼されたので、初回は、みた・まちもり寺子屋のコーディネーターも寺子屋先生も経験のあるバットディテクターを用いたアブラコウモリの観察会とした。

第2、3回は、三田第四公園祭の一環として10月28日に行うということなので、時期を動かすことができなかった。昨年、コーディネーターを担当した11月の多摩川における高校生野外教室の際に、自分にとってわかっていることを高校生に教えるタイプの活動を行ったところ、心が動かなくて、帰路についたときには事故で誰も死ななくてよかったと感じるような情況であった。そのため、講師のOさんにひどく叱られる結果となった。そこで、12月の高校生野外教室からは自分の心が動くように、新しいオリジナリティのあるデータの取得を含む活動に転換した(倉本宣ら「多摩川におけるカワラノギクの種子散布を中心にしたオリジナリティのある調査を用いた環境学習」『日本環境教育学会関東支部年報』第17号,pp.79-82)(※3)。

※3:https://www.jsfee.jp/members/shibu/328-bulletin-kanto

みた・まちもり寺子屋の参加者は小学生、それも低学年が多い。高校生のように、参加者がオリジナリティのあるデータをとるのはむずかしい。私の研究室の得意な分野の一つである野生植物の種子発芽実験を取り上げて、植生に内在する時間を意識してもらうことにした。そこで、2つの調査を実施した。

一つは、片山(2023)が開発したMVC法(※4)によって、散布された種子を収集し、それを2週間インキュベータ(明条件、12時間交替27.5/12.5℃)で発芽させた。MVC法としては、1×1mの人工芝を3反復で、背の低い草地と樹木の下に設置した。もう一つは、三田第四公園の法面の草地の植生を調査して、フロラリスト(構成種のリスト)を作成し、構成種の種子をエスペックミックなどの種苗会社から購入したり、周辺で採取したりして、同様にインキュベータで発芽させた。

※4: MVC法は(Mat vacuum cleaner)で、人工芝を2~4週間地表に敷いておき、集塵部分が紙パックのコードレス掃除機で、 その上にたまった種子等を集め、種  子を形態からより分ける方法。開発者による以下の文献を参照のこと。通常使用する漏斗型のシードトラップは、口の高さが高いので地表ギリギリの高さで飛んでくる種子をトラップできない。また、一度トラップした種子が強風の時に出て行ってしまう。

  http://www.jsrt.jp/tech/Tech_Files/OL_seminar/20230715_Rep_Katayama.pdf

MVC法による種子の収集は、サンプリングの際に経験者を付けることが出来なかったために、場所2×3反復のうち2つは掃除機に種子等が集められていなかった。残りの4つのサンプルを3等分して、発芽させたところ、50%の6つのシャーレで、実生が出現した。風散布種子の飛来については確認できたものの、より大型の鳥散布種子については実生の出現からは確認することが出来なかった。参加者にとっては、人工芝の下に集まっていた、オカダンゴムシなどの小動物が魅力的であった。法面草地の構成種は、購入したシロツメクサ、メヒシバ、ヨモギ、カラスノエンドウ、イタドリが発芽し、私が採取したオオバコ、セイヨウタンポポも発芽した。これらの実生は、簡易実体顕微鏡(ニコンファーブル)で参加者が観察した。小型の実生は容易に観察できたものの、カラスノエンドウの実生は大きく細長いために観察がむずかしかった。購入したノイバラとツルボの種子は発芽しなかった。野生植物の発芽特性はきわめて多様であり、休眠打破の手法も多様なので、野生植物の種子の発芽率は示されていない場合もある。低温(冬)や高温(夏)を発芽実験の前に経験させることができなかったので、発芽しなかった可能性がある。

実生は小さいけれども、みずみずしい緑色で、生命の息吹が伝わってくるものである。参加者と保護者と指導の補助に当たってくれた寺子屋先生は楽しんでくれた。本来の目的は実生と成長した植物を比べてみることであったが、シロツメクサ、ヨモギ、カラスノエンドウでは実際にそれが可能になった。残念なことに、直前に法面の草刈りが行われたため、成長した植物がなくなってしまい、隣接する子ども文化センターの庭で成長した植物を採取した。

私にとっては、牧草のシロツメクサの種子の発芽率がきわめて高く、メヒシバ、ヨモギ、オオバコ、セイヨウタンポポの発芽率も高かったことが興味深かった。種子は発芽しないで待っていれば、比較的長い期間生存できる。一方で、発芽すれば、成長して多数の種子を着ける可能性があるものの、実生は小さいので死亡する確率がきわめて高い。供試したシロツメクサは発芽率の高さから、野生の植物と言うよりも作物といった方がよいであろう。メヒシバ、ヨモギ、オオバコ、セイヨウタンポポも高い率で発芽して土壌中に生き残る種子があるのか心配になった。変温条件の幅は通常は10℃であり、今回行った15℃の変温は通常行わないので、きわめて裸地的な条件となって発芽が促進されたのかもしれない。

このような枚挙の生物学としてのオリジナリティは法則的なオリジナリティと異なり、いくらでもみつけることができそうである。9月と10月のみた・まちもり寺子屋の体験活動は参加者と保護者と寺子屋先生と私が楽しめたという点でよかった。ただし、得られたデータを利用してできる限り考えることや、法面の草刈をどうしたらいいかという現実に結びつけるためには、寺子屋先生と事前に十分討論しておく必要がありそうであった。さらに、参加者が小学生であっても、小学生向けのデータではなく、研究的なデータを取得することで、枚挙の生物学としての投稿論文等が生まれるので、今回のように定性的な記録ではなく、定量的なデータを取得する必要があると考えている。ただし、そうすると労力がかかりすぎて、体験活動への貢献自体に制約ができてしまうのが、まだ解決できていない課題である。

 

 

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