-ICタグを用いた子供の安全確認システムの可能性と課題-

投稿者: | 2007年7月3日

写図表あり
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ITで子供は守れるか?
 -ICタグを用いた子供の安全確認システムの可能性と課題-
江間有沙
0. はじめに
携帯電話やICタグを用いて子どもの安全を確認するサービスが広がりつつある。その背景には「身近にいる子ども達が何らかの犯罪に巻き込まれるかもしれないという不安を感じる」人が74.1%(18年度内閣府政府広報室の世論調査より)にものぼり、犯罪不安社会に対する危惧が大きいという現状がある。ITを用いた安全確認システムは、どのような安心・安全を提供するのか、子ども達にはどのような影響があるのか、技術に対する依存はどのようなものか、今後どのような社会になっていくのか。平成18年に行われたアンケート調査結果と市民科学講座での議論を通じて、ITを用いた子どもの安全確認システムの可能性と課題について考えてみたい。
1. システム推進の背景
 子供が巻き込まれる事故・事件が続く中で、人々の安全、安心に対する欲求が高まっている。そのような背景から近年IT(Information Technology)を利用して子供が安全に安心して行動できるようなシステムが多々開発、導入されている。このようなシステムが必要とされる背景には、「身近にいる子供たちが何らかの犯罪に巻き込まれるかもしれないという不安を感じる」人が74%(内閣府政府広報室 2006)という現実がある。02年の池田小事件、04年の広島女児殺害事件、05年の奈良・栃木女児殺害事件など子どもを狙った殺傷事件が大きく報道されたこともその不安の原因であろう。つい先日(平成19年7月20日)も宮城県の小学6年生が校門前の路上で男に背中から刃物で刺されたという事件があった。近くに住む人のコメントとして「こんな田舎で、こんな事件が起きるとは」というものがあったが、今現代、どこも完全に安全ではないという現実をつきつけられたようなものだったのではないだろうか。
 このような不安社会において、関連省庁は平成18年に青少年育成推進本部で話し合いをして「子ども安全・安心加速化プラン(案)」をまとめた(犯罪対策閣僚会議(第7回)・青少年育成推進本部(第3回)合同会議 2006)。このプランは、電子タグやセンサーネットワークなどのユビキタスネット技術等を活用した安全確保システムの導入、普及を推進するとあり、総務省はそのために2006年度補正予算にICタグの「見守りシステム」構築のため12億2000万円を計上し、16校で実証実験を行う予定である(産経新聞 2007、総務省 2007)。
2. 「ITを用いた子供の安全確認システム」とは何か
 子供の安全確認システムに使う「ユビキタスネット技術」にはRFID(Radio Frequency IDentification)やGPS(Ground Positioning System)、無線技術や防犯カメラといった様々なITがあるが、今回は特にRFID(ICタグ、電子タグともいう)を用いたシステムに焦点をあてる。
 RFID(以下ICタグ)システムは無線ICタグと,そのICタグの情報を無線で読み出す、あるいは書き込む機能を持つリーダ・ライタで構成される。ICタグ本体は情報を記録するICチップと無線通信用のアンテナから成り立つ(篠原・葉田 2007)。ICタグには電池を内蔵するアクティブタグと、電池を持たないパッシブタグの二種類がある。それぞれに長所短所があるが、一つ大きな違いとして、アクティブタグは、自ら情報を発信するため、ある程度距離が離れていてもリーダが情報を読み取ることが可能であるが、パッシブタグは乗車カードのSUICAのように、非接触とはいえ、ある程度リーダに近づけないと情報を読み取れないという点があげられる。
 ICタグを用いた児童の安全確認システムは、簡単にいうと子供にICタグを持たせ、学校の校門や街中に設置されているリーダとICタグが電波を交信することによって、子供の位置情報が、学校や保護者にメールされるという仕組みである(図1)。
                       図1 総務省 ホームページより
 アクティブタグを使うか、パッシブタグを使うか、またリーダをどこに設置するか、誰が情報を受け取れるようにするか、他のIT技術(監視カメラなど)と連携をするかなどで、様々な応用が考えられる。実際にどのようなシステムがあるかは、2006年の総務省の『「ユビキタスネット技術を用いた子どもの安全確保システムに関する事例」の公表』や、『社会安全システム』(安藤・中野 2007)に詳しい。
3. アンケート調査の枠組み
 以上様々な応用システムが実証実験されたり、導入されたりしているが、このICタグを用いたシステムが実際にはどのような効用があるのか、社会的にどのような影響があるのかを、「システムは受容されるか」といったマーケティングの視点以外で分析している先行調査は、ほとんど見られない。そこで、図1のシステムを導入している関東のある私立の一貫校の保護者・生徒 (小学1年生から中学3年生)各576名・計1152名に対して平成18年9月にアンケート調査を行った。当学校は、システム導入から既に1年半たっていた。調査集計を表1に示す。
表1.意識調査の有効回収率とタグ利用率
項目 選択肢 割合
有効回収率 保護者
児童生徒  96.18%
98.61%
タグ利用率
(1~7年生431人) 利用している
利用していない
以前はしていたが今はしていない 96.28%
2.78%
0.92%
 当校が入れているシステムは、児童が学校の正門を通過したとき、その登校時間と下校時間が学校の先生のパソコンと保護者のパソコンあるいは携帯メールに配信されるというものである。ICタグには、通信距離が長く、リーダに近づけなくてもタグを読み取れるアクティブタグを使用し、子供たちに管理されているという意識を持たせないシステムとなっている。また、タグの中には氏名や学年などの個人情報は一切入れずにランダムな固有番号をいれ、システム本体やサーバはシステム提供企業に管理されている。このシステムの導入費用は学校が負担し、保護者は入学時にタグを購入し、後は登下校お知らせメールの利用費を月々1500円程度支払う仕組みになっている。タグの購入は必須だが、保護者への登下校のお知らせメールは任意加入となっているため、表1を見るとタグは持っているものの登下校お知らせメールを受信していない人が4%弱いる。
4. ICタグへの技術的な仕組みとその影響
A) タグの他の機器への干渉や人体への影響
 ICタグの通信にしようされる電波の周波数は、100kHz周辺の低周波から、2GHz以上のマイクロ波まで様々である。今回の例で使われていたのは350MHz周波数帯のICタグである。この帯域は一般家電や医療機器への電波干渉の恐れはないという。ただし、400MHzがアマチュア無線帯域であるため、トラックなど無線を発するものが近くにあると干渉の恐れはあるかもしれないとのことである。
 また、通信距離が10m以上と長く、かつアクティブタグで常に電波を放出しているために、人体への影響が懸念されるが、影響はないとのことである。講座の質疑応答でも、小学生の低学年からICタグの電磁波にさらされていることの将来的影響はどうなのかという質問が出たが、携帯電話の電磁波の問題と同様今後電磁波の人体への影響は、安心して使うためにも研究が必要となることであろう。ICタグの医用機器、人体影響への配慮については、『電子タグ利活用における事業者向け消費者保護指針』でも検討課題として書かれている。 
 さらに、常時電波を放出しているアクティブタグとは異なり、リーダがある場所を児童が通った時だけに電源が入るシステムを日立製作所が開発するあり、様々な新しい技術が開拓されている。
 
B) 携帯電話との融合について
 もう一つ、技術的なことで質疑応答で話題になったのが、携帯電話との関係についてである。既にKidsケータイやGPS付きケータイが出回っている中、ICタグは今後どのように機能していくのであろうか。今回行ったアンケート調査の自由記述解答欄に「ICタグを持たせているので、携帯電話を持たせないですむ」というものがあった。小学生にはまだ携帯電話を持たせるのは早すぎるが、遠方から通わせているため心配である、という保護者にとってこのシステムは歓迎されているといえる。一方で、図2を見るとわかるように、調査地点で既に携帯電話を持たせている保護者も一定数いることがわかる。また、「子どもの安全を確保するために、月にどのくらい支出しますか」という問いに対しては、現行のシステムの負担額に近い金額が再頻値となっている(図3)。学校が一括でシステム導入したことと、学校側としても携帯電話を構内に持ち込むことを制限していたために携帯の保持率はそれほどでもないが、逆にICタグに登下校の確認だけではなく、GPS機能をつけて欲しいという要望が非常に多かった。子どもが高学年になるにしたがって、ICタグと携帯電話という二本仕立ての防犯対策になる可能性も十分考えられる。
図2 ICタグ以外の個人的安全対策
①何も持たせていない ②普通の携帯電話 ③GPS(現在位置確認)付携帯電話 ④ココセコム ⑤ピピットフォン ⑥安心ナビ ⑦防犯ブザー ⑧笛 ⑨他
  
 図3 個人的安全対策(金銭面)
①支出しない  ②1~500円  ③501~1000円  ④1001~3000円  
⑤3001~5000円 ⑥5001~10000円  ⑦10001円以上  ⑧その他
5. ICタグへの社会的な影響
A) 何のために必要なのか
 アンケート調査結果の自由解答欄と、保護者による送り迎えの有無の結果(図4)から、このシステムが送信する「何時に学校を出たか」を伝えるメールが便利であるとする割合が大きいように思う。7割以上の保護者が駅や学校まで送り迎えをしているため、何時に駅まで迎えにいけばいいかの目安がつくということである。大半の児童生徒が30分以上かけて電車通学をしているため、駅構内に公衆電話が少なくなってきている現在、携帯電話を持たせていない保護者にとって、このシステムは非常に有用であろう。
             図4 送り迎えの有無と、どこまで送り迎えするか
 また、「子どもの登下校時刻を見計らってメールをチェックしますか」という問いに対しては「よくする」との答えが8割を越している(図5)。また、どのようなときメールをチェックするか(図6)との問い(複数回答可)には、8割近くが「特に何もなくても毎日」と回答していることから、このシステムが習慣化しているといえる。
図5
図6
 さらに、このシステムの学校側の導入理由の1つとして「登下校についての学校への問い合わせを減らすため」というものがあったが、実際はどうなっているのだろうか。図7は「導入前に比べて登下校について学校に問い合わせる回数は変化したか」を聞いたものである。15%が減ったといい、12%は導入前と変わらないといい、2%は逆に増えたといっている。一方で問い合わせたことはないというのが46%であり、このシステムは3割強の登下校について懸念し問い合わせたことのある人々のために導入されているといえるかもしれない。3割が多いか少ないかは判断を保留にするが、導入前には考えてもいなかった影響が保護者の心理に現れていることは注目すべきであろう。
図7
B) システムへの依存性について
 図8は導入前後での意識の変化を聞いたものである。「このシステムがなくなると不便に感じると思う」かどうかを、導入前と導入後で変化があったかを示している。導入前にシステムについてどう思っていたかは、今の地点から考えて、過去(1年半前、あるいは入学時)どう考えていたかを答えてもらったものである。図を見ても明らかなように、導入前はこのシステムがないと不便に感じるだろうと思っていた人の割合が導入後は9割を越える。中でも、「非常に(不便に感じるだろうと)思う」と回答する人が5割弱から7割強になるなど、実際に使ってみた後のシステムへの依存は大きい。この結果は、一度このような「便利」なツールを手に入れてしまったら、もう後戻りはできないということを示している。このような、ある種依存ともいえる現象は携帯電話にも顕著であり、一度その利便性を享受したら物理的にそれなくしては生活できなくなってしまう可能性を秘めている。
 図8
 このような依存は、物理面だけではなく、精神面においても大きな割合を占める。図9は「学校を出たとメールがあったのに、家につくはずの時間になっても帰ってこないと不安に感じる」かどうかを問うたものであるが、これもやはり導入前と導入後で「そう思う」割合の変化が大きい。特に実際に使ってみるとメールが来ないと不安に感じる人は実に9割を越える。ICタグのシステムも技術的に万全というわけではなく、機械だから故障することも、メールを誤送信することもある。ICタグ内の電池が切れてリーダと交信できない事態が発生する可能性もある。あるいは、子どもがICタグを家に忘れて学校に登校する事態も考えられる。そのようなハプニングに対し、保護者は、システム導入以前よりまして、子どもの登下校に対して神経質になってしまうのではないのだろうか。このような現状では、学校帰りに友達と話していて帰りが遅くなった、とかいった子どもの想定外の動きを許容できない雰囲気を作り出しかねないとの危惧が講座ではあった。
図9
C) 子供たちのシステムに対する評価
 図10は子供にこのシステムがあるせいで「学校帰りに寄り道したらばれていや」かどうかを聞いてみたものである。学年によってばらつきが大きいものの、「(あまり)そう思わない」が過半数を超えている 。この結果だけから判断すると、子供たちはあまりこのシステムによって監視されている、管理されているというような印象は持っていないように思える。子供たちのシステムに対する評価というのは、得てして保護者との会話によって形成されるところが大きいと思われる。
図10
図11は子供たちに「登下校中気をつけることについて親と話すか」と「このシステムについてどう思うか」を聞いたものをクロス分析したものである。見てわかるように、よく親と会話をすると答えた子供ほど、システムのことを「あると安心」と評価している。逆にあまり保護者と会話をしない子供は「別になんともない」「わからない」と答える比率が有意に高い。ここから、保護者が危機意識を持っている親と対話をすることによって、子供たち自身もこれは監視や管理するためのものではなく、安心・安全のためのシステムなのだと思うようになるのではないかと推測できる。しかし、補足すると、このようにシステムを「あると安心」とする考えも子供が高学年になるにつれて比率は減り、「別になんともない」と答える子供が増えていく。
 図11
実際、子供たちに「このシステムは他の学校でも利用したらいいと思う」かを聞いてみたところ(図12)、「そう思う」と答える割合はどの学年を通じても大きいものの、「とてもそう思う」は学年が上がるにつれ減少し、代わりに「あまりそう思わない」「そう思わない」の占める割合が増えていく。この質問は、もし自分達が良いものであると価値を認めているものであるならば、他の人にも勧めたくなるだろうと考えて聞いたものであったが、学年があがるにつれて、子供たちのお勧め度は低下していく結果となった。同様に、図13では、「このシステムをカッコイイと思う」かを聞いてみた。最先端技術を使ったシステムは子供たちにはあまりかっこよくは映っていないようである。
図12
図13
D) 親子間の危機意識のギャップについて
 親がどんなに危機意識を持っていても、子供にそれが通じていないこともありうる。図14は「登下校中気をつけることについて親(子供)と話す」といったことを保護者と子供の両方に聞いたものの結果である。子供と保護者の結果を見比べてわかるように、「よくある」と答えた子供は、「よくある」と答えた保護者の半分以下である。逆に「ほとんど(話したことは)ない」と答える児童が3割弱いることから、保護者の危機意識が十分に伝わっていないといえる(あるいは、保護者がやや過大評価している可能性もあるかもしれない)。いずれにしても、保護者―子供間のギャップがあるということは、常に気をつけるべきであろう。
図14
E) 犯罪不安社会とICタグ
 登下校中に対する不安が強まってきていることを受けて、このようなシステムが歓迎されていることは前述の通りである。しかし、実際このシステムでは「子供に実際に危険がせまってもすぐ助けられない」と考えている保護者は多く(図15)、むしろこのシステムは「安全」確保というよりは、保護者の「安心」提供のためのシステムといえる。図16、17はそれぞれ「安全対策は何重にあっても邪魔になるものではないと思う」、「システムを導入することが犯罪の抑止力となる」に対する回答であるが、これを見ると、ICタグを用いたシステムは「ないよりはあったほうがいい」し「抑止力になると思う人もいるし、ならないと思う人もいる」といった評価であることがわかる。
図15
図16
図17
 ところで、不安が高まってきていると一般的にはいわれているが、図18に示すように、警視庁の統計によると子供への犯罪は平成15年度をピークに減少傾向にある。実際に導入校周辺の治安はどうなのだろうかとみると、平成16年に犯罪件数はピークを向かえるのであるが17年度は減少している。しかし、特に自分達に影響が及ぶ場合と、広く一般に影響が及ぶ場合とでは、リスクの受け取り方は異なってくるという(Yearley 2004)。この場合、実際に世間では治安が向上しているとはいえ、自分の子供や知り合いの子供が危険な目にあったと聞いただけで、あるいは子供を狙った事件が報道などで大々的に取り上げられることで、例えそれが自分の子供の行動範囲と異なっていたとしても人々の不安意識は高まると考えられる。
図18
 図19は実際に自分の子供が危険な目にあったことがあるかを聞いたものである。26%が、危険な目にあったことがあると答え、小学校低学年で被害にあったことが多いと答えている。実際、どのような「危険な目」にあったのかの内容を見てみると、追いかけられた、痴漢にあった、叩かれたといった身体的な被害や、じっと見られた、写真を撮られた、知らない人に声をかけられたといったような精神的な被害も多い。しかしこれらの被害は身体的な被害が精神的な被害より、直接的な被害が間接的な被害より不安意識を高めるということは、決してないだろう。たとえどんな小さな被害、ある人から見たら「危険ではない」と思われるような状態でも、子供本人が怖いと感じたり、保護者自身が話を聞いて危険だと思ったりしたら、それは客観的なリスクとしては小さくても主観的には大きなリスクとなりうるのである。しかしこのような不安意識が、結果的に「誰もが不審者」というような犯罪不安社会を作り出しているのである(浜井・芹沢 2006)。
図19
6. 考察と今後の社会への提言
 以上、アンケート結果を元に「ICタグを用いた子供の安全確認システム」をめぐる保護者・子供のタグに対する実際の評価や、システムは何に対して有効なのかといったことについて調査結果を議論してきた。むろん、関東圏の私立校一校だけのデータであるので、さらなる議論のためには、公立校や地方でのデータも今後収集する必要性はあるだろうが、今後の議論のための大枠は見えてきたのではないだろうか。
 まず第一に、このシステムは非常に地域特性に依存するといえる。今回の調査校の場合、私立校であり地元地域の協力が望めないということが特徴の一つとしてあげられる。保護者による送り迎えが多かったことからもわかるように、「子供の安全」は保護者と学校側が守るしかない。そのような状況では学校と保護者の連携が不可欠になり、子供が無事学校についたのか、何時に学校を出たのかといった情報が保護者に自動送信されるというシステムは歓迎すべきものであったろう。逆にいうと公立校などでこのシステムを導入する場合は、どのようなメリットがあるのかを議論する必要がある。共働きが多い地域では公立校でも、保護者が勤務先から子供の様子を把握するために需要はあるかもしれない。いづれにしても、システムを導入するさいは、本当にこのシステムが必要なのか、どういうシステムが必要なのか、システムの代替案はないのかを議論すべき場を設ける必要がある。図8にもあったように、このようなシステムは携帯電話と同じで一度導入すると依存が高まり、もうない状態には戻れないという恐れを生み出す可能性があるからである。導入を考える際、利便性や安心感だけでなく、システムへの依存性や、システムの不具合や子供の予想外の動きから生じる不安も同時についてくるということをよくよく考えなくてはならない。
 第二に、システムだけ導入して安心してはいけないということである。メールという、物理的に目に見えるシステムの情報を信じやすくなりがちであるからである。このようにシステムからくる情報だけに依存して、実際の子供との対話がおろそかになったり、つながっているという安心感だけから他の人的交流や対策をおろそかにしたりしてはいけない。当学校では、ICタグシステムを導入しつつも、最終的には教員による子供たちの目視確認を忘れないという。あくまでマンパワーの補助という立場でシステムを利用するというスタンスで導入するのが望ましい。携帯電話のアンケート調査結果(上田)からは、子供に携帯電話を持たせたら、それだけで安心してしまい、通話やメールのやりとりはあまりされていないという結果が示唆されている。GPS携帯を子供に持たせたら、機能をつかって逐一子供が今どこにいるか検索をする保護者もいるというが、このようなシステムがあるために、逆に子供が「どこにいて」無事であるのかに注意を払うようになり、子供が「誰といて」「何をして」「何を考えているのか」は、見過ごされがちになってしまっているのではないのか。
 『ケータイの未来』(夏野 2006)に収められている、小説「ケータイの未来 2020」には女子高生が出てくる。彼女のケータイは家を出ると外出アイコンがONになり、その状態で「身体から一定距離離れたらボタンの操作ができないようになったり、なにかのときにその場所を両親や警察に知らせる、安心モード」である。以下は彼女の独白の台詞である。
 『ちょっとイヤなのは、ママがいつでもわたしの居場所をサーチできること、でも、  OFFにしたら、OFFにしたっていうことが通知されちゃうから、結局怒られるのは同じ。ONにしておいて、心配性のママを安心させておく方がトク。彼の家に行ったって、みんなと一緒だったとか、ごまかす方法なんていくらでもあるんだから…』
 むろん、これはフィクションであり、調査による裏づけがあるわけでもない。しかし、「ごまかす方法」がもし将来出てきてしまうとしたら、本来のシステムの意義からは、ずれてきてしまわないだろうか。システムのアウトプットだけを信じて「安心」を得る社会にならないように気をつけて技術システムと付き合っていかなければならない。そのためにはいかに先進的な技術が出てこようとも、その技術を的確に利用するために、利用者間の信頼関係とコミュニケーションが今後も、というより、だからこそ必要不可欠になってくるだろう。
7. 謝辞
本調査は東京大学教養学部における卒業論文の一部 をまとめたものです。指導していただいた藤垣裕子先生に深く感謝申し上げます。また、調査の趣旨をご理解いただき、調査を快諾していただいた学校の先生方、アンケートに協力していただいた保護者、児童生徒の皆様にも御礼申し上げます。最後になりましたが、調査結果に興味を持っていただき、市民科学講座で発表、議論の場を設定していただいた市民科学研究室の上田昌文さんに深く感謝申し上げます。
参考文献
安藤茂樹著,中野潔編 2007 『社会安全システム-社会、まち、ひとの安全とその技術』
浜井浩一、芹沢一也 2006 『犯罪不安社会』 光文社
犯罪対策閣僚会議(第7回)・青少年育成推進本部(第3回)合同会議 2006
(http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/yhonbu/kaigi3/kaigi3.html)
日立製作所 児童安全サポートシステムのご紹介 
(http://www.hitachi.co.jp/wirelessinfo/ws/child.html)
警察庁 2004 『平成15年中における少年の補導及び保護の概況』
2005 『平成16年の犯罪情勢』
2006 『平成17年の犯罪情勢』
  (http://www.npa.go.jp/toukei/)
内閣府政府広報室『「子どもの防犯に関する特別世論調査」の概要』 2006
  (http://www8.cao.go.jp/survey/tokubetu/h18/h18-bouhan.pdf
夏野剛 2006 『ケータイの未来』 ダイヤモンド社
産経新聞 2007 『電子タグで児童見守り 総務省、20地域で実証実験へ』
(http://www.sankeICo.jp/seiji/seisaku/070103/ssk070103000.htm)
篠原正典、葉田善章 2007 『ユビキタスの基礎技術』 NTT出版株式会社
総務省 2006 『「ユビキタスネット技術を用いた子どもの安全確保システムに関する事例」の公表』(http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/060330_3.html)
総務省 2007 『地域児童見守りシステムモデル事業に関わる提案の採択』
(http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070330_18.html)
Steven Yearley 2004 『Making Sense of Science』 Sage Pubns
財団法人日本情報処理開発協会電子商取引推進センター 2005 『電子タグ利活用における事業者向け消費者保護指針』(http://www.ecom.jp/results/h16seika/15トレーサビリティ実現のための情報共有ニーズ分析報告書.pdf)

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