子どもと携帯電話 ~使う前に知っておきたいこと~ 【前編】

投稿者: | 2009年8月6日

写図表あり
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子どもと携帯電話
~使う前に知っておきたいこと~
【日本消費者連盟発行『消費者リポート』2009年4月~9月の連載12回分に一部加筆】
上田昌文
(NPO法人市民科学研究室・代表)
第1回 世界の半数以上の人が使う道具
携帯電話は20世紀の終わりに出現し、瞬く間に世界中に普及した先端技術です。20年ほどで世界の半数以上の人が所有するようになった技術は他に例がありません(2007年末で契約者数は33億を突破)。この連載では、携帯電話が社会に何をもたらしているかを、特に子どもの健康問題に焦点をあてて考えますが、何を論じるにしても「なぜこのように急速に多くの人に受け入れられるようになったのか」という点を常に意識しておく必要があります。
 日本での普及もここ15年ほどでほぼ直線的に増加して、現在では90.5%の人が携帯電話を所有しています(2009年末の時点での契約者数は、携帯電話106,481,700件 、PHSは4,557,300件で合計111,039,000件 社団法人電気通信事業者協会の資料より)。子どもたちの所有状況は、ともに1万人ほどの子どもを対象にした調査では、全国では「小学生が24.7%、中学生が45.9%で、高校生は95..9%とほぼ全員」(文部科学省2009年2月)、東京都では「小学校(4年 生以上)で38.4%、中学校で66.4%、高校で96.2%、特別支援学校で53.8%」(東京都教育委員会2008年7月)となっています。これはおそらく世界的にみても同傾向で、たとえば台湾では「6~18歳の34.4%、中学生の67%、高校生の89.6%」、英国では「16歳の若者10人のうち9人、小学校の40%以上」といった報告があります。 「子どもが親の目を気にしながら家の電話を使う」という時代は遠く過ぎ去った感があります。
 こうした普及率に加えて、その使用状況を調べると子ども特有の問題が浮上してきます。「中学生の約2割が携帯電話で一日にメールを50件以上もやり取りしている(一日に100件以上という中学生は7%)」(先の文部科学省調査)、「中学校では通話が1日平均8.3分、サイト利用が35.0分、高校では通話が10.3分、サイトが63.3分」(同東京都)といったデータから見えるのは、携帯電話が、用件・用事があるから電話をかけるというのは違う、別の意味合いのツールになっていることです。相当数の子どもたちが”携帯依存症”であることもうかがえます。「携帯電話を持ち歩いていないと「不安」になる人が80.9%」(インフォプラント2007年5月、対象はiモードユーザー7038人)という結果もあわせて考えると、携帯電話はいったん使い始めれば手放せなくなる道具の典型とみなせるでしょう。
 健康リスクを判断するには、ユーザー一人一人がどれくらいの時間通話して電磁波を曝露したか、その累積量をできるだけ正確に把握することが決め手になります。携帯電話事業者は、個人情報を保護しつつも、公共性の高いこうしたデータを一般に公開していくべきではないでしょうか。■
第2回 携帯電話を考えるさまざまな視点
携帯電話の電磁波問題を考えるに先立って、この技術がじつに様々な面で社会に影響を与えていることをざっとみておきましょう。
まずは経済面。日本人1億人が毎月1万円の通話料を支払ったとして、事業者が得る年間の通話料収入は12兆円になりますから、その規模の大きさがわかります。契約者件数がそろそろ頭打ちになっていて、事業者各社は様々なサービスを付加して、「乗り換え」顧客の獲得に熾烈な争いを繰り返しています。
次に利便性。これが携帯電話の最大の売りですが、ネット接続、デジカメ、”お財布”、GPS、音楽再生、ワンセグ……等々、およそ電話とはかけ離れた数々の機能が次々に開発されヒットするという点では、日本は突出した国です。
福祉や医療の領域でも、超高齢化社会を迎える日本では、介護にかかわるコミュニケーションや遠隔医療などでの活用が拡大していくことでしょう。
トラブルを生んでやまないのが、公共性との兼ね合いの問題です。電車内での通話が典型例ですが、ところかまわずいきなり公共的空間を私物化してしまうことが、不快さの源と言えるでしょう。たとえば「携帯禁止車両」を作ろうというような提案は理にかなっていると思われますが、タバコの分煙がそうであるように、現実はそう簡単にすすみません。
近頃関心が高まり、各地の自治体での導入の動きも出ているのが、情報技術を活用して子どもの安全を確認するサービスです。携帯電話を持たせたり、ランドセルや本人にICタグを付けたりして、”見回りスポット”にある監視カメラや自動販売機を通して情報を送受信し、本人の居場所や状態を確認するものですが、こうしたサービスの実用化に最も熱心な国はと言えば、これまた、日本なのです。
その他にも、使い古しの端末機器の回収がなかなかすすまないといった環境の問題(貴重な重金属の回収や有害物質の処理などがかかわります)、通話代による家計の圧迫、さらに、この連載でも取り上げる、若年層に特有の深刻な問題(依存症、有害サイトアクセス、ネット犯罪、いじめなど)があります。
そして決して見落とせないのが、携帯基地局をめぐる周辺住民と事業者の間のトラブルです。現在日本全国で14万7000基を超える数の基地局がありますが、法律の上では、設置にあたっては携帯電話事業者と敷地を提供する土地所有者の2者だけでことがすすめられるようになっています。そのため、住民にとっては、何も知らされないまま居住地域にいきなり基地局が出現することになり、平穏な生活を脅かされるわけです。電波が公共的なものであるとするなら、この住民合意が不在のまますすめられる設置手続きは大いに問題であり、現にこれまでに基地局設置反対運動が全国で300件以上起こっているのです。■
携帯電話を考える10の視点
(1)産業成長・経済効果
(2)利便性の向上(ユビキタス社会の中核技術)
(3)福祉(コミュニケーションのバリアフリー)
(4)公共性との兼ね合い(公共空間の私物化、固定電話の減少など)
(5)犯罪・事故・安全(子どものセキュリティ、災害通知、電子機器の誤作動なども含む)
(6)通話代による家計圧迫
(7)健康影響
(8)環境負荷(廃棄物問題、希少金属資源など)
(9)若年層に特有の影響(依存症、有害サイトアクセス、ネット犯罪、いじめなど)
(10)基地局(住民合意不在のままの設置が生むトラブル)
第3回 携帯電話が使っている「マイクロ波」って?
携帯電話はマイクロ波と呼ばれる電波を使っています。電波は電磁波の1種であり、マイクロ波は電波の1種です。私たちは電磁波、光、放射線の3つはそれぞれ別物だとみなしていますが、物理学ではこれらをすべて「1秒間に30万kmすすむ波」としてひとつながりにとらえます。それぞれの波がどれだけの周波数を持つか(1秒間にすすむ間に何個の「波の頭(山→谷→山と繰り返される起伏の1回分)」ができるか:単位はHz(ヘルツ))で、波を区別するのです。マイクロ波を使った代表的な家電製品は電子レンジですが、その周波数は2.45GHz(ギガヘルツ)。ギガは「10億」の大きさを表す記号ですから、1秒間に24億5000個の波の頭を送り出しています。その1個の波の頭から次の頭までの長さ(波長)は、30万km÷24億5000で計算できますね(答は約12cm)。これに比べて、TVやFMラジオで使う電波は周波数がもう一桁ほど小さく、波長は1m~10mほどになります。
携帯電話がマイクロ波を使うのにはわけがあります(現在、0.8G、1.5G、2.0Gなどの周波数帯が主で、波長が10cm~数十cm)。アンテナが小型ですむこと(ラジオやTVのアンテナに比べてずっと小さいので端末本体に内蔵できる)。周波数が大きくなるほどたくさんの情報が送れること。自然界の存在する電磁波にはマイクロ波と同じような周波数のものが少なく、そのために余計な干渉が生じにくいこと。周波数が大きくなるほど光のように直進する性質が強くなり、特定の方向への送受信に適していること(「指向性が強い」と言います)。ただしその反面、TVやラジオの電波ほどには障害物の後ろに回り込むことができないので、障害物の多い都市部などでは、それそこ数百メートルおきにたくさんの携帯基地局が必要になります。
こうした利点があるマイクロ波ですが、電子レンジにみるとおり、物を加熱する性質を持ちます。電波が強いほど加熱する力が大きくなりますから、それを身体に浴びるようなことがあっても悪影響が出ないように、強さの規制が必要になります。
では実際に、携帯電話の電波はどれくらい強いのでしょうか? じつは、電波発信部分のごく近くでは、その強さを正確に計測することは非常に難しいのですが、ただ、大まかな目安として、「電子レンジをオンにしたときその筐体の周りに漏れ出てくる」ものと「通話状態の端末から出ている」ものとを、いずれも計測器を最接近させて測った時の値を比べることはできます。機種により、また送受信時の環境により、大きなばらつきがありますが、私たちの計測では、電子レンジが100μW/cm2(マイクロワット・パー・平方センチメートル:電波の強さの単位)前後の強さになることが多かったのに対して、携帯電話はそれを超える(時には数倍の)強さになることがしばしばありました。電子レンジをオンにしている時、わざわざ身体を近づける人はいませんが、携帯電話は頭部に密着させて使います。はたして安全のための規制はどうなっているのでしょうか?■
第4回 携帯電話のマイクロ波の規制は十分なのか?
では実際に、携帯電話の電波はどれくらい強いのでしょうか? じつは、電波発信部分のごく近くでは、その強さを正確に計測することは非常に難しいのですが、ただ、大まかな目安として、「電子レンジをオンにしたときその筐体の周りに漏れ出てくる」ものと「通話状態の端末から出ている」ものとを、いずれも計測器を最接近させて測った時の値を比べることはできます。機種により、また送受信時の環境により、大きなばらつきがありますが、私たちの計測では、電子レンジが100μW/cm2(マイクロワット・パー・平方センチメートル:電波の強さの単位)前後の強さになることが多かったのに対して、携帯電話はそれを超える(時には2~3倍もの)強さになることがしばしばありました。電子レンジをオンにしている時、わざわざ身体を近づける人はいませんが、携帯電話は頭部に密着させて使います。はたして安全のための規制はどうなっているのでしょうか?
 歴史的にみればマイクロ波による健康影響は、レーダーを扱う軍関係者の間に白内障が多発していることが第二次大戦直後に報告されてから、詳しく調べられるようになりました。以来多くの研究が積み重ねられ、現在、国際的な機関である非電離放射線防護委員会が定めているガイドラインによって、加熱による悪影響が出ないようにマイクロ波の強さが規制されています(日本もそれをほぼそのまま採用しています)。この点は、電子レンジであろうと、電波発信器であろうと、間違った使い方をしない限り、安全は保証されていると言えるでしょう。携帯電話は直接頭部にあてる機器であるために、暴露する生体組織の特性を考慮したSAR(比吸収率:人体が電磁波にさらされることによって、任意の10gあたりの組織に6分間に吸収されるエネルギー量の平均値)による規制も設けられています(日本の規制値は「局所SARで2.0W/kg」)。私たちが使用する携帯電話は機種ごとにSAR値が違っているのですが(それらの値は携帯電話事業者のホームページや端末機器に添付された説明書に記されています)、どれも2.0以下になっています。この値をオーバーするような機種は作ってはならないのです。
 では、これで安心なのかと言うと、決してそうではありません。次の3点が考慮されなければ、十分とは言えないのです。(1)現在の規制値が考慮していない(規制値以下の強さでも引き起こされる)健康影響がありはしないか、(2)発信源の強さだけでなく、暴露する側の暴露量(累積量や頻度なども含めて)が関係しはしないのか、(3)一般の健康な成人に比べて影響がより出やすい(脆弱性の大きい)人がいるのではないか、という3点です。じつは、携帯電話から発せられるマイクロ波は、これらのどの点についても、とりわけ子どもが使用する場合には、安全が確保されているとは言えないのです。■
第5回 リスクを決める「毒性」と「曝露量」
私たちの周りには健康に悪い影響をもたらす恐れのある因子(化学物質、放射線、電磁波、病原菌など)がじつにいろいろありますが、それらがどれくらい危険なのか(リスクがあるのか)は、一般的に言って、「その因子自体がどれくらい毒性が強いか」(毒性)と「その因子をどれくらい浴びたり摂取したりするか」(曝露量)の両方がかかわってきます。
タバコ3本を飲み込めば(ニコチン量で60mg程度)大人でも死に至りますが(赤ちゃんなら1本の誤飲で死ぬ)、お酒の一気飲みで死ぬには日本酒なら1升(アルコール量で300g弱)が必要です(もちろんお酒に弱い人はこれ以下でも危ない)。タバコの一気吸いなどできるものではありませんが、仮にそれで死ぬためには約300本が必要です。
個々の因子の毒性の目安は動物実験(たとえばラット)で決められます。エサに混ぜたり、注射したり……で取り込ませて、半数のラットが死ぬ量を探し出して、それをヒト対する規制値作りの出発点にします。すでにこの時点で、「すぐには影響が出にくい、じわじわと効いてくるようなものはどうなるのか?」「電磁波のように食べさせるわけにいかないものは、全身にずっと浴びせ続けるのか?」など様々な疑問が出てきます。現実になされるのは、観察しやすい要素に限定して厳密を期す、というやり方です。電磁波の場合で言うと、浴びせられた身体に起きる熱の上昇や感電の時のような刺激への反応を指標にするわけです。熱や刺激がほとんど見られないレベルで長期間浴びせ続けたらどうなるか? 残念ながら金と手間がかかりすぎる(電磁波以外の影響が出ないようにずっと厳密に実験動物を管理するのは大変)そうした実験は普通なされないのです。
こうしたわけで、現在世界の多く国で採用されている非電離放射線防護委員会のガイドラインは、「短期影響」と「熱と刺激作用」のみを考慮した規制になっているわけです。日本の規制法規である「電波防護指針」もこのガイドラインに準拠しています。
曝露の方はどうでしょう? タバコと酒の例でわかるように曝露の仕方でリスクは大きく変わります。私たちは日々さまざまな周波数のさまざまな強さの電磁波を浴びています。ここでの「安全」とは、そうした現実に生じている曝露の状況をふまえて、たとえば一般家庭のような平均的な環境においてはどんな悪影響も生じないこと、を意味するはずです。ところが驚くべきことに、私たちが実際にどれくらい曝露しているかを調べる研究はほとんどなされてこなかったのです(NPOである市民科学研究室が東京タワー周辺地域の電波強度の分布の計測や、家庭内の低周波の24時間連続計測を行わねばならなかったのはこのためです)。
「短期影響」と「熱と刺激作用」だけを考慮した、曝露状況を正確にふまえない、規制のあり方が、特に携帯電磁波のリスクを推定する場合、大きく問い直されることになります。■
第6回 子どもに特徴的な暴露の様子
「リスク=毒性×暴露量」の考え方に即して考えてみると、「毒性」で問題になるのは、子どもに特有の脆弱性があるかどうか、あるとすれば大人に比べてどれくらい悪影響が出やすいのか、という点です。また「暴露量」では、平均的な大人には見出せないどんな暴露の特徴が子どもにはあるのか、を知らねばなりません。今回はこの問題を考えてみます。
暴露する様子を常時モニターできる帽子のような装置でもあれば別ですが、暴露量を正確に知るのはやっかいです。暴露量を決める主な条件は、(1)端末と頭部との距離、(2)通話やメールする頻度やその時間の長さ、(3)使用時の電波の強さ(機種も関係する)の3つですが、現実には、ユーザー自身の使い方を状況証拠的に洗い出して推測していきます。「通話時間(回数と時間の長さ)」「イヤホンマイクを使っているか」「メールやネット接続の頻度が極端に多いか」「通話するときに端末を左右の耳の決まった側にあてるくせがあるか」「電波のとおりの悪いところでも通話をする傾向が強いか」「電源をこまめにOFFにしているか、それとも常時ONにしているか」「コードレス電話を使うことはどれくらいあるか」といった事柄です。
 これに次のような子ども特有の暴露の特徴がからんできます。
 第一に、携帯電話が友人との日常的なコミュニケーションの主だった手段になる場合が多いので、「時間を制限して使おう」という気持ちになれないこと。これは、通話料金の自己負担が少ないばかりか(親の負担)、事業者が子どもへの販売を広げようと様々な割引システムを作り出しているからでもあります。
 第二に、当然ですが、幼い時期から使用しているほど生涯の累積の曝露量が大きくなること。次回に論じるように、中学生くらいまでは神経組織が未完成の段階にあり、将来的にダメージがより大きく出る恐れがあります。
 第三に、子どもの頃にすでにヘビーユーザーであるなら、大人になってからもほぼ間違いなくそうであり続けるだろうこと。文部科学省のアンケート調査(09年2月発表)でも、「食事中に携帯電話を利用」が25%(中2)、「入浴中の利用」も17%(高2)にもなることが示され、携帯依存症の問題が浮き彫りになっていますが、幼い頃からの使用であればあるほど、依存症の傾向も強まるのではないかと心配されます。
 子どもは大人に比べて総じて、暴露量を減らすよう自分でコントロールすることが、精神的にも環境的にも難しいと言えるでしょう。親の指導も及びにくい状況もあることを考えると、公的な規制や対策がない限り、暴露量を減らすことは難しいだろうと思われます。■

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